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食品を売る会社がストーリーを売る会社へ――100年の歴史を持つ調理食品メーカーの新たなる挑戦とは

食品を売る会社がストーリーを売る会社へ――100年の歴史を持つ調理食品メーカーの新たなる挑戦とは

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神戸市主催のオープンイノベーション・マッチング事業「Flag(フラッグ)」では、ホスト企業として地元に拠点を構える10社が参画。各社がどのようなテーマを提示しているのかを取材していく(※)。――今回は、創業から100周年を迎えようとするエム・シーシー食品株式会社を取り上げる。同社は、「世界の味」に飽くなき探求心を抱き続けた創業者が、1923年(大正12年)に港町・神戸で立ち上げた老舗調理食品メーカーだ。

これまで開発してきた食品は、延べ10万種類以上。代表例には、レトルトの「100時間かけたビーフカレー」や「ナイフとフォークで食べる調理冷凍食品」などがある。味は当然ながら、原材料・調理方法などにも深くこだわり、ひとつの商品を仕上げていることが特徴だという。

そんなエム・シーシー食品が、神戸市主催のオープンイノベーション・マッチング事業「Flag(フラッグ)」で実現したいことは、長い歴史のなかで蓄積した同社の強みと新しいアイデアを掛け合わせた共創だ。その具体的な中身について、常務取締役 営業本部長 水垣 佳彦 氏に話を聞いた。

※「Flag」インタビューシリーズの記事一覧はこちらをご覧ください。

創業から約100年、「世界の味」を追求し続ける調理食品メーカー

――まず、御社の事業内容についてお聞かせください。

水垣氏: 1923年、神戸で水垣商店として創業した当社は、もともと北海道の海産物を使った佃煮を製造・販売していました。創業から10年が経った頃、創業者が「世界一周 味旅行」という研修旅行を企て、船で世界一周を断行。そこで得た経験から「世界の味をもっと日本の人たちに食べてもらいたい」という野心が芽生え、1954年に、エム・シーシー食品株式会社を設立し、社名も横文字に変えて洋食を取り扱うようになりました。

現在は、パスタソース、レトルトカレー、スープ、それにハンバーグやピッツァなどを製造・販売しています。冷凍と常温(レトルト)の両方を扱っていて、比率は半々程度。売り先としては、業務用がメインでしたが家庭用にも販路を拡大し、業務用が60%、家庭用が40%程度となっています。家庭用をはじめた当初は、百貨店など少しアッパー層向けの売り先が多かったのですが、今ではスーパーマーケットでも数多く取り扱われています。


▲エム・シーシー食品株式会社 常務取締役 営業本部長 水垣 佳彦 氏

「非食」領域からの新規参入プレイヤーともコラボレーション

――次に募集テーマ『こだわりのライフスタイル提案に向けた新たなサービスの創出』設定の背景にある課題感や、共創イメージ・共創パートナー像についてお伺いしたいです。

水垣氏: 現在、小売店を通じて当社の商品を販売しています。とくにスーパーマーケットはその役割上、値段を分かりやすく表示し、整然と並べるという売り方になります。そうすると、私たちが商品に込めた数々のこだわりやストーリーを全て伝えきれない中で、価格勝負という状況も手段として投じなければなりません。

そこで今回は、しっかりとストーリーを伝えられる売り場をお持ちの企業と共創したいと考えています。いくつか例を挙げるとしたら、ライフスタイルそのものを提案しているようなアパレルや雑貨屋さん、それにアウトドアやスポーツクラブなど。もちろん、それ以外のジャンルの企業さんとも出会いたいです。

また、コロナ禍で「食」に注目が集まりました。隔離によって、当たり前のようにスーパーやコンビニで入手できていた食品が調達困難となり、必需品としての「食」の存在を再認識した人も多かったと思います。それに、行動制限によって、外食でのコミュニケーション手段を奪われましたが、奪われてはじめてその大切さに気づいた人も多いでしょう。

こうした課題に対して、解決するプレイヤーも数多く現れました。たとえば、フードデリバリーなどの業態はその一例です。コロナ禍を機に「食」のビジネスが広がりを見せましたが、新たに参入した人たちの大半が、「非食」分野からの参入。今回の「Flag」では、そうした「非食」から「食」の分野に挑戦している人たちとも出会い、我々が100年以上にわたって蓄積してきた「食」分野での知見と掛け合わせ、新しい価値を生み出したいと考えています。

――フードテックに分類されるような企業と相性がよさそうですね。

水垣氏: はい。さらに言うと「キッチンを進化させる」という方向性で、自動調理器のようなテクノロジーを用いた新たなソリューションを開発されている企業さんもおられます。そうした企業がビジネスを拡大するうえでも、当社と相性がいいのではないでしょうか。


「多様な食品製造力」「1万種類ものレシピ」「再現力」「ストーリー性のあるものづくり」などに強み

――共創するにあたって、活用できる御社の強みには、どのようなものがありますか。

水垣氏: ハード面でいうと、冷凍と常温(レトルト)の食品を製造できること。家庭用の個食サイズから業務用の大容量サイズ(3キロ程度)まで、幅広いサイズで製造が可能です。また、食品製造工場と幅広いネットワークを有しているため、ソース類だけではなくお好み焼きやコロッケのようなもの、それ以外にも様々な食品を製造することができます。ソフト面でいうと、当社で長年かけて開発してきたレシピが1万種類近くありますから、それらの存在も強みのひとつです。

――レシピ開発においては、「再現力の高さ」も評価されているそうですね。

水垣氏: はい、「〇〇シェフ監修」といった商品を販売しているのですが、監修するシェフの方からは「思った通りの味だ」とお褒めいただくことが多いです。1食分から5000食分というように、食数をスケールアップしても同じ味が再現できる点でも、高い評価を頂戴しています。

過去には、神戸市消防局や兵庫県警察、海上保安庁第五管区さんとコラボレーションをして、現場や学校で食べているカレーをレトルトで再現したことも。「忠実に再現できている」と好評でした。

――御社の商品の特徴である「ストーリー性」についても、具体的にお聞きしたいです。

水垣氏: たとえば、神戸市消防局さんと開発した『消防隊カレー』は、「減災のPRを手伝ってほしい」という話からはじまった商品です。背景には阪神・淡路大震災があります。震災で約6400名が犠牲となりましたが、「あれは消防局にとって負けた日だ」というお話をお伺いしました。

同様の震災が起こった場合、被害をゼロにすることは困難ですが、減らすことはできます。そうした考えから、消防局では減災に向けた活動を続けておられますが、自局のネットワークだけでは限界があるとおっしゃるのです。「より広く減災の啓発活動をするために力を貸してほしい」と。こうした背景から誕生したのが『消防隊カレー』です。


▲神戸市消防局と開発した『消防隊カレー』 

商品開発だけではなく原材料にもストーリーがあります。たとえば、ジェノベーゼに使っているバジルですが、もともとアメリカから輸入した冷凍のバジルペーストを使用していました。しかし、バジルの緑の発色をよくするには鮮度が命なので、産地と加工地が近いほうがいい。そこで、兵庫県内で協力農家を探すことに。「たつの市に協力してくれそうな農家がある」とご紹介いただいたので、出向いて「バジルをつくってほしい」と頼み込みました。

でも相手は、バジルもジェノベーゼもご存知ではなく、そもそもパスタをあまり食べない世代の方たち。「こんな青臭い葉っぱ…」という様子でした。ですが、諦めずに何度も訪問し、バジルを使った様々な料理を食べていただいた結果、婦人部の方が「おもしろそう、やってみたら」と言ってくださったんです。そこから、たつの市でのバジル生産がはじまりました。

初回の年間生産量は200キロでしたが、約20年かけて70トンにまで増加。たつの市に加工工場も新設し、新たな雇用も創出できました。今やたつの市のバジルは、但馬牛や淡路島たまねぎと並んで特産品マップに載るほど、地域を代表する名産品へと成長しています。このように、原材料ひとつとっても、暑苦しいぐらいにストーリーがあるのです(笑)。


▲兵庫県たつの市のバジル生産地の様子(画像出典:エム・シーシー食品HP「兵庫県産バジルについて」

――バジルだけで語り明かせそうですね。非常にこだわりを持って開発・製造されていることが伝わってきました。最後に応募者に向けて、一言メッセージをお願いします。

水垣氏: 「食の力」や「食の可能性」を感じて、「食」のビジネスに新規参入される方が増えていますが、アイデアはあるものの食品が製造できないため、実現できないというケースもあるのではないでしょうか。そういった際に、食品を製造できるパートナーとして、ぜひ当社を認識していただければと思います。アイデアをお持ちの方と、当社の強みを掛けあわせれば、未来を切り拓くようなイノベーションも起こせるはずです。


KOBE OPEN INNOVATION「Flag」 10/13(木)応募締切

神戸市内企業と市内・全国のパートナー企業とのオープンイノベーションプログラム


(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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