神戸のまちと一体になってエネルギーの源泉を生み出す―転換期を迎えた神戸製鋼ラグビーチームが共創で実現したい未来
神戸市主催のオープンイノベーション・マッチング事業「Flag(フラッグ)」では、ホスト企業として地元に拠点を構える10社が参画。各社がどのようなテーマを提示しているのかを取材していく(※)。――今回は、日本を代表する鉄鋼メーカー、株式会社神戸製鋼所(KOBELCO)のラグビーチーム「コベルコ神戸スティーラーズ」を取り上げる。
1928年に立ち上がった同チームは、昨年開幕したラグビーの新リーグ「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(リーグワン)」の最高峰であるディビジョン1に所属。2022年12月から開始する次のシーズンに向けて、準備を進めているところだという。
そんな「コベルコ神戸スティーラーズ」が、神戸市主催のオープンイノベーション・マッチング事業「Flag(フラッグ)」で提示するテーマは、地域・社会との連携強化である。新リーグ開幕により、企業スポーツからの脱却が求められる今、共創によってどのような活動に取り組みたいのか。「コベルコ神戸スティーラーズ」のビジネスサイドを担う平田氏と冨岡氏の2名に話を聞いた。
※「Flag」インタビューシリーズの記事一覧はこちらをご覧ください。
新リーグ開幕により、「企業スポーツ」からの脱却へ
――まず、「Flag」に参画することになった経緯からお聞かせください。
平田氏: これまでラグビーは、企業スポーツとしての側面が非常に強い世界でした。新たなステージに入ったのが昨年。新リーグ「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」の開幕です。我々「コベルコ神戸スティーラーズ」も、今までとは違う動きが求められています。従業員の士気高揚だけではなく、より社会性と事業性を意識した活動が必要になっているのです。
プロ野球やJリーグのように社会に貢献しながら、チームを運営していこうとした際、企業単独ではなく地域とともに歩むことが重要です。こうした考えから神戸市主催の「Flag」に参画することを決めました。
▲株式会社神戸製鋼所 ラグビーセンター 営業マーケティンググループ長 平田 貴博 氏
――「コベルコ神戸スティーラーズ」は、どのような特徴を持ったチームなのでしょうか。
平田氏: 神戸製鋼所のラグビー部としてはじまった当チームは、今年で94年目を迎えます。「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」に所属するチームのなかで、もっとも古いチームです。1989年から1994年まで、日本選手権で7連覇したという歴史を持っています。日本選手権の優勝回数も、過去10回と一番多い。時代とともに歩んできたラグビーチームで、歴史やレガシーをしっかり堆積しながら、かつ新しいことも取り入れていく。そういった特徴のあるチームですね。
――今回は『新リーグで改革。地域・社会と共に新たな価値創出を目指す』というテーマを掲げておられます。本テーマを設定した理由についてもお聞かせください。
平田氏: 先ほどお話ししたように、地域性・社会性を高めていくことが、我々のチームにとって重要だと考えています。やはり我々単独だと実現できることに限りがあるので、例えばエンタメ業界やIT業界といった他ジャンルの皆さんとコラボレーションすることで、新しい価値を創造していきたい。こうした考えから、今回のテーマを設定しました。
「地域・社会」に貢献できる、あらゆる共創アイデアを検討・模索
――続いて、共創イメージについてお伺いします。どのようなパートナーと一緒に、どのような共創アイデアを形にしたいですか。
平田氏: ご応募いただく皆さんと会話をしながらヒントをいただいて、新しい取り組みを生み出していきたいです。今回の「Flag」を通じて共創アイデアを見つけたいというのも、本プロジェクトに参加させてもらった趣旨のひとつです。
――他社との共創で進めているプロジェクトはありますか。
平田氏: 今、情報サービスの企業さんや、BtoCビジネスを手がけている企業さんと、共創に向けた会話をしています。とくに後者の企業さんとは、知名度のあるブランド力をお借りしながら、一緒に価値を高めあえる活動ができないかという話で盛り上がっています。
――今回のテーマでは「地域・社会」をキーワードとされています。地域や社会と接点を持った活動の事例があればお聞きしたいです。
平田氏: 神戸製鋼は神戸市中央区脇浜に本社があり、チームは東灘区御影浜に拠点を置いているのですが、数年前より地域の児童の見守り活動に取り組んでいます。小学生の登校時、選手が交差点で黄色い横断幕を持って立ち、子どもたちが安心して渡れるよう見守るという活動です。「おはよう」「元気に学校に行ってね」というように、声がけも行っていますね。
▲2019年6月より「コベルコ神戸スティーラーズ」の選手が通学路に立ち、小学生の見守り活動を行っているという。
――ラグビー選手の皆さんが見守ってくれると、子どもたちも安心ですね。
平田氏: はい。ほかにも、神戸市さんが住民向けに行う活動にも参加しています。たとえば、マイナンバーカードの加入促進に、チームのコンテンツを活用してもらっていますね。今回の「Flag」でも、我々のチームやスポーツを活用して、新たな社会貢献やスポーツ振興につながる活動を生み出していきたいです。
2023年のワールドカップに向け、人気再燃が見込まれるラグビー
――共創アイデアの実現に向けて、活用できる御社の強みやアセット・リソースについてもお聞きしたいです。
冨岡氏: ラグビーは、2019年のラグビーワールドカップ日本開催のとき、日本を熱狂させたスポーツです。ワールドカップ開催直後は、我々神戸製鋼の試合にも、1試合約2万8000人を動員できるほどでした。
コロナ禍の影響もあって動員数は減少していますが、来年2023年には次のワールドカップがフランスで開催されますので、ラグビーの人気が再燃するのではないかと期待しています。2022年7月に、ラグビー日本代表 vs フランス代表の試合が国立競技場(東京)で開催されましたが、約5万7000人ものお客さまにご来場いただきました。ラグビーは、それほど人気のあるスポーツです。
▲株式会社神戸製鋼所 ラグビーセンター 営業マーケティンググループ 冨岡 洋 氏
――日本代表戦とはいえ約5万7000人もの観客を集客できたことは、ラグビーが人気のあるスポーツであることの証ですね。
冨岡氏: はい。そういった熱狂を生む取り組みを神戸のまちでも展開し、神戸の地域活性化に貢献していけたらと思います。
――チームのホストスタジアム(ホームスタジアム)はどこにあるのでしょうか。何らかのアイデアを実現する場合、スタジアムを活用することもできるのですか。
平田氏: ホストスタジアムは、神戸ユニバー記念競技場(神戸市須磨区)とノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)の2カ所。アイデアの実現の場として試合時のスタジアムも、ぜひ積極的に活用していきたいです。
▲ホストスタジアムである「ノエビアスタジアム神戸」。神戸の中心地・三宮から地下鉄で約10分という好立地で、開閉式の屋根を備える全天候型スタジアムとなっている。
――チームの公式アプリも開発されているそうですね。
平田氏: 某企業様と一緒に、ファンとのエンゲージメントを高める目的で、チームの公式アプリをトライアルで開始しました。アプリを使った地域活性と集客施策の一環として、地域の飲食店さんと相互送客を図るような仕組みの構築を検討しています。たとえば、ラグビーの試合を見た後に近隣の飲食店で余韻を楽しんでいただいたり、あるいは逆に飲食店のお客さまにラグビーのご紹介をしたり、そういったイメージです。ですから、公式アプリと連動した新たな施策も打てますね。
――公式アプリを使って、何かを発信した場合の反応率はどうですか。
平田氏: チームのファンクラブ会員さんを対象に、アプリ経由で発信をしたところ、それを見て試合に来場した人が数百名ほどいらっしゃり、中には初めてラグビー観戦をしたとのデータが取得できています。一定の集客力はあると考えています。
――人気のあるチームだけあって、高い反応率ですね。最後に応募を検討している方に向けて、一言メッセージをお願いします。
平田氏: ラグビーはスポーツのなかでも、とりわけ人の心を動かす競技だと思います。そういった意味では、コロナ禍で在宅・テレワークが日常化してコミュニケーションが希薄化していますが、我々のラグビーというコンテンツを、従業員の士気高揚、あるいはご家族とのコミュニケーションに役立ててほしいと思います。コミュニケーションを取る手段として、ラグビーを有効活用していける取り組みを、一緒に考えていきましょう。
冨岡氏: ラグビーは人々に笑顔や元気、そして勇気を与えてくれるスポーツです。そういったエネルギーの源泉を地元である神戸のまちの人たちと一体となって生み出していくことが、我々コベルコ神戸スティーラーズの使命だと捉えています。今回、地元密着が大きなテーマのひとつなので、地域とともに進められるアイデアを、ぜひ一緒に発見できればと思います。
KOBE OPEN INNOVATION「Flag」 10/13(木)応募締切
神戸市内企業と市内・全国のパートナー企業とのオープンイノベーションプログラム
(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)