北欧発テックイベント「TechBBQ」が日本初上陸!札幌からグローバルスタートアップの輩出へ
2023年1月27日、デンマーク・コペンハーゲンで毎年開催されているスタートアップイベント「TechBBQ」のスピンアウトイベント「TechBBQ Sapporo」が日本で初開催された。北欧のスタートアップ界隈では有名なイベントで、2022年は約6,500名が参加した。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第40弾では、「TechBBQ Sapporo」の現地レポートをお届けする。
定員150名と小規模ながらも、本家デンマーク同様、パネルディスカッションにピッチコンペティション、ネットワーキングと会場は大にぎわいだった。本記事ではピッチコンペティションに着目し、海外企業を含む全8社を紹介する。
サムネイル写真提供:Victor Gram Thomsen(Tryp.com)
北欧流スタートアップエコシステムを札幌に
▲国内外から多くの参加者が会場となった「さっぽろテレビ塔」に集った(提供:JETRO北海道)
札幌市では「STARTUP CITY SAPPOROプロジェクト」と銘打ち、世界を変えるスタートアップの事業成長を支援、産官学の連携によるスタートアップ・エコシステムの構築を目的に、さまざまな施策が行われている。
北海道ならではの広大な自然を生かした、農業・漁業・バイオテクノロジー・宇宙開発など、イノベーションの芽となる事業が多く排出されているという。
そんな札幌市が注目するのが、スマートシティやデジタル政府などで先進的な「北欧流のイノベーション創出」だ。札幌のイノベーション創発拠点となる「IKEUCHI LAB」では、フィンランド・イノベーション・エコシステムの中心的存在とも言えるDEMOLA GLOBALと連携して、イノベーション創発支援を行っている。今回の「TechBBQ Sapporo」も、そんな北欧とのつながりで開催が決まったようだ。
ピッチに登壇した8社のビジネスモデル
本イベントでは、国内外のスタートアップ8社が登壇したピッチコンペティションが行われた。受賞企業は、本家デンマークの「TechBBQ」で登壇できるという。
対象は、海外展開に取り組む道内スタートアップ、日本市場進出を目指す海外スタートアップ、これから札幌市内に登記予定の日本国内のスタートアップ・起業家だ。外国人の登壇者も複数登場し、プレゼンテーションは英語。会場は日本らしからぬ雰囲気だった。
【Floatmeal/北海道】
北海道のスタートアップ「Floatmeal」は、Wolffia(ウォルフィア)と呼ばれるウキクサの一種を使って、次世代のタンパク質源を開発している。このウキクサは、乾燥重量の40%がタンパク質でビタミン類やカルシウムなど栄養素が豊富だという。
タイで食べられている食材だが、現状は最小限しか販売されておらず、そのポテンシャルが発揮できていないと同社は主張する。ウキクサを温室栽培することで、1 か月あたり乾燥重量換算で80kgのタンパク質を量産でき、土地や水、CO2を削減できるそうだ。
▲「Floatmeal」のプレゼンテーション資料より
BtoBのビジネスモデルで、すでに植物由来の製品を製造している日本企業といくつか提携し、ヨーグルトなどの開発に取り組んでいるという。
【Poco Protein/大阪府】
大阪のスタートアップ「Poco Protein」は、「プロテインアイスクリーム」を開発している。日本ではプロテインドリンクをはじめ、プロテインヨーグルト、プロテインバーにタンパク質豊富なパンも販売されているが、プロテインアイスクリームはスーパーやコンビニでは見かけない。オンラインでは購入できるが高価格だという。
▲「Poco Protein」のプレゼンテーション資料より
そこで、フィットネスに情熱的、かつアイスクリームが大好きな創業者のBurak Gorgulu氏は、プロテインアイスクリームを自ら作ろうと思い立ったという。資金調達に成功した後、アイスクリームのエキスパートを雇い、北海道産の乳製品を使って、品質がよく低価格なプロテインアイスクリームを製造したいと訴えた。
【SOLASTER/東京都】
東京のスタートアップ「SOLASTER」は、水産業の課題や海洋問題を解決に導くために水中ドローンを開発している。高解像度のカメラやライト、センサーを搭載した同製品は、最大深度150メートルに到達できる。
▲「SOLASTER」のプレゼンテーション資料より
同製品を使うことで、魚介類の数および種類を検出・認識する、海洋ゴミが集まっているエリアを見つけ出し、その近くにいる海洋生物の存在と関連付けてマッピングする、あるいはデータをオープン化することで海洋調査や海洋保護に役立つという。BtoBのビジネスモデルで、あらゆる企業を対象としているが、まずは水産業界での注目を高めたいと締めくくった。
【Mona/東京都】
東京のスタートアップ「Mona」は、IoTとWeb3の技術を用いて、リアルの場の価値を高める SaaSプラットフォーム「MaWaRoute」を開発している。BtoBのビジネスモデルで、メインターゲットは大規模なショッピングセンターだという。
同サービスを使うと、次のようなことができる。利用者がリアルの「場」をぐるぐる回ることでスコアがつき、それを仮想通貨やポイントに交換できる。リアルの「場」に点在するNFTスポットをぐるぐる回ることでMint(ミント※)ができる。MaWaRouteのNFTマーケットプレイスでトレーディングができる。
※Mint……NFTを新たに作成・発行すること
▲「Mona」のプレゼンテーション資料より
リアルの場における設定も容易で、専用のIoTデバイスをその場に置くだけでいいそうだ。「私たちがやろうとしているのは、アマゾンのオンライン広告のプラットフォームを小売業向けに提供すること。年間約1,000万人の来客がある大規模なショッピングセンターでサービス提供した場合、年間60億円の売上を見込んでいる」と登壇したWei Chai氏は話した。
【Beeber Global/北海道】
北海道のスタートアップ「Beeber Global」は、国際的な「ボランティア」と日本の個人や組織、企業などの「ホスト」をつなぐデジタルプラットフォームを運営している。
ボランティアは世界各国からやってくる外国人が中心となり、ホストは彼らを自宅などに受け入れ、来日後の宿泊費、食費、Wi-Fiを無料で提供する。その代わりに、ボランティアはホストの活動を手伝う。活動内容は英語などの語学学習が望ましいという。
▲「Beeber Global」のプレゼンテーション資料より
グローバルな人材と北海道をつなぎ、グローバルな人材が活躍する場を提供したいという。同社の最初のクライアントはある大学で、ボランティアとなる人がプロジェクトを通して英語を教えている。その報酬は月1回、2時間の授業で5万円とのこと。
ボランティア、ホストの両方から使用料を徴収するビジネスモデルで、ボランティアが15円/1日、ホスト(個人)が25円/1日、ホスト(教育機関)が70円/1時間となる。国内で指摘される労働力や言語能力の不足、ワークライフバランスの悪さを同サービスを通じて解消したいと主張した。
【Tryp.com/デンマーク】
デンマークに本社を構えるスタートアップ「Tryp.com」は、独自のAIアルゴリズムを使って、飛行機、バス、列車、宿泊施設の最適な組み合わせで旅行プランを提案するプラットフォームを運営する。
▲「Tryp.com」のプレゼンテーション資料より
利用者が出発地、目的地、人数、日程といった情報を入力すると(目的地は入力しなくても良い)、AIはその旅行が販売される可能性に基づいてスコアリングするという。Booking.comをはじめとした、複数のトラベル関連企業と提携しており、6000のエリアで旅行プランを組める。同社の収益は、Tryp.comで行われた予約に対するホテルや交通機関からの手数料となる。
登壇したのは、日本で本格的に事業展開を開始するためデンマークから札幌に移住してきたばかりの共同創業者、兼インフラストラクチャ責任者の Victor Gram Thomsen氏。「日本はユニークであり、旅行先として魅力的だ。ここでの大きな目標の一つは、公共交通機関を提供する地元の交通機関とつながることだ」と意気込みを話した。
【Citycatt/アメリカ】
アメリカのスタートアップ「Citycatt」は、地元/旅行のインフルエンサーがオリジナルの旅行体験を提供するプラットフォームを運営する。旅行プランを提供するインフルエンサーは「Catt」と呼ばれ、利用者の予算やニーズに応じたカスタマイズプランを提案。地元の人ならではの魅力的なプランを時間をかけずに見つけられるという。
▲「Citycatt」のプレゼンテーション資料より
コストは1日あたり、アメリカ(東海岸):11ドル(約1,400円)〜、エジプト:30ドル〜(約3,900円)、台湾:18ドル〜(約2,300円)、オランダ:15ドル〜(約1,900円)と地域によって価格差が生じている。
同社ではミレニアルやZ世代をターゲットにしており、登壇した共同創業者、兼CEOのLizia Santos氏は、「彼らは一般的な観光地への旅行よりも本物志向に移行している。人ごみから逃れてローカルな体験、ニッチな体験を求めている」と主張した。
【I-SYST/カナダ】
カナダのスタートアップ「I-SYST」では、IoTに特化した製品を開発している。同社の製品は統合が容易で、スマートデバイスをすぐに稼働させることができるのが強みだという。
▲「I-SYST」のプレゼンテーション資料より
写真左側のIoTモジュール製品はBtoB、写真右側のワイヤレススマートヒーターはBtoCのビジネスモデルを採用している。IoTモジュール製品は、IoT製品を開発したい企業が時間をコストを節約するのに役立つ。一方、ワイヤレススマートヒーターは、スマートフォンやスマートウォッチを通して温度調整ができる。
勝者は「Mona」、「Tryp.com」
数名の審査員による判定の結果、ピッチコンペティションの勝者は、リアルの場の価値を高める SaaSプラットフォーム「MaWaRoute」を開発する「Mona」、そしてAIが最適な旅行プランを提案するプラットフォームを運営する「Tryp.com」となった。
2社が受賞した理由には触れられなかったが、市場規模、革新性、ビジネスモデル、スケーラビリティ、持続可能性などは考慮されたはずだ。「北海道」で価値を発揮できるかどうかも審査ポイントだったかもしれない。
当日は20時頃まで会場が開放され、多くの参加者が熱心に交流していた。この参加者同士のつながりの醸成こそ、本家デンマークの「TechBBQ」が大事にするカルチャーだ。関係者によれば、「TechBBQ Sapporo」は、来年も引き続き実施予定だという。英語が飛び交う国際色あふれる同イベントに、どんなスタートアップが集まるのか今後も期待したい。
編集後記
デンマーク在住経験のある筆者にとって、国内で「TechBBQ」の熱気が感じられたのは何とも嬉しいことだった。「徐々に規模を大きくしていきたい」という関係者の意思に触れ、今後がますます楽しみになった。札幌市に外国人起業家が集まるグローバルハブが育ってほしい。
(取材・文:小林香織)