フレンチテック及びフランスのスタートアップエコシステム (下)
まずはそのビジョンの立て方。ビジョンが人を向かわせ、それに向かって人のエネルギーが集まり、人が集まればお金も自然に流れてくる。モダンな折り紙の雄鶏のイメージをシンボルに「フランスをデジタル共和国へ」と最初から高いビジョンを抱えていました。全てのコミュニケーションはそれをもとに展開。地方ごとに個々の特長を出してもいいが、対外的にはフレンチテックのマークを使用。そしてフランスのスタートアッパーたちならだれでも誇らしげにそのシンボルを使っています。マクロン大統領自ら大臣たちのスケジュール管理にスターアップのアプリケーションを使うと一時期話題にもなりました。
アメリカなどVC、PEマネー主導のモデルと違い、フランスでは最初から大企業はスタートアップエコシステムの形成に欠かせない役割を果たしています。大企業はスタートアップ企業の顧客にもなるし、共同研究、協業するパートナーにもなりうる。更に投資サイドに回ったり将来エグジットのパートナーにもなる。その点日本の経済システムにおける大企業の存在の高さとかなり似てると感じられます。ロレアル、LVMHにエアバス、THALESなどを身近で見ていると、昔の「企業イメージを高めるためにスタートアップと仕事する」という段階を終え、スタートアップが企業イノベーションプロセスの一環になるという次の段階に入りました。ロレアルのデジタル改革は初期のデジタルマーケティングから生産製造関連のオペレーションまで浸透してきた。私が交流を重ねてきた何社かの大企業はスタートアップのスピードに合わせるため、スタートアップへの発注であれば一定金額以下のものは承認なしで進めるように社内の購買プロセスを簡素化しました。ビバテクノロジー(VIVA TECH)という年に一度のオープンイノベーションイベントはそういう意味で世界で見ても独特な位置づけを持ち、インスピレーションに飢えている日本の大企業にはきっと意味があるものだと思います。
しかしこのフランス大企業とスタートアップの付き合い方の成熟度はまだ完全ではありません。大企業がエコシステムの中期的な成長のカギだと思えば、国、政府の継続した支持は長期的にスタートアップエコシステムを健全に成長させるための必須要素だと思われます。企業は一時期何らかの原因で利益が圧迫されると、その時にまず削りやすいのはイノベーション関連のイニシアティブ。それは株主、利益重視の現代企業の構造的なチャレンジです。企業のできないことを国が役割を担い、お金だけではなく、政策面でスタートアップが必要となる国際人材の導入、海外投資家の誘致、そして海外企業との連携などを支援すべきでしょう。
去る2019年9月17日、フランス・デジタル・デーの前夜祭でもある開会式に、マクロン大統領は向こう3年間に総額50億ユーロをスタートアップ企業に投資する計画を発表しました。今度はスタートアップのスケールアップや国際進出に注力し、2025年までに25もユニコーン企業を生み出すという目標を掲げます。そして、それに合わせてフレンチテックNEXT40という指標まで作り出されました。毎年高成長、高いポテンシャルの持つフレンチテックスタートアップを選出し、可視化する。そして、彼らこそフランスのデジタル共和国を代表する将来の大企業になってゆくでしょう。
今井公子SINEORA
2000年に早稲田大学国際経営学修士卒業(MBA)。 東京にて日系、外資系企業に勤務し、2010年に渡仏。 現在、パリ在住。二児の母。 過去18年間に渡り、東京とパリにて、ノキアやダッソーシステムズといった国際企業にて、デジタルトランスフォーメーションの最前線に立ち、イノベーションによる変革をリードしてきた。ダッソーシステムズではアジア出身の女性として、初めてのワールドワイドの間接販売チャネルのトップ、及び戦略企画のVICE PRESIDENTまで務めた。 四十歳を過ぎてスタートアップの世界に身を投げ出す決意をして、今までの経験を活かし日本企業の国際競争力を上げるためのクロスボーダーなオープンイノベーションを支援するビジネスを立ち上げた。日本発だから世界に勝てる、今成功しているからこれからも成功し続けるとは限らなくなった現在、最初から世界で成功する会社を目指し、いつまでも差別化や、強みを生み出せる仕組みを持つ組織づくりを支援する。 eiiconのブログで、フレンチテック(La French Tech)を中心に、急成長するフランスやヨーロッパのスタートアップをSTATION Fから紹介する。
SINEORA
代表