料理の数だけビジネスチャンスが広がる【料理×AI】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態を深堀りし、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は「料理」をテーマにAIを活用した共創事例を紹介します。人間が食事をするには、多くの場合誰かが料理をしなければなりません。これをマーケットとして捉えた場合、人間が料理をする数はとてつもなく多いことは想像に難くありません。料理をする人やその回数が多ければそれだけ課題の数も多いわけですから、AIが助力になる余地がありそうです。企業は料理に関するどの部分を課題と認識し、どのように課題解決へのアプローチをしているのでしょうか。
フードテック世界市場は700兆円。国内でも投資活性化の動き
最近では、食×テクノロジーの分野は「フードテック」と呼ばれ、グローバルでの市場規模は700兆円とも言われています。あまりにも規模が大きいように感じますが、冒頭にも述べたように全ての人が毎日複数回の食事をとるわけですから、巨大産業であることは間違いありません。
国内に目を向けると、2020年に農林水産省が公開した「農林水産省フードテック研究会 中間とりまとめ」では、フードテック分野への投資額についての言及があります。
米国、中国、インド、英国などではフードテックへの投資が活発化しており、近年年間2兆円を超える金額が投資されています。その一方で、日本の投資額は、最も投資額の多い米国に比べると1%程度にとどまっています。
そのため、レポート内では国内の投資環境について「国際的な競争力を上げるため、民間活力を呼び込み、投資を活性化するような新たな仕組みの検討が必要」と記載されており、今後フードテックへの投資が国内でも活発化する可能性があると考えられます。
フードテックにはもちろん料理分野も内包されているため、料理×AIの領域も近い将来に盛り上がることが期待できます。
料理×AIの共創事例
ここからはAI活用で料理分野のイノベーション推進に取り組む共創事例を紹介していきます。
【味の素×アスリート】アスリート向け献立提案AIアプリ「勝ち飯®AI」β版の実証実験が開始
味の素は2021年3月、アスリート向け献立提案AIアプリ『ビクトリープロジェクト®管理栄養士監修 勝ち飯®AI』β版を開発し、ユーザテストを開始しています。『勝ち飯』とは2003年からスタートした、味の素が日本代表や日本代表候補のアスリートと取り組むフードテックプロジェクトで、アスリートの栄養プログラムを生活者に向けて発信しています。
同アプリは味の素の持つ食とアミノ酸の分野における先端技術・知見を基盤に、デジタルテクノロジーを活用して生活者に新たな価値を提供する取り組みの一環として開発したもので、限定ユーザテストを通してコンセプトの受容性を確認すると共に、当社では今後さらに多様な領域において生活者への価値を創出、提案していく予定です。
昨今では一般アスリートや部活生がコロナ禍でトレーニングや食事の管理が難しくなっているため、味の素の持つノウハウで食事から体作りをサポートすることが同アプリの目標と位置付けられているようです。
関連ページ:味の素㈱がアスリート向け献立提案AIアプリ「勝ち飯®AI」β版を開発 ユーザテストを開始
【サッポロ×オトナル】共創ビジコンでパパ社員から生まれた、AIがレシピや買い物を提案する『うちレピ』
サッポロホールディングスは、自宅にある食材からつくれるレシピや買い足す食材候補を提案し、料理を通じた家族コミュニケーションができる「うちレピ」のβ版webアプリを2021年1月にリリースしました。
うちレピでは、購入時のレシートや冷蔵庫内を写真撮影することで自宅にある食材を登録でき、それらの食材のみを組合わせてつくることができるレシピや買い足す食材候補をAIが提案し、日々の献立や買い物を考える手間を減らすというもの。
うちレピはサッポロが開催した『スタートアップ共創型ビジネスコンテスト』で「共働き世帯増加に伴う社会課題の解決につながるビジネスの発展性」が評価され事業化挑戦権を得たアイデアを起点に開発されました。スタートアップ企業のオトナルの現役パパ社員が自身の家庭での実体験を踏まえ、夫婦における料理の負担を最小化し、楽しさを最大化すべくサッポロとの協業開発に至ったとのことです。
関連ページ:毎日の料理をもっと楽しく、家族のコミュニケーションのきっかけに!おうちにある食材からレシピや買い物を提案する「うちレピ」β版webアプリをリリース
【ユーハイム×Makuake】職人の技術を機械学習するバウムクーヘンAI職人『THEO』
ユーハイムは2021年2月、職人の技術を機械学習する、バウムクーヘン専用 AI オーブン『THEO(テオ)』が焼いたバウムクーヘンの販売を、クラウドファンディングサイト『Makuake』にて開始しました。
テオは職人が焼く生地の焼き具合を、各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化し、無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼きあげることができます。ベテランの菓子職人のほか、ロボット工学の研究者、AIの専門家、デザイナーなどの協力を得て5年がかりで開発したとのことです。
テオはMakuakeにて先行販売を開始しましたが、目標達成率1300%を超え680万円相当が購入されました。現在、3月に名古屋・栄にオープンした複合施設「BAUM HAUS(バウムハウス)」に実装されており、購入が可能となっています。
関連ページ:厳選バターと卵で1000本、特訓中! AI職人の“純正自然”なバウムクーヘンAI職人「THEO(テオ)」が焼くバウムクーヘン応援購入サービス「Makuake」にて販売開始
【NVIDIA×クックパッド×オプト】クックパッドの画像データを活用する「AIチャレンジコンテスト」
内閣府と文部科学省は2017月、国内の学生・社会人を対象として、先端的な人工知能技術の開発とビッグデータ活用の能力を競う「AIチャレンジコンテスト」を主催しました。
第1回のテーマは「画像認識」で日本最大のレシピサービス「クックパッド」に投稿されている料理画像データを使用して、料理の領域検出・料理の分類の画像認識アルゴリズムの作成がタスクとして課されました。開催にあたってはNVIDIA・クックパッド・オプトの3社が技術的な支援やデータ提供などを手がけています。
料理領域検出部門と料理分類部門でそれぞれ精度とアイデアを競うコンテストが行われました。コンテストの総参加者数は631名、予測結果の総提出件数は2732件にのぼりました。
関連記事:【特集インタビュー】クックパッドの画像データを“料理”せよーー「AIチャレンジコンテスト」が目指すものとは?/人工知能技術戦略会議等主催 第1回AIチャレンジコンテスト
【編集後記】ほんの少しのシェアでもインパクト大
新規事業を始める際に気になるのは「狙う領域に市場があるかどうか」ですが、料理という分野はもちろん巨大な市場があります。本文でも述べたように兆の単位で市場が動いていますから、ほんの少しのシェアを獲得できたとしたら売上のインパクトはかなり大きくなるでしょう。私たちは「人間が料理をするのは当たり前」と思いがちですが、そこに可能性が眠っているかもしれませんね。