meet ▶[ユカシカド]:誰もが簡単に栄養改善。尿検査から一人ひとりに合った栄養改善を
今やサプリメントで栄養を補うのは当たり前になりつつあるが、本当に私たちは必要な栄養を過不足なく摂取できているのだろうか。宣伝文句に踊らされ、自分にとって不必要な栄養を摂っている一方で、本当に必要な栄養を摂れていないこともあるだろう。そうならないためにも、正確な栄養状況の把握が欠かせない。
株式会社ユカシカドは尿検査をもとに一人ひとりの栄養状態にあった食品やサプリメントを提供しているスタートアップ。自社工場において、一人ひとりの栄養状況に合わせmg単位で成分を調整した食品やサプリメントを製造している。
eiiconのオリジナルピッチ企画「eiicon meet up!!」登壇企業に話を聞くインタビュー企画『meet startups!!』。――今回は、株式会社ユカシカド 代表取締役 兼 CEO 美濃部 慎也氏にインタビューを実施し、起業の経緯からこれまでの成長の過程、そして将来のビジョンについて語っていただいた。
▲株式会社ユカシカド 代表取締役 兼 CEO 美濃部 慎也氏
※ユカシカドのPRページは以下よりご覧ください。
https://auba.eiicon.net/projects/32676
フィリピンで見た光景が起業のきっかけに
――まずは栄養学に興味を持った経緯を聞かせてください。
美濃部氏 : 学生時代のアメフト部での経験がきっかけです。私が所属していた関西学院大学はアメフトの常勝校で、その背景にはアメリカの最新テクノロジーがありました。ブリンストン大学やノートルダム大学と連携しながら、最先端の運動学や栄養学を取り入れながら練習していたんです。
その中で私が興味を持ったのが栄養学でした。栄養学はよく医学と共通しているように捉えられていますが、実際は違います。病人を対象にした医学に対して、健常者を対象にした栄養学はまだまだ科学的な余地があると思ったんです。
――当時から起業も考えていたのでしょうか。
美濃部氏 : 私は祖父が実業家だったため、小さな頃から「いつかは自分も起業するんだろうな」と漠然と考えていました。その考えが明確になったのは、大学時代に見たフィリピンでの光景です。魚や野菜など、栄養豊富なものがあるにも関わらず、多くの子供が砂糖の入ったジュースや油を使ったお菓子ばかり食べていました。そのせいでフィリピンには糖尿病の子供が多く、大きな問題になっています。
こうした背景には「何を食べればいいか分からない」という問題がありました。その問題に気づいた私は「自分の栄養状態を可視化できて、必要な栄養が分かればいいんじゃないか」と考えたのです。そのアイデアが今のビジネスの原型になりました。
――課題が見えてから、どのようなアクションをとったのか教えてください。
美濃部氏 : 帰国してすぐに栄養に関する研究を始めました。一方で、ビジネス経験のない私が、いきなり起業して解決できる問題ではないと考え、修行のつもりで入社したのがリクルートです。当時から一緒に起業することを決めていた現在のCTOと「3年後に起業しよう」と約束して社会に出ましたが、結果的に約束を果たしたのは7年後になりました。
――リクルートではどのような仕事をしていたのでしょうか。
美濃部氏 : まずは「どんなものでも売れるようになりたい」と思い、新規営業に打ち込みました。その後は事業計画を作ったり、新たな事業を作る仕事に従事します。入社4年目には一人でオイシックスに出向する話もいただき、「起業を遅らせてでも経験すべき」と思った私は、プロジェクトを無事に終えてから起業に踏み切りました。
日本トップの研究者たちとともに市場の開拓へ
――起業当初、どのように事業を立ち上げていったのか教えてください。
美濃部氏 : 資金も基礎研究もなかったので、当初はドライフルーツを作って売ったり、DXのコンサルをしながら資金を貯めていきました。同時に、私たちと一緒にビジネスを作ってくれる研究者も探していましたね。そこで出会ったのが、今も研究パートナーをしてくださっている滋賀県立大学の福渡努先生です。尿と栄養のスペシャリストである福渡先生と組んだことで、事業が一気に加速しました。
――どのようにして研究パートナーになってもらったのでしょうか。
美濃部氏 : 大事なのは数だと思います。福渡先生に会うまでに、国内外の100名以上の研究者にアプローチしてきました。講演に行っては最後まで残って「こういうアイデアを実現したいんですが」と話を聞いてもらっていました。それでも強いて理由を上げるなら「本気度を感じてもらえたから」だと思っています。大学の教授も企業との共同研究をしたいと思っているのですが、企業側の都合で研究を諦めざるを得ないケースも少なくありません。
その点、私たちはこの事業に全てを賭けています。加えて、研究に妥当な予算の100倍ほどの金額を用意して話を持っていったので、本気度を感じてもらえたのだと思います。
――ユカシカドでは尿検査で栄養過不足がわかる検査キット「VitaNote」などのサービスを展開していますが、どのように事業を発展してきたのかも聞かせてください。
美濃部氏 : ありがたいことに、私たちがサービスをリリースした際にヤフーニュースのトップにいきなり出してもらえて、とても反響があったんです。決してすぐに軌道に乗ったわけではありませんが、思っていたよりも世の中には受け入れてもらえたと思いました。
一方で、類似サービスも続々と現れ始めます。しかし、それは決してネガティブなことではありません。新しい概念のサービスは、類似サービスが生まれ比較されて初めて市場ができあがっていきますから。そのため、すぐに類似サービスが誕生していったのは嬉しかったですね。
――競合が増えたことにもなりますが、脅威ではなかったのでしょうか。
美濃部氏 : 類似サービスとは言え、サービスの完成度は全然違いましたし、総合的にも負ける気はしませんでした。研究パートナーの先生たちも業界のトップの先生たちばかりなので、競合優位性は十分にあると思います。今では私たちは自社工場まで作り、一連の開発を全て行っています。ここまでの事業をつくるのは一長一短ではいかないと思います。
▲2023年5月に開催されたピッチイベント「eiicon meet up!!vol.7」に登壇した美濃部氏。
本気で世界で戦っていく覚悟を持った企業と手を組みたい
――今後のオープンイノベーション戦略についても聞かせてください。
美濃部氏 : 海外の市場を一緒に開拓していけるパートナーを探しています。たとえば今は各国が我先にとアフリカの市場を開拓しに行っていますが、日本は大きな後れをとっています。その後れを取り戻すには、日本企業が一丸となって取り組まなければ追いつけません。
日本には素晴らしい会社がたくさんあり、うまく力を合わせれば世界でも十分に戦えると信じています。本当の意味でグローバルな視点を持って戦えるパートナーを探したいと思っています。
――具体的にはどのような組み方が考えられるのでしょうか。
美濃部氏 : わかりやすいのは食品メーカーとの共同開発です。今はどのメーカーも食品の機能性に注目しており、それを消費者ごとにパーソナライズした形で提供しようと模索しています。しかし、それを実現するのは容易ではありません。私たちの技術やデータを活用すれば、大企業の新しい取り組みも劇的に進むはずです。
また、意外なところでは自動車業界なども組む余地があると思っています。日本は少子高齢化が進んでいますが、高齢者に車に乗ってもらうには健康でいてもらわなければなりませんよね。いかにシニアの健康を支えるかは、自動車業界にとって大きな課題ですし、その解決策を私たちは持っています。
――それでは最後に、海外で事業展開するにあたって、日本市場との違いがあれば教えてください。
美濃部氏 : 様々な点で日本との違いがあります。たとえば日本のような先進国は自国で栄養の摂取基準を定めていますが、途上国の多くは自国で基準を設けておらず、WHOの定めた国際基準を使っています。そのため、海外に展開するには、まずは現地の栄養状況についても知らなければなりません。
また、競合の数も段違いです。海外の多くは日本のような国民皆保険制度がないため、健康に対しての意識が高く、サプリメント市場がしっかり確立されています。私たちとアプローチは違いますが、様々な手法でパーソナライズされたサプリメントを販売する企業も少なくありません。私たちが調べただけでも、世界には50社もの競合企業が存在します。
検査から食品やサプリメントの開発まで、一気通貫まで行っているのは世界でも私たちしかいませんが、世界に出るにはそれらの競合とも競っていく必要があります。
(取材・文:鈴木光平)