米Digiday Mediaが選ぶ「ワークライフ アワード2022」、従業員の豊かな人生と事業成長を両立する職場環境とは
米ニューヨークを拠点とするオンライン業界誌「Digiday Media」は、12月1日、「The 2022 WorkLife Awards」(ワークライフ アワード2022)の受賞企業を発表した。これは、ワークライフバランスをコアとする企業文化の醸成に向けて、努力や前進が目立つ企業に向けて送られる賞だ。
Best Employer for Parents(親である従業員に最高の雇用主)、Best Employer for Remote Employees(リモートで働く従業員に最高の雇用主)など24のカテゴリでファイナリストを選出し、カテゴリごとに優勝を選出している。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第38弾では、本アワードの結果をもとに、従業員の豊かな人生と事業成長を両立する職場環境を紹介する。
サムネイル写真:Malte Helmhold on Unsplash
24カテゴリの受賞企業を抜粋して発表
まずは、「ワークライフ アワード2022」の受賞企業24社から8社を抜粋して発表したい。
<Best Coworking Culture>(最高のコワーキング・カルチャー)
Petalfast(大麻ブランドの拡大・支援)
<Best Employer for Parents>(親である従業員に最高の雇用主)
Pinterest(写真共有サービスを運営)
<Best Employer for Remote Employees>(リモートで働く従業員に最高の雇用主)
Goodway Group(デジタルマーケティング企業)
<Best Mental Wellness Program>(最高のメンタルウェルネスプログラム)
Banfield Pet Hospital(獣医科クリニック)
<Best Virtual Work Environment>(最高のバーチャルワーク環境)
Just Drive Media(デジタルマーケティング企業)
<Best Workplace for Young Careers>(若手人材に最高な職場)
mSix&Partners(デジタルマーケティング企業)
<Most Committed to Social Good>(もっとも社会貢献度が高い)
monday.com(ビジネス管理ツールの提供)
<Most Committed to Work/Life Balance>(ワークライフバランスにもっともコミットした)
BambooHR(HRソフトウェアを提供)
Hook(クリエイティブプロダクションエージェンシー)
親にとって最高の雇用主「Pinterest」の福利厚生
Photo by Joshua Rodriguez on Unsplash
2021年12月、Pinterestは自社ホームページで育児関連の福利厚生の更新を発表した。その理由は、社員が自分らしさを存分に発揮し、好きな人生を送れるような企業文化を推進するため。2022年1月にアップデートされた同社の出産・育児関連の福利厚生は以下となる。
●グローバル育児休暇
すべての親が新生児や新たに養子となった子どもとの絆を深めるために、最低でも20週間提供される。米国では、出産する両親のための休暇が16週間から26週間に延長される。従来通り、産みの親や養親は休暇後、4週間かけて徐々に仕事に復帰できる。
●NICUに入院した際のファミリーケア休暇
NICU(新生児集中治療室)に入院している新生児の親は、ファミリーケア休暇として12週間の有給休暇を取得できる。
●全世界の養父母向け有給休暇と金銭的援助
養父母には20週間の有給休暇(米国の16週間から延長)に加え、金銭的援助を5,000ドル(約70万円)から10,000ドル(約140万円)に増額する。
●流産した親への有給休暇
妊娠のどの時点であれ、流産によって損失を経験した親に4週間の有給休暇を提供する。
●全世界での体外受精&卵子凍結
米国の既存の福利厚生をグローバルに拡大し、全員が体外受精、および卵子凍結を利用できるようにする(体外受精2サイクルおよび卵子凍結)。
更新内容からは、「あらゆる従業員の人生を支援したい」という同社の意志が伝わる。Pinterestは既存の福利厚生も充実しており、パーソナライズされた育児サポートメンタルヘルスケア受診のほか、代理出産の支援(最大2万ドル:約270万円)、出張時の母乳の無料配送、新型コロナ関連の4週間の有給休暇など、親が直面する課題を解消できるよう配慮している。
同社のグローバルベネフィット部門の責任者を務めるのは、2児の母であるAlice Vichaita氏。彼女は自社ホームページで「人は包括的で刺激的な環境の中で、自分が見られている、サポートされていると感じるとき、最高の仕事をすることができる」と主張している。
リモートで成果を出す「Goodway Group」の哲学
リモートで働く従業員に最高の雇用主として受賞したGoodway Groupの取り組みも興味深い。同社では、リモートワークが広く浸透する以前の2008年から完全なリモートワークを実施し、成功体験を積み重ねているという。同社のブログから、従業員が働きやすいリモートワーク環境をつくるコツを紹介する。
●頻繁に連絡を取り合う
社員全員が大切にされている、注目されている、評価されていると感じられるよう、頻繁に挨拶をして話をする。
●有言実行する
チームとの信頼関係を構築するために、自分がやると言ったことは必ず実行し、できるだけオープンで透明性のある行動を取る。
●予定を共有する
個人的な仕事も含めて仕事のカレンダーをチームで共有し、必要なときにいつでも連絡が取れるよう知らせておく。
●すべてのツールを1ヵ所に集約する
社員が即座につながれるチャットツール、ホワイトボード・仮想付箋紙・投票などの機能ツールを1ヵ所に集約。さらに、会議の議事録や業界の最新動向、ベストプラクティスなど必要な事項をすべて記録して社員がいつでも必要な情報にアクセスできるようにする。
●楽しむことも忘れない
ビデオ通話の最初にアイスブレイクを設けたり、毎月1時間、ビデオ通話でのVRアクティビティやゲーム、おしゃべりを楽しむ時間を確保するなど、楽しむことも忘れてはいけない。
●定期的に顔を合わせる
時々地域のメンバーを集め、ランチやコワーキングを実施。年に2回は全社員が一堂に会し、1週間にわたりミーティングやアクティビティなどを行い、楽しい時間を過ごす。
●労働時間ではなく、成果を重視
営業時間やワークスペースなど行動規範を定めることは重要である。ただし、評価すべきは労働時間ではなく成果。常に新しい方法で成果を評価し、成功を祝うようにする。
Photo by LinkedIn Sales Solutions on Unsplash
Goodway Groupの以下メッセージからも、リモートワークで成果を上げるために必要な視点が得られる。
「リモートワークにおいては、仕事とプライベートの境界線を設けるよう社員に促し、厳しい監視の目がなくても仕事をやり遂げられると信じましょう。多少の柔軟性と自主性を与えることは、社員の士気を高める鍵になります。ストレッチや休憩など適度にデスクを離れるようリマインドすると、幸せと健康、生産性を維持しやすくなります。
子供やペット、来客など、気が散ることがあっても、私たちが人間であることを忘れず、お互いに寛容でいること。バーチャル環境下において、文化、人材、ツール、コラボレーション、統合の5つの方法で社員を管理すれば、自社の環境整備に役立つフィードバックが得られるでしょう」
若手人材を伸ばす「mSix&Partners」の教育精度
若手人材向け教育制度が評価されたデジタルマーケティング企業「mSix&Partners」では、多様性尊重の視点に基づき、独自の教育プログラムを実施している。
例えば、次世代を担うスペシャリストを育成する、新しい実習プログラム「The&Academy」では、最大25人の実習生にフルタイムのトレーニングと仕事を提供する。社内の専門家やGoogle、Meta、TikTokといったパートナーから世界レベルのトレーニングを受けることができ、実習生の門戸を広げるこれまでにない教育制度だ。
18歳以上の自閉症者に、職場で自分のスキルや特性をアピールする機会を提供する「Ambitious About Autismインターンシッププログラム」にも参加する。2017年にインターンシップを開始して以来、年間の受け入れ人数を増やし、若者に新しいスキルを学ぶ機会を提供している。インターンシップ参加後、何人かの参加者は実際にmSix&Partnersでの役割を得たという。
働きやすい職場環境から生まれる事業変革
働きやすい職場環境がもたらすメリットは、社員の士気が高まる、企業への愛着心が湧く、優秀な人材が集まりやすい、受賞により企業イメージが向上するなどがあげられる。受賞企業の現状を見ると、これらのメリットが事業成長につながることも大いにありそうだ。
Business of Appsによれば、Pinterestは2010年のローンチ直後、登録制のSNSでありながら急速に利用者を増やし10大ソーシャルメディアの1つとなった(現在は登録制は廃止されている)。ユーザーの70%を女性が占めており、他のSNSと比較してコンバージョン率が高い特徴がある。2021年は25億ドル(約3,400億円)の収益を上げ、前年比で56%増加。2022年7月には、新たにコラージュ作成アプリ「Shuffles」をローンチしている。
Goodway Groupもまた、事業変革を重ねて成長を続ける。1929年に印刷会社として誕生した同社は、マーケティングの最前線に立ち続けるため大胆に変わり続け、今日ではデジタルメディアの総合的な戦略と実行を担っている。コアサービスは外部委託せず、100%自社で請け負うのも彼らのポリシーの一つだ。
世界最大の広告代理店グループWPPとマーケティングネットワークThe&Partnershipのジョイントベンチャーとして誕生したmSix&Partnersは、世界でもっとも急速に成長しているメディアエージェンシーの一つ。2022年3月にはブランドアイデンティティを刷新すると発表、「私たちは誰よりも早く、クライアントをさらに進化させ、その実現を目指す」と自信を見せつけた。
編集後記
数々の候補から選ばれただけあり、受賞企業の取り組みはいずれも本気度が高い。職場環境を整えることは従業員の能力を最大化させ、事業を成長させる肝となるはずだ。こういったアワードによる外部評価は、企業のブランディングにも役立つ。日本でもリモートワークや週3勤務などトライアンドエラーが続いているが、企業ごとに自社のベストプラクティスを見つける努力が求められる。