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米国では約88%の世帯が所持する「コネクテッドTV」 広告支出は二桁成長、トレンドの背景は

米国では約88%の世帯が所持する「コネクテッドTV」 広告支出は二桁成長、トレンドの背景は

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ストリーミングサービスの台頭により、「テレビ離れ」という言葉が聞かれるようになった。一方でインターネット回線に接続されたテレビ端末「コネクテッドTV」は、世界的に普及が進みつつある。実際には“テレビ離れ”というより、“地上波のテレビ離れ”と言えるかもしれない。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第60弾では、米国をはじめ世界的に見られる「コネクテッドTVのトレンド」を取り上げる。端末の普及とともに急拡大する広告支出、及びそれに伴うプライバシー保護の課題にも触れる。

サムネイル写真:yousafbhutta from Pixabay  

米国では1家に1台が当たり前。世界的にも普及が進む

日本でも普及が進む「コネクテッドTV」(以下、CTV)。ビデオリサーチの調べでは、2023年の国内普及率は59.6%に上昇している。地上波や衛星などを通じてコンテンツを受信するリニアTVと異なり、インターネットを使用してコンテンツを受信するCTVは、幅広いストリーミングサービスへアクセスできる利便性などで人気を得ている。

米国ではさらに普及が進み、約88%の世帯は少なくとも1台のCTVを所持。テレビを所持する成人の49%は、毎日CTVを視聴しているという(参照)。

▲2023年11月〜2024年11月の1年間でも、米国のストリーミングサービスの視聴率シェアが伸びている(出典:Nielsenのレポート

米国で予測・分析サービスを展開するEMARKETERによれば、2024年は米国のCTV視聴者数(2億3,390万人見込み)が従来のテレビ視聴者数(2億3,230万人見込み)を上回るという。この差は今後さらに広がると予測されている。

▲世界的にもCTVの普及率が伸びている(出典:Strategy Analyticsのプレスリリース

世界的に見てもCTVの普及率は伸びており、北米がもっとも普及率が高く、西ヨーロッパ、中南米と続く。欧米と比較すると、アジア諸国の普及ペースは緩やかだ。

CTVプラットフォームで米国市場シェア1位の「Roku」

米国でストリーミングプラットフォームのトップシェアを誇るのが、2002年に創業したRokuだ。同社は2008年からストリーミングコンテンツを視聴できる端末やスマートテレビを販売し、プラットフォーム上に広告を配信して配信料を得ている。さらに、無料で視聴できる「Rokuチャネル」という自社のキュレーションサービスも持つ。

▲Rokuのストリーミングプレーヤーは39.99ドル〜と低価格で購入できる(Rokuの公式ホームページより)

Rokuでは、自社端末やスマートテレビを低価格でできるだけ多く販売し、プラットフォーム事業で得られる広告配信料で利益を上げるビジネスモデルで事業を拡大している。同社製品は低価格に加えてシンプルな操作性も支持を得ており、米国で5年連続シェア1位の状態が続いているという。

2024年10月に発表された2024年第3四半期の決算資料を見ると、プラットフォーム事業は10億ドル(約1,500億円)を超え、前年比15%増と好調だ。総純収益は10億6,200万ドル(約1,600億円)で、前年⽐16%増に。総ストリーミング時間は320億時間で、前年⽐で53億時間も増加している。

広告収入だけで成り立つ無料TV「FAST」の視聴者も増加

CTVの普及に伴い、北米などを中心に伸びているのが「FAST」と呼ばれる新たな無料放送サービスだ。FASTは無料広告型ストリーミングテレビの略称で、広告収入のみで放送が成立するビジネスモデルを採用している。CTVやスマートフォンで視聴可能で、「料理」「旅行」「ドラマ」などテーマに沿ってチャンネルが設定されているのも特徴だ。

従来のテレビとも、Netflixなどの有料ストリーミングサービスとも異なる視聴体験が可能で、好みのジャンル(チャンネル)を選択すれば、そのジャンルの番組が延々と放送される。コンテンツを選ぶ手間を省きつつ、無料で“ながら見”ができる点が支持を得ているようだ。

Rokuが運営する「Rokuチャネル」も、このFASTに含まれる。その他、米国などで人気のFASTには「Tubi」や「Pluto TV」などがある。視聴者測定などを提供するNielsenの最新レポートによれば、現在FASTで最も視聴されているのが「Rokuチャネル」(ストリーミングサービスのうち1.9%)で、次いで「Tubi」(同1.8%)となる。

▲Nielsenが2024年11月に実施した視聴者測定の分析レポートでは、ストリーミングサービス全体の伸びがうかがえる

米国ではストリーミングサービス全体の視聴者が増加しており、そのシェア率(41.6%)は過去最高になった。「Rokuチャネル」のシェア率(1.9%)も過去最高を記録した。

報道によれば、米国のテレビ視聴者の3人に2人(66%)は、FASTのプラットフォームを使用しているとのこと。さらに、FASTユーザーの半数以上 (53%)は、FASTを導入してから有料ストリーミング サービスの利用を減らしたと回答している。

CTVの広告支出も拡大、28年まで二桁成長の予測

こうしたCTVやストリーミングサービスの普及拡大と共に、CTVの広告支出も右肩上がりで増えている。EMARKETERによれば、米国における2024年のCTVの広告支出は287億5,000万ドル(約4兆4,100億円)と予想され、前年比18.8%の増加に。2028年まで2桁成長が続くだろうと伝えている。

650社以上のメディアとテクノロジー企業が加盟する米国ニューヨークの組織IABのレポートによれば、広告主の84%は「CTVがリニアTVより優れたターゲティング機能を提供する」と考えているという。

実際、リニアTVとCTVの両方を利用した広告主は、リニアTVのみを利用した広告主に比べ、総リーチ数が32%増加した。また、米国の視聴者の3分の1が、広告視聴後にCTVデバイスを使用して商品の購入を完了している。

Photo by freestocks on Unsplash  

CTVの広告効果が増加している背景には「高度な分析」と「技術革新」がある。CTVは、その他のデジタルデバイス同様、視聴者の属性にまつわる情報を収集・分析できる。つまり、広告主は人口統計、関心、行動に沿ってターゲティングして広告を届けられる。加えて、より効果を期待できるCTV向けの新しい広告フォーマットも多く登場している。以下はその一例となる。

・インタラクティブ広告:QRコード付きや広告内で直接、商品を購入できる。あるいは視聴者が動画を一時停止すると、じゃまにならないよう広告が表示されるなど

・​​ピクチャーインピクチャー:コンテンツを視聴しながら、同時に小さなウィンドウで操作可能な広告を表示

・パーソナライズ広告:視聴者一人ひとりに合わせてカスタマイズされたデータ駆動型広告

視聴者にとって、より没入感がありインタラクティブな広告の視聴体験となり、これが効率の良い広告配信につながっていると考えられる。

一方で、同意のない視聴データの収集・活用が問題に

一方で、CTVによる個人情報を利用した広告配信に関して、問題視する声もあがっている。ワシントンDCに拠点を置くデジタル民主主義センター(CDD)は、2024年10月に発表した報告書において、「洗練された広範な商業的監視システムを通じて、CTV業界がどのように個人や家族の情報を取得しているか」を解説。「CTVはオンライン上で繰り返し犯してきた罪を、単に再構成したに過ぎない」と現在の個人情報の扱いを避難した。

報告書によると、大手ストリーミングビデオ番組ネットワークやCTVデバイス企業、およびスマートテレビのメーカーは、国内で最も強力なデータ・ブローカーの多くと連携し、個人の身元情報、視聴選択、購買パターン、オンラインとオフラインでの何千もの行動に基づいて、視聴者に関する広範なデジタル文書を作成しているという。

大手メーカーのスマートテレビは、自動コンテンツ認識(ACR)やその他の監視ソフトウェアを導入し、広範で非常にきめ細かく、親密な量の情報を取得しており、現代のアイデンティティ技術と組み合わせれば、視聴者個人レベルでの追跡や広告ターゲティングが可能になるとしている。

Photo by Jens Kreuter on Unsplash  

さらに、CTVの視聴を通じてこうした情報が取得されている事実は、利用者にほとんど理解されておらず、利用者が情報収集を望んでいなくとも、そうした製品しか購入できない市場の状況があると指摘した。

CDDは報告書の発表と同時に、カリフォルニア州司法長官、カリフォルニア州プライバシー保護局などに対し、CTV業界に対して効果的な規制を実施するよう求めている。今、まさにインターネットで起きているように、CTVにおいても遅かれ早かれ規制が入ることは免れないだろう。規制に則り利用者のプライバシーを保護しながら、いかにパーソナライズされた広告を配信していくかが今後の焦点になりそうだ。

編集後記

米国で流行中のFASTは、2024年6月に日本にも上陸している。現状、大きなトレンドにはなっていないようだが、その動きを注視している企業は多いかもしれない。同時に気になるのはウェブにおけるCookie規制に続き、CTVにおけるプライバシー保護に関する規制の動き。それらを含め、世界の動向を追う必要がありそうだ。

(取材・文:小林香織

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  • 後藤悟志

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