meet ▶[ダイモン]:超小型探査車で月面探査の常識を変える
https://auba.eiicon.net/projects/32197
#月面車
宇宙の新たな可能性を探るために欠かせない「月面探査車」。過酷な環境でも走行できる耐久性や性能が求められると同時に必要とされるのが小型軽量化だ。宇宙への輸送料は1億円/1kgと言われており、探査車が重くなればなるほどコストは跳ね上がる。
これまでも小型軽量化のために各社が工夫を重ねてきたものの、小型探査車と言われるものでも5kgが一般的。宇宙に運ぶだけでも数億円のコストがかかっていた。そんな中、わずか500gの探査車「YAOKI」を開発したのが株式会社ダイモンだ。
すでに「YAOKI」はNASAのテストを通過し、2022年内に月面を走ることが予定されている。2026年には100台もの探査車を走らせるのが目標だ。100台の探査車が月面を走ることで、私たちの生活はどう変化するのだろうか?
eiicon companyのオリジナルピッチ企画「eiicon meet up!!」登壇企業に話を聞くインタビュー企画『meet startups!!』。――今回は、株式会社ダイモン 代表の中島紳一郎氏にインタビューを実施。創業の経緯や事業の進捗、今後のビジョンを聞いた。
▲株式会社ダイモン 代表取締役 中島 紳一郎氏
震災を機に起業した中島氏が、月面探査車開発に乗り出した理由
――まずは中島さんが起業したきっかけ教えてください
中島氏:起業したきっかけは東日本大震災です。それまで自動車の駆動開発を手がける会社に勤めていたのですが、震災を経験したことにより「自動車を作っている場合じゃない」と思ったのです。今の自動車業界は、性能そのものよりもデザインや燃費の良さで商品が選ばれます。もはや私が磨いてきた技術は求められていませんでした。それならば、自分が培ってきた駆動開発の技術で社会に貢献できることをしたいと、風力発電の会社を立ち上げたのです。
――なぜ、月面探査車を開発するようになったのでしょうか?
中島氏:グーグルが主催する月面探査レースに、ボランティアとして参加したのがきっかけです。月面探査車の開発者として携わったのですが、その経験から「自分の強みを活かすなら、やはりモビリティ開発だな」と考えました。そのようにして、私の会社でも月面探査車「YAOKI」の開発をスタートさせたのです。
8年の歳月をかけて、探査車の常識を打ち破る軽量化を実現
――御社ではなぜ一般的な小型探査車(5kg)から10分の1にまで軽量化できたのでしょうか?
中島氏:根本的な構造から見直して、全く新しいアプローチで開発を始めたからだと思います。例えば、これまで小型探査車といえば四輪が主流でしたが、より軽くするために二輪にしたり。そのような工夫や発明が随所に散りばめられています。あとは改善を繰り返して無駄を省いていく工程の繰り返しです。機体が軽くなれば、それだけ機体にかかる衝撃も減るため耐久性が必要なくなり、より軽い素材に置き換えられるようになります。その繰り返しによって、今の軽さ(500g)を実現できました。
――コンセプトを決めてからはスムーズに開発が進んだのでしょうか?
中島氏:いえ、当初は2年で開発できる予定でしたが、さまざまな課題にぶつかり、結局は8年もの月日を要しました。軽量化というシンプルなコンセプトは、それだけさまざまな技術やアイディアが必要だったのです。おかげで小型軽量化の技術が磨かれました。
――御社の事業の現状も聞かせてください。
中島氏:すでにNASAのテストもクリアしており、2022年の打ち上げで「YAOKI」を月に飛ばすことがきまっています。しかし、今は宇宙で充電する方法もないため、走行できるのは6時間のみ。来年以降、月を走らせる機体を増やしたり、月面に充電設備を作ることで、より長時間の走行を可能にしていきたいと思っています。
1年ごとにステップを踏んでいき、2026年には100台の「YAOKI」を月で走らせるのを目標にしています。「YAOKI」は地球上からリモートで操作できるため、世界中の人が地上から「YAOKI」を通してバーチャルな月面旅行を楽しむことができるはずです。
▲「YAOKI」のサイズは、15×15×10cm。手のひらに乗るほど小さい。転んでも倒れても、走り続ける設計になっている。
小型軽量化の技術で、さまざまな企業の宇宙進出をサポート
――今後、御社のビジョン実現のために、どのような会社と共創していきたいか聞かせてください。
中島氏:宇宙に事業を展開しようと計画している企業すべてです。今は地球ぐるみで2030年に月面基地を開発する計画を進めている時代。あらゆる業界の企業に、宇宙に関連したビジネスチャンスがあります。すでに中国やアメリカの企業は10年後を見据えて宇宙事業に手を出し始めていますが、日本の企業でそこまで先を見て動いている企業は多くありません。
このままでは、宇宙ビジネスにおいて日本が大きな後れをとってしまうことになるでしょう。将来を見据えていち早く宇宙ビジネスに参入したいという企業と組んで、日本の競争力を強めていきたいと思います。
――共創する際に、御社としてはどのようなリソースを提供できるのでしょうか。
中島氏:一つは小型化・軽量化の技術です。宇宙にモノを輸送する上でネックになるのが輸送コストです。どんなものでも小型軽量化できれば、それだけでコスト優位性を獲得できます。私は「YAOKI」を開発する上で小型軽量化する技術を磨いてきたので、あらゆる業界の企業に提供したいと思っています。
もう一つはNASAとの交渉ノウハウです。宇宙で事業を展開するなら、NASAの協力を得ることが必要になるケースもありますし、そのためにさまざまなテストをクリアしなければなりません。私は「YAOKI」開発の経験から、NASAの承認をとるためのさまざまなノウハウなどを持っています。スムーズにNASAとの交渉を進められることで、宇宙ビジネスをスピーディーに展開できるはずです。
――幅広い業界の企業と共創できる可能性を持っていますが、優先的に組みたい業界などがあれば教えてください。
中島氏:優先的に組みたいと考えているのはゼネコンやエネルギー会社です。月面に基地を作るには、まずは建機などを月に送らなければ話になりません。また建機を扱うにはエネルギーも必要になるので、電気などのインフラを扱っている会社とも組んでいきたいですね。
それらの業界の企業とは宇宙だけでなく、地球上でも共創ができるはずです。私たちは「YAOKI」の小型軽量化の技術を活かして、地上での点検ロボットも開発しているため、公共インフラなどの点検が欠かせないゼネコンとは相性がいいと思っています。
狭い隙間も点検できる私たちのロボットで、これまで点検しづらかった場所にもアプローチできるようになるでしょう。宇宙でも地上でもシナジーを生み出せる会社と優先的に組んでいきたいですね。
――宇宙基地を建てる建機やインフラを扱うとなると、共創相手は大企業に限られるのでしょうか。
中島氏:いえ、そんなことはありません。たしかに人が使うような月面基地を建てるとなれば、それなりの規模がある大企業でなければ難しいかもしれませんが、「YAOKI」のシェルターならどうでしょう。
2024年に、月面に「YAOKI」のシェルターを作る計画なので、中小の建設会社とも十分に共創できる可能性はあるはずです。今はほとんどの企業が宇宙ビジネスに参入するイメージを持てていませんが、どんな企業も宇宙に関わる可能性はあるでしょう。まずはコミュニケーションを取りながら、どのように宇宙でビジネスを展開できるか探っていければと思っています。
▲6月23日に開催されたピッチイベント「eiicon meetup!!vol.3」に登壇した中島氏。
(取材・文:鈴木光平)