1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 米国・英国で空前の「抹茶」ブーム 1年で5倍成長のスタートアップも トレンドを生んだ各社の戦略
米国・英国で空前の「抹茶」ブーム 1年で5倍成長のスタートアップも トレンドを生んだ各社の戦略

米国・英国で空前の「抹茶」ブーム 1年で5倍成長のスタートアップも トレンドを生んだ各社の戦略

  • 15177
  • 15176
  • 15175
3人がチェック!

世界的に抹茶の需要が加速している。財務省貿易統計によると、2024年の茶輸出額は364億円で過去最高に。日本食ブームや健康志向の高まりにより、抹茶を含む粉末茶の需要が拡大、全体輸出量の約3割米国がを占めるほか、EU・英国では直近1年で輸出量が急増した。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第67弾は、世界的な「抹茶」ブームに着目。新発想の抹茶ドリンクでZ世代に絶大な支持を得ている米国・英国のスタートアップ2社の戦略を紹介する。

サムネイル写真:Blank Streetのインスタグラムより

5年で90店舗 “低価格×高品質”でZ世代を魅了する米国「Blank Street」

▲米国・英国に店舗を急拡大する「Blank Street」(公式ホームページより)

2020年8月、コロナ禍の真っ只中に誕生した「Blank Street(ブランク・ストリート)」。Issam Freiha氏とVinay Menda氏の若手起業家が共同創業し、5年で米国・英国に約90店舗を展開するまでに拡大した注目企業だ。

彼らが着目したのが、市場のコーヒーチェーンや独立系カフェの商品がいずれも高価格帯であること。そこで、「高品質なコーヒーを手頃な価格で提供する」という差別化戦略で市場に参入した。ブランク・ストリートのコーヒーは、高品質ながらスターバックスよりも低価格で提供されているという。

戦略はシンプルだ。テイクアウトを主軸に店舗をできるだけ小型化、高度な自動化技術により高品質を保つエスプレッソマシンを導入している。賃料と人件費を削減してコストを抑え、そのぶん厳選されたコーヒー豆を使い、少人数のバリスタの給与は高く設定して、低価格×高品質を実現している。

▲小型カートや小規模な店舗で、不動産コストを徹底して削減している(公式インスタグラムより)

店舗は、バッテリー駆動で移動式の小型カート、あるいは350平方フィート(約33平方メートル)前後のコンパクトな面積で展開。これはスターバックスの都心店舗の面積(1,500~1,800平方フィート)と比較して、約20%のサイズ感だ。

不動産コストを抑えつつ、都市の繁華街や駅近などに店舗を展開。小型カートも有効活用し、公園やビルのロビーなど従来の店舗が難しい場所にも出店することで新規顧客を獲得している。

さらに、スイスのプロフェッショナル向けコーヒーマシンブランド・Eversysの大容量マシンを導入。1台約5万ドル(約740万円)で1時間に約700杯のエスプレッソを製造できるため、常時2名ほどの少ない人員で運営しているという。バリスタによる介入を極力減らすことで、コスト削減と品質の均一化、かつ提供までの時間短縮も実現している。

▲ホームページには抹茶ドリンクがズラリと並ぶ(公式ホームページより)

▲爆発的にヒットした「ブルーベリーマッチャ」(左)、マンゴーやスイカと抹茶をブレンドした限定メニューも(右)も(公式インスタグラムより)

ブランク・ストリートの看板メニューは「抹茶ドリンク」で、現在では売り上げの約50%を占めるという。2023年3月に発売された「Blueberry Matcha(ブルーベリーマッチャ)」は、グリーンとパープルの映えるグラデーションや独特の味わいで瞬く間に若年層の心をつかんだ。TikTokではハッシュタグ「#blueberrymatcha」 が500万回以上再生され、爆発的ヒットになったという。

これを機に、同社では抹茶ドリンクに注力。「バナナブレッドマッチャ」「ホワイトチョコレートマッチャ」「ストロベリーショートケーキマッチャ」など、ユニークなオリジナル商品が次々と誕生し、事業成長に貢献している。

ブランク・ストリートは、2025年6月時点で総額1億3,500万ドル(約199億円)の資金を調達。The Wall Street Journalの推定では、現時点の年間売上高は約1億4,900万ドル(約220億円)、企業価値は約5億ドル(約737億円)にのぼるという。

全自動マシンのフル活用と急速な事業拡大は、一部のコーヒー愛好家から「バリスタの職人技を活かす本来のカフェ文化が欠如している」と批判を受けているものの、Z世代の支持は絶大のようだ。

532%の年平均成長率、抹茶エナジードリンクで躍進の英国「PerfectTed」

2021年に英国で創業したPerfectTed(パーフェクトテッド)は、抹茶を使用したエナジードリンクで躍進した。その成長率は驚異的で、過去2年間で年平均成長率(CAGR)は532%を記録。英国で最も急成長を遂げる創業者主導企業を選出する「THE 2025 GROWTH 100」において、トップ企業となった。

▲創業者の3人は、経済誌「Forbes」が世界を変革する若きイノベーターを選出するアワード「Forbes 30 under 30」にも選出された(Marisa Poster氏のインスタグラムより)

同社は、Marisa Poster氏、Teddie Levenfiche氏、Levi Levenfiche氏の3人の若手起業家が創業した。背景にはPoster氏の個人的なエピソードがある。ADHDと不安障害に悩まされていた彼女は、朝にコーヒーを飲むと気分が悪くなることからコーヒーの代替商品として、カフェインを豊富に含みながらもエネルギーが枯渇しない飲み物を探していた。そして、出会ったのが抹茶だ。

抹茶はカフェインに加え、L-テアニンというアミノ酸も豊富に含んでいる。そのため過剰な刺激による副作用を抑え、コーヒーの持つポジティブな効果を享受できるのだという。

創業者の3人は、抹茶の産地である京都・宇治市での調査を経て、フルーティーな風味を融合させた独自の抹茶ドリンクを開発。従来のエナジードリンクにありがちなカフェイン摂取による急激な高揚感や離脱後症状の疲労感などを抑えられる、新発想のエナジードリンクとして売り出した。

▲パーフェクトテッドが販売する抹茶のエナジードリンク(公式ホームページより)

▲自宅で抹茶ドリンクを作れるパウダーも販売(公式ホームページより)

当時、英国で抹茶はそれほど浸透していなかった。そんななか、「ポジティブなエネルギーを広める」ことをミッションに掲げた同社の抹茶エナジードリンクが、健康志向の消費者を惹きつけた。創業から2年で、同社の商品は3,500以上の小売店に並ぶほか、上述したブランク・ストリートや欧州で人気のカフェチェーン「Joe & The Juice(ジョー・アンド・ザ・ジュース)」でも販売されるまでになった。

現在は自宅で抹茶ドリンクを作れるパウダーも販売し、「ブルーベリー抹茶」や「サマーベリー抹茶」のほか、「フレッシュミント抹茶」といった変わり種も。SNS映えへの考慮もあるが、抹茶の苦みに不慣れな人でも飲みやすくするための戦略なのかもしれない。

さらに、2023年3月には、英国の人気テレビ番組「Dragon’s Den(ドラゴンズ・デン)」に出演。これは、日本テレビで2001年から2004年まで放送されていた『¥マネーの虎』と同様のコンセプトで、起業家が投資家の前でプレゼンして資金獲得を目指すもの。パーフェクトテッドは、有名投資家のSteven Bartlett氏と契約を締結し、25,000ポンド(約500万円)の投資を獲得。この出演は、認知度の飛躍的な向上ももたらしたとされる。

▲パーフェクトテッドは、「英国ナンバーワンの抹茶ブランド」に成長(公式インスタグラムより)

英国の食料品業界を対象とした第三者の小売実績データに基づき、パーフェクトテッドは「英国ナンバーワンの抹茶ブランドになった」と主張している。

近年、英国の抹茶需要は米国以上に急増しており、輸入量は2年で約6倍に。その背景には健康志向や日本文化への関心があり、そうした消費者のニーズにマッチした事業を展開するパーフェクトテッドやブランク・ストリートなどが、トレンドの追い風になった。抹茶の視覚的魅力もZ世代に受け入れられた一因だ。

需要急増による供給不足も。トレンドの行く末は

こうした抹茶ブームは、米国・英国にとどまらず、世界的に広がっているという。財務省貿易統計による調査では、そうした状況が反映されている。

▲お茶の輸出量は10年で約2.5倍に増加。その約3割を米国が占める(出典:財務省貿易統計)

▲EU・英国への輸出量は、2024年に急増。特にドイツや英国で伸びが目立つ(出典:財務省貿易統計)

2024年の茶輸出額は364億円で過去最高に。これは、抹茶を含む粉末茶の需要が拡大したためだ。2025年1~4月の輸出額は155億円と前年同時期を上回るペースとなっている。その一方で、供給難への懸念も高まっている。

国内では、近年の猛暑の影響により茶葉の収穫量が減少。思うように収穫できないなか、注文量は著しく増加しており、抹茶商品の価格が高騰している。国際日本茶協会によると、抹茶の原料となる碾(てん)茶の2025年5月の平均価格は1キログラムあたり8,235円で、昨年の平均価格の1.7倍となった。

こうした需給逼迫は、米国のカフェなどにも影響をもたらしている。Bloombergでは、現地の販売事業者が容量縮小や値上げなどの対策を次々と打ち出していると報道。抹茶業界全体に影響が広がっているという。

一部のカフェでは、抹茶ブームの成熟も相まって、トレンド重視の甘いラテやスイーツ系から「伝統・高品質・体験」を重視する方向にシフトする動きも。砂糖などを含まない高品質な抹茶を本格的な点(た)て方で提供する専門店も出てきている。生産者によると、抹茶の需給逼迫はしばらく続く見通しだ。

編集後記

抹茶ブームの報道は以前から目にしていたが、「ブルーベリーマッチャ」や「抹茶エナジードリンク」といった日本人にはない発想でZ世代を魅了しているのは驚きだった。健康効果や低価格の訴求に加え、SNSでバズを生む鮮やかなビジュアルが若年層のニーズにハマったようだ。切実さを増す供給難により、ブランク・ストリートやパーフェクトテッドの事業がどう変化するのかも気になるところだ。

(取材・文:小林香織

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント3件