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【スタートアップの共創像】eiicon支援事例―自社中心思考からの脱却。事業の転換点になったビジネスビルドで得た“2つの変化”とは

【スタートアップの共創像】eiicon支援事例―自社中心思考からの脱却。事業の転換点になったビジネスビルドで得た“2つの変化”とは

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2010年に映像制作事業からスタートした株式会社クリップス(以下、クリップス)は、2021年に地方創生特化型のライブコマースプラットフォーム「Sharing Live」をリリースした。Sharing Liveは、地域の生産者と全国の消費者をライブコマースで繋げるプラットフォーム。リアルタイムの「顔の見える」コミュニケーションにより、地域の生産者の販路開拓や需要掘り起こしを支援する。同社は、オープンイノベーションによる大手企業や自治体などとの連携を通じて、プラットフォームの強化を推進中だ。

そうした中、クリップスは、2021年12月に宮崎県主催・eiicon company運営のオープンイノベーションプログラム「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」(※)に参加。宮崎県の大手スーパーチェーン・株式会社マルイチ(以下、マルイチ)に提案した共創案が見事採択され、2022年3月には「ライブコマースを活用したオーガニック野菜の潜在顧客の発掘」をテーマとした実証実験を実施している。

その後もマルイチとの共創は継続しており、2社連盟で「観光庁が設けている助成金の申請対象」 新しいサービスの開発に取り組んでいるというクリップス。同社は、「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」に参加したことによって、ビジネスモデルの転換など”2つの変化”があったという。

――そこで、クリップスがオープンイノベーションに取り組んだ理由や、「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」で得た学び・気付き、マルイチとの共創内容などについて、同社代表取締役社長のチョウ イッショウ氏、マルイチ取締役の高木資子氏、同プログラムを担当したeiicon companyの松尾真由子の3名に話を聞いた。

※「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」……全国のパートナー企業と宮崎に根差した企業によるビジネス創出を目指すプログラム。2日間でビジネスアイデアをブラッシュアップし、事業の骨組みまでをつくった上で、社会実装に向けた実証実験へ進める企業を採択する。2021年12月3日・4日に実施され、2日間で新しいビジネス創出に挑戦した。

「生産者のために何かできることはないか」がSharing Liveの原点

――まずは、クリップスの創業の経緯や現在までの歩みを教えていただけますか。

クリップス・イッショウ氏 : すべてお話すると、小説1冊分ほどの長さになってしまうので、手短にまとめますね(笑)。クリップスは2010年に創業しました。私が、個人事業主として、日本国内のWEBマーケティングや映像制作を請負いはじめたのがスタートです。その後、金額規模の大きな案件が増えていくなかで、必要に迫られて法人化しました。

社名のクリップスは、私が子供のころに、書類を留めるクリップを、いくつも繋げる遊びをしていたことに由来しています。「クリップを繋げるように、企業と消費者を繋げる仕事がしたい」という想いから、この社名をつけました。

法人化の後には、主にECやインバウンドの領域で事業を展開しています。そのなかで、ライブコマースの映像制作を手掛けるようになり、1配信で約7,300万円の売上げを達成するなどの実績を残しました。コロナ禍以降は日本でもライブコマースが広がりを見せていましたし、「今後はライブコマースの映像制作会社として事業を拡大していこう」と思案していたのですが、そんなころに、ある知人の方から連絡をもらったのです。

その方は、愛媛県の宇和島で真珠を養殖している生産者さんなのですが、コロナ禍の影響で売上げが大きく落ち込んだことで、息子さんが家業を離れてしまったとのことでした。その生産者さんは、ショックを受けて体調を崩されているようでしたし、私も話を聞いて非常に悲しい気持ちになりました。それがきっかけで「生産者さんのために、何かできることはないか」と考えるようになり、たどり着いたのがライブコマースプラットフォーム「Sharing Live」でした。


▲株式会社クリップス 代表取締役社長 チョウ イッショウ氏

プログラムが事業の転換点に――自社中心思考からの脱却

――オープンイノベーションに取り組もうと考えた理由、そして「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」に参加された理由についてお聞かせください。

クリップス・イッショウ氏 : Sharing Liveは「見つけよう!第2のふるさと」をコンセプトとする、地方創生特化型のライブコマースプラットフォームです。そのため、地方企業との連携は極めて重要です。また、単なるCtoCプラットフォームとしてサービスを展開しているだけでは、急速な事業成長は見込めません。大手企業と連携し、BtoCの要素も盛り込みながらサービスを拡大したいと考え、オープンイノベーションに取り組みはじめました。

「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」の参画の理由ですが、「eiicon companyへの信頼感」も決め手の一つでしたね。上から物を言うようで恐縮なのですが、初めてWEBサイトを拝見したときには「このプラットフォームはコンテンツがしっかりしているなあ」と感心しました(笑)。オープンイノベーションプログラムなどを通じた共創実績も多数ありましたし、参加するならeiicon companyのプログラムだろうなと。

――「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」に参加されてみての感想をお聞かせいただけますか。

クリップス・イッショウ氏 : 正直にいえば、最初は「怖い場所だな」と思っていました(笑)。参加企業が一堂に会して2日間でビジネスアイデアを練り上げる、ビジネスビルド形式のプログラムへの参加は初めてでしたし、周囲からライバル視される雰囲気も感じました。メンターの方からも厳しいアドバイスをいただきましたね。ただ、あの場所だからこそ得られる気付きもあったのかなとは思います。


▲2021年12月に開催された「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」の様子。

――メンターから受けたアドバイスで印象に残っているものはありますか。

クリップス・イッショウ氏 : プログラムの初日、私はSharing Liveの機能が限られていたこともあり、それにあてはめようとして、サービスの機能や特徴を説明することに集中していました。すると、とあるメンターの方から「サービスの売り込みばかりしていてもダメですよ」というようなアドバイスを受けました。これはショックでしたね(笑)。初日を終えるころには、チーム内に「Sharing Liveを使わないのであれば意味があるのか。このままじゃムリだ…」という雰囲気が漂っていて、同行したスタッフもうなだれていていました。

ただ、ホテルでメンターの皆さんの言葉を振り返りながら、共創案を練り直しているときに、「Sharing Liveをいかに使ってもらうか」ではなく、「マルイチさんの課題に対してSharing Liveは何ができるか」と考えるべきだと気付きました。

すると、見える景色が変わってくるんですよ。「どう使ってもらえるか」ではなく、「どう一緒にやるか」に。

マルイチさんのことも「サービスを売り込む相手」ではなく、「パートナー」に見えてくるというか。そうするうちに、採択された「ライブコマースを活用したオーガニック野菜の潜在顧客の発掘」のアイデアに辿り着きました。

――高木さんと松尾さんにお伺いします。そうしたイッショウさんの変化をプログラム中に感じられましたか。

マルイチ・高木氏 : クリップスさんに限らず、プログラムの初日は、どの企業さんも自社のアピールに一生懸命でしたね。そのため、提案を受ける私たちとしても、共創のビジョンが見えにくかったです。ただ、クリップスさんに関しては、二日目で共創案の方向性がガラッと変わった印象があります。


▲株式会社マルイチ 取締役 高木資子氏

eiicon・松尾 : たしかに、初日のクリップスさんは、自社のサービスを中心としたコミュニケーションが多かったと思います。そのせいか、初日を終えても高木さんはマルイチの課題を伝えきれず、不完全燃焼な様子でした。

私としても、その点が気がかりだったので、初日の終了後に「コミュニケーションの仕方を変えた方がよい」とイッショウさんにアドバイスしました。正直なところ、アドバイスをしても変化のない方も多いのですが、イッショウさんは違いました。二日目からは、マルイチさんの課題に真摯に向き合う姿勢に変わっていて、それが採択の大きな要因になったと感じています。


▲eiicon company シニアコンサルタント 松尾真由子

クリップス・イッショウ氏 : 松尾さんのアドバイスには、とても感謝しています。松尾さんは、すでに答えは見えているのに、あえてそれを言わずに、私たちに考えさせてから答えに導くようなメンタリングをしていただきました。まるで、お母さんみたいな教え方をする人だなと(笑)


▲2022年3月に行われたライブコマースプラットフォーム『SharingLive』を活用した実証実験。親子YouTuberであるゆねここちゃんねるを起用し、マルイチのオーガニック野菜を生産する農業生産法人日向百生会とのコラボ配信を実施。

実証実験後には、2社が共同で新たなサブスクサービスを開発

――クリップスとマルイチは、プログラム採択後の実証実験を終えてからも、お付き合いが続いていると聞いています。

クリップス・イッショウ氏 : はい。現在、私たち2社のほか、宮崎県の自治体などと協力して、オーガニック野菜に関するサブスクサービスの立ち上げを進めています。サービスのコンセプトやイメージキャラクターもすでに完成していて、来年の初旬にはリリースを予定しています。

このサービスはプログラムの段階ですでに発案されていましたが、資金不足の懸念から事業化を見送っていました。しかし、せっかくのオープンイノベーションの機会を、それで終わらせてしまってはもったいないですよね。何か実現できる手段はないかと模索していたところ、弊社チームメンバーが、観光庁が設けている助成金の申請対象にできることを知り、地元自治体の方の協力を得ながら、資金調達を実現しました。

――もともと、クリップスはSharing Liveの拡大のためにオープンイノベーションを活用していました。マルイチと共同で、Sharing Live以外の事業を手がけるのはなぜでしょうか。

クリップス・イッショウ氏 : ユーザー企業の数を増やすことよりも、ユーザー企業1社ずつとしっかり結び付くほうが大切だと気付いたからですね。Sharing Liveのコンセプトは「見つけよう!第2のふるさと」ですから、企業が次々に入れ替わるようなプラットフォームではいけないと思っています。だって、消費者の皆さんがやっとの思いで見つけた「ふるさと」が、翌月にはプラットフォーム上から消えているなんて、悲しすぎるじゃないですか(笑) 

だから、Sharing Liveはユーザー企業が居続けられるプラットフォームでなくてはいけないし、そのためにはユーザー企業としっかり結び付いて、各地域の課題を解決するような商品やコンセプトを開発しないといけません。マルイチさんとのサブスクサービスの開発も、その活動の一つで「Sharing Live以外の事業」だとは捉えていません。

「BUSINESS BUILD」に参加することで得た、”2つの変化”

――イッショウさんは「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」に参加したことで、自社にどのような変化があったとお考えですか。

クリップス・イッショウ氏 : 大きく二つあります。一つ目は、オープンイノベーションプログラムへの参加を控えるようになったことです。以前は実績づくりのために、さまざまなプログラムに参加していたのですが、現在では共創相手に貢献できると見込めるプログラムにしか参加していません。これは、単にビジネスを拡大するためだけに大手企業の力を借りても、共創相手の課題を解決できなければ、プラットフォームの強化には繋がらないと知ったからです。

二つ目の変化としては、Sharing Liveが「ライブコマースプラットフォーム」から「地方創生プラットフォーム」に進化したことです。マルイチさんとのオープンイノベーションを通じて、Sharing Liveはライブコマースを提供するプラットフォームから、地域の生産者さんのビジネスをサポートするプラットフォームに進化することができました。


▲上図にあるような「共創のポイント」をおさえたことが、クリップスとマルイチによる成功事例を生み出した。

――最後に、高木さんとイッショウさんにお伺いします。オープンイノベーションにおいて重要だと思うポイントについてお聞かせください。

マルイチ・高木氏 : 私はオープンイノベーションに限らず、仕事にあたるうえでは「人」を大切にしています。その方の人となりや、仕事にかける想いや、周囲の方への思いやりなどは、共創相手を見極めるうえで重要だと思います。ビジネスライクな関係ではなく、しっかり心を通い合わせられるかが、オープンイノベーションを成功に導くポイントかもしれません。

クリップス・イッショウ氏 : 共創相手が求めることと、自社ができることの交差点がどこにあるのかを探すことです。そもそもスタートアップと大手企業が目指すところは異なるわけですが、かといって、必ずしも平行線だというわけでもありません。両者が合意できるポイントはあると思いますので、そこを探すために共創相手の背景や課題を知って、自社のできることを当てはめていくのが重要なのではないでしょうか。

取材後記

「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」における、ある一つの気付きが、それまでのオープンイノベーションへの向き合い方を改めるきっかけになったと話すイッショウ氏。その後のマルイチとの関係が、新たなサービスの開発まで発展したことを鑑みれば、「自社のサービスをいかに使ってもらうか」よりも「自社のサービスでどんな課題を解決できるか」を重視するマインドが、いかに重要だったのかがわかる。こうした気付きを得るきっかけとしても、オープンイノベーションプログラムは有効なのだ。事業へのマインドセットを見つめ直す手段として、オープンイノベーションプログラムを活用するのもいいかもしれない。

(編集・取材:眞田幸剛、文:島袋龍太)

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