【地域版SOIPに迫る<東海編>】2026年アジア大会を控える「東海」からはサッカー・バスケットボール・バレーボール・マラソンの4競技が参戦!共創に取り組む背景・狙いをキーマンたちに聞く
「スポーツの成長産業化」を目的として、スポーツ庁が手がける「スポーツオープンイノベーション推進事業」。スポーツ界と他産業が連携して、新たな財・サービスを創出するプラットフォームが「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」だ。
スポーツ庁は、国内各地域におけるSOIP(地域版SOIP)を構築するため、昨年に続きスポーツチームとのアクセラレーションプログラム「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」を開催する。今年度は、北海道、甲信越・北陸、東海の3エリアでプログラムを開催する構えだ。
そこでTOMORUBAでは、各エリアの地域パートナーやホストチーム・団体に取材を実施。今回取り上げるのは、東海エリアのプログラム「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022 TOKAI」だ。地域パートナーは、全国屈指の販売部数を誇る中日新聞社と、地域最大の経済団体として17,000社を超える会員企業を有する名古屋商工会議所、名古屋グランパスをはじめ、スポーツチーム・団体とのスタートアップピッチ主催実績を持つ中部ニュービジネス協議会の3社が務める。
ホストスポーツチームとしては、「名古屋グランパス(サッカー)」「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(バスケットボール)」「ウルフドッグス名古屋、豊田合成記念体育館エントリオ(バレーボール)」「名古屋ウィメンズマラソン(マラソン)」が参画。――本記事では、地域運営パートナーおよびホストスポーツチーム等の4者にインタビューを行い、地域版SOIPにかける想いを聞いた。
「2022年を、東海エリアの“SOIP構築元年”に」―中日新聞社
――まず、地域パートナーである中日新聞社・倉内さんにお話を伺います。東海エリアのスポーツビジネスの現状についてお聞かせください。
倉内氏 : 東海エリアはコロナ禍以前の2018年頃より、スポーツと他産業を掛けあわせたオープンイノベーションが盛んに行われてきました。2018年11月に、名古屋グランパスさんがJリーグのチームで初めてピッチコンテストを開催。翌年にはB.LEAGUEの県内4チームも合同で行いました。
「次は野球も」ということで、今年の3月には中日ドラゴンズも球団史上初のスタートアップピッチを実施し、現在、複数社と実装に向けた準備段階に入っています。また、4月には、バスケットボールの名古屋ダイヤモンドドルフィンズさんが、名古屋・栄に共創スペース「DOLPHINS PORT」を開設されたことも、注目すべきポイントです。
▲株式会社中日新聞社 広告局ビジネス開発部 倉内 佳郎 氏
――サッカーからはじまり、野球、バスケットボールへとオープンイノベーション活動が広がってきているのですね。
倉内氏 : はい。東海エリアには、スポーツチームも非常にたくさんあります。野球・サッカーのほか、バスケットボールに関しては愛知県にB1リーグだけでも4チーム、女子も9月22日より開催のFIBA女子バスケットボールワールドカップ2022に出場する日本代表選手12人のうち6人が愛知県のチームから選抜されています。ソフトボールやバレーボール、ハンドボールにホッケーも強豪揃いです。各競技で世界で活躍する選手を多く輩出しています。この源泉には、ものづくりの集積地であることも関係します。チームの運営母体や親会社に、日本を代表するメーカー各社が名を連ねていることも、この地域の特色のひとつでしょう。企業スポーツという観点では後ほど詳しい説明がありますが、豊田合成さんが2020年に民設民営で新アリーナ「エントリオ」を建設して話題になりました。
また、当社は「名古屋ウィメンズマラソン」などのスポーツ大会や興行も多数運営しています。コロナがまん延しだした2020年3月には大規模大会で初の「オンラインマラソン」を導入するなど、先駆的な取り組みも行いました。加えて、中京大学や名古屋大学を筆頭に、スポーツやデータサイエンスに注力している大学も豊富です。将来、大学連携を進められる土壌もあります。
――東海エリア全体の、「スポーツビジネスを盛り上げよう」という機運の高まりが感じられます。
倉内氏 : そうですね、元々のアセットに加え、先々のチャンスも見えていますから。2024年10月には、国内最大級のインキュベーション施設「STATION Ai」の開業が予定されています。「STATION Ai」はフランスの「STATION F」をモデルにしていますが、パリ五輪・パラリンピックの閉幕後に開業するのも運命的です。施設の隣にはグラウンドも整備され、例えばここを使った実証実験など期待が膨らみます。
そして、その2年後となる2026年には、ここ愛知で第20回アジア競技大会が開催されます。ですから、2026年や2024年のイベントから逆算して、2022年はまさに東海エリアにおける「SOIP構築元年」にすべき年。プロスポーツチームに留まらず企業スポーツや市民参加の国際大会まで「SOIPの可能性を広げるのは私たちだ」という強い想いで参加しています。
――今回、地域パートナーとして中日新聞社・ 名古屋商工会議所・ 中部ニュービジネス協議会の3者が参画し、共創アイデアの実装に向けて支援されます。具体的にどのようなバックアップが可能なのでしょうか。
倉内氏 : 私たち中日新聞社はマスメディアとしての発信力がありますし、中日ドラゴンズはもちろん報道や主催コンテンツの運営等を通じて他のスポーツチーム・競技団体ともつながりを持っています。ひとつの共創アイデアからの横展開も可能です。また、名古屋商工会議所は約1万7000社の会員社数を誇り、ビジネスマッチング経験も豊富ですから、会員企業に対して協力を求めることもできるでしょう。さらに、中部ニュービジネス協議会の持つネットワークを活用することも検討できます。このように多面的なバックアップができると考えています。
――地域サポーターや地域メンターの方の特徴も簡単にご紹介ください。
倉内氏 : 地域サポーターとして、「なごのキャンパス」と「STATION Ai」の2者に入っていただきましたが、いずれも地元でスタートアップ支援を行っている団体。スタートアップの皆さんにとっては、今回のプログラムでもそれ以降も、東海地区で事業を拡げるのによい環境を継続的に提供できるのではないかと思います。
メンターとしては粟生万琴さんに参加いただいていますが、粟生さんは「なごのキャンパス」のプロデューサーで、ご自身も上場経験のある起業家。地元のラジオ局でスタートアップに関する番組もお持ちですから、非常に力強いメンターです。それに、中京大学の舟橋弘晃さんもメンターとして参加いただきますが、中京大学と言えば室伏広治スポーツ庁長官をはじめ名だたるアスリートの母校であり、6競技で企業と連携したプロジェクトなども実施されています。
――最後に、応募を検討している人たちに向けて、一言メッセージをお願いします。
倉内氏 : 採択・不採択に関わらず、有望な企業の皆さんとは、この東海エリアで共創を生むような取り組みを一緒に仕掛けていきたいと思います。私たち地域パートナーも、スタートアップとスポーツチーム間の橋渡し役となって、しっかりサポートしていく考えなので、ぜひ期待してご応募ください。
「世代を超えて地域一人一人と繋がり グランパスにしかできない街づくりを」―名古屋グランパス
愛知県唯一のJリーグクラブとして、今年で30周年を迎える「名古屋グランパス」。2018年にはJリーグクラブ初となるスタートアップピッチを開催するなど、スポーツオープンイノベーションにおいて先駆的存在だ。今回の地域版SOIPでは、どのようなテーマを提示するのか。担当の谷藤氏に聞いた。
――まず、名古屋グランパスの特徴についてお伺いしたいです。
谷藤氏 : 名古屋グランパスは、1992年に発足し今年で30周年を迎えるクラブです。Jリーグ発足当初から加盟する、オリジナル10のひとつでもあります。特徴としては、愛知県唯一のJリーグクラブである中、750万人という非常に多くの方々と様々なことに取り組んでいけることだと考えております。現在、当クラブでは「町いちばんのクラブ」というビジョンを掲げています。ここでいう「町」には、愛知県や名古屋市はもちろんのこと、県市区町村のみならず、商店街やパートナー企業、家族、友人同士など、小さな集まりも含まれております。グランパスに関わる一つ一つの「町」に対して、その「町」に合った向き合い方をしていきたいというのが、グランパスの想いです。
▲株式会社名古屋グランパスエイト 経営サポート部副部長 谷藤 宰氏
――今回の地域版SOIPでは『世代を越えて地域一人一人との繋がり、グランパスにしかできない街づくりを』という募集テーマを設定されました。テーマ設定の背景や課題感についてお聞かせください。
谷藤氏 : 当クラブとしては、特定の世代に絞ることなく、老若男女問わずスタジアムに足を運んでいただき、グランパスを通じて楽しんでもらいたいという想いがございます。そうしたなか、クラブが直面しつつある課題として、地域の子どもたちとの接点構築が困難になっていることが挙げられます。というのも、これまで子ども向けのイベント告知を、小・中学校に紙のチラシを配布する形で実施してきました。しかし、学校配布物の電子化に伴い、これが難しくなることが見込まれています。今後、どのように県全域の子どもたちにアプローチしていくのかが課題です。
また、昨今の高齢化を踏まえ、シニア世代の方たちにもスタジアムにご来場いただきたいと考えています。ただ、シニア世代の皆さんと、どう接点構築を行えばよいのかが掴めていません。元気なまま引退をされ、余生を楽しんでおられる60代の方も大勢いらっしゃいます。そうした方たちに対するアプローチの仕方を、地域版SOIPを通じて一緒に探っていければと思っています。
――子どもたちやシニアのファン獲得に向け、まずはタッチポイントを見つけたいと。
谷藤氏 : はい。2つ目として、SDGs活動にも注力していきたいです。愛知県にはさまざまな地域課題があります。民間でありながらも公共性の高いグランパスというクラブ、それにサッカーというスポーツを通じて、SDGsに資する活動も検討したいです。
最後に3つ目ですが、グランパスとして最も大事なのはタイトルの獲得ですし、グランパスの使命でもあります。グランパスが優勝することで、グランパスに関わる全ての方々と優勝の喜びを分かちあいたいですし、グランパスをきっかけに愛知・名古屋をはじめ地域が盛り上がれればと考えています。そうするためには、育成年代であるアカデミーから地元選手をトップチームに輩出し、チーム・選手が強くあり続ける必要があります。ですから、チーム強化につながる技術をお持ちの企業とも、ぜひ共創したいです。
©N.G.E.
――共創アイデアの実現に向けて、どのようなリソースを提供できますか。
谷藤氏 : グランパスは、昨年までの2シーズン、Jリーグのなかで、2年連続入場者数トップとなりました。大勢の人が集まった試合日当日のスタジアムを見本市としてご活用いただくことが可能です。また、グランパスは行政との関係が強いクラブです。ホームタウンの中心となる名古屋市・豊田市・みよし市とはそれぞれ協定を結んでいますし、とくに名古屋市とは包括連携協定を結んでいます。内容によっては、行政の方々にもご協力を仰ぎながら取り組みを推進することも可能だと考えております。
さらに昨年、「SDGs ACADEMY」を立ち上げました。SDGsの17番(パートナーシップで目標を達成しよう)にあるように、1社単独で取り組むのではなく、アカデミー生も含めた多様なステークホルダーを巻き込みながら、グランパスがハブとなってSDGs活動を行おうとしています。こうした取り組みとの連携も可能です。
――テクノロジーを使ったチーム強化というお話もありましたが、選手の皆さんにご協力いただくことも可能ですか。
谷藤氏 : もちろんです。最初にトップチームでの導入が難しい場合は、まずは育成年代であるアカデミーで検証してから、トップチームへの導入ということも可能です。またアカデミーとは別に、幼児~中学生を対象としたサッカースクールも運営していて、そこには2000名規模の子どもたちが参加しています。大会も開催しているので、そういったところと連携することも可能です。ですから、さまざまな世代を巻き込んだ取り組みが行えます。
――最後に、応募企業に向けてメッセージをお願いします。
谷藤氏 : クラブ単独では実現できないことが数多くあります。ぜひ皆さんと一緒になって、業界いちばんの取り組みを形にしたいと思います。「スポーツクラブで実証を行いたい」というアイデアがあれば、ぜひグランパスを使ってください。そして、世の中にインパクトを与える先駆的な取り組みに、一緒にチャレンジしましょう。
「都心の共創空間から まちづくりとファンづくり」―名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
Bリーグで常にトップクラスの成績を誇る「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」。同クラブは2022年4月、名古屋の中心地・栄にあるオアシス21内に、共創スペース「DOLPHINS PORT」を開設。この場所を起点に新たな事業展開を図っていく考えだ。今回の地域版SOIPでは、どのようなテーマを提示するのか。担当の園部氏に聞いた。
――まず、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの特徴についてお聞かせください。
園部氏 : 1950年に三菱電機の部活動として発足し、約70年の歴史を持つクラブです。実業団リーグを経て、Bリーグに参入したのが2016年。同年の4月にプロクラブ化を行いました。ホームタウンは名古屋市ですが、県立の愛知県体育館をホームアリーナとしていることから、名古屋市、愛知県とも向き合いさまざまな活動を行っています。県内には4つのBリーグクラブが存在しますが、他の3クラブと商圏が重ならないよう配慮しながら、愛知県にある名古屋市ということを意識した課題解決に資する取り組みにも注力しているというのが、当クラブの特徴です。
▲名古屋ダイヤモンドドルフィンズ株式会社 ドルフィンズポートプロジェクトマネージャー 園部 祐大氏
――地域版SOIPでは『都心の共創空間からまちづくりとファンづくり』という募集テーマを設定されました。都心の共創空間である「DOLPHINS PORT」を設立した背景には、どのような狙いがあったのでしょうか。
園部氏 : 「DOLPHINS PORT」を開設した目的は2つあります。1つ目がファンづくりです。2025年に新アリーナ(愛知県新体育館)のオープンが予定されていますし、2026年にはBリーグが新しいリーグになります。こうした地域環境や業界全体の変化に向けて、どのようにファンづくりをしていくか。まだまだBリーグのこと、ドルフィンズのことを知らない方はたくさんいらっしゃるので、ファンづくりのタッチポイントとして「DOLPHINS PORT」を開設しました。
2つ目が、スポーツによるまちづくりをどう仕掛けていくか。そのキーワードが「共創」地域の巻き込みです。スポーツによるまちづくりを考えた際、ドルフィンズだけでは実現できることの幅に限界がありますし、本当に地域が求めること(価値)を生み出すには地域の方々と一緒に課題の抽出と解決策の考察を行う必要があります。そこで、愛知県や名古屋市、また名古屋商工会議所とも一緒になって「地域共創プラットフォームワーキンググループ」を組成。地域の人たちにも広く参加してもらいながら、社会課題の解決を図っていく仕組みの構築を目指しています。
▲「DOLPHINS PORT」は、老若男女問わず誰もが気軽に立ち寄れる場として市民に開放されている。施設内には、椅子や机、ホワイトボード、プロジェクターのほか、電源、フリーWi-Fiも完備。
――「DOLPHINS PORT」から生まれた、地域共創プロジェクトはあるのでしょうか。
園部氏 : はい。ドルフィンズ所属の齋藤 拓実選手が中心となって、今年の7月「通りすがりの文化祭」というイベントを開催しました。コロナ禍の影響で実施できなかった学校行事に代わるイベントを、地域の高校生・大学生とともに企画し、選手本人がクラウドファンディングで資金調達を行って、地域全体でこのプロジェクトを創り上げ、オアシス21の広場で実現したというものです。また、個人でファンクラブを持っている選手は、「DOLPHINS PORT」を使ってファンクラブ会員向けのイベントを開催していたりもしますね。
――さまざまなコンテンツ企画も立ち上がっているのですね。地域版SOIPでは、どのような共創アイデアに期待していますか。
園部氏 : 目的がファンづくり(集客)と地域共創プロジェクトへの巻き込みの2つなので、それぞれに対する提案、あるいは両方を解決できる提案に期待しています。とくに今、課題に感じていることは、「DOLPHINS PORT」来場客のデータが取れていないことです。データがないため、追いかけてプロモーションを仕掛けることができていません。データ取得に限りませんが、「DOLPHINS PORT」の来店客をアリーナの来場者へとつなげる導線を、一緒につくれるアイデアには期待しています。
加えて、地域共創プロジェクトへの巻き込みに関しては、行政や商工会議所、VCやアカデミアのメンターの方などが加わって、一緒に取り組みを進めています。プロジェクトドリブンで進めており、実績はできつつあるものの、まだ周知と関わりしろづくりに課題があると感じているので、活動内容と関わりしろをもっと広く知ってもらえるようなアイデア・ソリューションをお持ちの方と、共創をしていけたらと思います。
――「DOLPHINS PORT」のほかに、共創に向けて提供できるリソースはありますか。
園部氏 : タイミングや内容にもよりますが、選手の協力を求めることは可能です。また、我々の所属する経営企画グループのメンバーが、一緒にコミットできる体制をとっています。クラブではSDGs活動にも力を入れているため、行政やNPO団体の皆さんとも関わりがあります。目的が合致すれば、一緒に取り組んでもらうこともできるでしょう。
▲ドルフィンズを牽引するポイントガード・齋藤拓実選手。日本代表にも選出され、2022-23シーズンドルフィンズのキャプテンに就任した。
――最後に、応募企業に向けてメッセージをお願いします。
園部氏 : 自分たちのアセットだけでは難しいアイデアも、こういった共創の場に加わることで実現できるはずです。スタートアップの方々同士で共創し、スポーツチームと掛けあわせて新しい価値を生み出すこともできると思います。そうした共創の場として、ぜひご活用ください。そして、SOIPをきっかけに、応募企業方々にもスポーツによるまちづくりの当事者になってもらえたらなと思います。
「民設民営アリーナを活用したファンの拡大」―ウルフドッグス名古屋、豊田合成記念体育館エントリオ
2020年、豊田合成株式会社の創立70周年を記念し、愛知県稲沢市に設立された「豊田合成記念体育館 エントリオ」。現在、豊田合成のバレーボール部を前身とするV.LEAGUE(V1)所属「ウルフドッグス名古屋」のほか、同社のハンドボール、バスケットボールチームが本拠地としている。今回は、エントリオとウルフドッグス名古屋を中心に、共創アイデアを募集。具体的なテーマの中身を、横井氏と沖氏に聞いた。
――まず、ウルフドッグス名古屋についてお伺いしたいです。
横井氏 : ウルフドッグス名古屋は、1961年に豊田合成のバレーボール部として誕生した、今年で60周年を迎えるチームです。2013年、アンディッシュ・クリスティアンソンという、バレーボールの殿堂入りも果たした素晴らしい監督を招聘したことを契機にチームが強化され、2015-16シーズンにはV・プレミアリーグを初制覇した実績も有しています。
チーム運営は、我々TG SPORTS株式会社が担っていますが、当社は豊田合成100%出資により、2018年9月に設立された会社。豊田合成の本体からは完全に分離し、スポーツ事業の収益のみで運営をしています。
▲TG SPORTS株式会社 代表取締役社長 横井 俊広氏
――ウルフドッグス名古屋の本拠地であり、今回の共創の舞台ともなる「豊田合成記念体育館エントリオ」は、どのような背景や特徴を持ったアリーナなのでしょうか。
横井氏 : 2018年に新Vリーグである「V.LEAGUE」が開幕したのですが、それに向けて設立したアリーナが「エントリオ」です。豊田合成が創業70周年を迎えるタイミングでもあったため、豊田合成記念体育館という形で設立しました。新アリーナ建設にあたっては、一般的な公立体育館ではなく、私自身が海外駐在中に体験した北米の競技アリーナ、例えばNYにあるマディソン・スクエア・ガーデンのようなものを再現したいという想いがありました。ですから予算の許す限りで、背景を黒くしたり、窓を設けなかったり、照明も北米仕様にしたりと、特徴のあるアリーナになるようにと、会社に提案させて頂きました。
――地域版SOIPでは『民設民営アリーナを活用したファンの拡大』という募集テーマを設定されました。背景にある課題感についてもお聞きしたいです。
横井氏 : この2年間は、コロナ禍の影響を相当受けています。定員は3500人ですが、定員通りの興行を達成したことはありません。お客さまの出足も鈍っている状況が続いています。また、バレーボールという競技自体に関して言うと、日本代表戦は人気があるものの、V.LEAGUEの試合では集客に苦戦しています。こうした現状に対して、ウルフドッグス名古屋やエントリオの魅力をもっとたくさんの方に知ってもらい、来場していただけるようプロモートしていきたい。これがテーマ設定の背景にある考えです。
――現状だと、どのような方がコアなファン層にいらっしゃるのですか。
横井氏 : 20代~50代の女性のファンの皆さんに支えられています。コアなファンの約95%が、女性のお客さまなんです。彼女らの琴線に触れるポイントは色々あると思いますが、例えば選手のかっこよさや、プレーのクールさなどではないでしょうか。こういったコアのファン層に加え、近隣にお住まいの方、スポーツ全般が好きな方、あるいはバレーボールは競技人口が多いのでバレーボールを見たい人など、幅広くファンを増やしていきたいと思っています。
――共創アイデアの実現に向けて、どのようなリソースを提供できますか。
横井氏 : エントリオという施設そのものが、提供できる最大のリソースです。それに、世界最高峰の選手も所属していますし、イタリアから著名な監督も招聘しています。また、豊田合成が持つハンドボール、バスケットボールチームへの横展開や、豊田合成の保有するネットワークを活用することもできるかもしれません。そういったものを総合的にご活用いただければと思います。
――最後に、応募企業に向けてメッセージをお願いします。
横井氏 : ぜひエントリオを活用いただき、チームのファンを広げられるようなアイデアを一緒に実現できればと思います。あるいは、バレーボールの競技の楽しさを、もっと効果的に伝えられるようなアイデアにも期待しています。エントリオのテーマは「つながり」です。日本に限らず世界のファン・サポーター・スポンサーの皆さんと、つながりをもっと広げていく活動を創出していきたいので、ぜひ応募をご検討ください。
沖氏 : このエントリオをバレー・ハンドボール・バスケットボールのみならず、ほかのイベントにも活用できるような場にしていきたいと思っています。地域を盛り上げることが体育館を新設した目的のひとつでもあるので、ぜひにぎわいを創出できるようなアイデアを一緒に実現しましょう。
▲豊田合成株式会社 人事部労政室グループリーダー 沖 隆夫 氏
「世界最大の女子マラソン、新たなエンゲージメント拡大」―名古屋ウィメンズマラソン
毎年3月、一般市民を含めた女性ランナーを対象に開催される「名古屋ウィメンズマラソン」。名古屋の各所を巡るフルマラソンで、海外ランナーからも注目度は高い。運営を担う中日新聞社が、ウィズコロナ、アフターコロナを見据えて地域版SOIPに参加。募集テーマについて、担当の北野氏に聞いた。
――まず、名古屋ウィメンズマラソンの特徴についてお聞かせください。
北野氏 : 名古屋ウィメンズマラソンは、2012年にスタートしたマラソン大会です。前身の名古屋国際女子マラソンは、トップ選手だけが参加できる大会でしたが、それをリニューアルして、一般のランナーの皆さんも走れるようにしたものが本大会となります。「世界最大の女子マラソン」とキャッチコピーで謳っているとおり、参加人数でギネス世界記録にも認定されました。
加えて、ワールドアスレティックス(WA)という陸上の組織団体が、世界のマラソン大会の格付けを行っているのですが、本大会は最高位のプラチナラベルを獲得しています。当然、オリンピックや世界選手権といった国際大会の日本代表を選考するレースとしても開催しています。女性を対象にしていることから、完走者全員にティファニーペンダントの贈呈も。こういった大会は世界中どこを探しても「名古屋ウィメンズマラソン」だけだと自負しています。
▲株式会社中日新聞社 名古屋ウィメンズマラソン事務局(中日新聞社事業局スポーツ事業部)北野 耕示 氏
――2020年には、全国に先駆けてオンラインマラソンを導入されたそうですね。
北野氏 : はい。マラソン大会はコロナの影響を強く受けました。大半のマラソン大会は、中止や延期に追い込まれたのですが、当マラソン大会は1度も中止せずに開催を続けています。その理由として、ご紹介いただいたオンラインマラソンがあるのですが、これはアプリ開発会社とおつきあいがあったことから、「やってみよう」と舵を切りました。
今でこそ定着したオンラインマラソンですが、2020年当時は前例がなく、ランナーは「オンラインマラソンってなに?」という様子。ご批判をいただくこともありました。ただ、一般のランナーの中にはマラソン大会に向けて1年中練習を続けておられる方もいるので、なんとか参加できる仕組みをつくりたいと考え、オンラインに踏み切ることにしたのです。
――地域版SOIPでは『世界最大の女子マラソン、新たなエンゲージメント拡大』という募集テーマを設定されました。
北野氏 : コロナ禍の影響を受けたマラソン大会ですが、アフターコロナを念頭に置いて今一度、「参加型」イベントのメリットを多くの人に伝えていきたいという想いが大前提にあります。ランナーや運営ボランティアといった直接的な参加者だけではなく、たとえば沿道で応援してくださる方、海外も含めて遠方にお住まいで名古屋まで来られない方も、一緒にマラソン大会を楽しめる仕組みを作り上げていきたい。色々な人が集まる、お祭りのようなマラソン大会にしていきたいと考えています。
――コロナ禍以前は、海外からのランナーも多かったそうですね。
北野氏 : はい。ただ、ここ数年は参加いただけない状況が続いています。ですから、海外ランナーにも戻ってきてもらえるような発信施策なども展開していきたいですね。
――具体的に共創アイデアとしてイメージされていることや、実現に向けて活用できる大会の強みはありますか。
北野氏 : 大会自体は1日で終わってしまうのですが、1日だけで終わるのではなく、もう少し長いスパンで楽しめる大会にしたいという想いはあります。オンラインマラソンによって、スパンを長くすることに成功はしたのですが、あくまでランナーだけのもの。ですから、ランナー以外の皆さんとも長く関われるようなアイデアを求めています。
我々の強みとしては、名古屋で唯一毎年開催している国際大会であり、海外ランナーからも注目されている知名度があります。
――最後に、応募企業に向けてメッセージをお願いします。
北野氏 : すべての女性に笑顔と幸せを届けたいと考え、本大会を長年続けてきました。名古屋に来ていただき、笑顔で帰ってもらいたいというのが大前提です。大会独自の魅力づくりは、これまでも考えて実行してきたのですが、さらに魅力を高めていくために、一緒に取り組める共創アイデアを提案してもらえるとうれしいですね。
取材後記
サッカー、バスケットボール、バレーボール、それにマラソンと、4つの競技団体が参画する「東海エリア」。中日新聞社・倉内氏の説明にあった通り、2026年には“アジア版オリンピック”とも称されるアジア競技大会が開催される。その前年である2025年には愛知県新体育館が完成し、2024年には国内最大級のインキュベーション施設「STATION Ai」が開業予定だ。スポーツ領域のオープンイノベーションの機運が高まる要素が目白押しの東海エリアで、ぜひ各チームとの共創を検討してほしい。
※「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022 TOKAI」の詳細についてはこちらをご覧ください。
(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子)