エーエスピー、ボイスクリエーションシュクル、ナビタイムジャパンを採択!地域版SOIP<東北エリア>のビジネスビルドか生まれる地域課題を解決する共創事業とは?
「地域×スポーツ産業」の共創でビジネス創出を目指すプログラム「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD」。スポーツ庁が仕掛ける「地域版SOIP」形成に向けた事業の一環として、2021年度より開催されているプログラムだ。地域に根ざした活動を行うスポーツチームと応募企業が、2日間の対面式イベント(ビジネスビルド)で共創事業の骨子をつくり、その後の数カ月で実証を行う。そして、年度末に成果と事業化に向けたマイルストーンの発表を行うという流れだ。
3期目となる今年度は、全国3エリア(東北/関東/九州)が本プログラムの舞台となっている。第一弾の関東エリア、第二弾の九州エリアに続き、11月9日(木)と10日(金)には東北エリアのビジネスビルド(SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD TOHOKU)が、宮城県仙台市のコワーキングスペース「STUDIO 080」で開催された。東北エリアでは秋田ノーザンハピネッツ(バスケットボール)、モンテディオ山形(サッカー)、仙台89ERS(バスケットボール)がホストチームとなり、共創パートナーを募集。
ビジネスビルド当日は、多数の応募のなかから選ばれた6社が集い、スポーツチームやメンターたちとディスカッションを重ねて、共創ビジネスのアイデアをブラッシュアップ。提案内容の精度を高めながら、最終発表・審査会に臨んだ。その結果、計3社アイデアが実証に進む機会を獲得した。本記事では、2日間のビジネスビルドのハイライトをレポートする。
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対面形式で徹底的に議論し、ビジネスプランに磨きをかける
ビジネスビルドの1日目は関係者が会場に集い、提案企業とホストチーム、メンターが議論を重ね、社会実装を実現すべくビジネスプランに磨きをかけた。ブラッシュアップの過程で、アイデアを一から見直し、解体・再構築するケースも多く見られた。
▲ビジネスビルドには、スポーツビジネスや新規事業創出に精通するメンター陣が参加。
ビジネスビルド2日目は、さらなるメンタリングを経て最終プレゼンに挑んだ。最終プレゼンの持ち時間を目一杯に使い、共創で取り組みたいビジネスプランの全貌について熱弁を振るった。
審査基準は、①顧客・課題の解像度、②提案・ソリューションの妥当性、③市場性、④事業拡張性、⑤地域版SOIPとの親和性の5点である。――次からはプレゼンの内容を、採択された企業をメインに紹介していく。
【秋田ノーザンハピネッツ(バスケットボール)】 課題先進地域のプロスポーツチームが取り組む「地域密着事業」の新たなシナジー創出に向けた挑戦
秋田ノーザンハピネッツは「バスケ王国あきた」を全世界へ発信することを理念に掲げ、秋田県初のプロスポーツチームとして2009年に誕生した。同県は人口減少・少子高齢化など複数の課題を抱え、全国トップクラスの「課題先進県」とも言える。今回、秋田県民の生活に向き合いながら未来を築いていく「地域密着事業」に新たなシナジー効果を生み出すソリューションを募集。最終プレゼンの結果、株式会社エーエスピーが選出された。
●株式会社エーエスピー
提案タイトル「地域を巻き込んだ体験型新しい米食品事業(仮)ライスプロテインバー開発」
エーエスピーは「米」への強い思いをもとに、米を活用したアスリート食=ライスプロテインバーの開発を提案した。秋田と言えば全国的な「米所」で、すりつぶしたうるち米を用いた「きりたんぽ」も著名だ。一方で、県内で年間約280万トンもの廃棄があるとの試算もあり、また、最近では「米離れ」が課題となっている。こうした課題の解決を、今回の共創ビジネスで狙う。
同社では「米愛の強い秋田県のきりたんぽに代わる米を消費する新しい市場を作る」「プロスポーツチームとしてこどもに安心安全な食品を提供し、健康な身体づくりに貢献する」「未活用になっている農水産物をむだなく使いきる」を提案。ビジョンとして、「スポーツチームが起業家を輩出」を掲げた。具体的には、小中学生向けの体験教室を開催し、未活用農水産物を活用した商品開発を行いながら、SDGsとものづくりについて学ぶ。その過程で、「チームのファンづくりと秋田の米愛を醸成しながら、地元で起業するマインドの醸成」の実現も目指す。
ライスプロテインバーの商品案として、「野菜の色などで5色のラインナップで馴染みのある味」「既存のプロテインバーのたんぱく質約15g、価格150円~250円くらいを目指す」「米以外の素材としてたんぱく質の多い、酒粕、えだまめ、しょっつるの搾りかすなどをベースにそろえる」と示された。開発された商品は、こども食堂や試合会場、スポーツジムなどに置き、反応をうかがう。
ロードマップとして、今年度中に試作のサンプリングテストを実施し、2024年度には商品化、体験ツアーを開催、2025年にはものづくりコンテスト、万博でのPRなどが提示された。同社は、日本人の主食の「米」の価値を見直したいと意気込んだ。
<ホスト企業・受賞者コメント>
秋田ノーザンハピネッツ株式会社 代表取締役社長 水野勇気氏は「米に対する熱い思いを感じた。こども食堂には日頃からたくさんの米を提供いただき、自社で使用するだけでなく、関係するNPO等の団体にも活用してもらっていた。プロテインバーへの利活用にも大きな可能性を感じる。商品化に向けて力を合わせたい」と述べた。エーエスピーは「『共創』についてギリギリまで考え抜いて、この提案につながった。米は今後も日本の主食であり続ける。『コメニティ』を作りたい!」と語り、笑いを誘った。本プロジェクトに伴走するメンター・ 藤田豪氏(株式会社MTG Ventures 代表取締役)は「日本にとっても重要な事業になるはず。ぜひ成功させたい」とコメントした。
【モンテディオ山形(サッカー)】 心と身体の健康課題を解決し、「生きがい」と「働きがい」を高める新たな“山形文化”を目指す
モンテディオ山形は、鶴岡市を発祥の地とする「NEC山形サッカー部」が前身のチームで、Jリーグ発足に際し、公益社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会が運営母体となった。「山形の未来を切り拓こう」をコーポレートメッセージとし、スポーツチーム運営にとどまらず、地域と連携した活動により、山形の新たな価値、山形県民の夢と楽しみの創造を目指している。
今回、人口減少・高齢化など課題先進県であることを強みに変え、「スタジアムや公園」「選手」「ブランド」「企業文化」など有形・無形リソースを活用して「支える人=働く人」が地域・住民・ファン・チームを活性化させる事業を創出することを狙いに、共創パートナーを募集した。そして最終プレゼンの結果、株式会社ボイスクリエーションシュクルが採択された。
●株式会社ボイスクリエーションシュクル
提案タイトル「『声のチカラでつながる!やまびこプロジェクト』で地域活性化」
ボイスクリエーションシュクルは、「Jリーグで一番『声』が出ているチームへ!」をビジョンに掲げた。「すべてのコミュニケーションは声、あいさつで始まる」との考えのもと、目指すのは「『声』でつながる!やまびこコミュニティの創造」だ。同社によれば、やまびことは「山の神の声」を意味し、「『MONTE(山)』『DIO(神)』」を冠するホストチームとの縁も深いという。
モンテディオ山形は「県民あたりの来場率全国2位」「年間利用100万人の山形総合公園の指定管理事業」を行う一方で、「試合観戦のリピート率が平均的で伸びしろ」がある。また、山形総合公園の年間利用者のうち約20万人がサッカー観戦で、残り約80万人はその他の利用だ。同社がターゲットとするのは、山形県内に住む60代以上で、特に運動公園に日常的に来ているシニア層。健康増進に前向きと考えられるが、一方で、シニアは「コロナ禍で声が出づらい、かすれる」などの声や喉の不調をきたすケースが少なくない。
やまびこコミュニティでは、そうしたシニアの課題を解決しながら、集客につなげたい考えだ。具体的には声を出すトレーニングや体操を実施。磨いた声で声援を送る成果を披露する場として試合およびスタジアムを活用し、さらには選手との交流会を催すことも視野に入れる。また、シルバー人材の活用を推進する挨拶専門ボランティア『やまびこ隊』を形成し、育成・運営に乗り出したいと話した。マネタイズとして、会費の徴収、グッズの販売、スポンサーの獲得などを提示。今後、デモデイまでに、参加者募集、運営体制の整備を実施すると共に、トレーニングやコンテンツ開発を急ピッチで進める。
<ホスト企業・受賞者コメント>
株式会社モンテディオ山形 代表取締役社長 相田健太郎氏は「声を使った共創にとても興味を持った。具体的な実施内容も効果などもわかりやすい。誰でも持っている声をきっかけにコミュニケーションが広がっていきそう」と期待を寄せた。ボイスクリエーションシュクルは「声を出すことの重要性や必要性の認知が広まってきた。声をきっかけに、地域の課題を解決することはもちろん、社員も良い方向に変えられると確信している。これまで培ったノウハウを結集させ、共創を実現させたい」と熱意を見せた。本プロジェクトに伴走するメンター・照井翔登氏(テルイアンドパートナーズ株式会社 取締役副社長)は「健康増進を図りながら、シニアの方のファン層を広める良い事例が作れるはずだ」とコメントした。
【仙台89ERS(バスケットボール)】 新たに誕生するトップリーグ「B.LEAGUE PREMIER」の参入に向けて新しい収益ビジネスライン創出!
仙台89ERSは、ホームタウンを宮城県仙台市に置くプロバスケットボールチームだ。東日本大震災によるチーム解散の危機や長きに渡るB2での闘いを乗り越え、現在はトップリーグB1リーグに所属。震災を経験したクラブとして、強いチーム、愛されるチームを企業理念に掲げ、SDGsや子どもたちへの活動、バスケットボールの普及に注力している。今回、共創を通じて新たなビジネスラインでの売上創出を目指すと共に、「B.LEAGUE PREMIER」参入を狙う。最終プレゼンの結果、株式会社ナビタイムジャパンが採択された。
●株式会社ナビタイムジャパン
提案タイトル「クラブ、来場者、住民、地域事業者 みんなで創るバスケの街」
ナビタイムジャパンは「経路探索エンジンの技術で世界の産業に奉仕する」を理念に掲げ、「トータルナビゲーション」を通じて、徒歩、電車、バス、飛行機、自動車などの移動手段に対してリアルタイム情報を考慮し、最適な経路案内の提供などを行っている。「ローカルな魅力を発掘し、日本をもっと面白く、もっと楽しくしたい」という思いを持ち、また、スポーツビジネスとの関わりも深く、既に多くの実績を有している。そうした背景があり、今回の応募につながった。
同社が目指すのは、「人々の熱狂に寄り添い、『行きたい』を創出し、『行ける』を提供する」ことだ。ヒトの流れを創出しながら消費を促し、コミュニティを創出。同時に、雇用創出とインフラ整備を進め、長期的な視野で地域に価値を生み出したいと強調した。特に同社が着目したのが、「ゼビオアリーナ仙台」の最寄り駅「長町」の商店街だ。試合会場だけでさらなる消費行動を起こすのは限界がある。商店街など地域にあるさまざまなコンテンツを組み合わせて、その1日を楽しんでもらうことが重要だと説いた。
その上で、同社はWebサービス「コミュニティマップ」の開発を提案。同社の持つ技術を活かし、地図上に「選手行きつけ店舗」や「スポンサー店舗」、ユーザーによる「アリーナ周辺のおすすめ飲食店」などを示す。これは既に実績のある手法で、同社では、既に89ERSのLINEグループに登録する1%にあたる350人がコアユーザーとなり、活発な投稿が行われると試算した。利用が進めば新しいニーズも期待できるとし、さらに活発に共創を進めていきたいと伝えた。
<ホスト企業・受賞者コメント>
株式会社仙台89ERS 執行役員 事業本部長 成田健太郎氏は「バスケットボールをきっかけに、長町エリアを盛り上げていける予感がする。さらに仙台市、宮城県、他のチームにも展開が可能。地域を活性化させ、ファンを獲得する非常に良い提案」と評した。ナビタイムジャパンは「本当に大変なのはこれから。長町の商店街を探索して、お店の方に協力を呼び掛けたい」と既に次のステップに向けて意欲を見せた。本プロジェクトに伴走するメンター・菅原政規氏(PwCコンサルティング合同会社 ディレクター)は「地域が盛り上がればチームも盛り上がる。サービスの仕組みは出来上がっているので、さまざまなチャレンジを行ってほしい」とコメントした。
映像、幸福度、カレー……さまざまな切り口の共創案も
上記3社のほか、株式会社⽇テレアックスオン、株式会社シンフォディアフィル、MOTTAINAI BATON株式会社が、練り上げた共創プランを発表した。以下に紹介する。
●株式会社⽇テレアックスオン(秋田ノーザンハピネッツへの提案)
提案タイトル「クレイジーピンクを主人公に」
⽇テレアックスオンは、秋田ノーザンハピネッツが一つのメディアとして影響力を持っていることに着目した。その影響力を利用して地域を盛り上げると共に、さらなる集客につなげることを構想した。具体的には、ファンの投稿による番組作りだ。⽇テレアックスオンがテーマを設定し、それに沿った内容の動画をファンに投稿してもらう。その上で、秋田ノーザンハピネッツの選手を巻き込みながら番組を作成し、テレビなどで放送。さらに、試合会場でも動画を投影するほか、選手との写真撮影などを実施する。これによりファンのすそ野を広げながら来場を促す仕組みを提案した。
●株式会社シンフォディアフィル(モンテディオ山形への提案)
提案タイトル「幸福度測定により、モンテディオ山形の試合観戦者をHappyにする」
シンフォディアフィルは、自社で培った心電の医学技術を用いて、来場者の幸福度を測定することを提案した。幸福度を測定する特別な「ハッピーチケット」を販売し、試合前と終了後のメンタルの変化を測定。その上で、来場者の幸福度に応じたサービスの提供をする。万が一、メンタルの状態が良くない場合は、ハッピーになる商品を手渡す。これにより、来場者のさらなる幸福度の向上、新たなファンの獲得につなげたい考えだ。同社では、来年度のホーム開幕戦までに、検証用の無償チケットを配布し、試合当日は実際に幸福度測定を実施する計画を示した。
●MOTTAINAI BATON株式会社(仙台89ERSへの提案)
提案タイトル「カレーで89ERS、地域、ファン、スポンサーがつながる街をつくっていき、カレーをきっかけに市民と球団が一体感を持ち、地域を巻き込んだ応援文化を創る」
MOTTAINAI BATONはカレーという大人から子どもまでが楽しめる料理を中心に、89ERS、地域、ファン、スポンサーがつながる街づくりを行うことを提案した。さまざまな食材を利用できるカレーは、規格外野菜などの活用を促進して食品ロスを防ぐことができる。さらに、地産地消の実現、仙台市の魅力発信にもつなげることができると強調した。カレーはパック詰めレトルトにして、飲食店や試合会場、社員食堂などで販売される。今後、仕入れ先、加工場、開発者、販売先の開拓などを行っていく予定だ。
「共創」ということが深く理解できた2日間。今後の展開に期待――閉会の挨拶
採択企業発表後、総評が行われた。メンターのPwCコンサルティング合同会社 ディレクター菅原氏は「本プログラムは本年で3年目を迎える。これまで見てきた中で、最初の提案から最終案までの変化は今回がもっとも大きかったのではないか。その分、各チームが本気で考え抜いた熱意が伝わってきた。採択されなかった案も、それぞれに魅力が大きく、可能性もあると感じた。また、私自身、東北出身だが、東北にこれほどまでの熱量があったことを改めて知ることができた。こうした共創の活動が地域にさらに広まればと思う」と述べた。
続いて、地域パートナーを務める株式会社JTB仙台支店 営業開発プロデューサー 佐藤和則氏は「2日間で非常に熱い共創案が生み出された。これからこの案を冷めないようにインキュベーションして事業化に持っていくのが私たちの役割。自社の持つリソース、コネクションを最大限に使いたい」と熱弁を振るった。
最後に、スポーツ庁 参事官(民間スポーツ担当)付専門官 志村勉氏は「本プログラムを開始した時から、『共創』というキーワードは何度も出ていた。この2日間のビジネスビルドでの体験を通じ、共創についてのさらに深い理解が得られたと思う。今回縁がなかった企業も、これをきっかけにスポーツ産業と関わりを持ち続けてほしい。共創はこれからが本番という側面もある。デモデイを楽しみにしたい」と伝え、会を締めくくった。
取材後記
各社から持ち寄られた案は、バラエティに富んでいた。方向性の異なるアイデアが、ずらりと揃えられたのが印象に残る。最終プレゼンは、各企業が持つ個性や強み、何より熱い思いが詰まった内容だったと思う。発表を聞きながら、東北がスポーツを通じ、これまでとは異なる盛り上がりを見せる姿が想像された。採択された企業は今後、スポーツチームとどのような共創を行っていくか。ますます目が離せない。
成果発表会であるDEMODAYは現在、先行申し込みを受け付けている。
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(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)