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スイス発スタートアップイベント「START Summit」へ初潜入。ピッチから見えた「男女平等」の推進

スイス発スタートアップイベント「START Summit」へ初潜入。ピッチから見えた「男女平等」の推進

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5000を超えるスタートアップ、投資家、学生などが一同に介してイノベーションの促進を後押しするスタートアップイベント。それが、毎年スイスで開催されている「START Summit」だ。EUの中でも規模が大きな学生主催イベントで、25年以上の歴史がある。

2022年はオフラインとオンラインのハイブリッド形式で、3月23日〜25日まで開催された。世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第20弾では、オンラインで「START Summit」に潜入し、現地でのセッション内容やスタートアップピッチの結果をお届けしたい。

※スイスで注目すべき10社のユニコーンを紹介した記事は、こちらから。

スイスは豊かで謙虚すぎる。国内投資が進まない背景

オンラインで参加したセッションで興味深かったのが、「スイスのスタートアップエコシステム」をテーマに、5名が参加したディスカッション。東スイス地方の中心都市であるザンクト・ガレン州政府の評議員、スイスICTインベスタークラブの会長、政府のイノベーション促進機関に務める女性社員、ドイツ・ベルリンの女性起業家、スイスのデジタル化促進を目的とする協会「digitalswitzerland」のマネージングディレクターと、そうそうたるメンバーが集まった。

同セッションで課題として挙がっていたのが、「スイス人はスタートアップへの投資を好まない」という事実。スイスでは、スタートアップの投資ラウンドでシリーズA、シリーズBの投資が不足しているという。その原因として、「スイス人は豊かすぎるためにリスクを取りたがらない」、「スタートアップの姿勢が謙虚すぎる」などが挙がった。


▲「スイスのスタートアップエコシステム」をテーマにしたセッションで集まった豪華メンバー

スイスの経済状況を見ると、コロナ対策後も国の財務状況は黒字が続いており、公的債務も比較的少ない。州によって税制が違うことから、同国では比較的、低い法人税率を採用しており、企業の活性化につながっているという。

別記事で取り上げたとおり、スイスはEUトップのユニコーン設立数(人口100万人当たり)を誇り、成功事例は少なくない。グローバル視点で見てもビジネスセンスや技術が劣っているとは思えない。

ザンクト・ガレン州政府の評議員のMarc Mächler氏は「スイスでは お金を持っていても、お金の話をしない。他者から妬まれるのを避けるために、成功しても隠そうとする。それが問題だ。プラットフォームを立ち上げるなどして、成功のニュースを広める必要がある」と語った。

その裏には「平等でありたい」との思いが国民全体的に強く、わかりやすく成功した人は「平等を重んじていない」と捉えられるようだ。国内では成功をアピールすると妬まれやすく、投資も得づらい。だからこそ、国内の有望なスタートアップが成長段階に入った途端に国外へ出て行ってしまう課題も。成功のニュースとともに、「起業家はクールであり、国の未来を作るために本当に役立っている」ということも広く認知させていく必要があるようだ。

決勝に残ったスタートアップ4社の顔ぶれは…

「START Summit」では、3月34日、25日にスタートアップピッチが実施され、200社以上から選抜されたベスト12の企業が出場した。さらに、セミファイナルを通じて残ったベスト4の企業が最終ピッチを実施し、優勝企業を選ぶスタイルだ。優勝企業には、1万スイスフラン(約130万円)、6ヶ月間のエンジェル指導、ブライトリングの腕時計が付与される。

まず、決勝に残った4社のビジネスモデルを紹介したい。

公平なオンライン会議を推進「Equalicert」

2021年にニューヨークで誕生した「Equalicert」は、女性起業家によって生まれた企業だ。女性の平等を重んじる同社は、公平なオンライン会議を導くサポートツールを提供する。同ツールを使用すると、オンライン会議上での「参加者ごとの発言時間」「会議の中断と独話の追跡」「性別ごとの指標」を表示。会議の公平性を保つのに役立つのだ。


▲同ツールで得られる分析のイメージ(Equalicertのプレゼン資料より)

同ツールは、DEIの専門家による洞察と機械学習の技術を要とする。DEIとは、「ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)」の頭文字を取った言葉で、これからの企業にとって重要な指標といえる。

B2BのSaaSプロダクトとして、Equal Time Free、Equal Time Premium、Equal Time Enterpriseの3プランを用意。最初のFreeを除いて、残り2プランは有料となるビジネスモデルだ。現状は、Google Meetのみで利用でき、Zoomへの実装は2022年5月を予定している。

偏見のある文章を見つけ出す「WittyWorks」

2021年にインドで創業した「WittyWorks」は、ライティングアシスタントツール「Witty」を提供する。同社がユニークなのは、偏見が含まれるような表現を自動で見つけ出し、忠告を与えること。


▲偏見のある表現を指摘する「Witty」(WittyWorksのホームページより)

「Witty」には、2700を超える包括的言語のルールが設定されており、「明らかな差別」「無意識の偏見」「スタイル」「性別に関連する言語」「包括的言語」の5つのカテゴリーで、文章をチェック。ルールに違反する表現があれば、それを指摘する。現状、英語とドイツ語で機能する。

同社もまた、Freemium、Witty Teams、Witty Enterpriseの3つのプランを用意し、一定利用までは無料で提供する。企業向けの本格的な利用はサブスクリプションで提供し、収益化を見込む。

同社は2人のメンバーにより共同創業されているが、CEOは女性が務めている。9つの異なる国籍の社員15名がリモートで勤務しており、そのうち10名が女性と、女性活躍を推進したい狙いも見える。

農業向け土壌分析ソリューション「Nerit'e」

2020年、ドイツ・アーヘンで誕生した「Nerit'e」は、伝統的な農業の課題を解決に導く土壌分析ソリューションを提供する。従来の農業では、土壌を解析する精度の高いツールが不足しているために、窒素肥料の40%が廃棄され、農家1人あたり年間4900ユーロ(約66万円)のコストがムダになっているという。同時に、大気や土壌も汚染されている。


▲農家向けに独自の土壌分析ソリューションを提供(Nerit'eのホームページより)

同社では、特許出願中の土壌センサーにより、1分以内に栄養モニタリングの分析結果を得ることができる。まだ開発中の技術ではあるが、最初の試作品で高い精度を達成したそうだ。小さな農場から広大な農場まで、スケール可能としている。

現状4人のみの少数チームで、リードエンジニアを務めるのは、Googleでの実務経験を持つ人物。市場対応は2023年の予定で、現状はテストユーザーを募集している段階だ。十分なテストを重ねて、データライブラリーを構築するのが狙いだという。

エネルギー供給のSaaSを提供「Exnaton」

2020年にスイス・チューリッヒで創業した「Exnaton」は、エネルギー事業者向けにB2Bのソフトウェアサービスを提供する。目的は、エネルギー事業者とその顧客が、再生可能エネルギーへの切り替えを効率的に行えるようにすること。


▲「Exnaton」が提供するソフトウェアサービスのイメージ(同社のホームページより)

同社のプラットフォームは、一般ユーザーが地域のエネルギー源から再生可能エネルギーを取引することを可能にし、個々の家庭のエネルギー消費に関する洞察も提供するという。複雑な構造の自動課金機能もあり、地域の需要と供給に応じて、再生可能エネルギーの動的価格を算出できる。取り引きには、ブロックチェーン技術が使用されている。

電力会社のみならず、自宅等で再生可能エネルギーを生産する個人も、同プラットフォームを利用することで、余った電気を近隣地域に販売できる。支払いは、セットアップの際に一度限りの手数料が発生するほか、参加世帯数に応じて、1年に1回の課金が必要になる。

同社は、チューリッヒ工科大学のスピンオフで生まれた企業であり、現在は8ヵ国からメンバーが集っている。CEOは女性となる。

優勝は若く優秀なチームを持つ「Exnaton」


▲優勝した「Exnaton」のメンバーが賞品を受け取る様子(提供:START Summit)

4分のピッチを通じて優勝したのは、スイス発の「Exnaton」となった。チューリッヒ工科大学をはじめ、ザンクトガレン大学やスタンフォード大学といった一流大学出身のメンバーが集まる同社。一方で、大学の学位を持たないメンバーもいるとか。

再生可能エネルギーへの素早い切り替えを可能にし、これまで有効活用できていなかった個人宅のエネルギーを地域住民へ分散できるという点は革新的といえる。また、女性のCEOをはじめ、多様性のある若いチームも期待値を上げたポイントかもしれない。

「START Summit」内の「男女平等」をテーマにしたセッションでは、女性起業家への投資額の少なさが話題になっていた。また、コロナ禍で増えた子育てや家事に時間を費やすのは、男性より女性であることが多かった、という指摘も。


▲「男女平等」をテーマにしたセッションの様子

日本より女性活用が進んでいるといわれるEUでさえ、まだまだ男女平等、女性活躍推進には根強い課題があることがうかがえた。ただ、今回のスタートアップピッチでは、男性同様、あるいはそれ以上に女性が活躍し、「公平性」や「多様性」に焦点を当てたサービスが目立っていた。それは、「START Summit」を通じて届けたいメッセージであるかのようにも感じられた。

サムネイル写真提供:START Summit

編集後記

今回、スタートアップピッチは現地開催のみで、オンラインで参加できなかったのが唯一残念だった。本記事で触れた「スイスのスタートアップエコシステム」のセッションはオンラインで参加したが、国のネガティブな面にもフォーカスするなど本音ベースの内容で、他国のカンファレンスと比較して見応えがあった気がする。近年は、全世界的に女性活躍推進が進んでいるが、本イベントは、特に女性を前面に出そうという意図がわかりやすかったように思う。

(取材・文:小林香織) 

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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。