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エストニア最大のスタートアップイベント「Latitude59」2022に初潜入! ピッチコンペのトップ3は?

エストニア最大のスタートアップイベント「Latitude59」2022に初潜入! ピッチコンペのトップ3は?

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5月19・20日、エストニアの首都タリンで、スタートアップイベント「Latitude59(ラティテュード59)」が現地とオンラインのハイブリッドで開催された。10回目を迎えた同イベントには過去最多の2700人以上の参加者が集まり、そのうち数百人はオンラインで参加。約800のスタートアップと約400の投資家が参加したという。

今回、ジャーナリスト枠にてオンラインで同イベントに初潜入。熱戦となったスタートアップピッチは、2社が優勝を分け合うカタチとなった。

ーー世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第24弾では、エストニアのスタートアップファンド「Prototron fund」が選ぶ「Prototron 2022」の受賞企業とメインのスタートアップピッチの結果をお届けしたい。

スタートアップファンド「Prototron」が選んだ3社

まずは、エストニアのスタートアップファンド「Prototron fund」が選ぶ「Prototron 2022」の受賞企業を紹介したい。今回で第28回となった同コンペティションは、総額5万ユーロ(約680万円)を3社が分け合う結果となった。すべてエストニアの企業となる。

Low impact


▲受賞した「Low imPACK」のメンバー

3社の中でもっとも少ない5,000ユーロ(約70万円)を受け取ったのは、4人のメンバーのうち3名を女性が占める「Low imPACK」。衣料品ブランドのeコマース向けに、繊維廃棄物で作られたパッケージを提供している。繊維廃棄物のリサイクルは世界中で議論されているテーマだけに、関心を集めたのかもしれない。


▲「Low imPACK」の公式HPより

CEOをはじめ、デザインやマーケティングも女性が担当しており、繊維廃棄物を生かしたデザイン性の高さも同社らしさといえる。

●Funky Food

続いて、2万ユーロ(約270万円)を受け取ったのは、この5月に企業登録されたばかりの「Funky Food」。開発中の製品は、キノコのバイオマスを利用した肉の代替品。おいしさと食感の良さを追求するための費用として、この資金を活用するようだ。


▲受賞した「Funky Food」のメンバー

さまざま検索してもホームページがヒットせず、それほど初期段階なのだろう。肉の代替製品は多様な選択肢が存在しているが、キノコのバイオマスはレアかもしれない。今後に期したい。

Ari Care


▲受賞した「Ari Care」のメンバー

2020年2月に女性起業家のKelly Antropov氏によって創業した「Ari Care」は、環境に配慮した粉状のオーガニックソープを提供している。一般的な液体状のソープは、水やプラスチックを大量に使用することから、製造、梱包、輸送の各プロセスで水、廃棄物、炭素量を最小限に抑えることを目的としている。



▲「Ari Care」の公式HPより

同製品は、粉状のソープを水道水と混ぜて使用する。スターターキットは、ポンプとリフィル3本で29ユーロ(約4,000円)、その後はリフィル(3パックで9ユーロ、約1,200円)を購入する。現状、オンラインストアでの発売は開始されていないが、商品詳細を見ることは可能で、まもなく発売がスタートするようだ。

白熱したピッチングコンペティション

2022年のピッチングコンペティションには、230社が参加。トップ5に残ったスタートアップが3分で自社のビジネスモデルや将来性をアピールした。選考に参加したエンジェル投資家組織の「EstBAN」の取締役であるMait Sooaru氏は、今回のコンペについて以下のようにコメントした。

「今年のコンテストのスタートアップのレベルは非常に高く、感銘を受けました。たとえば、トップ3社すべてが、次の主要なターゲット市場を米国に設定しています。そのうち2 社は、すでに十分な牽引力と野心的で有能なチームを持っています」

まずは、トップ5の顔ぶれを紹介したい。

Vocal Image


▲「Vocal Image」の公式HPより

2021年、エストニア・タリンで創業した「Vocal Image」は、スピーチトレーニングとボイスセラピーのアプリを提供する。アプリに声を録音することで、AIが分析してパーソナルプランが作成され、すぐに声の改善を開始できるという。

無料で試すこともできるが、有料の4つのスペシャルコースを設けている。カリスマ性のある声を目指す「VIPコース」、魅力的で信頼性の高い声を目指す「セクシーボイスコース」、インフルエンサー向けの「ポッドキャスターコース」、スピーチトレーニングの「レストレーション(復元)コース」だ。

従来、ボイストレーニングはコーチによるトレーニングしか選択肢がなく、高額で時間がかかるものだった。それをAIを利用したアプリで提供することで、低コストで気軽なパーソナルトレーニングを可能にしたという。


▲「Vocal Image」のピッチより

「Vocal Image」のターゲット市場は米国で、登録ユーザー数は30万人を超え、米国では前月比60%以上の成長を遂げている。同社によれば、米国の成人1790万人は、自分の声に問題があったと報告しているそうだ。

ユーザーの中には、男性から女性に性別移行した人々が、手術をせずに声を女性らしくすることを目的に使用しているケースもあるという。 幼児期の言語障害を含め、あらゆる声の課題を解決していきたいと意気込む。

Ender Turing

2018年、エストニア・タリンで創業した「Ender Turing」は、コールセンター向けツールとして、音声通話をリアルタイムで文字起こし、分析、スコアリングする技術を提供している。CEOは、データサイエンティストなどIT業界で長年の経験を持つ女性起業家のOlena iosifova氏。


▲「Ender Turing」の公式HPより

彼女は、ピッチの中で「毎日8億件の会話が録音されているが、品質管理やトレーニングのためにモニターされているのは2%以下。2025年には、コールセンターの40%が課題解決のためにSTP(Speech to Text)技術を使用するようになるだろう」と話した。

同社のツールでは、分析データに対し、フィードバックとセルフコーチングの機会を提供し、その結果を測定する5つのステップで構成される。従来の作業より、20倍速くフィードバックとコーチングが可能になるという。


▲「Ender Turing」のピッチより

ヨーロッパのフィンテック企業でのデモンストレーションでは、収益が、一般的な銀行サービスで10%、フィンテックソリューションで50%向上、顧客ロイヤリティ(ネットプロモータースコア)が20向上、マネージメント時間が50%削減できたそうだ。

現在は、クライアント、あるいは従業員ごとにライセンスを販売を行い、エリアは中・東ヨーロッパとなる。6月には米国での発売を予定している。

eID Easy

2016年、エストニア・タリンで創業した「eID Easy」は、Webサイトへの電子ID認証、及び電子署名の実装サービスを提供する。IT国家のエストニアをはじめ、ヨーロッパの複数国で政府が発行した電子IDカードを身分証として使用している。市民はそれらを使用して身元承認を行い、文書に署名ができる。

ただし、各国には複数の方法があり、ヨーロッパだけで100の署名方式があるという。それらすべてをWebサイト、またはアプリに実装するには時間がかかることがある。そんなシーンで複数のメソッドを集約できるのが「eID Easy」で、ユーザーは1つの統合を実行するだけで、IDカードの認証と電子署名ができるのだという。


▲「eID Easy」のピッチより

同社のHPには、それぞれの電子署名の価格が書かれており、無料から1.5ユーロ(約200円)となる。これは、APIを介して同メ​​ソッドを使用するためのコストとのこと。オプションで署名されたファイルを保存できるサブスクリプションプランがあり、200MBで5ユーロ (約680円)/月〜となる。

Machineric

2021年、エストニア・タリンで創業した「Machineric」は、重機販売のBtoBプラットフォームを提供する。創業者は、グローバルな重機販売のマネージャーを務めていた女性起業家のAnnika Amenberg氏。


▲「Machineric」のピッチより

同社は、EUの中古重機取引業者24000社のうち、30%の獲得を目指しているという。古い体質が残る重機業界では、基本的な取り引きが紙とペンで行われており、それをIT化して、効率性や収益性を向上させるのが狙いだ。

すでにヨーロッパ市場で顧客が付いていて、売上は毎月平均20%ずつ増えているという。ピッチでは価格設定に関する内容はなく、HPにも説明がなかったが、成功報酬、あるいはサブスクリプションでの提供になると思われる。

Supliful

2020年、エストニアで創業した「Supliful」は、クリエイターが自身のプライベートブランドを立ち上げ、収益向上を目指すことができるプラットフォームを提供する。

「Supliful」がセレクトした健康的なスナック、機能性食品、サプリメントなどの100以上の製品のなかから、クリエイターは自身のフォロワーに販売したい製品を選び、色やロゴ、書体など外観をカスタマイズ。価格も自身で設定する。その後、クリエイターはマーケティングに注力し、「Supliful」が注文から配送までeコマースビジネスのサイクル全体を単一のデジタルプラットフォームで統一するというサービスだ。


▲「Supliful」のピッチより

初期費用はかからず、消費者が製品を購入した場合のみ制作費が差し引かれ、残りがクリエイターの取り分となるそうだ。

「Supliful」は、米国市場に焦点を合わせており、現在ベータ版を開始してから8ヶ月が経過したところ。利用しているクリエイターは、毎月20%の成長率で約50万円の収益を上げることができているという。

優勝は、米国での成長が見込まれる2社に


▲ピッチで受賞した企業のメンバー(提供:Latitude59)

まず、3位となったのは、重機販売のBtoBプラットフォームを提供する「Machineric」。同社は、近々ドイツと北欧エリアをカバーする優秀な人材が入社する予定があり、約64億の年間収益を目指しているという。

そして、優勝は2社が分け合う結果になった。ボイストレーニングアプリを提供する「Vocal Image」が25万ユーロ(約3,400万円)、コールセンター向け評価分析ツールを提供する「Ender Turing」が20万ユーロ(約2,700万円)の投資を獲得した。

「Vocal Image」は、すでに世界中で10万人以上の月間アクティブユーザーを抱えており、米国での成長が見込まれる点が評価されたようだ。

「Ender Turing」は、すでにドイツ、ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、ウクライナとヨーロッパの複数国から支持を得ている点、6月に米国でのローンチを控えている点が評価されたようだ。

優勝した2社は、フィンランドのスタートアップイベント「Slush」に、バルト地域の代表として参加するという。「Latitude59」の CEOを務めるLiisi Org氏は、コンペティションの結果に以下のコメントを寄せた。

「今年のトップ5には、いわゆる古典的な創業者はいなかった。従来の30歳前後の白人のエストニア人男性の代わりに、エストニア人とウクライナ人の女性創業者、ベラルーシ人チーム、ラトビア人の優位性が認められ、嬉しく思っている」

サムネイル写真提供:Latitude59

編集後記

これまで北欧をはじめ、ドイツ、スイスのスタートアップイベントに参加してきたが、基本的に創業年数の浅いヨーロッパ企業はヨーロッパ内を市場ターゲットに据えていた。そんななか、人口約133万人のエストニアでは、創業当初から市場の大きい米国で事業展開する企業が目立ち、「これが人口あたりのユニコーン排出数世界トップレベルの国の姿勢なのか」と関心した。来年の「Latitude59」もレポートできればと願う。

(取材・文・撮影:小林香織) 

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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。