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【NTT東日本×SME】時代を動かす、デジタル技術とエンターテインメントのクロスポイントとは?

【NTT東日本×SME】時代を動かす、デジタル技術とエンターテインメントのクロスポイントとは?

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PC、携帯電話、スマートフォンetc…新たなデジタルデバイスの普及を牽引してきたのは、いつの時代もエンターテインメントコンテンツだった。エンターテインメントコンテンツが放つ、まばゆい光に多くの人が惹きつけられ、テクノロジーが社会全体に実装されていく。エンターテイメントの未来を考えることは、社会の未来を考えることと言っても過言ではないだろう。

そこで、TOMORUBAでは、「デジタル技術」と「エンターテイメント」のトップランナー2社にお集まりいただき、それぞれが思い描く未来像を語り合う対談企画を実施。数々のコンテンツを生み出してきたミクシィが登場したNTT東日本との特別対談第一弾に続き、今回はその第二弾となる。

まずは前回と同じく東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)のデジタルデザイン部から、下條裕之氏と浦壁沙綾氏が登場。両氏が所属するデジタルデザイン部は、同社内のデジタルトランスフォーメーションを進め、新たな事業の柱を構築することを目的とした組織。技術視点による課題解決を主眼とするイノベーティブな活動に取り組んでいる。

対談相手となる株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の古澤純氏と屋代陽平氏は、同社が主宰するアクセラレータープログラム「ENTX」(エンタエックス)の運営に携わるなど、エンターテインメント業界の垣根を超えた、新たな価値創出に挑んできた人物だ。

――社会を動かし続けてきた、デジタル技術とエンターテインメント。その先端を知る両者が描き出す未来像に、ぜひ注目してほしい。



▲東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 担当課長 下條裕之氏

2006年新卒入社。法人営業部、研究開発センタなどを経て、2019年にデジタルデザイン部の立ち上げプロジェクトに参画。同年7月より現職にて、デジタル技術戦略やパートナー戦略、デジタル人財育成などを担当。


▲東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 浦壁沙綾氏

2017年新卒入社。埼玉支社での保守業務を経て、2019年7月より現職。デジタル技術戦略、広報活動、SaaSを活用したbot開発やデジタル人財育成などを担当。


▲株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 事業戦略グループ 事業戦略チーム チーフマネージャー 事業創発推進チーム シニアマネージャー 古澤純氏

1995年新卒入社。宣伝や音楽のデジタル配信領域、人事など、幅広く業務を経験。その後、新規事業に関わる事業創発推進チームに配属となり現在に至る。


▲株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント デジタルコンテンツ本部 GSチーム 事業戦略グループ 事業創発推進チーム 経営企画グループ 経営企画チーム 屋代陽平氏

2012年新卒入社。入社後、3年間音楽のデジタル配信などを担当し、経営企画チームへ。ENTXの実働部隊として活躍している。

技術だけが一人歩きするエンタメコンテンツへの違和感

――昨今、XRなどの最先端デジタル技術を活用したエンターテインメント/デジタルコンテンツが話題です。こうした状況をSMEさんはどのように受け止めていらっしゃいますか。

SME・屋代氏 : コンテンツにおけるデジタル市場が拡大するなかで、どのようにデジタル技術を活用するかの議論が巻き起こるのは、当然だとは思います。一方で、違和感を感じる部分もあります。その一つが「制作側の環境とユーザー側の環境のギャップ」ですね。

例えば、最近では「VRでライブを見る」というのが、新たなコンテンツの形として語られがちです。しかし、果たしてどれくらいの人がVRでライブを見たいのか。あるいは、ある特定のアーティストのファンのなかで、どれくらいの人が自宅にVR環境を設けているのか。そうした議論が見過ごされたまま、VRライブという革新的な技術だけが注目されているように感じます。

NTT東日本・下條氏 : 私たちは技術者側の立場ですが、おっしゃる通りだと思います。そもそも、技術者は「こんなに革新的な技術なのだから、誰もが使いたくなるはずだ」と考えがちです。それは誤りで、優れた技術が「死の谷」を超えられないケースはいくらでもあります。

特に、これだけデジタル技術が発達し、個人が大量の情報を持っている時代においては、「革新的な技術」だけでは、それほど興味を持ってもらえません。だからこそ、私は「組み合わせ」が重要だと思っています。私の所属しているデジタルデザイン部では、農業にIoTを取り入れるなど、既存の産業に技術を組み合わせて新たな価値の創出に取り組んでいます。

SMEさんは、小説のオンラインプラットフォームと音楽を組み合わせた「YOASOBI」をプロデュースし、大ヒットに導いていますよね。業界は違っても、そうした「組み合わせ」の思考が、ブレイクスルーのポイントなのではないでしょうか。

SME・古澤氏 : 歴史的にも、エンターテインメントは技術と組み合わさることで産業化しました。例えば、音楽が産業化できたのはピアノと印刷技術の発明が大きいと言われています。誰もがスコアを入手できて、誰が弾いても同じ音階が出るピアノという”技術”が量産されたことで、多くの人が音楽を楽しめるようになり、音楽ビジネスが生まれました。

その後も、蓄音機(レコード)の発明とそれに続く、CDやデジタル配信などの技術の革新のなかで音楽産業は変化しています。技術の力だけでは革新的なコンテンツが生まれないのは確かですが、エンターテインメントビジネスには技術との組み合わせが欠かせないというのも事実だと思います。


SME・屋代氏 : 最近でいえば、AIなどを活用した「レコメンド機能」が好例だと思います。レコメンドの精度が向上したことで、ユーザーがプラットフォームからお勧めされるコンテンツを信頼し、受容するようになりました。そのなかで、制作側の意図が介在しない、自発的な形で新たなヒットやスターが次々と生まれています。こうした技術には、エンターテインメントコンテンツが大きな恩恵を授かっていると感じています。

「リアル」か「オンライン」か。ライブの本質的な価値を、技術を活かしながらどう見出していくのか?

――昨今はコロナ禍の影響で、様々な業界で「オンライン化」が急速に進みました。音楽業界でもオンラインライブが数多く開催されています。オンラインライブについて、現在、課題に感じていることはありますか。

SME・古澤氏 : オンラインライブが一般化したことで「ライブの本質的な価値とは何なのか?」を考えなければならないなと思っています。一つの会場に集まって全員が同時体験することの価値と、一方でそれをオンラインで自宅で体験する時の価値をもっと突き詰めていく必要があると思います。

SME・屋代氏 : 私としては、オンラインライブは大きく二種類に分けられると思っています。一つは、「アーティストのかっこいい映像を見せる」という点に特化して、それに合わせた演出や届け方に徹する方法。この場合、ライブというよりも「映像作品」に近い位置付けとなります。

そして、もう一つが「同じ時間を共有する」という方法。この場合、アーティストのかっこいいところも、かっこ悪いところも全て届けるので、そこには生の感覚を共有できるインタラクティブな技術が必要です。

特に、アーティストと観客の間というよりも、観客と観客が同じ気持ちを共有できることが重要ですね。「自分が感動しているときに、隣の誰かも感動している」という感覚を味わえる技術については、今後、突き詰めたいです。

NTT東日本・下條氏 : 私もそれが重要になるとは思います。ただ、正直なことをいえば、現状はライブ会場で味わうような感動の共有を、デジタル技術で完全に再現するのは難しいです。そのため、私は会場とオンラインを共存させるのが、オンラインライブのあり方として正しいのかなと想像します。

例えば、東京ドームでライブを開催するとして、その場に行けなかった人たちにライブの様子を届けるのが、技術が果たすべき役割ではないかと。これはエンターテインメント業界に限った話ではなく、今後はあらゆる業界でリアルとオンラインを両立させ、使い分けていくという手法が広がると予想しています。


NTT東日本・浦壁氏 : デジタル時代の一番の特徴は、選択肢が多様になり、ユーザーが自分本意に手段を選択できることです。スマホで音楽を聴きたい人もいれば、レコードと高級なステレオセットで聴きたい人もいる。私たちを含めた技術者の役目は、そうした選択肢を残すということなのだと思います。

SME・屋代氏 : 一方で、選択肢を増やしすぎるとそれぞれの手段の必然性が薄まり、ライブの本質的な価値が損なわれてしまうこともあります。ライブの価値の一つとして「閉じた空間でパフォーマンスを見ることの特別感」があります。これはオンライン化して、世界中の人が見られるようになると失われてしまいます。

そのため、先ほど述べた二つの方法を切り分けたうえで、どのように技術を用いて演出を最適化していくのかは、慎重に検討するべきだと思いますね。

これからを、技術的な視点を交えて「一緒に考える」のも、技術側の役割。

――SMEのお二人は、10年後、20年後のエンターテイメントコンテンツの未来をどのように予想されますか。

SME・古澤氏 : コロナ禍や、動画配信プラットフォームの広がりを受けて、近年、人の時間的な感覚がどんどん短くなっているような気がします。私自身、1分以上の動画を見ることがほぼなくなりました。

こうした時間感覚の短縮は今後も進み、コンンテンツの短縮化が進むと予想しています。ただ、文化は常に「カウンター」で変遷していくものなので、その反面、長大な物語や長い楽曲なども求められていくのではないでしょうか。

SME・屋代氏 : 今よりもさらに、「人」に回帰していくのかなと考えています。近年、SNSや動画配信プラットフォームなどが次々と台頭し、誰でもエンターテインメントを作り、発信できる時代になりました。そのなかで、技術も進展し、以前は一人では作れなかったものが、どんどん一人でも可能になってきています。

今後はさらにこの傾向が進み、より技術的に高度な新たなプラットフォーム上で、絶大な人気を誇るスターが続々と登場してくるのだと思います。


――NTT東日本のお二人は、こうした未来像に対して、今後、どのような技術的な支援ができるとお考えですか。

NTT東日本・下條氏 : 私たちの役割は、新たな技術を生むことよりも、新たな技術が生まれた時に、その技術が縦横無尽に使えるような環境を整えることです。おそらく10年後、20年後には、デバイスは急激に進化しているはずです。

しかし、進化したデバイスを快適に利用するためには、それに対応した通信のネットワークが必要になります。この部分を私たちが担うべきで、実際にこれまでもISDNから光回線へといった形で、新たな技術を支えてきました。今後もその役割は変わることはないのだと思います。

NTT東日本・浦壁氏 : 昨今、話題の5Gなど、いまや高速かつ広帯域なネットワークが多くの人の手元にある時代です。だからこそ、ネットワークとメディアやコンテンツなどの組み合わせのアイデアが重要になってきています。デジタルデザイン部としても、こうしたアイデアの創出には力を入れいくつもりです。

NTT東日本・下條氏 : また、今後は、垣根を取り払って、様々な企業と交流するのが重要ですね。例えば、オンラインライブに同時翻訳の技術を実装するとして、ライブのことをよく知らずに、翻訳の精度だけを向上させても仕方ありません。これからの時代は、「交流しながら、一緒に考える」ということも含めて、技術的な支援だと考えるべきですね。

取材後記

新型コロナウイルスの感染拡大により、社会全体のオンライン化は急速に進んだ。非対面・非接触が推奨され、人と人との交流が不要不急とされるようになって、しばらくの時間が経つ。ニューノーマルという言葉が象徴するように、今後、こうした社会の流れが常態化する気配すら感じられる。

しかし、今回の対談では、その意に反して、「交流すること」「同じ場を共有すること」の価値や重要性が繰り返し強調された。日常生活においても、ビジネスにおいても、仲間を作り、集い、同じ場所を共有することには、他の手段には代替できない本質的な価値が宿っていることが分かる。それは、オープンイノベーション、外部企業との連携に積極的に取り組んできた両社だからこその結論と言えるだろう。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:古林洋平)