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技術×コンテンツがブレイクスルーを起こす―NTT東日本、ミクシィのキーパーソンが描くエンタメの未来予想図

技術×コンテンツがブレイクスルーを起こす―NTT東日本、ミクシィのキーパーソンが描くエンタメの未来予想図

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eスポーツ市場の活況やYouTuberの台頭、VR・ARの技術進化など、近年、目まぐるしい変化を遂げ、数々の話題を振りまいてきたエンターテインメント・コンテンツ。コロナ禍におけるオンライン化の加速も後押しとなり、業界には今まさに地殻変動が起きつつあるという。――そこでTOMORUBAでは、エンターテインメントやデジタルコンテンツの現在、そして未来の形を語り合う対談企画を実施。

東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)のデジタルデザイン部において、同社内のデジタルトランスフォーメーションを牽引する下條裕之氏とモンスターストライクなどのスマホゲームアプリをはじめ、数々のコンテンツを生み出してきた株式会社ミクシィに所属する江本真一氏をお迎えし、激動の時期を迎えているエンターテインメント業界について語り合ってもらった。

通信業界をリードし、ネット時代のエンターテインメントの技術インフラを支えるNTT東日本と、数々のヒットコンテンツを生み出してきたミクシィ。両社のキーマンが思い描くエンターテインメントの未来像とは、一体どのようなものなのだろうか。


【写真左】 東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 担当課長 下條裕之氏

2006年新卒入社。法人営業部でシステムエンジニアとして従事。2009年より研究開発センタにてスマートホーム分野の研究開発から商用サービス化までを牽引。その後、海外通信キャリアとのスマートホームに関するIoT技術の共同研究や、大手メーカーとのコラボレーションビジネス創出の経験を経て、2019年にデジタルデザイン部の立ち上げプロジェクトに参画。同年7月より現職にてAI/IoTを始めとしたデジタル技術戦略やパートナー戦略、デジタル人財育成などを担当。

【写真右】 株式会社ミクシィ 次世代エンターテインメント事業本部 次世代エンターテインメント室 プラットフォームグループ兼ゲーム2グループ マネージャー 江本真一氏

NECにてインフラエンジニアを経て、新規事業部門でWeb2.0やコンテンツ管理領域のソリューションに携わる。2011年にグリーへ入社。SNS事業およびクリエイティブセンターを統括、さらにはVR事業、VTuber事業といった新規事業を推進。ミクシィ入社後はデジタルエンターテインメント事業本部にて、ゲーム開発、M&A/PMI、エンタメ事業全般の推進を担当。

※対談はマスク着用のうえ、社会的距離を保って行った。写真撮影のみマスクを外して実施。

「今後、数年間で、リアルとデジタルの”真の融合”が進む」(ミクシィ・江本氏)

―― 本日はお二人それぞれの立場から「エンターテインメント/デジタルコンテンツの未来」について語りあっていただきたいと思います。まずは、江本さんに、昨今のトレンドや潮流についてお伺いします。

ミクシィ・江本氏 : 様々なトピックがあると思いますが、私としては「リアルのオンライン化」が急速に進んだと感じています。特に、芸能系のエンターテインメントですね。芸能業界は業務プロセスやビジネスモデルが、比較的レガシーな世界でしたが、それがコロナ禍の影響で急速にオンライン化しました。

例えば、昨年6月に行われた国民的な人気を誇るアーティストの無観客配信ライブは、チケット購入者が約18万人と報道されています。東京ドームの収容人数を5万人としても、その3〜4倍の観客を集めたわけです。また、2020年末のアイドルグループの活動休止前のラストライブも、少なくとも100万人が視聴したと言われています。今後、こうした流れは、ますます加速するのではないかと。

NTT東日本・下條氏 : 私自身、音楽エンターテインメントがとても好きなので、そうしたトレンドは肌身に感じています。年始にも、女性アイドルグループが3DCG化されて、ゲーム内でライブ行うというコラボレーション企画がありました。

ミクシィ・江本氏 : ええ。ですので、この先、数年の間には、真の意味で「リアルとデジタルの融合」が起こると予想しています。ミクシィが運営するゲームアプリ「モンスターストライク」でも、年に一回「XFLAG PARK」というイベントを開催していますが、普段はスマホを通じてゲームやアーティストに接し、年数回リアルイベントに参加するスタイルが、一般化するのではないでしょうか。

NTT東日本・下條氏 : 私はエンターテインメントの専門家ではありませんが、エンターテインメント・コンテンツの領域で、リアルとデジタルを融合させるためには、VR・AR・XRといったテクノロジーが重要になると考えています。

特に、キーポイントになるのは「臨場感」ではないでしょうか。例えば、アーティストとまるで隣り合って話しているように感じられたり、まるで周囲に観客がいて、同じライブで盛り上がっているように感じられたりするテクノロジーが、次世代の技術的なトレンドになるのではないかと思います。

私は音楽のライブによく参加するのですが、開演前に客席の電気が消えて、”ゾワゾワ”という空気が会場を満たす一瞬が、たまらなく好きなんですね。そうした臨場感を精巧に伝えるテクノロジーを、技術側の人間としてはぜひ作っていきたいですね。


「次のブレイクスルーは、VRやARの『デバイスレス化』」(NTT東日本・下條氏)

―― 下條さんが構想するVR・AR・XRの未来の形とは、具体的にどのようなものでしょうか。

NTT東日本・下條氏 : 「デバイスレス化」が望ましいと考えています。例えば、現状のVRも技術的には高い水準を実現していますが、私にはどうしても体験している人が滑稽に見えてしまうんですよね(笑)

実際に、NTT東日本では「スマートメンテナンス」という、VRを利用したインフラ設備の工事も行っているのですが、現場の技術者のなかにはVRのデバイスを使いづらいと感じる者もいるようです。その使いづらさを克服し、技術の浸透を図るためにはデバイスレス、あるいはコンタクトやメガネなどの軽易なデバイスで代用する必要があります。

ただ、そうしたブレイクスルーは、「技術」と「コンテンツ」を掛け合わせることで生まれるため、NTT東日本単体では実現できません。むしろ、そこでのNTT東日本の役割は、広域・広帯域なネットワーク環境などで、エンターテインメント業界を含むコンテンツ産業を下支えすることです。

ミクシィ・江本氏 : たしかに、これまでもエンターテインメント業界は、NTT東日本さんに支えられてきました。特に革新的だったのは、3Gから4Gへの移行ですね。当時、通信業界やエンターテインメント業界では、「4G時代のキラーコンテンツは何か」といった議論が盛んに交わされていましたが、それはゲームでした。結果として、モバイルゲームは一大産業に成長しましたし、今後もそうしたブレイクスルーをNTT東日本さんが牽引してくれることを期待しています。


「eスポーツは、地方創生を実現する可能性を秘めている」(NTT東日本・下條氏)

―― 一方で、2020年にNTT東日本は6社による共同出資で「株式会社NTTe-Sports」を設立するなど、eスポーツ分野にも進出されています。お二人はeスポーツの可能性について、どのようにお考えですか。

NTT東日本・下條氏 : これは会社の立場ではなく、個人的な意見ですが、eスポーツについてはビジネスとしての可能性よりも、行動変容や、地域や場所を超えたコミュニケーションを可能にするという点に注目しています。

例えば、私が所属しているデジタルデザイン部は「地域社会の活性化」をテーマとして掲げている部署なのですが、eスポーツは地方創生のポテンシャルを十分に秘めていると思います。2019年に開催された位置情報ゲームのリアルイベントには、7日間合計で約15万人が集まったという話もありますし、地方創生とゲームの親和性はもともと高いんですよね。

デジタルデザイン部は、人工衛星のデータを活用した地域支援事業「宇宙IoT」を展開しており、GPS技術には強みを持っていますし、eスポーツとの組み合わせで、地域社会を活性化するコンテンツが作れるのではないかと睨んでいます。

ミクシィ・江本氏 : eスポーツと地方創生の関係については、おっしゃる通りだと思います。eスポーツではありませんが、私たちミクシィも似たような観点から、現在、公営競技ビジネスを手掛けています。競輪などの公営競技が開催されることで、その地域には観光収益が生まれ、雇用も創出される。コンテンツによって地方創生が実現されるというのは間違いないでしょうね。

また、私はeスポーツには、「文化の壁」を壊す力もあると思っています。eスポーツは、スポーツが好きな人と、ゲームが好きな人が一緒に楽しめるコンテンツなんです。属性や趣味趣向を超えて、同じ興奮や感動を共有できるコンテンツって魅力的だなと感じます。

NTT東日本・下條氏 : 同感です。私が学生時代の頃などは、スポーツ好きとゲーム好きの間には隔たりがありました。それが現在では、同じコンテンツに熱狂するようになったわけですよね。それはミクシィさんをはじめ、エンターテインメント業界が「文化の壁」を取り払い、多様なコミュニケーションを生み出してきた成果だと思いますね。

「技術は使われてこそ。エンタメ業界には、私たちの技術を使って欲しい」(NTT東日本・下條氏)

―― NTT東日本は技術の側面から、ミクシィはコンテンツ制作の側面から、エンターテインメントの進化を支えてきたわけですね。それでは、両社が相手企業に今後、期待することはなんでしょうか。

ミクシィ・江本氏 : インフラやネットワークなど、技術面でのサポートはもちろんですが、私としてはNTT東日本さんに「資本家」としての役割を期待しています。

昨年のNTTドコモ完全子会社化などが良い例ですが、あれほどの規模の資本を動かせる企業は国内にはごくわずかです。日本は、アメリカや中国などに比べて、ベンチャー投資やファンドが根付いていませんし、投資額も少ない。ビジネスを長期的に展開し、新たな文化として打ち立てるためには、十分な資金が必要です。その点を支える存在として、NTT東日本さんには期待をしています。

NTT東日本・下條氏 : ミクシィさんだけでなく、エンターテインメント業界全般に期待することですが、「私たちの技術をどんどん使ってほしいな」と思っています。いくら高度な技術でも、使ってもらわなければ意味がないんです。

先ほども申し上げましたが、文化の創出やテクノロジーのブレイクスルーは、往々にして「技術」と「コンテンツ」の掛け合わせによって起こります。そのコンンテンツを担う役割として、エンターテインメント業界には大きな期待を寄せていますし、私自身も、そうした方々に技術の特徴や利点が届くように発信を続けていきたいと考えています。


―― 最後に、江本さんにお伺いします。今後、エンターテインメント業界を進化させていくために、ミクシィではそのような取り組みを進めていくのでしょうか。

ミクシィ・江本氏 : ミクシィは「フォー・コミュニケーション」をミッションとして掲げているのですが、そうした立場で考えると、今後取り組むべき課題はデジタル・デバイドの解消です。以前は、「スマホやPCを使っているか」がデジタル・デバイドのポイントでしたが、現在ではアプリやサービスのレベルでも格差が生じています。

例えば、私の世代は名刺がわりにFacebookのアカウントを持っている方が多いですが、若年層は少ない。逆に、若年層はゲームなどを通じて、Discordなどの新たなコミュニケーションアプリに慣れ親しんでいます。世代間でのデジタル・デバイドは、実は以前より進んでいます。そうした隔たりをいかに解消するか。そのためのエンターテインメント・コンテンツをいかに作り出すのかというのが、今後、ミクシィの課題だと思います。

NTT東日本・下條氏 : NTT東日本も、似たような課題を抱えています。例えば、世代によって「電話」のイメージは大きく異なるはずです。年配の世代にとっては電話といえば固定電話でしょうし、若年層にとってはLINE通話のほうが主流だと思います。エンターテインメント業界にとっても、通信業界にとっても、世代間の壁をいかに乗り越えるかは今後の大きな課題ではないでしょうか。

ミクシィ・江本氏 : 消費者がどんなサービスを利用するかというのは、企業側からのアプローチだけでなく、社会のトレンドや教育、習慣などにも左右されます。世代間の壁の乗り越えは、企業による取り組みだけでは実現不可能で、社会全体を巻き込む必要があるのだと思います。そうした意味でも、NTT東日本さんのような巨大な基盤を有する企業には期待をしています。


取材後記

NTT東日本といえば、国内最大手の電気通信事業者であり、エンターテインメントとの関わりは薄いように思える。

しかし、ミクシィ・江本氏も述べるように、これまでもNTT東日本は通信インフラの整備や提供などを通じて、エンターテインメントの革新を支えてきた。コロナ禍により社会全体でオンライン化が加速し、デジタル技術がエンターテインメント・コンテンツに欠かせないものとなった現在、その役割はますます大きくなっているといえるだろう。

NTT東日本が支える「技術」の土壌の上で、この先どのような「コンテンツ」が花咲くのだろうか。未来への期待が高まる取材となった。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:古林洋平)

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