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フィンランド「Slush 2024」を現地取材! 世界を変える起業家を生み出す場で先駆者が語ったこと、白熱コンペの行方

フィンランド「Slush 2024」を現地取材! 世界を変える起業家を生み出す場で先駆者が語ったこと、白熱コンペの行方

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2024年11月20日、21日、フィンランド・ヘルシンキで毎年恒例のスタートアップイベント「Slush」が開催された。その盛り上がりは欧州を超えてアジアにも伝わり、日本からの参加者が増えつつある。100万ユーロ(約1億6,000万円)の株式投資をかけて競うコンペティション「Slush 100」など見どころも多い。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第59弾では、欧州のイノベーションに着目。今回、筆者はフィンランドの公的政府機関「Business Finland」が主催したメディアツアーに参加し、「Slush 2024」を現地取材した。世界を変える起業家の創出・支援を使命とする「Slush」で先駆者は何を語り、どんなスタートアップが評価されたのか。

サムネイル写真:Slush_2024_c_Petri_Anttila_E3A8608

今年のテーマは「metamorphosis(著しい変化)」

Slush 2024のテーマは「metamorphosis(著しい変化)」。オープニングセレモニーに登壇したSlush CEOのAino Bergius氏は、「この舞台が人類の未来を変えるような影響をもたらすチャンスとなる」と聴衆に呼びかけた。

▲メディアツアーに参加した各国のジャーナリストたちと(左から3番目が筆者)

▲Slush CEOのAino Bergius氏

Slushは非営利団体で、学生と新卒の若いメンバーが組織を率いており、1,600人以上のボランティアによって成り立っている。Bergius氏も25歳の若さだ。今年は、5,500人の創業者やスタートアップ業界で働く人、3,300人の投資家が集まり、約13,000人が参加した。

時価総額世界一、NVIDIA創業者が語る「躍進する組織」

オープニングセレモニーの歓声が冷めやらないうちに登場したのが、NVIDIAの共同創業者の一人であり、現在は同社の幹部の一人であるChris A. Malachowsky氏だ。彼を含む3名により1993年に創業されたNVIDIAは、パソコン用の3Dグラフィックスチップを製造するというアイディアから始まり、数々の危機を乗り越え、今やAI半導体市場を牽引する世界トップの企業となった。

「拡張性があり十分な資金を集められる企業を構築するには?」という問いに対し、Malachowsky氏は「創業時に相当な時間を要して自分たちが望む会社像について話し合った。自分たちの性格に最も合う文化を定め、採用の際はスキルが一流であるだけでなく、文化に沿う人物であるかを見極めるようにした」と答えた。

▲登壇したNVIDIAの共同創業者で、現在は幹部のChris A. Malachowsky氏(右)

さらに、続く言葉は印象的だった。「私が探していたのはマイケル・ジョーダンのような人だ。スーパースターという意味ではない。試合の最後の2分間にボールを欲しがるような選手、つまり自分の肩にすべてを背負うことを恐れず、窮地に立たされたときに自分を頼りにしても大丈夫だと思える自信に満ちあふれた人物だ。そうした採用を続け、すべての部署を攻撃的な武器として使えるようトップクラスを目指した。それがスタートアップで避けられない脅威に対応する能力や耐久性につながったのだと思う」

トップ10圏外に脱落したSupercellが取り組む「組織再編」

モバイルゲーム業界で高い知名度を誇るSupercellは、成功したフィンランド企業の一つ。最高執行責任者(COO)は日本人の関口勇門氏が務めている。「永遠に記憶に残るようなゲーム開発」を掲げ、累計収益が100億ドル(約1兆5千億円)に達する「クラッシュ・オブ・クラン」などのヒットゲームを排出している。

そんな同社だが、2023年は成長が鈍化。モバイルアプリ市場の分析を提供するAppmagicが発表した「モバイルゲーム開発企業」の世界ランキングで初めてトップ10圏外に脱落した。この事態に対して、共同創業者、兼CEOのIlkka Paananenは、大胆な組織変革に着手。全く新たな人気ゲームを作る「起業家チーム」と既存のライブゲームを成長させるための「大きなチーム」をつくり、異なるアプローチを取ることにしたという。

▲登壇したSupercell 共同創業者、兼CEOのIlkka Paananen氏(右)

まず、新規ゲームを生み出す「起業家チーム」については、自社のスタートアップと位置づけ、クレイジーで野心的、素早い実行、リスクを恐れずアグレッシブな変更もいとわない、機知に富んだメンバーで構成。さらに専用の評価システムと明確な制約も導入する。チームは主要なタイムラインとマイルストーン、それを達成するための資金計画を明確にして、それを全社員に共有する。

一方、既存のライブゲームを成長させるために、通常より人数を大幅に増やした100人以下のチームを編成。莫大な収益を上げているゲームが複数あるにもかかわらず、同社のチームはあまりにも小規模だったためだ。これまで避けてきた中間管理職も設け、各自が役割に集中しやすいよう組織構造を変化させた。

現状、少しずつ良い変化が見えており満足しているとしつつ、「まだ旅の始まりにすぎない」とPaananen氏は述べた。同社が大切にしているのは、「過去」よりも「未来」、「コントロールできないもの」ではなく「コントロールできるもの」、「失敗の可能性」より「成功の可能性」に焦点を当てることだという。

13,000人が注目、100万ユーロをかけた白熱コンペ

▲最後のプログラムとして行われる「Slush 100」は会場全体から注目を集めた

Slushの目玉企画とされているのが、将来有望なスタートアップを発掘するコンペティション「Slush 100」だ。今年は1,000以上の応募企業の中から勝ち残った3社が、最終日に決戦を繰り広げた。会場にはイスに座りきれず、立ち見や床に座りながら見る人も。評価されたのは、どんな企業だったのか。

<アクセシビリティを簡素化するDevally >

今日、ウェブの97%は障がいのある人がアクセスできない。2024年にアイルランドで創業したDevallyのプレゼンは、そんな主張から始まった。

同社が提供するのはウェブアクセシビリティの向上を助けるツールで、製品の構築現場でリアルタイムにアクセシビリティの問題を検出し、AIを活用して明確なガイダンスと実行可能な手順でコード内の問題を修正する。主要なプロジェクト管理、および開発ツールにシームレスに統合してワークフローを合理化し、問題の検出から修復、展開まですべてクリックだけで実行できるという。

▲登壇したDevally CEOのCormac Chisholm氏

欧州では、2025年6月に施行される欧州アクセシビリティ法に伴い、ウェブやデジタル製品のアクセシビリティ向上が求められている。一方、アクセシブルな製品をつくるには時間と予算がかかるため、自動化ツールの需要が高まっている。同社のプレゼンによれば、デジタルアクセシビリティのソフトウェア市場は爆発的に成長し、2029年末までに10億ドル(約1,500億円)に達すると予測されているそうだ。

この成長市場において、欧州の規制に則ったウェブサイトの構築を支援し、誰もがデジタルサービスを利用できる状態へ導くことがDevallyの野望だ。

<女性の更年期障害の緩和を図るMohana>

2023年にカナダで創業したMohanaは女性の更年期障害に焦点を当てたサービスで、一人ひとりの生物学的特徴と行動心理学を組み合わせたアプローチで症状の緩和を図るという。

具体的なステップとして、まずユーザーは病院で血液検査を受ける。この結果とユーザーの症状を組み合わせて、最も効果的な推奨事項を含むケアプランを提供する。さらに、同プランを実行できるよう行動心理学を使用してアプリ上でアシストする。

この背景には、更年期障害の解決の難しさがある。更年期とは閉経を挟んだ前後10年を指し、症状の具合や継続年数は個人差が大きい。同社によれば、最長15年も続くことがあり、約90%の女性が混乱した症状を抱えているという。

▲登壇したMohana 創業者、兼CEOのDora Jambor氏

創業者、兼CEOのDora Jambor氏には、AI科学者として10年のバックグラウンドがある。Mohanaのツールには各患者の生体情報やスマートデバイスの収集データ、病歴、最新の医学研究などの各種データを統合して、最適なケアプランを導き出すAIシステムが採用されている。ツールは個人向けにサブスクリプションで提供されるほか、雇用主、保険会社、クリニックとの提携も見込んでいる。

<臨床試験の該当患者を探せるOASYS NOW>

2021年にオランダで創業したOASYS NOWは、臨床試験の該当患者を見つけることができるAI搭載のプラットフォームを展開する。臨床試験は先進的な治療法について、その有効性や安全性を調べるために実施される。

同社によれば、臨床試験の対象となる患者を探す場合、通常は独自のデータベースから探すことになるが、臨床データの85%は構造化されておらず、一人の患者を見つけるのに平均13ヵ月を要している。適切に情報を抽出するためのアルゴリズムは存在していないそうだ。

▲登壇したOASYS NOW 創業者、兼CEOのNima Salami氏

そこで同社では、すべての医学的知識と臨床ガイドラインを、臨床試験の治験実施計画書や患者の電子医療記録と組み合わせ、どの患者とどの薬が実際に適合するかを判断するための自動適格性スクリーニングを開発した。技術の肝はサイバーセキュリティ技術とAIで、厳格な「EU一般データ保護規則」(GDPR)に則り、患者情報は匿名で提供される。技術や仕組みはすべて独自のもので、欧州の最大手企業や規制機関によって検証されているという。

すでに3つの治験施設で業務を開始し、わずか数分で数百人の患者を治験にマッチングさせることに成功している。また、1,200万人の患者データを持つ電子医療記録プロバイダーと契約し、データへのアクセスが許可されているとのこと。複雑なビジネスモデルだが、まずは欧州の医療組織へのアプローチから開始し、顧客対象を広げていきたいとしている。

優勝は、臨床試験向けツールのOASYS NOW

▲優勝に歓喜するOASYS NOWのメンバー(Slush_2024_c_Petri_Anttila_E3A9899)

優勝に選ばれ、100万ユーロを手にしたのは臨床試験向けのプラットフォームを展開するOASYS NOWだ。審査員からは「どの企業もすばらしい」とコメントがあったが、より専門的で希少性が高い点が評価されたのかもしれない。解決したい社会課題が明確であり、肝となる技術にAIを活用している点は3社の共通項だ。

盛り上がりの余韻を残して幕を閉じたSlush。若手人材のパワーで、さらなる熱視線を浴びるスタートアップイベントに成長していくことを期待したい。

▲全プログラム終了後のアフターパーティーの様子(Slush_2024_c_Julius_Konttinen_4687)

編集後記

筆者にとって初の現地参加となったSlush。それほど広くない会場に各国から参加者が集い、時折日本語も聞こえてくるダイバーシティな空間だった。事前にアポを取った相手だけでなく、ランチ時にたまたま隣り合った人や休憩中に目の前に座った人にも話しかけるなど、みながアグレッシブにネットワーキングを行う光景を目の当たりにして、「これこそSlushの醍醐味なのだろう」と感じた。

(取材・文:小林香織

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  • 八田政樹

    八田政樹

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