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大企業のオープンイノベーション先駆者・東急が、『TAP』をリブランディングするワケ―役員×事務局×現場で、これまでとこれからを語りつくす。

大企業のオープンイノベーション先駆者・東急が、『TAP』をリブランディングするワケ―役員×事務局×現場で、これまでとこれからを語りつくす。

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スタートアップ企業の支援を通じて産業の新陳代謝を促進し、日本経済の再興を図るべく、2015年度に始まった「東急アクセラレートプログラム」(TAP)。鉄道会社として初の取り組みであったTAPは、これまで多くのスタートアップとの共創事例を生み出し、日本のオープンイノベーションの先頭を走ってきた。

そのTAPが、このたびリブランディングを行う。これまでは参画事業者を中心とした「共創プログラム」だったが、東急グループの誰もがオープンイノベーションという選択肢を当たり前に持ち、より迅速かつ円滑に事業共創を推進するための「共創プラットフォーム」(Tokyu Alliance Platform)へ、名実ともに進化するというのだ。

大企業のオープンイノベーションの先駆者として走ってきた東急が、リブランディングに踏み切った背景とは。実践する「共創プラットフォーム」とはどのようなものなのだろうか?――数々の新規事業を手掛けTAPの誕生にも関わった執行役員の東浦(とううら)氏、TAPの仕組み化や運営を担ってきた事務局の武居(たけすえ)氏、そして現場で実際にスタートアップとの共創を進める東急百貨店の小林氏の3名に、話を伺った。

TAPの誕生、そして進化の過程

――TAPが、「東急アクセラレートプログラム」から「東急アライアンスプラットフォーム」へ進化するにあたり、まずは管掌役員である東浦さんに、TAPが社内でどのように位置づけられてきたのか、伺いたいと思います。

東浦氏 : TAPは、今でこそ全社プログラムですが、実は都市開発部門で産声をあげた企画です。その誕生には、私も関わっています。私は入社以来ずっと都市開発畑だったのですが、2015年頃、当時の私の部下から「こういうことを考えているのですが、うちの会社では無理ですよね」と相談してきたことがあったんです。

私自身、若いころから新規事業をある意味勝手にやってきました。それは私がエリートではなく、待っていても良い仕事が来なかったんです。そこで、自分がやりたいことや、会社や社会のためになりそうなことを提案してきました。

そういう前例のないことにチャレンジしてきた経験がありますから、「それ、うちの部署でやっちゃいなよ」と背中を押して、TAPは生まれました。そして3期目くらいまでは私も関わっていましたが、そのうちに評価も高まってきたため、全社プログラムに移管させたという経緯があります。

一方、当社にはTAPと同時期に生まれた社内起業家育成制度(SK)という制度があります。これは現会長が、社員の起業家マインドを喚起し、新しいことにどんどん挑戦させるべく、トップダウンでスタートした制度です。

ボトムアップのTAPと、トップダウンのSK、両者はこれまで別々に運営をされてきたのですが、現在はイノベーションに取り組む組織であるフューチャー・デザイン・ラボで合流し、志のある人間が色んなアイデアを出し合い、大きなうねりにしていこうと再設計していくことになりました。


▲東急株式会社 執行役員 フューチャー・デザイン・ラボ管掌 東浦(とううら)亮典氏

――それが、今回TAPが進化するというところに繋がるのだと思いますが、「共創プログラム」から「共創プラットフォーム」への進化の過程について、ぜひ聞かせてください。

武居氏 : TAPは、毎年マイナーチェンジを繰り返しアップデートしてきましたが、その変化は大きく分けると3段階あります。2015年度から2017年度に都市開発部門で運営されていた頃は、1年に1度応募を受け付け、選考してPoCに向けて走る、当時のアクセラレータープログラムの主流といえる手法を取っていました。旗揚げ期として業界内・社内外での認知を広げるとともに、PoCから資本業務提携までの事例創出に注力していた時期です。分かりやすくいうと「TAP1.0」ですね。

2018年度からは都市開発部門から離れ、TAPは通年応募にして、毎月選考をしていくことにしました。仕組みとしてオープンイノベーションを創出する環境を整える、「TAP2.0」の段階です。これから目指すのは「TAP3.0」。

プログラムという形ではなく、プラットフォームとして東急グループの誰もが参加できる状態、そして、よりアクティブに、且つより対等な関係でスタートアップ等の企業と事業を共に創っていくフェーズになっていきます。

TAPはプラットフォームとして東急グループの誰もが情報にアクセスできる状態、あるいはプラットフォームを通じて仲間探しができる状態を創っていきたいと思っています。


▲東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 武居(たけすえ)隼人氏

グループ会社の視点から見たTAP

――小林さんは、「TAP2020」のデモデイで最優秀賞「東急賞」を受賞した株式会社ヘラルボニーとの共創プロジェクトを担当していらっしゃるのですね。

小林氏 : その通りです。ヘラルボニーさんは、障がいのあるアーティストが描くアート作品をプロダクトにして社会に提案するブランド『HERALBONY』を展開していらっしゃいます。私は東急百貨店の担当者として、ヘラルボニーさんとポップアップショップの展開などを行いました。


▲株式会社東急百貨店 事業戦略室 事業開発部 マネジャー 小林洋介氏

武居氏 : ヘラルボニーさんは、同時期にSK発の街まるごとメディア事業『ROADCAST』とも共創をしています。今回はそれぞれ企画を進めましたが、今後はヘラルボニー×東急百貨店×ROADCASTで何かできないか検討しているところです。

――小林さんは、TAPに以前から注目していたのですか?

小林氏 : 2018年に当社がTAPに参画し、私自身、事業開発部に異動して初めて認識しました。それ以前は東急百貨店・渋谷本店の売り場にいたのですが、TAPの存在は知りませんでした。TAPに参画することで、多くのスタートアップ企業の存在を知り、世の中のビジネストレンドを肌で感じられるようになりましたね。

――ヘラルボニーさんとの共創で、どのような気付きがありましたか?

小林氏 : 最初は、単純に商品が面白そうだという気持ちでお打ち合わせを設定しました。しかし話をしてみると、彼らの「ものづくりを通して障害のある方々の活躍の場を広げたい」という強い想いに胸を打たれました。

そしてアーティストの価値をしっかりと伝えられるよう、商品クオリティや価格にもこだわったものを提供していらっしゃいます。百貨店だからこそ、その価値を伝えるお手伝いができると考えました。

また、ヘラルボニーさんは非常に熱量が高く、コロナ禍にもお客様を呼びこむため様々なアイデアを出してくださりました。例えば、ショップがオープンするまでの仮囲いは通常無機質になりがちですが、仮囲い壁面に巨大なアート作品を飾るなど、物販だけでないポップアップショップ作りをしていただきました。そんな、ピンチをチャンスに変える力を、私たちももっと学んでいかねばならないという気付きがありましたね。


▲ヘラルボニーとの共創プロジェクトは2020年度のDemo Dayにて最優秀賞「東急賞」を受賞した(※画像はプレスリリースより)

――参画当時から今まで、TAPにどのような変化を感じていますか?

小林氏 : スタートアップ企業、東急グループ双方共に具体的に何をしたいのかが明確になっている気がします。先方も東急グループを理解した上で、具体的にどの事業部と組みたいというのを指名してエントリーするスタートアップが増えたように感じますし、我々東急グループとしても目指したい将来像をイメージして事業共創に取り組むようになったと思います。

武居氏 : これまでのTAPのWebサイトでは、参画しているグループ企業と対象となる事業領域しか見せることができていませんでした。今後プラットフォームに進化する段階では、まずは我々東急グループ側が領域ごとに抱える課題や、新たに創出したい提供価値に向けたニーズなどの情報をフレキシブルに発信することで、マッチングの精度を高めていこうと考えています。

小林氏 : また、グループ各社のTAPメンバーの年齢層が若い方も含めて幅広くなってきたような気がします。メンバーの層も厚くなってきていますし、各社、非常に力を入れてきているのではないでしょうか。

武居氏 : 確かにそうですね。当初は決裁権限を持つ部長課長クラスが中心だったのですが、今はそれに加えて意欲ある若手も参加するケースが増えてきています。

東浦氏 : TAP第1期の時は、正直なところグループ企業は、「親会社から言われたから参加する」というような感じでテンションが低いところも多かったんですよ。各社の経営企画室長や管理部長がお付き合いで参加していたのをよくおぼえています。我々東急の経営層も、まだ疑心暗鬼でした。

それでもまずは体験してもらうことを重視してプログラムを進めていると、少しずつ変わってきましたね。スタートアップの熱のこもったピッチを聞いて、どんどん前のめりになっていく様子が感じられました。そして、その中で可能性を感じた人たちが、各社に戻って周囲に「面白いから参加してみなよ」と評判が広まっていきましたね。

誰もが参加できるプラットフォームに進化させることで、オープンイノベーションの当たり前化へ

――TAPが東急グループの中でもかなり根付いてきたところかと思います。実際にオープンイノベーションの当たり前化を掲げて取り組みをすすめていらっしゃいますが、今後プラットフォームに進化させるにあたり、考えていることをぜひお聞かせください。

武居氏 : 東急グループに属している人であれば、誰でもアクセスできるようにしたいですね。昨年から、月に1回行っているスタートアップのピッチを社内に公開しています。先ほど、小林さんが「本店の売り場にいる時には、TAPの情報は入ってこなかった」と言っていましたが、今後はその情報が入る仕組みづくりにも力を入れていきたいですね。

おそらく、想いがあっても、それをどこに伝えたらいいのか分からないという人は、結構いると思うんです。そういう人にスタートアップの情報を伝えることで、アイデアを想起させたり、背中を押したりする、そういうきっかけづくりができるプラットフォームにしていきたいですね。

小林氏 : スタートアップのトレンドなど、本当は個々人で調べないといけないのだと思いますが、なかなかグループ各社の担当は、他にも業務を抱えているため、情報をキャッチしきれないことがあります。そこで、定例会で事務局が全体的な市場性について10分くらいでレクチャーしてくれるんです。それが非常に助かりますね。

また、東急グループは200社以上ありますが、通常業務ではあまり横連携がありません。それがTAPでは月に何度か色んなグループ企業が集まります。その中で、「百貨店であればこういうことができるのではないか」など、他のグループ会社から客観的に言っていただく機会があります。そこで、今まで見えていなかった欠点やチャンスなども見えてきて、視野が広がったと思います。


武居氏 : まさに、各グループ企業の担当者が積んできた経験をシェアすることで全体の底上げもできていると思います。よくあるアクセラレータープログラムの姿として、事務局の人が一生懸命グループ企業を説得しないと盛り上がらないということがありますが、TAPはそういうことがなく、気が付いたらPoCまで進んでいるということがあります。それは、やはり全体の経験の積み重ねがあるのだと思います。

毎月定例会をしていますが、そこで各プロジェクトの進捗や成功・失敗事例、現状の課題などを共有します。その場で事務局から情報を提供しつつ議論も行い、色々な経験を掛け合わせながら、より良い方法を考えていく仕組みができつつあります。

東浦氏 : TAPがなくても、様々な情報をキャッチして、自分で新しいアイデアを生み出して新規事業を興す人はいると思います。ただ、そういう人は私のような異分子というか、突破力のある一握りの人なんですよね。大抵は、どこかで叩かれて潰されて、おとなしいサラリーマンになってしまいます。

ただ、そういう人も少し道筋を作ってあげれば、できる可能性があるんです。そういう意味で、TAPの存在は大きいと思います。今でも、私に持ち込み案件が来ますが、最近は「TAPに持って行ってみたら?」と勧めるようにしています。

――TAPの中で各社が蓄積してきた経験やノウハウをシェアすることも、当たり前化に向けた一つのキーになるということですね。

武居氏 : そうですね。社内外から見たときにやはり窓口としての存在があった方が人も情報も集まりやすいと思いますが、それが中央集権的な存在では当たり前化に繋がらないと思っています。だからこそ、TAPがアクセラレートプログラムからアライアンスプラットフォームに進化し、東急グループの誰もが参加できるように体制を整えていきたいです。


東急グループから始まる、未来の街づくり

――「TOKYU 2050 VISION」では、「世界が憧れる街づくり」を掲げていらっしゃいますが、未来の街づくりに向けて、どのようなチャンスを感じていらっしゃいますか?

東浦氏 : コロナ禍以前の社会では、様々なものがサービスとして飽和してきているように思えました。しかしコロナ禍で大きく世の中は変化しました。いま、2050年どころか2030年も見通しがしにくい状況ですが、明治維新や戦後など、世の中の常識や社会の仕組みがガラリと変わる時に、新しいビジネスの種は生まれています。まさに今、そのような状況なのだと思います。


武居氏 : 2020年から東急百貨店はフードデリバリーマッチングアプリ「Chompy」を展開する株式会社Chompyと提携して、デパ地下グルメをデリバリーするサービスを提供しています。

これも、コロナ禍でお客様の行動が大きく変化したタイミングでTAPのピッチで「Chompy」と出会い、それから8月には実証実験スタート、10月から本格展開と、スピーディーに進んだ案件です。このスピード感は、強い危機感に突き動かされたからです。昨年は、こうしたチャンスを感じた1年間でした。

小林氏 : デリバリーも、コロナ禍でやった方がいいという考えはあったのですが、既に有名なデリバリー企業と組むとなると、百貨店MDの伝え方、ビジネスモデルなどの難しさがありました。

しかしTAPで「Chompy」と出会うことができ、お互いの目的が合致し、共創する仕組みの中で成功、事業化をスピーディーに進めることができました。これもTAPならではのメリットですね。

また、未来の街づくりに向けて、百貨店としてはリアル店舗で感じるワクワク感を、リアル店舗がなくても提供し続けなければならないと思っています。たとえばECにしても、何を付加価値として伝えていくのか、追求していきたいです。さらには、東急グループ各社間での連携を強化して、「東急らしさ」を発揮したいと考えています。

東浦氏 : 東急グループでの連携という話でいくと、これは持論なのですが、たとえば東急線沿線にお住まいのロイヤルカスタマーのラストワンマイルサービスのために、鉄道やバス、それ以外のモビリティと連携したMaaSを無料で提供する。そのかわりに、お客様からはマーケティングデータをいただくという関係性を構築できたらいいなと考えています。

これは100年以上地域に根付いて様々な事業を展開している東急の信頼感があれば、できると思います。そんな、世界中のどの企業にもできないような街づくりを、東急グループだけではなく、スタートアップをはじめ様々なところとアライアンスを組んで実現できるようなプラットフォームをつくっていきたいですね。

――ありがとうございます。「アライアンスを組む」ためのタッチポイントでありハブになるのが、リブランディングするTAPの役割となるわけですね。それでは最後に他の事務局メンバーのみなさんからも、進化を続ける「TAP」に対しての意気込みや読者へのメッセージをいただけますか?

東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ

課長補佐 福井 崇博氏 : TAPに携わって約3年。グループ内での定着や仕組み化が進んだ国内屈指のプログラムだという自負があります。今後はプログラムからプラットフォームとなり、個々だけではなく、より組織として進化し続けることで、応募企業との事業共創の機会を最大化していきます。「あぁ、はいはい、アクセラね。。。」なんて思っていたそこのあなた!!絶対に後悔させませんので、ぜひ新生TAPにご応募ください!!

主事 吉田 浩章氏 : 東急グループは今回のTAPリブランディングを機にオープンイノベーションの取組をより一層推進します。東急グループに点在する課題やニーズをHP等で発信していきますので、一緒に取り組めそうな技術・ソリューションをお持ちの皆さまは是非ご応募ください!皆さまの思いや考えをより形にできるプラットフォームにしていきます。

担当 金井 純平氏 : 変化の激しい時代において、街づくりにはオープンイノベーションがより一層重要になってくると感じています。より質の高い事業共創を推進するためにも、東急グループ内で想いを持っている多くの人の背中を押せるように体制を整えていきたいと思っています。ご応募される皆さまから事業共創相手に選ばれ続けるプラットフォームを目指して進化し続けていきますので、これからもご応募をよろしくお願いいたします!


取材後記

東急グループの懐の深さと、計り知れない可能性を感じられる取材だった。既に東急グループ27事業者以上が参加し、グループ企業間の情報共有も活発なTAP。今後プラットフォームに進化することにより、これまで以上に東急グループ内外から多彩な人材が集まり、情報やノウハウの共有も活発になることだろう。そこからどんな共創が生まれ、新しいビジネスが育っていくのだろうか。そして、どのような未来の街づくりにつながるのだろうか。非常に楽しみである。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:山﨑悠次)

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  • 眞田 幸剛

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