「ニッポンの夜明け」 大企業イノベーターが語るこれからのニッポン #2 どう巻き込むか。
三井不動産・光村圭一郎氏と東急電鉄・加藤由将氏。――eiiconでは、日本のオープンイノベーションにおけるキーマンとも言える両氏の対談企画「ニッポンの夜明け」を開始。第1回目は、両氏が共に大企業に所属していることもあり、「大企業とオープンイノベーション」を起点に話をスタートさせた。話題はさまざまに飛躍し、オープンイノベーションを切り口として世相を語る対談となった。(→ 「ニッポンの夜明け」 大企業イノベーターが語るこれからのニッポン #1 誰がやるのか。 )
連載第1回の記事掲載から約半年の時間を経ているが、光村氏・加藤氏を取り巻く変化のスピードはさらに加速を増している。光村氏は、東京ミッドタウン日比谷に、ビジネス創造拠点「BASE Q」を開設。スタートアップや大企業のイントレプレナー、テクノロジスト、クリエイターなど多種多様なバックグラウンドを持つ人々が集い、「BASE Q」を舞台に日々交わりながら、新たな価値創造や社会課題の解決を目指している。それに加えて、大手企業とベンチャー企業の連携を促し、新しいビジネス創出を支援する「BASE Qイノベーション・ビルディングプログラム」の提供をスタートさせている。
一方、加藤氏は5月に4期目となる「東急アクセラレートプログラム」をスタートさせた。今回は応募対象をスタートアップだけではなく上場企業や海外企業にも広げたうえ、年1回に定められていた応募期間を撤廃して通年応募とし、取り組みの質・量・速度をさらに上げている。
大企業の側からオープンイノベーションの必要性を説き、その浸透を促している両氏だが、大企業にはまだまだ自前主義が根深く残っており、それがオープンイノベーションの「壁」の一つとなっている。以下の図は2018年6月にリリースされた「オープンイノベーション白書 第二版」 から抜粋したものだ。オープンイノベーションの課題・阻害要因として、”外部連携が全社的な取り組みになっていない”、”自前主義志向が強い”といった文言が並ぶ。特に、高度な技術やアイデアを持ったスタートアップと大企業が連携し、オープンイノベーションを実現させていくためには、意思決定のスピードの違いは大きなデメリットとなってしまう。
▲2018年6月にリリースされた「オープンイノベーション白書 第二版」 “第5章 我が国のオープンイノベーションにおける課題・阻害要因・成功要因”より抜粋。
旧態依然としたビジネス慣習にとらわれることなく、”ポスト平成時代”の新しい日本を切り開いていくためには、大企業の体質変化が求められる。単なる「受発注の関係」ではなく、他社を「真の共創パートナー」として迎え、イノベーションを生み出していくために、大企業イノベーターは周囲からどのように共感を得て、巻き込んでいくのか。――両氏に語ってもらった。
▲三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 統括 光村圭一郎氏
出版社勤務を経て2007年三井不動産入社。オフィスビルの開発、プロパティマネジメントの経験を経て、新規事業開発に携わる。2014年に企業人・起業家・クリエイターのコラボ拠点「Clipニホンバシ」を立上げ、2018年には東京ミッドタウン日比谷に「BASE Q」を開設。大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供もスタートさせた。
※過去eiiconインタビュー記事 https://eiicon.net/articles/257
▲東京急行電鉄株式会社 事業開発室 プロジェクト推進部 課長補佐 加藤由将氏
2004年入社。経理業務に携わった後、社内新規事業の立ち上げの際にチームにアサインされ、コンセプト作りから実施・運営まで一貫して携わり、イントレプレナーとしてスタートを切る。この間、MBAでイントレプレナーについて学び、理解を深めていく。その後、2015年に「東急アクセラレートプログラム」を始動させ、現在に至る。
※eiicon過去インタビュー記事 https://eiicon.net/articles/123
社内のリテラシーを高めるための情報発信。
スタートアップなど社外パートナー企業との仕事の進め方・コミュニケーションにおいて、「企業文化の違いをしっかりと意識するが重要」と話すのは、加藤氏だ。例えば、スタートアップと連携してビジネスを進めていく場合、スタートアップはトップまでの距離が近く、意思決定も迅速だ。打ち合わせの場でOKかNGかを即判断できるケースも多い。
一方、大企業の場合は打ち合わせの場で判断することができず、一度持ち帰って上長と相談して判断するということが多々ある。さらに、祝日や連休などが挟まると意思決定の期間がどんどん伸びてしまうことになってしまう。そうすると、スタートアップとの温度差も広がってしまい、ビジネスを生み出すスピードもどんどん遅れてしまう。
そうした大企業の体質に大きな危機感を抱いた加藤氏は、「(スタートアップカルチャーに対しての)リテラシーを高めることが必要だ」と痛感。そこで、経営層向けのエグゼクティブレポートの配信を自ら始めたという。このレポートには、東急グループ各社と関連性のあるスタートアップの動きや業界動向などをピックアップした情報が詰め込まれている。レポートを読むことで外部環境の変化スピードを知り、スタートアップのカルチャーに理解度を高めてもらうことが狙いだ。
このレポートは東急グループ内で広がり、経営層だけではなく、中堅マネージャー層や人事・経理などバックオフィス部門へも配信されているという。こうした草の根的な活動により共感を集め、リテラシーが底上げされていることが、「東急アクセラレートプログラム」の運営ノウハウの一つになっているようだ。
大企業イノベーターは、「翻訳力」が求められる。
日本の大企業の中には、他社との連携・共創にアレルギー反応を示す社員も少なくない。――そうした社員からの共感を得て、巻き込んでいくためには「いきなりドアを開けるのではなく、段階的に、少しずつ理解してもらうことが必要だ」と光村氏は語る。「そのために、ミートアップイベントを定期的に開催したり、スタートアップなどのパートナー企業と会ってもらう場を創ることが有効だと実感している」と付け加えた。
さらに、光村氏は、大企業イノベーターが社内の共感を得るためには「トランスレーションする力が求められる」と語る。大企業には社内稟議のプロセスなど独特なロジックがあり、さらに同質性が高く、抽象度の高いコミュニケーションが成立する素地がある。一方、スタートアップなどのパートナー企業にも独自の文化がある。その両面を理解した上で、自社とパートナー企業との橋渡し役になり、共感を得ることが、オープンイノベーションを円滑に進める要素となるのだ。
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今回、光村氏・加藤氏から、オープンイノベーションを推進する上で「どのように周囲を巻き込み、理解を得ているのか」について具体的な話を伺った。――メルカリのような日本発のユニコーン企業が現れ、国内でも大きな注目を浴びているスタートアップだが、大企業とのカルチャーギャップはまだまだ広がっている。その間に立ち、両者の溝を埋め、イノベーション創出のトリガーとなるのが大企業イノベーターだろう。古い慣習も知り、新たなカルチャーも理解する、彼らのような存在が新しい日本を切り開くための一つの要素になるはずだ。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:加藤武俊)