【JOIF2021 レポート】オープンイノベーションの「これまでの10年とこれからの10年」
eiicon companyが3月23日に開催したオープンイノベーションの祭典「Japan Open Innovation Fes FY2021→ DEMODAY(ジャパン オープン イノベーション フェス エフワイ2021→ デモデイ)」。今回は「オープンイノベーション見本市。マッチングをする年度末。」をテーマとし、オンラインにて開催された。
オープンイノベーションの第一線で活躍するイノベーターによるリアルな話が聴けるセッションや、大手企業が生の声で共創パートナーを求めるリバースピッチ、さらにはブーストマッチング(参加企業との交流の場)など、様々なコンテンツで会場は盛り上がった。
今回は「オープンイノベーション分水嶺 オープンイノベーション今昔」と題したスペシャルセッションの様子と出展した企業の声をお届けする。
ビジネスの最前線を見続けてきた3人が語る、オープンイノベーションの過去と未来
まずは「オープンイノベーション分水嶺 オープンイノベーション今昔」をテーマとしてセッションの様子をレポート。eiicon company代表の中村がモデレーターをつとめ、下記の3名の有識者がこれまでのオープンイノベーションのあり方を語ってくれました。
登壇者:
谷本有香 氏(Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長)
守屋実 氏(株式会社守屋実事務所 代表取締役社長)
石井芳明 氏(経済産業省 新規事業創造推進室長)
中村:まずは2010年以降のオープンイノベーションの潮流について、みなさんがどう捉えているか聞かせてください。
守屋:オープンイノベーションの潮流はプラットフォーマーの出現を契機に大きく変わりました。それ以前は個別の取り組みが散在しており、オープンイノベーションをするための型もない状態。
その流れを変えたのが、eiicon(現AUBA)を始めとするオープンイノベーションプラットフォームです。共創に積極的な企業を束ねる存在ができたことで、共創事例が急増しました。
その結果、それぞれの企業の経験値が溜まり、いずれはそれがノウハウとして型となっていきます。かつては多くが失敗していたオープンイノベーションも、成功確率がぐっと上がったのです。
さらに言えば、かつては2社でのみ行われてきたオープンイノベーションが、徐々に複数社による取り組みに変わりつつあります。今後はさらに個人を巻き込み、法人と個人がうまく融合した生態系になっていくのではないでしょうか。
谷本:もともと金融・経済に近い業界にいた私の立場から見ると、オープンイノベーションは日本のビジネスシーンが求めていた「解」だったように感じます。
リーマンショックで大きく下落した日本の景気が金融政策で徐々に回復したものの、誰もがかつての成長感や高揚感を感じずにいました。その原因は、経済が回復してもイノベーションが起きていなかったから。
そんな閉塞感を打ち破る存在として期待されたのがオープンイノベーションです。多くの企業が躍起になって出島を作り、オープンイノベーションの準備をはじめました。それはどこかお祭りや部活のような盛り上がりを見せ、徐々に成功事例もうまれてきたように感じます。
しかし、それらの事例はどれも小粒で、まだイノベーションを興せたとは言えません。本格的にオープンイノベーションの成果が現れるのは、まだこれからだと私は感じています。
石井:国の取り組みを見ていくと、2013年に「安倍政権の3本の矢」の金融緩和の一つとして、国を挙げてスタートアップ支援やイノベーション促進に乗り出しました。オープンイノベーションもその文脈で盛り上がり「日本オープンイノベーション大賞」や税制緩和など、様々な取り組みが行われています。
「Innovation Leaders Summit」も開始当初は1000人ほどしか参加者がいませんでしたが、今では2万人が参加する一大イベントに。成果についてはまだ疑問の声もありますが、確実にこの10年で様々な活動が積み上がってきたと思います。
そしてお祭りのような盛り上がりが今はいったん落ち着き「これまでの取り組みでよかったのか」見直すタイミングに差し掛かっているのではないでしょうか。
中村:そのような潮流を経て、今のオープンイノベーションの最新トレンドについてはどうお考えですか?
谷本:これまでのプロダクト・アウト的な発想から、徐々にマーケット・イン的な発想にシフトしてきているように感じます。コロナや戦争があって、先行きが見えなくなり、私たちの生活やビジネスにおいて様々な制約がうまれました。
それは決してネガティブなことばかりではありません。制約があるからこそ、多くの経営者たちの視座が上がる結果になったと思います。多くの深刻な社会課題に直面したことで、これまでのように「イノベーションを興そう」と耳触りのいい言葉ではなく、社会課題に対してできることはないか意識するようになったのです。それは簡単なことではありませんが、大きなチャレンジに立ち向かう企業が増えたように感じます。
しかし、一方でその議論には「ユーザーの声が取り入れられていない」という課題もあります。供給側の想いだけでイノベーションが語られることが多いので、そこにユーザーの声をいかに取り入れるかが今後の問題ですね。それができれば、より細かいニーズに応じたイノベーションを起こせるのではないでしょうか。
石井:国としてもオープンイノベーションの促進に力を入れています。岸田首相が年頭の記者会見で「今年はスタートアップ創出元年にしたい」と宣言し、イノベーションを牽引するスタートアップを支援する5カ年計画を打ち出しました。
経団連もオープンイノベーションに注目しており「スタートアップへの投資額を10倍にし、より多くのユニコーンを生み出す」とビジョンにも盛り込んでいます。今や国全体がスタートアップにフォーカスを当てているのです。
直近では、大企業とスタートアップの人材交流を促進するための政策も出しており、しっかり予算をとって進めています。今後はそのような取り組みも、どんどん打ち出していきたいですね。
守屋:私の個人的な目標にもなりますが、これからは目的や課題意識をしっかり持って取り組んでいきたいと思います。日本人はカタカナが好きなので、毎年のように新しいカタカナ言葉が流行りますが、そのほとんどは手法です。そして多くの企業の話を聞いていると手法ばかりに気を取られて、目的や課題意識がないのが今の実情。
しかし、本当に大事なのは「何のためにするか」。目的意識がなければ、オープンイノベーションもお祭りに終わってしまいます。今は「事業開発」とは名ばかりで、人材開発や外注管理で終わっていることも少なくありません。今後はしっかり実のある取り組みを増やしていければと思います。
中村:最後に2030年のオープンイノベーションはどのようになっていると思うか聞かせてください。
石井:将来は大企業とスタートアップの対立軸はなくなっていると思います。2030年にはスタートアップが十分に資金調達できるようになり、問題なく人材を確保できるようになっているはず。スタートアップと大企業の差はほとんどなくなっているでしょう。
スタートアップが大企業化するのと同時に、大企業にもイノベーション人材が増えスタートアップ化していきます。そうなれば「スタートアップと大企業」ではなく、対等なチーム同士のオープンイノベーションが主流になっているのではないでしょうか。
守屋:2030年にはイノベーションが自然に生まれる世の中になっていると思います。理屈をこねて意図的に生もうとするのではなく、自然とイノベーションが生まれている。そんな時代になるといいですね。
それも義務として「オープンイノベーションをやるべき」という意識ではなく、必要にかられてオープンイノベーションが最適な手段として取り入れるようになればいいと思います。
谷本:2030年にはイノベーションの民主化が起きていると思います。AIやロボットが普及して、人の報酬はワクワクとか気持ちの高ぶりにシフトしていくはずです。
そうなったときに、一番興奮できるコミュニティはどこなのかを探し、集まった人たちがイノベーションを興し始める。企業はその取り組みを吸い上げて実装していく。そのような企業と個人の関係が成り立っていくのではないかと思っています。
特に私が注目しているメタバースが浸透すれば、物理的な制約はどんどんなくなっていきます。そんな時代ではおじいちゃんやおばあちゃんが活躍するかもしれませんし、誰にでもイノベーションを興すチャンスがあるのです。
これからの日本は制約だらけだからこそ、イノベーションを興せる可能性も大いにあるのではないでしょうか。2030年以降は、そんな楽しいイノベーションの世界のあり方が日本から広がっていくと思います。
「予想以上の出会いに満足」出展企業たちの声
(バーチャル空間oViceを使って開催。出展社の各ブースでの商談や、より話が進んだ企業はovice内のバーチャル会議室を利用するなど、活発なコミュニケーションが見受けられた)
JOIFの会場では、多くの企業が出展して共創のチャンスを探していました。TOMORUBA編集部では出展企業に取材し、どんな共創相手を探しているのか、イベントに参加して共創が進んだのかインタビューを実施。その様子をお届けします。
日本郵便「私たちの共創テーマは「当社の業務効率化」と「新規事業の創出」の2つ。前者については、私たちの主力事業である郵便物流と金融事業が抱えている課題を解決できるソリューションを持っている企業を探しています。
後者については、私たちのアセットを使って新しい事業を作れる会社です。私たちは非正規雇用を入れれば全国に40万人を雇用しており、全国の郵便局には車両や顧客接点など大量のアセットを持っています。
しかし、それらを使いこなせているかというと、そうではありません。それらのアセット、特に私たちは全国に実店舗を保有しているのが強みなので、それらを活用して地方創生などの事業を作れる企業を探しているのです。
今回は、初めてオンラインの交流イベントに参加してみて、これまで出会った企業とは異なるタイプの企業と出会えて参考になりました。通常のイベントでは、登壇して終わりですが、JOIFではその後も自由に交流できたのも有意義でしたね。」
※日本郵便の共創プロフィールページはこちら
ソニー「私たちの共創テーマは次の3つです。
①現在のオンラインコミュニケーションによる課題を共に解決したいパートナー
②ターゲットのニーズやペインポイントをよく把握されているパートナー
③ソニーが目指す世界観に共感いただけるパートナー
普段は社内のオープンイノベーション部がプラットフォームやリアルイベントなどを駆使して探しているのですが、今回JOIFに参加してみてとても効率がいいと感じました。人づてで探すのもいいですが、このような場があることで、より多くの企業に出会えたと思います。
特に、直接話すことで私たちが何をやりたいのか伝えられたのはよかったですね。普段は資料などを見て興味を持ってくれた企業としか話せません。しかし、最初から直接話せることで、資料では伝えきれないニュアンスなども伝えられました。私たちのメッセージを伝えられたことで、共創の可能性も広がったと思います。」
※ソニーの共創プロフィールページはこちら
三菱電機 名古屋製作所「私たちは5つのテーマで共創先を探しているのですが、その中でも特に次の3つのテーマに注力しています。
・最新のセンシング技術による製造工程の効率化
・工作機械の機上計測による製造現場の効率化
・FA製品のカーボンニュートラル(=脱炭素)の実現
私たちの技術はそう簡単にスタートアップとマッチングできるものではありません。それでも、まずは話してみることで新しいアイディアが生まれることを期待して参加しました。実際に参加してみて、予想以上に多くの企業と出会えて満足しています。
これまで登壇したイベントでは登壇して終わりでしたが、今日は休む暇なく話せたのでよかったですね。複数人で様々な企業と話していたので、これからそれらの情報を社内で共有して、新たな共創のタネを見つけたいと思います。」
※三菱電機 名古屋製作所の共創プロフィールページはこちら
兼松「私たちは法人向けのSaaSベンダーを探しています。私たちは幅広くビジネスを展開しているので、大抵の領域はカバーできますし、仮にカバーしていなくても話していくうちに一緒にできることが見つかるので。少しでも共創の余地がある企業はとにかく話を聞いていました。
特に本日は7~8社の企業と話すことができ、満足しています。すぐに動けるものではありませんが、これからどのような組み方ができるのか探していきたいですね。オンラインイベントに参加したのは初めてですが、移動する手間もなく、話しかけるハードルも下がってとても有意義な時間をすごせました。」
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愛恵育場「最初はリモートで商談できるか不安だったのですが、いざやってみると初対面でも商談できて驚きました。ブースに足を運んでくれる企業もいましたし、担当のコンサルタントの方からもたくさんの企業を紹介して頂いて、本当に満足しています。
共創の約束をした企業とも出会えたので、これから早速取り組んでいきたいと思います。」
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シーズ「私たちはものづくりの会社なので、私たちがもっていない技術をもっている企業を幅広く探していました。面白い技術を持っている会社を見つけたら、具体的なアイディアを考える前に連絡してみて、話しながら一緒に探すようにしています。
今回、イベントに参加してみて、3社くらいから声をかけて頂いて、新しい取り組みにも繋がりそうです。普段メッセージを送るよりもフランクに話せるので、出会い方も広がったと思います。」
※シーズの共創プロフィールページはこちら
モトヤユナイテッド「私たちは「自動車教習」や「ドローンのオペレーター教育」など、自分たちの事業に隣接する会社を探しています。飲食事業も展開しているので、フードテック企業などもターゲットです。
今回イベントに参加してみて、普段自分では探せない企業からも声をかけてもらい、偶発的な出会いがあってよかったです。ピッチしている企業のプログラムも面白いとおもったので、募集してみようとおもいます。」
※モトヤユナイテッドの共創プロフィールページはこちら
筑後川ビジネス「私たちは九州を中心に、文化資源を守ったり、こどもたちの未来を残す取り組みをしており、同じ思いを持った企業を探しています。プロジェクトが多岐に渡るので、想いさえ共感すれば組み方は幅広く考えられると思います。
イベントに参加してみて、とてもおもしろい取り組みだと思いました。場所や時間の制約なく動けるのはオンラインならではですね。6社ほどと話せたので、これから具体的な取り組みに詰めていければと思います。」
※筑後川ビジネスの共創プロフィールページはこちら
編集後記
コロナ禍であってもコロナ前と変わらない盛り上がりを見せたJOIF。話を聞いてみると、多くの参加者が「最初はオンラインで共創が生まれるか不安だった」と話すが、それは杞憂に終わったようだ。実際に共創に繋がるかはまだわからないが、出会いの数には満足していると多くの企業が語る。無論、中にはその場で具体的な共創の話を進めていた企業も。
ニューノーマルにシフトしてからまだ2年弱。今後もより質の高い出会いを生み出すイベントにブラッシュアップしていくので、より多くの企業の方に盛り上げてもらえることを期待したい。
(取材・文:鈴木光平)