「空気を変える」知られざる技術力――レンジフードNo.1企業が共創で実現したいこととは?
1941年に創業し、現在では「FUJIOH」(フジオー)ブランドの家庭用レンジフードで国内No.1シェアを誇るのが、富士工業だ。これまで、システムキッチンメーカーのODM(Original Design Manufacturing)製品をはじめ、コンビニエンスストアなどで用いられるホットスナック調理用フード、高い意匠性を誇りインテリアとしても優れた外食産業向け製品など、幅広く市場から受け入れられる製品を送り出してきた。
企画開発、生産から販売、アフターサービスに至るまでの一貫体制を築き、半世紀以上にわたって”モノづくり”を続けてきた同社は、2018年にコーポレートブランド「FUJIOH」を策定した。そして今回、富士工業はビジネス共創プログラム「FUJIOH OPEN INNOVATION PROGRAM 2022」を開催する(第1期応募締切:12/3)。
本プログラムは「空気」を入り口として、様々な環境における快適さを追求してきた富士工業のコア技術を活用し、幅広い業界にパートナーシップを求めて、新たな領域での可能性を探索しようとするチャレンジだ。
具体的には、以下の3つのテーマにおいて、共創パートナーが募集される。
【テーマ01】 高速回転ディスクで空気中の油分をセパレートする技術を用いた、エコな空気環境の改善を実現する領域
【テーマ02】 空気中の“におい”を“ろ過”し、綺麗な空気にして室内に戻す技術を用いた、場所を選ばずにエコな換気を実現する領域
【テーマ03】 消費電力を抑えた蒸気回収技術を用いた、高湿な環境でのエコな除湿を実現する領域
富士工業はプログラムを通じて、「換気・排気・除湿をはじめとする、空気還流に関わる高い技術開発力」の新たな活用領域を模索し、“明日を豊かに変えていく”ビジョンの実現を目指すという。
――そこで、プログラムの事務局を担う商品企画部の梁取(やなとり)崇氏<写真右>と吉本達郎氏<写真左>に、共創に取り組む背景や募集テーマの詳細、提供リソースなどについて話を聞いた。
レンジフードNo.1企業の矜持を胸に、“空気”を入り口とした世の中の「困りごと」を解決したい
――まず、御社のご紹介からお願いします。
梁取氏 : 当社は、実質的にレンジフードとその周辺技術一本で、主にシステムキッチンメーカーへのODM提供により、事業を続けてきました。その結果、家庭用レンジフードでは、国内No.1のシェアを獲得しています。
しかし、やはりシステムキッチンパーツの一部を担うODM展開では、なかなか「富士工業」の名前やブランドは世に広まりません。そこで、海外で自社ブランドとして育んできた“FUJIOH”ブランドを、2018年にコーポレートブランドへと進化させ、次なるステージへ向けての革新へ取り組んでいるのが、いまの会社の状況です。
▲富士工業株式会社 営業本部 商品企画部 商品企画課 課長 梁取崇 氏
――今回の共創プログラムを企画したきっかけについてお聞かせください。
吉本氏 : 私たちが感じている課題の背景として、少子化・人口減により、住宅の新設数も減少していく点があります。それを踏まえ、レンジフード事業に加えて、第2・第3の事業の柱を立てようと模索してきました。しかし、我々がリーチしている業態は限られており、正解を見つけるのは、社内だけではなかなか難しいというのが正直なところです。
ただ、当社はユニークな技術を持っていると自負はしていますので、我々の思いもつかない領域、あるいはやり方で、その技術を活用してもらえれば、新しい何かが生まれるのではないかという期待があり、オープンイノベーションに取り組もうということになりました。それが今回の「FUJIOH OPEN INNOVATION PROGRAM 2022」です。
▲富士工業株式会社 営業本部 商品企画部 商品企画課 吉本達郎 氏
梁取氏 : ある時、まったく業種の異なる企業の社長さんと接する機会があったのですが、私たちのコア技術である「オイルスマッシャー」(ファンとレンジフード内部への油の侵入をブロックする技術)をご紹介したところ、「え、そんなものがあるの!」と、非常に驚かれて、「そういう技術があるなら、こんな風にカスタマイズしてうちで使ってみたい」という声をいただいたことがありました。
「知っていただければ、いろいろと活用してもらえる領域、可能性があるんだな」と気づいたきっかけでした。そういう場を、今回作りたいと考えています。
――今回のプログラムの全体感やイメージされているゴール、成果はどのようなものでしょうか。
吉本氏 : ゴールとして一番望ましいのは、もちろん、共創していただける企業様が見つかり、私たちの技術をこれまでにない形でプロダクト化して、世の中に送り出すことです。ただ、そこまで行きつかなかったとしても、我々がこれまでリーチできていなかった業界や領域で、当社のコア技術を使えば解決できる課題がありそうだということがわかるだけでも、一定の成果だと考えています。
今回は、私たちとしても初めての試みでもありますので、まずは、プロダクトというゴールに到達できそうなシーズの発見が1つの目標です。
梁取氏 : 可能であれば、3年くらいの間で具体的なプロダクトに結びつけられる共創ができれば、理想的かと思います。
――お2人は商品企画部ですが、今回のプログラムで実際に共創パートナーが選定された後の体制については、お2人が共創相手の企業と伴走されていくのでしょうか。
梁取氏 : もちろん、当初の窓口は私たちがなります。その後は、プロジェクトの大きさによっては社内の開発部の人間にも参加してもらったりすることが必要になりますし、製品化となれば、工場にも協力をしてもらなければなりません。そのような社内の統制も私たち商品企画部が主導で実施していきます。
FUJIOHのコア技術を活用する3つの共創テーマ
――今回は3つの共創テーマを掲げられています。1つ目の「高速回転ディスクで空気中の油分をセパレートする技術を用い、エコな空気環境の改善を実現」ですが、これはどのようなことでしょうか?
吉本氏 : これは私たちのコア技術である「オイルスマッシャー」のことです。高速回転するディスクで空気中の油分を分離して、汚れの侵入を防ぐ技術です。
流入する空気に含まれる油の粒子などの異物をあらかじめ除去して、ファンやダクトへの侵入を防ぐという構造になっているため、空気が流れる流路内の汚れを低減できます。当然、ダクトを通じて屋外へ出て行く異物も低減できますので、外壁の汚れの低減や近隣に対するケアも実現できる技術なのです。
この技術を用いた「油分や異物の除去」を、レンジフード以外の分野に応用できないかというのが、共創テーマの1つ目になります。
▲「オイルスマッシャー」は、吉本氏が手にしているディスクが高速回転することで油の侵入をブロックする
梁取氏 : ご存じのように、一般家庭でも店舗などでも、レンジフード内のギトギトした油汚れは掃除が非常に困難で、不変の“困りごと”だと認識されています。私たちのレンジフードでは、オイルスマッシャー技術を使用することで、通常のフィルタータイプのレンジフードと比べて、長期間のファン清掃不要を実現しています。
オイルスマッシャーは現在、一般家庭用レンジフードの上位モデルと、コンビニエンスストアのホットスナック調理のレンジフードに採用されており、清掃における時短/節水が高く評価されています。
▲「オイルスマッシャー」機能紹介ムービー
――共創パートナーとしては、どのような業種の企業様などが想定されるでしょうか。
梁取氏 : まず、油煙が発生する食品加工工場や産業用工場、飲食店など、換気機器のメンテナンスに問題を抱えている業界が考えられます。それ以外にも、飲食店の入る商業施設や商業ビル向けのプロダクトを開発している企業様などとも共創いただける可能性があると思います。
――次に、共創テーマの2つ目「空気中の“におい”をろ過し、綺麗な空気にして室内に戻す技術を用い、場所を選ばずエコな換気を実現」について教えてください。
吉本氏 : 室内の空気を、においなどのない、綺麗な状態に保つという課題に対して、空気清浄機など様々なアプローチでの解決が図られています。私たちの「室内循環フィルタリング」も、この課題を解決するための技術です。簡単にいえば、換気設備を通さずに、独自の4層のフィルター技術により、においを“ろ過”して、においのない空気を直接室内に戻すことを可能にする技術です。
例えば、地下などでダクト配管などの換気設備が設置できない環境においても、においを除去しながら、空気を循環させ、室内に戻すことができます。
▲4層のフィルターによって、汚れた空気をろ過する
――どのような場面での利用が考えられるのでしょうか。
梁取氏 : この技術が応用できるのは、飲食関係はもちろんですが、それに限らず薬品関係など「におい」が気になるあらゆる分野で活用の可能性があります。
空気の還流が室内で完結しますので、外気との寒暖差を気にする必要性がないことや、配管が不要なことから、空間利用上の制約がない、という利点もあります。そのような状況でお困りの様々な分野の方からのアプローチを期待しています。
――3つ目の共創テーマは「消費電力を抑えた蒸気回収技術を用いて、高湿な環境でのエコな除湿を実現」ですが、こちらの背景や共創イメージも教えてください。
梁取氏 : 調理機器から排出される高温の空気には蒸気が多く含まれています。換気が十分にできない環境だと、空気が高湿度になり、室内でカビを発生させたり、食品腐敗の原因になったりする問題が生じる可能性が考えられます。
それを解決するため開発したのが、換気設備がなくても湿度の上昇を低減できる技術です。技術のポイントとしては、冷媒機能を用いず、調理機器から排出される高温の空気と室温の温度差を利用した高効率の冷却ユニットを採用しているため、消費電力が非常に低いという点です。
吉本氏 : このテーマの共創のイメージとしては、換気がしにくい場所での高温・湿度の問題を解決するというものですね。調理関係以外でいえば、例えば、冷却水を使用した機械加工時に発生する水蒸気などが思いつきます。私たち製品開発側からの発想ではなかなかブレイクスルーしにくいところがありますので、ぜひまったく異なる観点からのアプローチを期待したいところです。
挑戦的な課題を提案してくれる共創パートナーからの応募を期待
――各テーマでの共創を実現していく上での、御社の強み、また、共創パートナーに提供できるアセットやリソースにはどのようなものがありますか。
梁取氏 : 強みといえるかわかりませんが、特徴としては、企画・設計から生産まで一貫しておこなっているメーカーであり、自社内に研究部門も備えているという点です。そのため、それぞれの機能を有機的に連携させて、リソースとして活用できると思います。自社内で一貫した態勢がとれることのメリットは、例えば、何か新しいニーズや課題が発生した際に即応しやすいことでしょう。
また、モノづくり企業なので、アイデアが形になった最初期の段階では手組み立てで試作機を製作できますし、溶接や板金部品については試作部門がありますから、少量のサンプル生産などにも柔軟に対応可能です。
吉本氏 : 取引先や顧客基盤については、住宅設備業界における「レンジフードでのNo.1企業」という価値がアドバンテージになります。「FUJIOH」ブランド自体は2018年に立ち上げたもので、まだ認知度向上を図っている途中ですが、レンジフードで国内シェア1位を実現しているのは、お客様、ひいてはエンドユーザー様からの信頼があればこそだと思います。住宅設備業界に限られてはいますが、その確固とした顧客基盤も、共創パートナーにご活用いただけるのではないかと感じています。
――最後に、共創にご応募いただける企業の皆様に向けてのメッセージを、ぜひお伺いしたいと思います。
吉本氏 : 私たちは創業80年の企業ですが、伝統にあぐらをかくことなく、変革を目指しています。実は、現社長もまだ若くて、チャレンジングな雰囲気のある企業です。今回のプロジェクトでの新しい出会いに期待しています。また、本プロジェクトに限らず、今後、幅広く共創を追求していきたいと思います。
梁取氏 : いままでやったことのないところにチャレンジしたいというのが、今回のプロジェクトの大きな目的です。その意味で、「富士工業さん、こんなことできますか?」という挑戦的な問いかけを、強くお待ちしています。
取材後記
室内の空気環境というものは、住居、店舗、オフィスを問わず、人が暮らす場においてとても大切な要素ではあるが、あまりにも当たり前になっているからこそ、“困りごと”が意識されにくい面があるだろう。今回のプログラムにより、プロダクトアウトの発想では見えてこない、世に潜んだ数多くの「空気に関する困りごと」を、思いもよらぬ組み合わせで解決していく可能性がある。それが私たちの「明日を豊かに変えていく」ものになることを期待したい。
※「FUJIOH OPEN INNOVATION PROGRAM 2022」の第1期応募締切は【2022年12月3日】となります。詳細は以下URLよりご覧ください。
https://eiicon.net/about/fujioh-oi2022/
(編集・取材:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:加藤武俊)