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スタートアップ・エコシステム構築を推進する山梨県――県内企業と全国のスタートアップによる共創プログラム2期目が始動!半導体・ビルメンテ・ジュエリー・電子部品と多彩なホスト企業が実現したいこととは?

スタートアップ・エコシステム構築を推進する山梨県――県内企業と全国のスタートアップによる共創プログラム2期目が始動!半導体・ビルメンテ・ジュエリー・電子部品と多彩なホスト企業が実現したいこととは?

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リニア中央新幹線の開通後には、東京(品川)と約25分で結ばれる山梨県。同県は今、スタートアップ・エコシステムの構築に向け、スタートアップ支援を強化。来年度には、甲府市にある県立青少年センター旧本館を改修し、5階建ての支援拠点を開業する。そんな山梨県が、昨年度より開催しているオープンイノベーションプログラムが、『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』だ。

これは、県内企業と全国のスタートアップとの共創を支援することで、県内企業の高付加価値化を図るとともに、革新的なスタートアップの県内定着や事業拡大を狙う取り組み。昨年度は、4社の県内企業がホスト企業となり、スタートアップと共創プロジェクトを立ち上げた。

今年度は、新たに4社の県内ホスト企業(ファスフォードテクノロジ甲府ビルサービス光・彩シチズン電子)を迎え、2期目となる『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』をスタート。全国から共創パートナーを募集する(応募締切:10/14)。

そこで今回TOMORUBAでは、本事業を主催する山梨県に2期目のプログラムを開始した背景やビジョン、ホスト企業4社に具体的な募集内容や実現したいことを伺った。

【山梨県】来年度、スタートアップ支援拠点を開業!リニア開通後を見据えた仕掛けづくりを強化

▲取材対象者:

【写真中】 山梨県 産業政策部 スタートアップ・経営支援課 スタートアップ支援担当 吉田健二 氏

――「STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM」は今年で2期目となります。まず、昨年度の総括からお聞かせください。

山梨県庁・吉田氏: 昨年度、このプログラムを実施し、その必要性を実感しました。山梨県の産業だけではなく、県民生活の豊かさ向上のため、こうした事業を継続する必要があると考えています。今年度も、本県から社会全体に良い影響を与えることを目指して、同様の取り組みに注力していきたいと思います。

また、昨年度のプログラムでは、4つの共創プロジェクトを進めましたが、各事業を着実に進められた点は、非常に良かったと感じます。中でも、県内企業のアルプス社とTECHMAGIC社が発表したプロジェクトは、今後、アルプス社が運営するサービスエリアやパーキングエリアのレストランに活用することが見込まれます。そうなれば、単なる省人化・無人化にとどまらない新しい価値が創出できるのではと、大きな期待を寄せています。山梨県としては、これらの共創プロジェクトが単年度で完結するものという認識は持たず、継続的な支援を行っていく方針です。

▲飲食店やパーキングエリアなど多くの施設を運営するアルプス社と、調理ロボットと業務用ロボットに強みを持つTECHMAGIC社は、炒め調理ロボットによるセルフクック体験の実証実験を実施した。(画像出典:ニュースリリース

――2期目の共創パートナー募集が始まります。昨年度を踏まえて今年度、どのような点に留意していきたいとお考えですか。

山梨県庁・吉田氏: 昨年度を踏まえての具体的な改善点として、インキュベーション期間を延長しました。また、丁寧にコミュニケーションを取ることに留意していく考えです。私たち自治体職員も、ホスト企業とスタートアップ企業の事業構築の輪の中に入り、事業の内容を絞り込んだり、逆に幅を広げたりと、より良い事業を生み出せるようにお手伝いをしていきたいと思っています。

――2025年を目途に、県立青少年センター旧本館を改修し、5階建てのスタートアップ支援拠点を新設されると聞きました。この拠点を開業する意図や、山梨県の描く未来図についてお伺いしたいです。

山梨県庁・吉田氏: 現在、山梨県では起業から成長、事業拡大まで幅広く支援するスタートアップ施策を整えています。一方で、山梨県内で生まれるスタートアップの数を増やしていかねばならないという課題感も持っています。

2025年度に新設するスタートアップ支援拠点では、既存のスタートアップ支援施策と拠点を結びつけるとともに、金融機関や大学など県内の様々なプレイヤーの方々に関わっていただき、スタートアップ・エコシステムの確立を目指します。この拠点に集まったスタートアップが山梨で成長し、全国や世界に挑戦する流れを作っていきたいと考えています。

――リニア中央新幹線の開業も近づいていますが、どのような期待感をお持ちですか。

山梨県庁・吉田氏: リニア中央新幹線の開業は、産業だけではなく県民生活全体にも影響を及ぼすでしょう。山梨県は歴史的に、甲州街道、中央本線、中央自動車道、中部横断自動車道といった交通の整備が、成長の起点となってきました。リニア中央新幹線も同様に大きなインパクトをもたらすと予想しています。だからこそ、これからの50年、100年を見据えた事業を仕掛けていく時期だと考えています。

――今年度のプログラムでは、県内企業としてファスフォードテクノロジ、甲府ビルサービス、光・彩、シチズン電子の4社が参加されることになりました。この4社はどのような企業なのでしょうか。

山梨県庁・吉田氏: 各社ともに地域を代表する、それぞれ独自の強みを活かし、市場で優位なシェアを誇っている企業です。これらの企業と共同で新たな価値創出を目指す今回のプロジェクトは、県内産業への影響だけでなく、全国から参加するスタートアップにとっても、大きなビジネスチャンスになると考えています。

――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

山梨県庁・吉田氏: 山梨県は来年度のスタートアップ支援拠点整備に向けて、スタートアップの成長をより支援する体制を整え、山梨ならではのアプローチで仕掛づくりを進めています。

大きな市場はないかもしれませんが、山梨県は日本のまんなか、東京にも非常に近い地理的優位性があり、豊かな自然環境を生かした産業が集積しています。また事業者同士の距離が近く、コミュニティの形成が容易で、オープンイノベーションが行いやすいことが魅力です。県としても切れ目のない支援を行い、補助金や助成金などの金銭的支援に留まらない、行政職員が直接手を動かす踏み込んだ支援を考えています。ぜひ山梨県のエコシステムに参加し、山梨県を活用してください。

【ファスフォードテクノロジ】「画像処理を用いた半導体チップの表面欠陥検出機能」

▲取材対象者(写真左→右):

・ファスフォードテクノロジ株式会社 ボンダシステムセンタ・先端技術開発PJ 技師 大森僚 氏

・ファスフォードテクノロジ株式会社 ボンダシステムセンタ ソフトウェア設計部 髙木悠一郎 氏

――まず、御社の事業概要と特徴をお伺いしたいです。

ファスフォードテクノロジ・大森氏: 当社は、半導体製造の後工程にあたる組み立て装置の開発から製造、販売、保守までを一貫して行っています。具体的には、半導体チップを拾い上げて基板に実装する装置『ダイボンダ』を展開しています。

近年、半導体チップの微細化に伴い薄く脆くなったチップを、壊さず正確に基板へと実装する技術が求められています。この精密な作業を寸分の狂いもなく迅速に行えることが、当社『ダイボンダ』の強みです。海外でも販売しており、メモリー分野で世界シェア50%以上を誇ります。

会社の沿革も少しご紹介すると、1963年に日立グループから派生して設立され、2015年にファスフォードテクノロジ株式会社として独立しました。2018年には上場企業である株式会社FUJIの子会社となり、現在はFUJIグループの一員として活動しています。

――本プログラムに参画を決めた理由や背景にある課題感をお聞かせください。

ファスフォードテクノロジ・大森氏: 『ダイボンダ』は半導体チップを壊さずに高精細かつ迅速に基板に打つ装置ですが、『ダイボンダ』に供給される部材に欠陥がある場合は、それを打たずに検出してほしいというお客様の要求が高まっています。この要求は以前からあり、要求がある度に機能開発を行ってきました。

しかし、欠陥にはチップの割れや汚れ、ゴミ、水滴痕など様々な種類があり、要求に対して機能開発が追い付いていません。また、ミクロン単位の微細な傷や割れの検出要求もあり、こちらは独自の検査機能を開発しましたが、一定条件下でしか正常な検査を行うことができません。これらの課題へ対応するために、展示会を回ったり、取引先に相談したりしながら新しい手法を模索してきましたが、何か一つを作ればすべて解決するような手法を発見できずにいます。そこで、このプログラムなら、何か一手を打てるような技術を見つけられるのではないかと考え、参加することにしました。

▲半導体の製造工程は、半導体の回路図の設計からウェハの上に回路を作り上げるまでの「前工程」と、ウェハのダイシングから組立・最終検査までの半導体製品を完成させる「後工程」に分かれる。ファスフォードテクノロジは、後工程の「ダイボンディング」工程を行うダイボンダ装置を得意分野としている。

――具体的にどのような技術だと、欠陥部材を一括で検出できそうですか。

ファスフォードテクノロジ・大森氏: 様々な欠陥に一つの機能で対応するには、AIやディープラーニングなどの技術が有力なのではないかと思っています。しかし、それに限らず、他の方法でも目的を達成できるものであれば試してみたいです。

――これまでも欠陥を検出する技術の探索をされてきたそうですが、AI関連だと何が導入ハードルになっているのでしょうか。

ファスフォードテクノロジ・大森氏: 例えば、膨大な演算を行うために高価なGPUを搭載する必要があり、コスト面で折り合いがつかなかったり、AIを使う場合は大量の学習データが必要ですが、出荷後はお客様の現場で稼働する装置なので、お客様先での学習データ収集が難しかったり、そうしたハードルがあります。

▲ファスフォードテクノロジの半導体製造装置「ダイボンダ」。世界トップクラスのシェアを誇る。

――御社と協業するメリットについてもお伺いしたいです。

ファスフォードテクノロジ・大森氏: お客様先で発生した欠陥の画像データが蓄積されており、それらを提供可能です。また、私たち開発部門のノウハウも提供できるほか、新しいソリューションを開発できれば、グループの販売網を通じて他のお客様にも展開できると考えています。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

ファスフォードテクノロジ・髙木氏: 今後10年を見据え、選ばれる装置を作りたいと思っています。私たち開発担当者がプログラムに参加しているため、具体的な実装までのディスカッションができます。『ダイボンダ』のブラッシュアップに向けて、ぜひ一緒に取り組んでいただければと思います。

ファスフォードテクノロジ・大森氏: 半導体製造装置に限らず、何らかの組み立て装置における検査機能は今後も必要とされ続けるでしょう。今回は当社の装置で一緒に取り組むことになりますが、広い需要を取り込める分野なので、スタートアップにとっても十分にノウハウを積める機会になると思います。

私自身、この課題に対応できる機能を探し続けてきましたが、まだ発見できていません。もしこれが実現すれば、間違いなく今の技術よりも数歩先に進むことになると思います。新しい技術の創造に、ぜひ一緒に取り組みましょう。

【甲府ビルサービス】「ビルメンテナンス業界におけるDX化の推進と環境負荷軽減に向けた取り組み」

▲取材対象者(写真左→右):

・甲府ビルサービス株式会社 代表取締役社長 坂本哲啓 氏

・甲府ビルサービス株式会社 営業部 営業課 マネージャー 窪田裕行 氏

――御社の事業概要と特徴をお伺いしたいです。

甲府ビルサービス・坂本氏: 当社は、建物の清掃、警備、設備運行、設備保守などを行うビルメンテナンス業を手がけています。清掃は建物内外の美観を維持する業務で、警備は建物内外の安心・安全を確保する業務です。設備運行は、建物に当社社員が常駐し、空調、照明、水道、電気などのシステムが正常に機能するよう監視・管理します。設備保守は、消防点検などの法定点検や機械の修理などを行う業務です。当社は山梨県のビルメンテナンス業界で、売上規模と管理物件数の双方において県内トップのシェアを誇っています。

――管理物件の種類に特徴はありますか。

甲府ビルサービス・窪田氏: 管理物件に偏りはなく、工場、ホテル、マンション、オフィスビル、病院など幅広く管理しています。中でも山梨県立美術館は、温湿度の厳格な管理が必要で、特に収蔵庫では24時間365日、一分の狂いもなく温湿度を管理しなければなりません。こうした難しい管理も、当社の豊富な経験で対応しています。

――本プログラムに参画を決めた理由や背景にある課題感をお聞かせください。

甲府ビルサービス・坂本氏: ビルメンテナンス業界は戦後に始まり、高度成長期に発展しましたが、基本的なやり方や考え方は当時からほとんど変わっていません。私自身、15年前にこの業界に戻ってきたのですが、業界の古さを強く感じました。これからは建物を守るだけでなく、お客様と共に変化していく必要があります。

しかし、自社だけでは進めるのが難しい状況です。そこで、一緒に取り組めるスタートアップと共創したいと考え、このプログラムに参加することにしたのです。

――募集テーマに「ビルメンテナンス業界のDX化と環境負荷軽減」を設定されましたが、具体的にどのような共創を実現したいとお考えですか。

甲府ビルサービス・坂本氏: DX化のほうからご説明すると、ビルメンテナンス業は労働集約型で、人が働いて成り立つビジネスです。しかし、日本では労働人口が減少し、働き手不足が深刻化しています。この問題に対応するため、省人化と生産性向上を進める必要があると考えています。

中でも今回は、熟練工のノウハウをデジタル技術で継承することに取り組みたいです。加齢により体力が衰え、階段の昇り降りなどが大変になった熟練工でも、知識は豊富で頭はしっかりしている人もいます。一方で、未経験で入社したばかりの若い世代は、体力はあるものの経験と知識が不足しています。

そこで、熟練工と現場の若い世代を遠隔でつなぎ、知識を共有することで、双方の強みを活かしたいのです。例えば、IoT技術やDXノウハウ、遠隔操作・監視、ロボット技術を持つ企業との共創を検討しています。

▲総合ビルメンテナンス会社として、多岐にわたる建物管理を行っている甲府ビルサービス。山梨県におけるビルメンテナンス業界では圧倒的な知名度と実績を誇っている。

――「環境負荷軽減」については、いかがですか。

甲府ビルサービス・坂本氏: 私たちは建物の省エネ化と環境負荷軽減が重要だと思っています。これはお客様だけでなく、社会全体にとっても大切なことです。だからこそ、建物からのCO2排出を数%でも削減する提案を、お客様に行いたいと考えています。このテーマでは、建物管理において環境負荷を軽減できる商材やソリューションを持つ企業と共創したいです。

――御社と協業するメリットについてもお聞かせください。

甲府ビルサービス・坂本氏: 当社は約500社の建物管理を行っており、その用途は多岐にわたります。既存のお客様との関係も良好で、「こういうことをやりたい」と提案すると、多くのお客様が「ぜひやってください」と応じてくださいます。特に環境問題に対する注目度は高く、当社単独で開催した省エネセミナーも、60名の定員が満席となりました。さらに、約16年前からベトナムにも進出しており、海外とのつながりも持っています。今後、他国への展開の可能性も考えられるでしょう。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

甲府ビルサービス・窪田氏: 当社では営業活動をする際、自分たちだけではなくお客様のメリットになるよう意識しています。ですから、パートナー企業にも同じような気持ちで取り組んでもらえると嬉しいです。

甲府ビルサービス・坂本氏: 私たちは顧客・社員・地域社会にとって「なくてはならない存在」になることをビジョンに掲げています。お客様に最大級のパフォーマンスを提供し、それが結果的に環境負荷軽減につながることを目指していきたい。目先の利益だけではなく長期的な視野で共に進められる企業と協力していきたいです。

【光・彩】「ジュエリー業界初!検品における自動化・AI化の実現と在庫管理のデジタル化!」

▲取材対象者(写真左→右):

・株式会社光・彩 管理部 部長 今井一貴 氏

・株式会社光・彩 ジュエリー事業部 ジュエリー製造部 原型開発課 課長 遠藤太一 氏

・株式会社光・彩 開発・製造統括 部長 薬袋利雄 氏

――御社の事業概要と特徴からお聞かせください。

光・彩・遠藤氏: 当社は、イヤリングやネックレスの金具などのジュエリーパーツを扱う事業部と、鍛造製法という特殊な方法でブライダルリングを製造する事業部があり、それらを主力として事業を展開しています。特にイヤリングの金具については国内シェア70%を獲得しており、多くのお客様に当社製品をご利用いただいています。

――本プログラムに参画を決めた理由や背景にある課題感は?

光・彩・遠藤氏: 私たちの業界では深刻な人手不足が続いており、特に職人の不足が危機的な状況です。そのため、省人化や機械の自動化を進め、別の分野へと事業を拡大する余裕を生み出していきたいと思っています。

――募集テーマに「検品における自動化・AI化の実現と在庫管理のデジタル化」を掲げられました。具体的にどのような共創を実現したいですか。

光・彩・遠藤氏: 現在、検品作業をすべて目視で行っており、目を酷使するため非常に疲労がたまります。これを部分的にでも自動化することで、作業者の負担を軽減して働きやすい環境にしたいと考えています。

――1日あたりの検査数はどの程度なのでしょうか。

光・彩・遠藤氏: ジュエリーパーツ部門では、1日1万個の製品を仕上げることを目標にしています。ブライダルリング部門でも1日200~300点の完成を目指しており、完成品の検査だけではなく、前工程でも検査を行いますし、ダブルチェックもするため、日々膨大な数の検査を実施している状況です。

▲ジュエリー金具部品については国内で50%、とくにイヤリングの金具については70%のシェアを獲得している光・彩。

――どんな技術を持ったパートナー企業だと、目視検査の自動化を実現できそうですか。

光・彩・遠藤氏: 我々の限られた知見では、AIカメラなどを想定しています。また、非接触で表面を検査できる技術にも可能性を感じています。これらの技術と機械を組み合わせ、一部の検査を自動化したいです。

――「在庫のデジタル化」に関してはいかがですか。

光・彩・薬袋氏: 当社では多品種少量生産を行っており、在庫の正確な把握が不可欠です。また、金やプラチナといった貴金属を扱っているため、余分な端材も無駄にせず工場内でリサイクルしています。そのため、地金の移動などを含めた物流の正確な把握が非常に重要なのです。

現在は、「この工程に何g入ってきて、加工後には何gになり、それが次の工程にいく」というように工程毎に重量で管理しています。しかし、伝票を見ないと確認ができず、より効率的な在庫管理の仕組みを求めています。例えば、タグやセンサーで材料の位置や担当者を追跡できる技術を持つ企業と共創したいと考えています。

――御社と協業するメリットについてもお伺いしたいです。

光・彩・遠藤氏: 多品種少量生産で豊富な現場環境とパターンがあり、データ収集や数値化が行いやすいと思います。また、金やプラチナなどの希少な部材を扱う工場は少ないため、貴金属でデータや知見を得られることもメリットになるでしょう。さらに、プレスで打ったような肌触りや、やすりで摺ったような肌触りなど、様々な加工方法を検証できる点も魅力になると思います。

光・彩・薬袋氏: 材料のリサイクルが一つの工場内で回っている環境は珍しく、この条件下で実証実験を行えることも、メリットに感じていただけると嬉しいです。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

光・彩・遠藤氏: 受発注の関係ではなく、お互いに新しいビジネスを展開できるような、双方ともに利益を上げられる良い関係を築いていきたいと思うので、ぜひご応募ください。

光・彩・薬袋氏: ここで生まれた新しいソリューションは、貴金属の検査に限らず他の分野でも応用できると思います。ぜひ当社での挑戦を起点に、新しい創造につなげてください。

光・彩・今井氏: この募集テーマは、多くの中小企業が解決しようにもできていない共通の課題です。この課題を解決できれば、私たちのような労働集約型の工場は本当に楽になります。削減したいところを削減し、本来やるべきものづくりや技術を取り戻すことに集中できるでしょう。ぜひ、当社を実験の場として活用し、中小企業が抱える課題を一緒に解決していければと思います。

【シチズン電子】「触覚・視覚提示技術を活用した新たなプロダクト・サービス開発による多様性社会の実現」

▲取材対象者(写真左→右):

・シチズン電子株式会社 事業創生部 新井孝弘 氏

・シチズン電子株式会社 事業創生部 課長 三浦充紀 氏

・シチズン電子株式会社 事業創生部 大熊哲 氏

――最初に、御社の事業概要と特徴をお伺いしたいです。

シチズン電子・三浦氏: 時計の『シチズン』はご存知かと思いますが、当社も時計部品の製造から始まり、30年以上前に電子部品へと事業を転換しました。現在の主力事業は、LEDや照明用デバイス、それにスマートフォンの電源ボタンなどに使われるスイッチです。これらの部品製造は自社で行っているため、金型成形や射出成形、プレスなどを行う部門も社内に保有しています。小型で精密なものの製造が強みで、この点が評価されて海外企業からも選ばれています。

――本プログラムに参画を決めた理由をお聞かせください。

シチズン電子・三浦氏: 私たち事業創生部では、新しい事業テーマを考える手段として、様々なアプローチを検討しています。その中で、このプログラムのことを知り、世の中でも盛んに取り組まれていることですし「面白そうだ」と感じ、手を挙げることにしました。私たちはエンジニア出身なので、こうした共創活動には慣れておらず、手探りの状況ではありますが、今までと違った新しい目線で新規事業を探せると期待しています。

▲腕時計の開発・製造で培った精密加工技術を独自に発展させ、LEDを中心とした電子デバイス製品、メカトロ技術を応用したスイッチ製品をはじめオリジナリティに富んだ製品を生み出しているシチズン電子。

――「触覚・視覚提示技術を活用した新たなプロダクト・サービス開発による多様性社会の実現」という募集テーマを設定されました。具体的にどのような共創を実現したいですか。

シチズン電子・三浦氏: 触覚提示技術で既に普及しているものとして、スマートフォンやスマートウォッチの振動通知が挙げられます。今回のプログラムでは、この触覚・視覚提示技術を、視点を変えて活用する方法を模索したいと考えており、例えば、視覚や聴覚に障害がある方や高齢者などハンディキャップをお持ちの方に、新たな価値を提供できないかと思っています。一例として、視覚障がい者が歩く際に、振動で曲がり角などを知らせるウェアラブルデバイスなどをイメージしています。

――新井さんと大熊さんは、どのようにお考えですか。

シチズン電子・大熊氏: 当社は小型・薄型の製品を多く手がけているので、今回開発する触覚提示技術のデバイスも同様の特徴を持たせて、市場に投入したいです。触覚提示技術の搭載が難しい小型デバイスにもアプローチできるのではないかと思います。それがどのようなものなのかを、このオープンイノベーションを通じて情報を集め、具体的なアイデアを見出したいです。

シチズン電子・新井氏: これまで当社の小型電子デバイスは、スマートフォンに搭載するものだという考えが強く、そこから広がったイメージを持つことが難しい状況でした。今回、スタートアップと議論をすることで、全く想像しなかったような新しい取り組みができればと思います。当社が触れてこなかった情報が流れ込むことで、視野が広がることに期待しています。

――御社と協業するメリットについてもお伺いしたいです。

シチズン電子・三浦氏: ものを作るためのインフラが整っています。場所もありますし、評価に必要な分析装置も揃っています。さらに、私たちは新規事業の立ち上げを専門とする部署なので、この取り組みに集中できますし、強い推進力で進めていく考えです。

シチズン電子・大熊氏: 当社は長年、ものづくりに取り組んできた企業なので、「触覚」というものが、どのように人に影響を与えるかについての理解は深いです。また、コンピュータを使ったシミュレーションも可能で、社内リソースも十分に整っています。

シチズン電子・新井氏: 当社のお客様には、大手スマートフォンメーカーなど海外顧客も多く、海外の販売網を活用したマーケティングもできると思います。

――最後に、このプログラムに対する意気込みや、応募を検討するパートナー企業へのメッセージをお願いします。

シチズン電子・新井氏: 量産化に至ることが理想ですが、それが必ずしもゴールでなくてもいいと考えています。この取り組みを通じ、スタートアップと共に成長するという体験をできればと思うので、興味があればぜひご応募ください。

シチズン電子・大熊氏: 普段は社内で仕事をしているため、社外の方と関わる機会がほとんどありません。このプログラムを通じて、スタートアップのスピード感、進め方などをできるだけ吸収し、互いに学び高め合いながら目標に近づける活動にしたいと思っています。

シチズン電子・三浦氏: お互いを尊重し、同じ目的に向かって進むことが重要だと考えているので、対等な立場に立ち推進力と遂行力を意識して取り組んでいきたいです。たくさんのご応募をお待ちしています。

取材後記

山梨県は来年度、新たにスタートアップ支援拠点を設ける計画を発表し、地域全体でスタートアップ支援に本腰を入れている。リニア中央新幹線の開通による地域活性化も見込まれ、ますます注目が集まるエリアになるはずだ。その山梨県で開催される『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』には、各分野で高いシェアを誇る4社が魅力的な共創テーマを提示した。この貴重な機会を活用し、ビジネスチャンスを広げてみてはどうだろう。

●『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』の詳細は以下よりご確認ください。

https://sites.google.com/eiicon.net/startupyamanashi-oip2024/

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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