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スタートアップではたらく「アドバンテージ」と「リスク」とは?――Startup Career Fair 2023レポート③

スタートアップではたらく「アドバンテージ」と「リスク」とは?――Startup Career Fair 2023レポート③

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政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置づけ、5カ年計画による大規模な創出を打ち立てた。東京都も2022年11月に都の抱える課題の解決と成長につなげることを目標とする戦略「Global Innovation with STARTUPS」を策定。同戦略では、スタートアップの成長と人材確保の支援に乗り出している。こうした中、スタートアップを有力な就職・転職先として候補に挙げ、新たなキャリア形成を考える人も増加中だ。

これを受け、東京都とスタートアップエコシステム協会はスタートアップでのキャリアに関心のある人材と、人材採用に関心のあるスタートアップが一堂に会する「STARTUP Career Fair 2023」(1/27〜28)を開催した。

同フェアでは採用に向けたピッチが行われると共に、スタートアップで「はたらく」ことの意義やメリット、デメリットなどを有識者たちが議論するセッションを実施。TOMORUBAでは、各セッションの様子をレポートしていく。第3弾となる本記事では、セッション3「スタートアップで働くアドバンテージとリスクとは?」を取り上げる。

<登壇者>


宮田昇始氏/Nstock株式会社 代表取締役CEO

2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。


山﨑敦義氏/株式会社TBM 代表取締役CEO

20歳で起業後、「わかりやすく世の中の役に立つ事業をする」「グローバルに貢献する会社になる」「兆のつくビジネスをやる」、何百年も挑戦し続ける、時代の架け橋になるような会社(Times Bridge Management )をつくりたいという想いから2011年、株式会社TBMを設立。EY Entrepreneur Of The Year 2019Japan、Exceptional Growth部門「大賞」を受賞。Plug and Play 2016「世の中に最も社会的影響を与える企業-ソーシャルインパクトアワード」受賞。2017年、スタンフォード大学にて日米イノベーションアワード受賞。日経スペシャル「カンブリア宮殿」10周年500回記念番組に登場。


小林史明氏/衆議院議員(広島7区) 自由民主党 副幹事長

前 デジタル副大臣 兼 内閣府副大臣。政治家以前はNTTドコモに勤務。法人営業、人事採用担当を務めた。上智大学理工学部化学科卒業。

<モデレーター>


崔真淑氏/株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ 代表取締役 / エコノミスト

一橋大学大学院博士後期課程在籍 専門はコーポレート・ファイナンス。学術知見やデータ解析を基盤に、企業アドバイザーやメディアでの経済解説を行う。上場企業の社外取締役を務めるほか、テレビ朝日、フジテレビなどにも出演。学術的知見をビジネスに応用することをミッションに活動を行う。

成功は約束できないが、成長は必ずできる

「スタートアップで働くアドバンテージとリスクとは?」をテーマにした本セッションでは、まず「スタートアップで働く場合、ステージによってアドバンテージとリスクはどう変わるか」との問いが出された。

山﨑氏は「当社(TBM)は新素材を開発する会社で、初期の段階はプロダクトがない状況。一方で、プロダクトを作り上げるために大きな資金が必要となる。プロダクトが完成するかは未知数で、結局何も生み出せないこともあり得る。非常にリスクは大きいが、一方で自らオーナーシップを持ちチャレンジできる。成功は約束できないが、成長は約束されている。初期の段階はそうしたアドバンテージとリスクがある」と回答した。


山﨑氏の話を受け、宮田氏は「初期のスタートアップの良さは3つあると考えられる。1つは名刺代わりのキャリア。将来的に伸びる会社の創業メンバーとなれば、その実績が高く評価される。ただし、これには入社するスタートアップの見極めが大事で、伸びない会社にいると成長も滞ることは覚えておかねばならない。2つめは金銭的なリターン。スタートアップの魅力は何と言ってもストックオプション。ただし、日本のストックオプションの制度は未整備で、ストックオプションで利益を得たいと考えるなら、先進的な考えを持つスタートアップを選ぶことが重要。3つめはやりがい。やりがいは自分の強みを活かせると感じやすい。初期のスタートアップは自分の強みを活かしやすく、さらにその会社が社会課題の解決に挑んでいる場合、社会に対しても好影響を与えるとの実感を得られる」と伝えた。

ストックオプションは、スタートアップの重要な報酬

次にストックオプションについて話題が移った。小林氏は国を挙げてスタートアップの育成に力を入れていることに触れながら、ストックオプションの問題点を挙げた。「ストックオプションは発行の手続きや管理が煩雑。1度発行したら、1年以内に渡しきらないといけないなどの決まりがある。一方、日本はIPOやM&Aのバイアウトが少なく、早期にメリットが得にくい。こうしたことを鑑み、バイアウトの発生を促す税制改正を進行している。あわせて、ストックオプションを行使した人に対しても税制を優遇し、ストックオプションで得た利益でスタートアップに投資した場合には、一定の金額までは非課税とすることを検討している」と伝えた。

宮田氏は「法律とは別に、商習慣の問題もある。多くの場合、退職すると権利を失効するが、実は法律ではなく、単なる習慣でそうなっている。アメリカでは入社して4年経てば権利が確定するが、日本はIPOが確定してからということがほとんど。近年はIPOされるまで長期化する傾向があり、いつまでたっても権利が確定しない。こうしたこともあり、日本だとストックオプションは報酬と捉えられておらず、『宝くじ』と表現されることもしばしば。SmartHRではストックオプションを把握している社員は4割にとどまる。それほど、ストックオプションへの期待値も認識も低い」と明かした。


モデレーターの崔氏が「自分の権利を知るために働き手側も、スタートアップ各社のストックオプション制度を調べるのが大事になるのではないか」と意見を述べると、宮田氏は「面接で聞くだけでも状況は変わるはず。勇気のいることだが、ぜひ聞いてみてほしい」と同意した。

政策もスタートアップの環境も変えられる

続いて、崔氏は「初期のスタートアップはがむしゃらに働いているイメージがある。そうした環境だと、女性が一歩を踏み出すのに勇気がいるのではないか。スタートアップのステージによって男女比は変わるか」と問いかけた。

宮田氏は「あくまで肌感覚なところもあるが、初期の段階では男性の比率は高い。従業員が30~50人になると比率が均衡していく。それくらいの規模になると、柔軟な働き方を取り入れているスタートアップは多く、就業環境は大企業より優れていることも少なくない」と述べた。

小林氏は「スタートアップは不妊治療や障がい者の時短勤務を支援するなど、ダイバーシティをかなり意識している。こうした認識が広まれば、スタートアップは採用においても大企業とよりフェアに戦えるようになる。先ほどのストックオプションの制度についてもそうだが、行政はスピード感を持って変革を進めている。例えば、有名なところで言えばハンコの廃止がある。政府は99%を2年以内に廃止し、テクノロジーへの代替を試みている。この国の環境は大きく変わっている。スタートアップの環境も当然変わる。多くの人の声に耳を傾けながら、環境をより良い方向に変えていきたい」と熱弁を振るった。


崔氏は「偏見かもしれないが、政策が変わるのには時間がかかるイメージがあった」と述べると、宮田氏は「実は国の動きは速い」と伝えた。以前にSmartHRが国に法改正を働きかけたところ「わずか半年で本当に変わった」と実例が紹介された。「SmartHRには長年にわたり公共政策に携わってきたスタッフがいるが、『この20年間でこんなに一気に法律が変わろうとしているのは見たことがない』と述べている」とのことだ。

山﨑氏も同意し、「当社も新素材の開発で、政府のサポートを多く受けた。時代が求めているものにはきちっと対応するという感覚は持っている」と自身の経験を振り返った。

小林氏は「行政で働いている人も社会を良くしたいという思いがある。ただ、ビジネスへの理解は深いとは言えず、何が求められているかわからないケースが多い。だからこそ、多くの人に声を挙げてもらいたい」と訴えた。山﨑氏は「政府は政策についてパブリックコメントを求めており、随時募集している。それもしっかりと目を通している印象があり、積極的に声を挙げるのが有効ではないか」と話した。

小林氏は「行政はさまざまな声に耳を傾け、国を変えていきたいとの思いがある。また、政策がより良い方向に変わったと実感したら、その声もぜひ伝えてほしい。政策を作る側のモチベーションがアップし、次も良い仕事をしようとなる」と要望を伝えた。

スタートアップで青春を楽しんでほしい

最後にそれぞれの立場から、スタートアップを目指す人にメッセージが送られた。小林氏は「日本の社会制度は大きく変わってきている。多くの人が日本は変わらないと感じているが、そう感じさせてしまったのは政治の責任。ぜひ変化をキャッチして、この国のルールを変えられることを実感してほしい。国が変化すれば、キャリアもきっと変えられるはず。より良い未来を共に切り拓いていきたい」と語った。

山﨑氏は「スタートアップがイノベーションを起こして日本を変えて世界を変える。醍醐味のあるチャレンジができる。当社も世界を変えようとしている。ぜひこれからの活動に注目してほしい」と述べた。

宮田氏は「スタートアップは青春を味わえる場所。大の大人が夢中になり、仲間と力を合わせて新しいものを作ったり、既存のルールを変えたりする。そうしたことが出来る場所は他にめったにないのではないか。人生の中で貴重な時間を過ごせる。その意味でも、お勧めできる」と伝え、セッションを締めくくった。


(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:古林洋平)

■連載一覧

第1回:スタートアップで「はたらく」を考える。キャリアにどのような変化をもたらすのか?――Startup Career Fair 2023レポート①

第2回:世界に挑戦するスタートアップで「はたらく」。グローバルマインドの企業にフィットした人材とは?――Startup Career Fair 2023レポート②

第3回:スタートアップではたらく「アドバンテージ」と「リスク」とは?――Startup Career Fair 2023レポート③

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