TOMORUBA

事業を活性化させる情報を共有する
コミュニティに参加しませんか?

AUBA
  1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. エコシステムを進化させるスタートアップについて、国・企業・個人の視点から考える――Startup Career Fair 2023レポート⑨
エコシステムを進化させるスタートアップについて、国・企業・個人の視点から考える――Startup Career Fair 2023レポート⑨

エコシステムを進化させるスタートアップについて、国・企業・個人の視点から考える――Startup Career Fair 2023レポート⑨

  • 10076
  • 9915
  • 9895
4人がチェック!

2022年11月、東京都は新しいスタートアップ戦略『Global Innovation with STARTUPS』の展開を発表した。この戦略はグローバルx10、裾野拡大x10、官民協働x10で未来を切り拓く「10x10x10のイノベーションビジョン」を掲げ、スタートアップエコシステムの構築に全力で取り組む姿勢を打ち出している。

これを受け、東京都とスタートアップエコシステム協会はスタートアップでのキャリアに関心のある人材と、人材採用に関心のあるスタートアップが一堂に会する「STARTUP Career Fair 2023」(1/27〜28)を開催した。

同フェアでは採用に向けたピッチが行われると共に、スタートアップで「はたらく」ことの意義やメリット、デメリットなどを有識者たちが議論するセッションを実施。TOMORUBAでは、各セッションの様子をレポートしていく。

本記事では、『さらに成長しエコシステムを進化させるスタートアップとは』をテーマにしたセッションを取り上げる。

<登壇者>

■小泉文明 氏/株式会社メルカリ 取締役 President(会長)

■松井しのぶ 氏/株式会社ユーザベース 取締役Chief People & Administrative Officer

■平将明 氏/衆議院議員・元内閣府副大臣

<モデレーター>

■唐澤俊輔 氏/Almoha LLC 共同創業者COO

社会課題を成長エンジンにできるスタートアップの出現に期待

岸田内閣は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、同年11月には「スタートアップ育成5カ年計画」を発表した。そこでまずはモデレーターの唐澤氏から平氏に、国としてのスタートアップ戦略について問いが投げかけられた。

平氏は「バブル期に時価総額ランキングを席捲した日本企業だが、近年はGAFAやテスラが上位を独占している。これは企業のガバナンスの問題もあるが、スタートアップが出てこないことが問題。これは、私の分析ではストックオプションの設計ミスが原因だと考えている。そうした課題がありながらも、これから人口減少が進む日本では圧倒的に生産性を高めねばならないし、新たなサービスも生み出さねばならない。スタートアップは日本の成長の鍵を握る存在として、政権としても大きな柱の1つとして位置づけている」と回答した。

続いて平氏は、国としてどのようなスタートアップに期待するのかという質問に対して、「課題先進国である日本において、社会課題がコストではなく成長のエンジンとなるようなスタートアップが出てきたら嬉しい。そして拡張性や世界進出という視点を持ってもらいたい。世界情勢が不安定ではあるが、だからこそ新たなビジネスチャンスが生まれてくるはず」と想いを述べた。

成長し続けるスタートアップを創るための鍵について、小泉氏は「ミッションの置き方」だと回答した。そして「メルカリは、創業時から大きく高いミッションを掲げ、その実現に全力を尽くしてきた。そして、創業者の山田や私のような“2回目の経営者”たちがそれまでの経験や能力、そしてそれを信じた投資家の力でドライブできた。ミッションが低かったらきっと今の姿はなかったと思う」と続けた。

また、小泉氏はミッションの高さに紐づけて、「アメリカのVCと話して驚いたのが、40代の起業家が多いことだ。色んな経験をして脂がのっている層が、VCとして最も投資のボリュームがあり成功率が高い。しかし、日本のミドル層はチャレンジをしない。そこが大きな課題だと感じている。40~50代の視座の高さや経験を活かしたチャレンジを支援することが必要ではないか」と問題を提起した。

それを受けて松井氏は「大企業にも優秀な方々がたくさんいる。ただ、意思決定をしている人が非常に少ない。スタートアップは日々どうしたいのか問われる環境。自分起点で未来をどうつくるのか、常に頭と心を使わねば生きていかない世界。それはスタートアップに入った時に最初に直面する壁だが、乗り越えるとどんな場所でも活躍できるようになるはず」と話した。

組織の拡大に伴い、経営の言葉が伝わりにくくなる?

続いてスタートアップが成長する中での課題について唐澤氏が水を向けると、ユーザベースが70人規模の頃から携わり、現在は大企業の社外取締役も務める松井氏は「思考回路や意思決定においては、規模によってあまり変わらない。しかし企業規模の大小1000人を超えると、社員の顔と名前が一致しなくなる。そうなった時、経営陣として社員に声を届けることの難しさを感じる」と述べた。

中小企業の経営にも携わってきた平氏は、「確かに、組織の大小で意思決定のプロセスはあまり変わらないと思う」としながらも、「顔と名前の一致しない相手に声を届ける」という点は「非常に難しい。経営者がミッション、ビジョン、そして志を伝える時には、やはり情熱をぶつけることが必要」と答えた。

小泉氏は「700名規模まではオールハンズで、社員の顔を見ながら言葉の端々にまで気を配って届けようとしていた。その規模を超えると、平先生がおっしゃるようにこちらの情熱を伝えることだけに集中するようになった。自分に対して嘘をつかず、誠実に伝えることだけに集中し、あとは受け手に任せる」と話すと、松井氏は「一人称で“自分ごと”として伝えることが、一番パッションが乗ると思う。何となく綺麗な言葉を使おうとすると、何も伝わらない」と同意した。

さらに松井氏は「組織の大きさによって意思決定の幅は変わらないとすると、多くの失敗をしている先人の知恵に学ぶことが一番。私自身、社外取締役をして、大企業の役員の方々は本当に優秀だと感じた。全員が自分ごととして話し、かつ質問にも明確に回答する。そういう方々の知恵を学びながら、日本を変えていかねばならない」と考えを述べた。

伝統的な日本企業から、スタートアップカルチャーへ

続いて話題は、「スタートアップカルチャー」へと移る。伝統的日本企業のカルチャーに対して、スタートアップカルチャーは「イノベーション」「多様性」「人的資本経営」「ジョブ型」といったワードが並ぶ。

スタートアップの組織づくりやカルチャー醸成におけるポイントについて、松井氏は「パッション、ミッション、バリュードリブンは常に一丁目一番地として意識をしている。どんな制度もどんなメッセージも、軸があると社員に響く。また、社内の空気やSlackでの発言など、“ちょっとした違和感”があれば全社で議論する文化がずっとある」と話した。

それを受けて小泉氏は「すべてはミッション達成のためにやっている。そのために優秀な人材が必要だし、達成するためにバリューを創っている。そしてバリューと照らし合わせてみた時の“ちょっとした違和感”は見逃さないようにする。ここで大事にすべきは、『メルカリのバリュー』に合うかどうかであって、決して私個人の価値判断ではない。会社の価値判断の軸と、個人の価値判断の軸は明確に分けるべき」と語った。

また、鹿島アントラーズFCの代表取締役社長も務める小泉氏は、伝統的日本企業からスタートアップカルチャーへの転換について、「鹿島アントラーズはいわゆる伝統的な日本企業だった。そこを一気にスタートアップカルチャーに変えたが、意外と大丈夫だった。今では50代60代の社員の方々が『Slackがなかったら仕事ができない』と話している。ただ、SlackもそうだしDXの議論もそうだが、会社をどうトランスフォーメーションしたいのかという視点が大事。その議論がなく単に新しいツールを入れるだけでは、社員にとっては面倒なことで終わってしまう。経営者が会社をどう変えたいのかをしっかりと伝えた上でデジタル化を進めれば、社員はちゃんと振り向いてくれるし、カルチャーは変えられる」と熱弁した。

平氏は行政としての組織のアップデートについて「政府もデジタル庁を中心に変わり始めてはいる。そこで大切なのは、政策もEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)にしていくこと、そしてちゃんと伝えること。また、政治は人がすべてだからこそ、能力本位で人を登用していかねばならない。自民党は先進国で初めてガバナンスコードを策定し始めている。明日からすぐに変わるわけではないが、こうした仕組みを動かすことで、じわじわと変わり始めている」と述べた。

人材の流動化で、エコシステムをさらに進化させる

次に、人材の流動性という観点で小泉氏は、「鹿島アントラーズの組織を変えていく際、働き方もツールもメルカリと同様とした。すると、副業人材を受け入れることができる。現在、データ分析はGoogle、SNSはInstagram、マーチャンダイジングはZOZOの人材が副業として働いている。もし副業を受け入れなければ、こういった人材が地方の会社で働くことはなかったはず。こうして新しい人材が入ることで、組織のダイナミズムが生まれる」と話した。

国としての人材流動性についての考えや取り組みについて、平氏は「岸田総理の所信表明演説でも、ジョブ型への移行と雇用の流動化について掲げられていた。具体的な制度はまだ決まってはいないが、成長戦略の中にそこは組み込まれていくだろう。また、兼業・副業についても引き続き進めていく。何か1つのことを突き詰めてきた人ももちろん大事だが、色んな所に足場を持っている人材は問題解決能力が高い。政府はまさにこれから6月頃の『骨太方針2023』に向けて、具体的な政策を出していくところだ」と示した。

また、スタートアップでは人材の流動が激しいが、小泉氏は「よく『株式会社インターネット』という言葉を使うが、インターネット業界を大きな組織ととらえて、色んな人が色んな新規事業を立ち上げたり、たまに同僚になったり、他に異動したりして、全体が盛り上がればいいと考えている。メルカリにも、一度起業して戻ってくる人材が多い。それも、スタートアップを自分で立ち上げた経験をまた生かす場があるのでいいと思う。実際、私もそうだけど“2回目の経営者”は強い。上場してしまうと役員も辞めにくくなるが、もっとそこを流動化させると、新興企業の優秀な役員がまたスタートアップに流れ、市場が活性化するのではないか」と持論を述べた。

松井氏は小泉氏に同意し、「当社にも、一度起業した経験のある人材が入社するケースが多い。IPOゴールが多いが、もう少し色んなオプションが増えてくればいいと思う。実際に買収により加わった経営者は、内部で育った人材とは異なり、資金繰りも何もかも苦労してきているからこそ、目線が違う。そうした人材の流動化がもっと盛んになることを願う」と語った。

ミッションドリブンで、後悔しない人生を

最後に、セッションのまとめとして、スタートアップキャリアに関心を持つ人へのメッセージが発せられた。小泉氏は「大事なことは、みなさんの人生の大切な時間をどこに費やすのか。スタートアップにはミッションが非常に大切なので、ミッションを掲げてスタートアップを立ち上げるのもいいし、共感するミッションを持つスタートアップで働くのもいいと思う。ミッションドリブンで、後悔しない選択肢を歩んで欲しい」と述べた。

松井氏は「スタートアップは出入り自由。入ってみて合わなかったらまた戻ることができる。決して一度飛び込んだら戻れない世界ではない。ただ、スタートアップに入る時には、創業者を見た方がいい。創業者の想いに共感できることが何よりも大切だと思う。なぜなら、入社後は給料もあまり高くないだろうし、ワクワクよりヒリヒリすることの方が多い。その時に拠り所となるのが、創業者や仲間たちとミッションを実現したいと思えるかどうか。だからこそ、創業者をしっかり見て、決めることをお勧めしたい」と話した。

平氏も「私も経営者を見た方がいいと思う。ミッションや志が低いと、一度は時流に乗ったとしても、いつか崩壊してしまう」と松井氏に同意。さらに平氏は「多様化が進み、課題も複雑になる中で、様々な観点を組み合わせなければ問題を解決することはできない。だからこそ、2つ3つの足場を持つのがいいと思う」と締めくくった。

取材後記

スタートアップにおけるミッションの重要性、伝統的日本企業からのカルチャー変革、そして人材の流動性についてなど、最終セッションにふさわしい様々なテーマについて活発な議論が行われた。その中で唐澤氏が、「スタートアップに“飛び込む”という表現は重たい。もっとカジュアルに働けるような場であるべき」ということを話していた。確かに、人材の流動性が高まるこれからの世の中において、平氏が言う「複数の足場を持つ人材」となるには、スタートアップで働くことは“片道切符”ではなく様々な経験を積むために有効な選択肢のひとつなのだろう。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵)

■連載一覧

第1回:スタートアップで「はたらく」を考える。キャリアにどのような変化をもたらすのか?――Startup Career Fair 2023レポート①

第2回:世界に挑戦するスタートアップで「はたらく」。グローバルマインドの企業にフィットした人材とは?――Startup Career Fair 2023レポート②

第3回:スタートアップではたらく「アドバンテージ」と「リスク」とは?――Startup Career Fair 2023レポート③

第4回:スタートアップで働くベストなタイミングとステージで異なる役割――Startup Career Fair 2023レポート④

第5回:ドラマ内の事業アイデアはどう作る?最前線のクリエイターが語るスタートアップドラマの現場――Startup Career Fair 2023レポート⑤

第6回:「スタートアップはブラック」はもう古い?最前線のプレイヤーが語る理想と現実――Startup Career Fair 2023レポート⑥

第7回:「新卒でスタートアップ」はアリ?向いている人、新卒こそ狙うべきフェーズとは――Startup Career Fair 2023レポート⑦

第8回:経営者たちはどのようにキャリアを選んできたか?スタートアップ時代の働く選択肢――Startup Career Fair 2023レポート⑧

第9回:エコシステムを進化させるスタートアップについて、国・企業・個人の視点から考える――Startup Career Fair 2023レポート⑨

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント4件


シリーズ

StartupCareerFair2023

スタートアップでのキャリアに関心のある人材と、人材採用に関心のあるスタートアップが一堂に会する「STARTUP Career Fair 2023」。スタートアップの熱量を感じれるイベントをレポートします。