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「スタートアップはブラック」はもう古い?最前線のプレイヤーが語る理想と現実――Startup Career Fair 2023レポート⑥

「スタートアップはブラック」はもう古い?最前線のプレイヤーが語る理想と現実――Startup Career Fair 2023レポート⑥

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2022年11月、東京都は新しいスタートアップ戦略『Global Innovation with STARTUPS』の展開を発表した。この戦略はグローバルx10、裾野拡大x10、官民協働x10で未来を切り拓く「10x10x10のイノベーションビジョン」を掲げ、スタートアップエコシステムの構築に全力で取り組む姿勢を打ち出している。

これを受け、東京都とスタートアップエコシステム協会はスタートアップでのキャリアに関心のある人材と、人材採用に関心のあるスタートアップが一堂に会する「STARTUP Career Fair 2023」(1/27〜28)を開催した。

同フェアでは採用に向けたピッチが行われると共に、スタートアップで「はたらく」ことの意義やメリット、デメリットなどを有識者たちが議論するセッションを実施。TOMORUBAでは、各セッションの様子をレポートしていく。第6弾となる本記事では、『スタートアップだからこそできる多様な働き方』をテーマにしたセッションを取り上げる。

<登壇者>

■門奈剣平 氏/株式会社カウシェ 代表取締役CEO

■石井芳明 氏/経済産業省 新規事業創造推進室

■水島壮太 氏/株式会社ラクスル 執行役員CPO

<モデレーター>

■岩崎由夏 氏/株式会社YOUTRUST 代表取締役CEO

苛烈になるスタートアップの採用競争。第一線では副業メンバーの評価制度や昇進も

セッションのはじめに、モデレーターを務めるYOUTRUST代表取締役CEOの岩崎氏は「スタートアップの採用は苛烈になってきている」と問題提起した。

スタートアップを選んでもらうための絶え間ない努力が必要となっている状況で、カウシェは第一線の取り組みをしているという。同社の代表取締役CEOの門奈氏は「起業した直後にコロナ禍に入ったので、多様な働き方で成長しようとチャレンジしている」と語り、その結果、従業員120名のうち80名が副業という構成になったという。

▲カウシェCEOの門奈氏

副業のメンバーでも評価や異動、1on1、昇進がある人事制度を導入しており、副業は「時間の切り売りではなく、キャリアの幅を出してほしい」と考えているとのこと。こうした取り組みが功を奏して、カウシェは現在シリーズBだが、これまで副業メンバーの20〜30%が正社員化してきた実績がある。

また副業以外にも、時短勤務の正社員の採用にも注力していて、上長とすり合わせができているなら時短勤務が可能になる「誰でも時短」という制度がある。これは一般的な「子育てや介護」を目的とした時短だけでなく、余った時間を「勉強」や「副業している会社へのコミット」に充てることも可能だそうだ。

これらの施策に対して岩崎氏は「副業でジョインして相性を確かめるのはスタートアップでは有効」として、「上場しているラクスルでもYOUTRUSTを通じて副業メンバーを採用している」と事例を紹介した。これに対しラクスル執行役員CPOの水島氏は「知り合いのデザイナーの副業意欲がアップデートされたのを見て副業としてジョインしてもらい、その後正社員になってもらった。ラクスルではYOUTRUSTを活用するのは業務の一部となっている」と、副業のリファラル採用の現場感を述べた。

このケースを成功事例として、再現性を持たせるための工夫としてラクスルでは副業でのジョインがスタンダードになっているとのこと。この取り組みはデザイナーの採用から導入を開始したというが、その理由は「デザイナーやエンジニアは副業しやすいポジションが多い」ためだと考えを共有した。

デジタル庁は「リモート前提」「副業メンバーが多い」省庁が考える人材の流動性

また、水島氏は自身もデジタル庁で副業している経験から「非常勤という肩書きがついている副業メンバーが多いが、そんな体制でも成果はしっかり出ている」と、多様な働き方のメリットを語った。

門奈氏は「ラクスルとデジタル庁の仕事配分は」と質問すると水島氏は「半々くらいだが、常に2つのPCを開いて数十分ずつスイッチしている状態。デジタル庁がリモートワーク前提でスタートしているので、そうでなければこの働き方は無理だった」と答え、役所の働き方としてデジタル庁が先進的であるとの見方を示した。

▲ラクスル執行役員CPOとデジタル庁を兼務する水島氏

経済産業省新規事業創造推進室の石井氏は「働き方はデジタル庁が一番進んでいる」と同意しつつ「経産省でも出向はしていて、スタートアップや銀行、自治体などから来てもらうケースはある。デジタル庁の働き方を参考に、僕らも副業人材の受け入れを検討している」という。

経産省が副業を検討する真意として「オープンイノベーションを推進したいが、そのためには人材が流動的でなければならない。そのために副業を試す価値は十分ある」と語った。石井氏は特に、「地方のスタートアップにとって副業は重要」だと話す。「地方に有望なアイデアの芽があっても人材の不足が原因で育たない場合がある。そんな時に副業は有効。スタートアップのステージに応じて必要な人材を副業で獲得できるように整備したい」と展望を述べた。

副業は「楽して稼げる」では続かない。何かしらのモチベーションを持つべき

セッションはその後、「なぜ副業をするのか」の話題に及んだ。登壇者の中では水島氏がラクスルとデジタル庁で副業を実践しているが、岩崎氏は水島氏の副業は「かなりレアケース。まずメインの仕事は持たず50%ずつというのが珍しいし、プロダクトマネージャー(PM)も副業はしにくいポジション」だと言う。

岩崎氏は続けて、「水島さんの副業は再現性が低いが、一般的には本業の他に10〜20%の時間を充てるケースが多い」と説明した。続けて、「10〜20%といってもかなり大変。『楽して稼ぎたい』だと長続きしない場合が多い」と、副業をするには金銭面以外にモチベーションを持つことが重要だと示唆した。

▲モデレータを務めるYOUTRUSTの岩崎氏

石井氏は自治体にも副業メンバーがいると事例を語る。「福山市には東京でコンサルを本業にしているメンバーが週に1〜2日だけ副業でジョインしている。市の政策立案を担当しているが、そのメンバーに言わせると『フィーではなくやりがい』で副業をしていると言っている」とのことだ。そのことから、副業メンバーにモチベーションを持たせる「デザイン」をすることがマネージャーの仕事になってくると説明した。

では、多様な働き方を実践する組織を率いる経営者はどう考えるべきなのか。門奈氏はこの変化を逆にチャンスと捉えており「時代の流れに誰よりも適応していくことは強みになる」と述べた。

「報酬が大企業超え」は優良スタートアップに限った話

岩崎氏は「転職を考えている方から話を聞いても『子育て中だからスタートアップでは働けない』といった、スタートアップはブラックだという印象を持っている人が多いと感じる」と実感を語った。スタートアップで働くのは実際どうなのか。

門奈氏がCEOを務めるカウシェでは「基本的にリモートで成り立つようにしている。そのために社員は高いレベルで自己管理して、会社の情報もよく理解し、リモートでも周りに熱量を分け与えながら、自走できる組織を作っている」と理念を説明した。そのうえで、「社員は自由と責任を持って仕事ができる」という。

さらに「どちらかというと、今はスタートアップで残業はしにくい」と実状を明かした。大きくうなずく岩崎氏を横目に、門奈氏は続けて「社会の公器として上場を目指すならば、社員に変な残業(サービス残業)はさせられない。残業するならガンガン残業代はつけてもらうようにしている」と語り、ブラックだと思われがちなスタートアップの印象を払拭した。

加えて「カウシェには入社して3年経つとストックオプションを持ったまま退職できる仕組みがある」とユニークな制度を紹介した。これは大企業と比べてリスクの高いスタートアップで働くことに対しての正当な報酬であり、貢献してくれた社員は辞めても外部から応援してもらおう、という意図からはじまった制度だという。

石井氏は「ちょうどいまスタートアップのストックオプションが正しく行使できるようなガイダンスを作っているところ」だと語り、ストックオプションの重要性に共感を示した。

▲経済産業省新規事業創造推進室の石井氏

岩崎氏は「生々しい話を聞かせてほしい」と前置きし「日経新聞で大企業とスタートアップの報酬が並んだどころか、スタートアップの方が報酬が高いと報じられているのを見たが、実感はどうか」と質問が飛んだ。門奈氏はうなずきながら「カウシェの報酬をみると『優良企業だな』と思う」と語り、噂を否定しなかった。続けて「間違いなくスタートアップの方がペイがよくなってくる時代になってきた」と潮流を読んだ。

水島氏は「これまでは採用にコストをかけてどんどん採用して離職率も高かった。今は社内にいる人にコストをかけて育成しようとしている」と語り、カウシェとラクスルというステージの異なるスタートアップでも報酬に対する認識が近いことがわかった。

規律が高まったスタートアップにまだまだ残る泥臭さ

日本のスタートアップ市場は成熟しており、上場から逆算して組織を作るのが当たり前になった。そのため近年のスタートアップは比較的早いステージからガバナンス、ファイナンス、コンプライアンスといった側面が重視されているため「規律が高いスタートアップが多くなっている」という。

一方でスタートアップでは、これまでもこれからも変わらずに泥臭さは残っているのだそう。ラクスルはスタートアップからメガベンチャーにステージが変わりつつあるが、新規事業も多く走っているため「主幹事業と新規事業の間に摩擦があり、統制をとるのが難しい」とリアルな現状を語る。

規制改革も担当している石井氏は「コンサバティブな規制側と、事業のために規制を変えたいスタートアップ側が交渉すると、立場の違いからすぐに衝突してしまうケースが多い」と、摩擦の問題に共感を示した。続けて「省庁などとの交渉が得意な大企業の人材がスタートアップに貢献してくれると摩擦の解消につながるのでは」と、ここでも人材の流動性の大事さを説いた。

門奈氏は、こうした壁を打開するために「個人の力」が求められるという。スタートアップは規律が高まったが、これは「権利と共に責任を持つということ」であり、「スタートアップは個人の力で会社の社運を変えることができるし、それを期待している」と語った。

岩崎氏もこれに同調し「UberもAirbnbも規制を乗り越えて新しいものを生み出してきた。スタートアップは世の中にない新しいものを作っているので、『うねり』を生まなくてはいけない」と考えを共有した。

セッションの最後、水島氏は「イノベーションを生むには激しいリスクを取らなければならない。なので大企業からスタートアップに行くと驚くこともあるだろうが、それを楽しむ変化が必要」と、IBM、DeNAといった大企業からスタートアップへ転身した自身の経験を重ねて来場者にアドバイスした。逆にスタートアップは大企業のノウハウを利用するなど、「融合を目指す」ことで良い結果が出るだろうと述べて締めくくった。

編集後記

モデレーターの岩崎氏含め、異なる立場からスタートアップの最前線で活躍するプレイヤーの生々しい話が聞けた貴重なセッションだった。印象的だったのは、スタートアップの報酬が大企業を上回ったという話題だ。門奈氏が自社の社員の報酬が優良企業なみに上がっていると実感を語る一方で、全体を俯瞰する立場の石井氏が「スタートアップが平均的にそうとは言えない」と答えたことによって、スタートアップといっても千差万別であることがうかがえた。スタートアップで働くことに関心のある人にとっては参考になったのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:久野太一)

■連載一覧

第1回:スタートアップで「はたらく」を考える。キャリアにどのような変化をもたらすのか?――Startup Career Fair 2023レポート①

第2回:世界に挑戦するスタートアップで「はたらく」。グローバルマインドの企業にフィットした人材とは?――Startup Career Fair 2023レポート②

第3回:スタートアップではたらく「アドバンテージ」と「リスク」とは?――Startup Career Fair 2023レポート③

第4回:スタートアップで働くベストなタイミングとステージで異なる役割――Startup Career Fair 2023レポート④

第5回:ドラマ内の事業アイデアはどう作る?最前線のクリエイターが語るスタートアップドラマの現場――Startup Career Fair 2023レポート⑤

第6回:「スタートアップはブラック」はもう古い?最前線のプレイヤーが語る理想と現実――Startup Career Fair 2023レポート⑥

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スタートアップでのキャリアに関心のある人材と、人材採用に関心のあるスタートアップが一堂に会する「STARTUP Career Fair 2023」。スタートアップの熱量を感じれるイベントをレポートします。