【欧州発フードテック イベントレポ】植物性のエビや刺し身も! その実力は?
市場調査を提供するシード・プランニングによれば、世界の植物由来代替肉の市場規模は2030年には886億ドル(約12兆円)に拡大すると予想されている。近年は植物性の乳製品やシーフード、培養肉なども登場し、代替食品市場はますます活況だ。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第39弾では、2023年1月20日にShibuya Startup Supportが渋谷で開催した海外のプラントベース食品とフードテックスタートアップを紹介するポップアップ「Food Popup Day」のレポートを届けたい。
渋谷区のスタートアップビジネスを盛り上げる取り組みの一貫として実施された本イベントでは、約20のスタートアップを扱い、一部商品の試食会も実施された。その中から抜粋したユニークなプロダクトを紹介する。
新時代の乳製品。バイオテックで作る「チーズ」も
▲ドイツの「VlyFoods」が発売する、えんどう豆を原料としたミルク代替品
2018年創業、ドイツの「VlyFoods」が開発するのは、えんどう豆を原料とするプラントベースのミルクだ。同社の代替えミルクは、牛乳よりもカルシウムやタンパク質が多く、糖分が少ない。さらに、牛乳には含まれないセレンやヨウ素などの栄養素もカバーできるという。
創業者は栄養士、食品技術者、弁護士の3名。最初の2年間は研究開発に費やし、2020年に市場に登場した。ドイツではミルクに加え、ヨーグルトも発売されているそうだ。
試食会ではグラノーラと共に提供され、「グラノーラと一緒ならおいしいが、単体で飲むには慣れない味」という声も。残念ながら筆者は時間の都合上、試食会に参加できなかったが、やはり「豆くささ」が多少残るのかもしれない。
▲ドイツの「Formo」が発売する、バイオテクノロジーを活用した代替えチーズ(提供:Formo)
2019年創業、ドイツ発の「Formo」では、バイオテクノロジーを活用してチーズの代替品を開発する。微生物の培養から始まり、精密な発酵により動物性の乳タンパク質を含まない乳製品を作り、それをチーズに仕上げる。ナッツのような風味と伸びのある食感、絶妙なプルプル感が特徴だという。
一般的な酪農と比較して温室効果ガスの排出量を91〜97%削減する可能性があり、水の消費量を96~99%削減、エネルギー消費量も最大60%削減できると、同社では主張する。2023年中に市場進出を見込んでいる。
▲イギリスの「The Raw Bake Station」が発売する、グルテン・乳製品フリーのクッキー
2015年創業、イギリスの「The Raw Bake Station」では、グルテン、乳製品、ピーナッツ、精製糖を使用せず、代わりにアーモンドバターを使用したクッキーを発売する。小さなブランドではあるが、今日ではイギリス全土で商品が販売され、最近アラブ首長国連邦にも進出している。
試食会では、「パッケージがかわいい」「さっぱりしすぎず、おいしい」という声があったという。日本ではグルテンフリーのクッキーはめずらしいので、健康意識が高い層に需要があるかもしれない。
日本でなじみ深い「海藻」の新たな可能性
▲ドイツの「Happy Ocean Foods」が発売するプラントベースの「エビ」
本イベントでは、「海藻」関連のプロダクトも目立っていた。中でも、2019年に創業したドイツの「Happy Ocean Foods」が開発したプラントベースの「エビ」は目を引いた。植物由来のタンパク質と藻類を使ってエビの食感や風味を引き出しており、本物のエビに近い形や色が再現されている。オメガ3脂肪酸やタンパク質を豊富に含むという。
同社の製品「HAPPY OCEAN SHRYMPS」はBtoB、BtoCの両方に販売しており、ドイツの大手食品会社とも取り引きしている。グローバルのマーケットリサーチを提供するAllied Market Researchによれば、植物性シーフードの市場規模は年々拡大しており、2031年には13億ドル(約1,700億円)に達すると予想されている。
気になる味だが、試食会では賛否両論の結果に。「エビ特有のプリッとした食感はあるが、味は本物には程遠い」とシビアな評価も。一方で「おいしい」という声もあり、エビアレルギーの人への代替品としても期待される。
▲ドイツの「Oceanfruit」が発売する海藻を使った食品
2018年創業、ドイツの「Oceanfruit」は、ヨーロッパの海藻や地元の野菜を使った食品「Nordic Oceanfruit」を販売する。そのままでも、サラダなどの料理にトッピングして食べることもできる。ドイツをはじめとした欧州では、寿司店など日本食レストランで海藻を食べることはあっても、地元の食材と組み合わせて調理することは少ない。そこで、環境面でプラスの影響をもたらす海藻を使い、現地の人でも食べやすく加工して販売しているそうだ。
▲ドイツの「Oceanfruit」が立ち上げた新ブランド「BettaF!sh」のツナ代替品(BettaF!shの公式ホームページより)
さらに、同社では海藻を使ったツナ代替品の新ブランド「BettaF!sh」も立ち上げ、サンドイッチやピザを開発。ドイツのスーパーマーケットで販売されている。海藻もツナも試食会の評判が良く、「おしゃれでおいしい。海藻の可能性を感じた」といった声が聞かれた。
抵抗感が強そう? プラントベースの「刺し身」
▲ルーマニアの「Bluana」が発売するマグロとサーモンの刺身代替品(Bluanaの公式ホームページより)
ルーマニア発の「Bluana」は、微細藻類由来のタンパク質やスーパーフードのモリンガ、シイタケ、昆布などの原料料から、マグロとサーモンの刺身代替品を開発する。オメガ3脂肪酸、ビタミンBやDなどを豊富に含む。
BtoB販売が中心で、収益の約7割が卸売業者やスーパーマーケット、ホテル、レストランへの販売、残りがオンラインでの消費者への販売と予想しているそうだ。ドイツの大手魚販売会社や中央・東ヨーロッパの小売会社と契約している。
大手と契約するぐらいなので、少なくとも欧州の人々にとっては「アリな味」なのかもしれない。しかし、刺し身や寿司へのこだわりが強く、そのおいしさを存分に知る日本人が受け入れられるかは未知数だ。同製品は試食の提供がなかったが、食べてみたいという好奇心はそそられる。
「味噌」に「旨み」も。欧州で広がる日本の調味料
▲オーストリアの「wiener miso」が発売する現地素材を使った味噌
オーストリア発「wiener miso」は、オーストリアで現地の素材を利用した味噌を開発する。ファウンダーのSirkka氏は香港に長く住んでいた経験から、アジアで食べた味噌をヨーロッパで展開したいと、10年かけて商品開発を行なったという。
日本でメジャーな味噌をあえてイベント内で扱った背景として、日本の味噌はパッケージがおしゃれとはいえないが、海外では瓶詰めの洗練されたパッケージで販売されている点を伝えたかったそうだ。日本では見かけない「キャラメル味噌」もあり、試食会では「予想外においしい」と好評だったとか。
▲フィンランドの「Nordic Umami Company」が発売する植物由来の旨味調味料
2021年創業、フィンランド発「Nordic Umami Company」は、食品業界の副産物をベースとし、カーボンニュートラルで植物由来の旨味調味料を開発する。廃棄物を削減すべく、他の食品メーカーが通常廃棄するような野菜、穀物、ハーブを用い、微生物を利用した自然発酵をベースとしたプロセスにより製品に使用している。その技術は特許申請中とのこと。グルテン・シュガーフリーのほか、添加物も一切使用せず、健康にも配慮されている。
2022年11月から、オンラインショップに加え、フィンランド国内の大手スーパーマーケットでも発売が開始された。シンプルでおしゃれなパッケージは、いかにも北欧らしい。とても旨味調味料には見えない。
試食会での感想は、賛否両論。「味が薄い」「味がオーガニックすぎる」と批判的な声があった一方で、「ヴィーガンでここまで出汁を取っていることやフードロスの解決に寄与する点は評価すべき」とのポジティブな意見があがった。
▲ノルウェーの「b.culture」が開発する、食品の副産物を発酵させて作った醤油(b.cultureの公式インスタグラムより)
2020年創業、ノルウェー発「b.culture」は、食品の副産物を発酵させ独自の醤油を開発する。原材料は、スウェーデン産の有機えんどう豆を使用した味噌や日本から輸入した麹だという。日本の味を再現するため、さまざまな麹を使って研究したそうだ。
2020年〜2022年2月まで北欧に在住していた筆者の感覚では、現地で寿司は非常に人気が高く、「寿司ビュッフェ」のレストランをいたるところで見かけた。日本人からすると通いたいクオリティではなかったが、本格的なコース料理で提供される高級寿司店は、満足度が高かった。こうした日本食人気の広がりが、調味料の開発にまで発展したのかもしれない。
写真撮影:小林 香織
編集後記
今や、プラントベースのミルクや肉は、近所のスーパーマーケットでも入手できるほど浸透している。環境に良く健康的、ヴィーガン主義の人でも食べられる食品の選択肢が増えたことは非常に喜ばしい。しかしながら、「おいしくない」「価格が高い」の2点が購入の大きな壁になっていると感じる。植物性の代替食品市場がより拡大するなかで、おいしく食べられ、購入しやすい価格帯になることを期待したい。
(取材・文:小林香織)