DATAFLUCT、ウェルナス、富士通の3社が採択!2年目を迎える地域版SOIP開幕戦、<甲信越・北陸>エリアのビジネスビルドをレポート
「スポーツの成長産業化」を目的に、スポーツ庁が手がけている「スポーツオープンイノベーション推進事業」。その事業の一環として、スポーツ界と他産業が連携し、新たな財・サービスを創出するプラットフォームが、「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」だ。
国内各地域におけるSOIP(地域版SOIP)を構築するため、本年度は、北海道、甲信越・北陸、東海の3エリアを舞台に、「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022」を開催。第一弾となる「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD KOSHINETSU-HOKURIKU」が、11月10日(木)・11日(金)の2日間、長野市生涯学習センターにて開催された。
甲信越・北陸エリアのホストチーム・団体は、「松本山雅FC(サッカー)」「信州ブレイブウォリアーズ(バスケットボール)」「公益財団法人長野県スキー連盟(スキー・スノーボード)」の3チーム。多数の応募の中、厳正なる選考を通過した6社が一同に会し、ビジネスビルドに挑んだ。ホストチームとのディスカッションや、メンターによるメンタリングを通じて、2日間でブラッシュアップされた各チームのビジネスアイデアを、最終発表と審査結果を中心に紹介する。
2日間の集中的な議論とメンタリングで、社会実装を目指せるプランへ
DAY1は、全参加企業が会場に集合し、各チームでアイデアをブラッシュアップ。ホストチームやメンターと入念に議論を交わし、ブラッシュアップを行った。メンターには、スポーツビジネスやイノベーション創出の最前線を走る人物が名を連ねた。中間プレゼンでは厳しいフィードバックを受けながらも、各チームが実現可能なビジネスプランを目指し、アイデアをさらに整理していった。
DAY2は、さらに入念なメンタリングを重ねて、最終発表に向けてビジネスアイデアの磨き上げを行った。そしていよいよ、参加企業6社は最終発表会に臨んだ。採択基準は、(1)新規性 (2)テーマとの合致度 (3)市場性 (4)事業拡張性 (5)実現可能性 の5つだ。
2日間のメンタリングにより、各社はどのような共創アイデアを練り上げていったのだろうか。最終発表の内容を、採択された企業をメインに紹介する。
【松本山雅FC】 チームと地域のためのエコ活動を見える化し、Jリーグを“グリーンなリーグ”へ
設立以来、地域貢献活動や社会連携に力を入れ、Jリーグの中でも特にファンエンゲージメントが高いチームといわれる松本山雅FC。これまで力強い地域の応援のもと、積極的にSDGsや地域貢献活動を推進してきた。今回テーマとして、『地域に根差し地域と共に成長し続けるサッカークラブを目指す』を掲げ、これまでの活動を次のステップへと進化させ、持続可能な環境整備を共に実現するパートナーを募集した。そして最終プレゼンの結果、「株式会社DATAFLUCT」の提案が採択された。
■株式会社DATAFLUCT
提案内容「松本山雅エコ活アプリ“ゼロカーボンチャレンジ”スポンサープラン」
データの力で持続可能な未来を実現することをミッションとし、データの収集・蓄積・加工・分析を一気通貫で実現する株式会社DATAFLUCT。同社は、「One Soul, One Heartでみんなのやさしさを可視化する“ゼロカーボンチャレンジ”スポンサープラン」をテーマに提案した。
松本山雅FCは、地域から強く愛されているサッカークラブであるが、現在スポンサー収入の頭打ちや、新規獲得の困難さを課題に抱えている。また、DATAFLUCTは、BtoC環境事業の方針についてピボットを検討している。その価値検証を共に行うべく、共創に名乗りを上げたという。
プランのターゲットに据えたのは、「自社の環境貢献をPRしたいと考えるオフィシャルスポンサー企業」。スポンサー企業やサポーターが、松本山雅や松本市の地域のために行ったエコ活動をアプリに登録することで、CO2削減量に応じたポイントを獲得。スタジアムの電光掲示板に、CO2の合計削減量を表示するなど、行動を可視化することで、スポンサーやサポーターとのさらなる一体感の醸成と、ゼロカーボンチャレンジ活動促進を狙う。
まずは松本山雅FC単独で取り組み、2030年以降はJリーグ全体に横展開していくことを目指す。さらにその先には、Jリーグが世界的にも“グリーンなリーグ”として認知が広がることを見据えたプランだ。最後に同社は、「データの力で松本山雅への愛をつなげます」と宣言し、プレゼンテーションを終えた。
<ホスト企業・受賞者コメント>
松本山雅FCの小澤氏は、「これからDATAFLUCTさんと共にスタジアムで行うエコ活動を可視化して価値を持たせていきたい」と、今後の実証への見通しを話した。そしてメンターとしてプロジェクトをサポートするJリーグの鈴木氏は、「サッカー界は大変だがとても楽しく、サポーターの方や地域の皆さんと関わることができる。完璧を求めず、一緒に色々なことを創り上げていきたい」とメッセージを送った。
採択されたDATAFLUCTチームは、「美しい松本の町に関わることができるのが嬉しい」と喜びを語りつつ、「これから我々ももっと勉強しなければならない。頑張りたい」と意欲を述べた。
【信州ブレイブウォリアーズ】 食の面から地域の人々に寄り添い、健幸の循環と新規ファンの獲得へ
日本のプロバスケットボールリーグ、B.LEAGUEのトップリーグで活躍する信州ブレイブウォリアーズ。バスケットを通じて信州をもっと元気にするというクラブ理念のもと、成長している。今回掲げる募集テーマは、『プロバスケを日常に浸透させ「長野県(信州)全域」を健幸へ』。スポーツを通じたまちづくりを共に行う共創パートナーを募集した。最終的には、「株式会社ウェルナス」の提案が採択された。
■株式会社ウェルナス
提案内容「健幸に寄り添う勇者のチーム 信州ブレイブウォリアーズ」
信州大学農学部発のフード&ヘルステックベンチャー、株式会社ウェルナス。食の新しい未来を創造する事業として、個々の目標を実現するために栄養を最適化した食を届ける「AI食」技術を開発、この技術を搭載したパーソナルヘルスケアサービス「NEWTRISH(ニュートリッシュ)」を来年1月にサービスローンチ予定である。
同社が今回提案するのは、人々の健康と幸せ“健幸”に寄り添う事業だ。食が体に与える影響は、人によってまったく異なるという、信州大学での研究結果がある。何を食べたら健康になるのかはもちろん、食べる喜び、誰と食べるか、どこで食べるかも人によって違う。
しかし「食」に関わる行動は、普段の生活の中で、何気なく選択していることが多い。この日常に、信州ブレイブウォリアーズと寄り添うことで、すべての人を健幸にするプランを提案した。具体的には、「健幸ポイント」という新しいプラットフォームをつくる。ウェルナスが提供するアプリを通じて、食材や献立の提案を行うほか、試合観戦やグッズ購入に応じて健幸ポイントを付与。そのポイントを、スポンサー企業のスーパーや飲食店で利用できるという仕組みだ。
また、持続的なチーム運営のため、アプリを通じた選手への食事管理効率化も行い、パフォーマンスアップを目指す。そして、健康の実現と新規顧客の獲得、さらには地域活性化を実現する。ユーザー、チーム、企業、地域すべてが“健幸”となるプランだ。
<ホスト企業・受賞者コメント>
信州ブレイブウォリアーズの渡辺氏は、「プロバスケットボールチームとして、地域を盛り上げることが一番の目的。今回の提案は、地域の色んな方に広がっていくことに感銘を受けた」と採択の理由を述べ、一緒に地域の人を元気にしていこうと呼びかけた。メンターのパラレルキャリアエバンジェリスト・常盤木氏は、「DAY1で、かなり厳しいことを言ったが、テーマの部分から修正し、オープンイノベーションのあるべき姿を追求したことが素晴らしい。まだまだ課題は多いが、丁寧にこの事業を育て、新たな人を巻き込んでファンエンゲージメントを高めることを目指してほしい」と期待を込めて語った。
ウェルナスの小山氏は、「共通しているのは、すべての人を健やかで幸せにすることなので、そこを目指してユーザーを増やし、興行収入を上げるプランを検討し直してプレゼンをした。今後も色んな方の力を借りて事業化を目指していきたい」と語った。さらに、「フィードバックに心が折れそうになったが、なんとか修正できた。今後もブラッシュアップを続けて、一緒に地域を盛り上げるプランにしたい」と振り返った。
【長野県スキー連盟】 スキー・スノーボードに“熱狂”する仕組みをつくり、雪山を再興させる
1932年に創立された公益財団法人長野県スキー連盟は、選手の育成・強化、スノースポーツの普及・発掘を柱に運営をしている。今回の募集テーマは、『雪山の楽しさを感じながら、スキルアップを楽しみたい人を対象にスキー・スノーボード人口増を目指す事業』だ。長野オリンピック・パラリンピックを開催した1998年に1800万人だったスキー/スノーボードの参加人口は、2020年には430万人まで減少している。そこで市場活性化を目指し、新規ファン層の開拓や、リピーター獲得を進めるための提案を募集。「富士通株式会社」の提案が選ばれた。
■富士通株式会社
提案内容「スキーをもっと上達できる もっと誰かと繋がれる」
富士通からは、20代の若き同期3名が参加し、提案を行った。長野県スキー連盟が提示したように、スキー人口やスキーの技能検定であるバッジテストの受験者数は大幅に減少しており、人口を増やす施策が求められている。しかし、日本の人口減やレジャーの多様化などにより、新規獲得は難しい。そこで着目したのは、リピーターの獲得と離脱防止、つまり“熱狂的な人”をつくることだ。そのために、富士通が強みとするデジタルの力で、スキーを楽しみながら上達できる仕組みをつくる。
具体的には、自分がスキーをしている動画をスマホで撮影し、その動きを解析する。また、その日練習したメニューや動画などを保存してカレンダー形式でまとめ、成長の記録を追いやすくする。さらには、それを仲間とオンラインでシェアしてつながり、お互いに教え合うことで、よりスキーに熱狂するというサービスだ。こうして“熱狂的な人”がさらに上達し、色々な仲間と繋がる世界を創ることができる。
また、デジタル化を進める副次的な効果として、企業連携や会員情報の管理、ノウハウの世界展開など、今までできなかったことにもチャレンジできる。今後、実証を経て、まずは長野県内で“バズる”サービスへと育て、5年程先には全国のスキーヤーの利用を見込んでいるという。
<ホスト企業・受賞者コメント>
長野県スキー連盟は、「特にデジタル化が進んでいないスキー業界だが、今回の提案でデジタル化を加速させることで、スキーの楽しみを広めていけると期待している」と語った。そしてメンターであるKDDIの中馬氏は、「プレゼンは素晴らしかったが、ビジネスモデルとしてはまだまだ。しっかりと伴走してサポートしたい」と今後に向けた意欲を語った。
富士通チームは、「この場に立って、スポーツでビジネスをしていく覚悟ができた。長野県スキー連盟さんと一緒に、よいものを創っていきたい」、「デジタルの強みを生かして、スキーの楽しさを伝えていきたいと思って参加した。採択していただき、ワクワクしている」と希望を語った。
ゼロカーボンマッチ、地域内経済循環の仕組み、スノーフィールドでの教育的体験提供――バラエティに富んだ提案
今回は惜しくも採択に至らなかったが、アスエネ株式会社、一般社団法人ローカルカラー、株式会社日本旅行もビジネスビルドに参加し、提案を行った。
■アスエネ株式会社(松本山雅FCへの提案)
提案内容「ゼロカーボンマッチから実現する持続可能な地域の未来づくり」
「次世代によりよい世界を」をミッションに、世界の気候変動問題に取り組むアスエネ。同社は、ゼロカーボンを強く推進する松本市において、“真のゼロカーボンマッチの実現”を提案した。電力だけではなく、従業員の移動や輸送など、様々な工程を含めたゼロカーボンを目指す。アスエネのCO2見える化サービスなどを活用しながら、松本山雅FC・企業・ファンすべてを巻き込むような企画を行い、持続可能な脱炭素社会に向けた日本発の事業創出にチャレンジするというプランだ。
■一般社団法人ローカルカラー(信州ブレイブウォリアーズへの提案)
提案内容「バスケを起点に地域とお店の架け橋となり、地元でお金の地産地消」
長野県の地域経済循環型の福利厚生サービス「ローカルメリットクラブ」を運営するローカルカラーは、約1万8000人の会員と、長野県内に本社・本店がある加盟店630店舗の基盤を持つ。こうした地域に根差した基盤を活用して、未観戦層にはブレイブウォリアーズの啓蒙を、既存ファンには試合後のファン同士の交流の場として加盟店への送客を行うなど、新規ファンの取り込みと、地域経済の活性化、地域内での経済循環を実現するビジネスプランを提案した。
■株式会社日本旅行(長野県スキー連盟への提案)
提案内容「スキー体験からスノーフィールドの体験へ」
日本旅行が提案したのは、スノーフィールドを通じた教育的なプログラム「雪の教室」の提供だ。価値観の多様化により、レジャーの選択肢が増加する今、スキーに関心を持つ若年層は減少している。しかしながら、「子供に新しい体験をさせたい」という教育熱心な保護者のニーズは高まっている。そこで、雪を使った様々な教育的体験を企画・提供することで、スキー場を単に「スキーをする」場所から、「他にない体験ができる場」と新たな価値を付加し、エントリー層の拡大を狙う提案を行った。
甲信越・北陸エリアのスポーツ産業を、これから一緒に盛り上げていきたい
採択企業の発表後は、2日間のビジネスビルドの総評がメンターから行われた。プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社の平地大樹氏は、参加企業を労い、「DAY1 の苦悩から、最終発表会の素晴らしい提案への進化を伴走でき、とても楽しかった。特に、採択されたDATAFLUCTと富士通のチームからは、若いパワーと未来への希望を感じた。ウェルナスは、アントレプレナーとしての気概が見え、非常にいい時間だった」と称賛した。
そして「スポーツチームは、ファン、地域の人、行政、スポンサー、メディアなど、ステークホルダーがたくさんいて、そのハブになれる。SOIPは、色んなステークホルダーの関係性の中で、企業の技術を使うということと、チームのステークホルダーのハブになれる力を掛け合わせて、新たな価値を生み出すことができる取り組み。今後、PoCを進める中で、オープンイノベーションをしっかりと意識して取り組んで欲しい」と期待を述べた。
地域パートナーである一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)の荒井氏は、「長野に移住して3年になるが、今回のビジネスビルドでは、これまでにない熱気を感じ、メンターの皆さまの鋭い指摘に刺激を受けた。NICOLLAPは、信州ITバレー構想という、IT産業の集積地を創る構想実現のために、長野県の事業者と世の中のテクノロジーを実装するクリエイターを集めている。そのコラボレーションによって新しい産業を生み出していくために、この3年間取り組んできた。その中で、オープンイノベーションの難しさを日々痛感しているが、今回のビジネスビルドでは、新結合で価値を生み出すオープンイノベーションが感じられ、長野県にとっても非常に良い機会だったと思う。今回参加した6社すべてに可能性を感じている。今後、責任をもって伴走支援をしていきたい」と語った。
最後に、スポーツ庁の城坂氏と坂本氏が閉会の挨拶を行った。城坂氏は、「2日間、参加企業が苦労しながらも密度の濃い時間を過ごしてきたことが、採択のコメントなどからも窺い知れた。スポーツ庁として、今後もしっかりとサポートしていきたい。採択プランが事業化することを願っているし、他の競技やチームもたくさんあるので、これをきっかけにスポーツ産業を一緒に盛り上げていきたい」と述べた。
坂本氏は、「採択された方々の反応や、議論の様子を見て、スポーツ庁としても開催してよかったと感じた。新しいビジネスモデルを創るためには、まだまだ乗り越えるべき課題はある。今日からがスタートになるので、来年のデモデイに向けて、ぜひ色んな方の意見を聞いて、議論をしていただきたい」と締めくくった。
閉会後の会場には、2日間のプログラムを走り切った高揚感と開放感、そしてこれから始まるインキュベーション・実証に向けた前向きな想いが広がり、今後の盛り上がりを感じられた。
取材後記
2日間という短い時間の中で、「なんとしても新たなビジネスを生み出そう」「スポーツ×他産業によるオープンイノベーションの力で地域活性化を実現しよう」という、参加企業、ホストチーム、メンターの熱い想いがこもったプレゼンテーションが印象的だった。
INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILDは、この甲信越・北陸を皮切りに、北海道、そして東海と順次開催される。そこで採択された事業アイデアは、各ホストチーム・団体とメンターとともに、社会実装を目指してインキュベーション・実証を行い、事業化に向けた検討を進めていくことになる。2023年3月1日には、その成果発表の場としてデモデイを予定している。スポーツの力で、これから各地域がどのような盛り上がりを見せるのか、期待は高まるばかりだ。
(編集・取材:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)