地域版SOIP「ビジネスビルド」開幕戦の舞台は<関西>――ガンバ・レッドハリケーンズ・関学と共創に挑む4社が決定!
共創によって新たなスポーツビジネスの創出を図る「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」(ビジネスビルド)――。地域に根差したスポーツチームをホストチームに迎え、各チームの実現したいテーマに対してビジネスアイデアを公募。2日間のディスカッションをへて、ビジネスアイデアをブラッシュアップし、社会実装へとつなげるプログラムだ。スポーツ庁が主催している。
本年度は、北海道、関西、中国、沖縄の全国4つのエリアで、プログラムを同時開催。地域から日本全土への着火を目指す。去る11/5(金)・6(土)、開幕戦となる「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD KANSAI」が開催された。場所はJR大阪駅直結の商業施設「グランフロント大阪」内にあるインキュベーション拠点「ナレッジキャピタル」の一室だ。
関西エリアのホストチームは、「ガンバ大阪(サッカー)」「NTTドコモレッドハリケーンズ大阪(ラグビー)」「関西学院大学 競技スポーツ局(学生スポーツ全般)」の3者。各ホストチームが提示したテーマに対して、合計89件の提案があったという。その中から今回は、7件が選ばれ、2日間のビジネスビルドに参戦。応募企業は、ホストチームとのディスカッションや、メンターによるメンタリングを通じて、ビジネスアイデアをブラッシュアップ。2日間で、事業の骨組みまでつくることに挑んだ。本記事では、最終発表の中身を中心に、イベントの様子をレポートする。
2日間のディスカッションで、「事業の骨組み」までをつくる
DAY1は、インプットとメンタリングが中心の1日。ターゲットと課題の明確化、ソリューションの方向性を見出すことを目標に、ホストチーム・応募企業・メンターが膝をつきあわせて議論を行った。メンターには、ビジネスの第一線で活躍する多彩なメンバーが参戦(※)。実現可能性を高めるため、ときには厳しい意見も交えながら、メンタリングを実施した。
一夜が明けて迎えるDAY2は、ビジネスモデルの骨子策定からPoCの計画、その後のマイルストーンまでを描く。そして、練り上げたビジネスプランを、各チーム(応募企業)の代表者がプレゼン。最終的にホストチームが、採択企業を選ぶという流れだ。採択基準は(1)新規性、(2)市場性、(3)実現可能性、(4)事業拡張性の4つ。
ディスカッションをへて、どのようなビジネスプランが練られ、次のステップであるインキュベーションへと進むことになったのか――。ここからは最終発表の中身を紹介する。
【ガンバ大阪】OpenStreetとともに、ガンバサイクルで地域のにぎわい創出へ
Jリーグ開幕当時から参画する強豪クラブ(優勝タイトル数:9個)であり、ファンクラブ会員数約3.9万人、1試合平均観客動員数約2.7万人(2019年度実績)を誇るガンバ大阪。今回は以下3つの募集テーマを設定した。
(1)クラブのリソースを活用した地域の社会課題解決、SDGsの実現
(2)スタジアムと万博記念公園における新たな移動体験の創出とスポーツパーク化
(3)テクノロジーを活用した選手のコンディション管理
最終ピッチの結果、「OpenStreet株式会社」が選ばれ、インキュベーションへと進むことになった。
■OpenStreet株式会社
提案内容「ガンバサイクルによる 地域貢献・SDGs貢献」
OpenStreetは、「HELLO CYCLING」というシェアサイクリングサービスを提供する企業だ。同社はすでに200都市・4000カ所にサービスを展開しているという。ビジネスモデルが特徴的で、シェアサイクルを行う事業者に対しスマートロックを、シェアサイクルのユーザーに対しアプリを提供するプラットフォーマーとして収益を得ている。同社は現在、自治体との連携を推進しており、ガンバ大阪のホームタウンである池田市・豊中市・吹田市を含む、全国60都市と協定を結んでいるという。
シェアサイクルが社会にもたらす効果については(1)CO2の削減と(2)都市の活性化の2点をあげる。CO2削減については、自動車走行距離を減らすことで、1都市あたり475,000kgの削減効果があると試算する。一方、都市の活性化については、“遅い”モビリティのほうが、街の滞在時間が長くなると説明。シェアサイクルの導入が街の活性化につながるとした。また、シェアサイクルのステーションを、ガンバ大阪のホームスタジアムに設置することで、試合日当日の交通渋滞を緩和できる効果もある。加えて、ステーションの看板にスポンサー企業の広告を掲出できる可能性についても言及した。
<ホストチーム・受賞者コメント>
ガンバ大阪・伊藤氏は、採択理由として「他クラブと実証実験の実績があること」「スタジアムのアクセスに関する課題を解決できること」「ステーションにおいてスポンサー企業と連携できる可能性があること」などをあげた。OpenStreetの担当者は「当初の提案から大きく内容は変わった」とし、メンター陣に対し感謝の言葉を伝えた。そのうえで、「まだスタートラインだが、ガンバさんに価値を提供していきたい」と述べた。
【NTTドコモ レッドハリケーンズ大阪】新リーグ開幕に向け、リアルワールドゲームスとCBC を採択
新リーグであるJAPAN RUGBY LEAGUE ONE開幕時(2022年1月)には、最高峰の「DIVISION 1」に所属するNTTドコモ レッドハリケーンズ大阪。シーズン年間16試合以上、最も多い試合では観客動員数1万人が来場する人気チームだ。今回は以下3つの募集テーマを設定。
(1)デジタル活用によるスタジアム観戦体験のアップデート
(2)新たなファン層の獲得につながるソリューション
(3)チーム・選手のIP(知的財産)やデータを活用したヘルスケアビジネスの創出
最終的に「リアルワールドゲームス株式会社」「CBC株式会社」の2社を採択した。
■リアルワールドゲームス株式会社
提案内容「レッドハリケーンズウォークで ファンの健康促進とエンゲージメント向上」
リアルワールドゲームスからは、代表の清古氏が登壇。同社は、独自の地図エンジン「TERRA」を開発・提供。市民の力で集めた20万件近いスポットデータも保有している。特徴は、位置情報と防災データ(避難所など)、健康的なデータ(歩数など)を、ひとつのアプリで提供していること。すでに、プロサッカーチームやプロバスケットチームとの協業実績もあるという。
今回は、レッドハリケーンズとともに、ホームスタジアムのある長居エリアの地域コミュニティ形成に取り組みたいと話す。例えば、ファンが周辺店舗にチェックインすることでクーポンを獲得できたり、選手の動画を視聴できるといった取り組みを提案。また、ファンがチームに縁のあるスポットにチェックインすると、コレクションを獲得できるといったアイデアも出した。これらを通じて、ファンや近隣住民にレッドハリケーンズに対する理解を深めてもらう。また、取得した移動データをマーケティングなどに活かしていける可能性も示した。
<ホストチーム・受賞者コメント>
レッドハリケーンズ大阪・菊地氏は「まだ詰め切れていない部分もあるが、新規ファンの獲得で色々と取り組んでいきたい」と話した。リアルワールドゲームス・清古氏は、一緒に「イベントを成功させていきたい」と伝えた。
■CBC株式会社
提案内容「参加型観戦体験価値の創出による ファンクラブ有料会員の獲得」
CBCからはプロジェクトマネージャーの塚本氏が登壇。「ファン、サポーターが熱狂できる観戦価値の創出」をビジョンとしたプレゼンを披露した。同社は来年の新リーグ開幕に向け、レッドハリケーンズがファンクラブの有料会員獲得に向けて準備を進めていることに着目。ラグビーに興味はあるが無料会員である層を、有料会員化する取り組みを提案する。現行の会員は50代以上が多いことから、30~40代の有料会員化を目指すという。
そのためのソリューションとして、参加型インタラクティブプラットフォームサービスの開発を提案。内容としては、選手・チームを深く知ってもらうために、選手スタッツ・チーム情報・スポンサー特典などを1つのプラットフォーム上で提供する。さらに、試合のスコアの予測機能や投票機能・アンケート機能、ルームによる実況解説機能なども搭載する。これにより、スタジアム観戦の没入感を向上させ、有料会員化に向けた導線にしたいと説明した。
<ホストチーム・受賞者コメント>
レッドハリケーンズ大阪・菊地氏は「新リーグが始まり、初めてホストスタジアムで試合することになる。その中で、『また見に来たい』『有料会員になりたい』と思ってもらえるものを、一緒に作っていきたい」と話した。CBC・塚本氏は「ここからがスタートだと思っているので、コミュニケーションをとりながら、よいサービスを提供したい」と応じた。
【関西学院大学 競技スポーツ局】オンキヨースポーツと、競技選手のパフォーマンス向上プロジェクトを始動
関西エリアを代表する私立大学、関西学院大学。その中の競技スポーツ局(KGAD)は、大学内の様々な競技スポーツ活動・応援活動を統括・支援する新組織だ。課外活動と位置づけられてきた学生スポーツを、大学の教育プログラムへと押し上げる国内では珍しい取り組みに挑んでいる。同局では、今回以下2つの募集テーマを設定した。
(1)テクノロジーを活用したチーム運営の効率化、チーム強化
(2)選手のコンディション向上・健康管理を実現する、ローコスト・サステナブルなソリューション
同局は「オンキヨースポーツ株式会社」を採択。共創を開始することになった。
■オンキヨースポーツ株式会社
提案内容「可能性を秘めた学生・アマチュアスポーツの選手・環境強化」
オンキヨースポーツは、AI搭載食トレアプリ「food coach」を開発・提供する企業だ。同社は共同出資である至学館大学のスポーツ栄養サポートチーム(SNST)が持つ、10年間にわたってスポーツ栄養を指導してきた知見を活かし、KGADとともに「アスリートLab」の構築を目指す。特に、KGADが学生アスリートの食事に課題感を持つことから、食事栄養指導として、課題認識プログラム(動機づけセミナー)を開催する。選手のレベルに合わせて栄養サポートのアプローチ方法も変えるという。また、食トレアプリ「KGAD」をカスタマイズ開発し、食事登録・栄養バランス評価・アドバイス機能を盛り込み、選手をサポートする。
同社は、女性アスリート特有の課題にも着目。女性アスリートが、貧血・PMS・骨粗しょう症などの悩みを相談できる場がないことから、専門医によるサポートを行うという。さらに、薬剤師によるサプリメントや薬の摂取に対するアドバイスなども盛り込んだ。地域連携については、周辺の飲食店とともに、アスリート弁当を開発。QRコードで栄養素をアプリに取り込めるようにし、店頭と校内で販売する。このほか、アスリートお気軽相談窓口なども準備するという。マネタイズに関しては、企業スポンサーを軸とした運用費用の捻出を検討している。
<ホストチーム・受賞者コメント>
関西学院大学・堀口氏は、ビジネス創出の現場に立ち合い「非常に大きな経験になった」と感想を述べた。採択理由については、女性アスリートの課題に関して、関学側から事前に提示していなかったが、提案を受けて気づきを得たとし、「反省も込めて採択をした」と述べた。オンキヨースポーツの担当者は「精一杯頑張っていくので、よろしくお願いします」と喜びを伝えた。
防災スポーツ・飲食店との連動施策・学生アスリートのデータ活用…スポーツビジネスを盛り上げる数々のアイデア
このほかに惜しくも採択に至らなかったが、以下の3社(株式会社シンク/株式会社GINKAN/株式会社ユーフォリア)がプレゼンを披露。新たなスポーツビジネスの創出を期待させるビジネスプランを発表した。
■株式会社シンク(ガンバ大阪への提案)
提案内容「ガンバ×防災スポーツ」
防災とスポーツを掛け合わせた「防災スポーツ」コンテンツを開発・提供するシンクは、試合日外のスタジアムを活用した、防災プログラムの提供を提案。地域学校の遠足・課外活動や、遠方からの修学旅行、自治体との連携イベントとして、防災スポーツに取り組むことで、SDGsへの貢献も狙う提案を行った。
■株式会社GINKAN(ガンバ大阪への提案)
提案内容「スポーツの『勝利』が起こす、大阪の飲食店DXと地域活性化」
飲食店マーケティングDXに取り組むGINKANは、同社のグルメSNSアプリ「SynchroLife」を活用した地域活性化施策を提案。楽天の優勝セールを例にあげながら、スポーツと消費を融合させた消費体験の構築を目指すという。具体的には、大阪を中心に全国からガンバ大阪加盟店(飲食店)を募集し「SynchroLife」上でネットワーク化。勝利還元セールを実施して、クラブの勝利を盛り上げる。また、飲食代金の一部をガンバ大阪のグッズ・チケット購入につなげる仕組みも盛り込んだ。
■株式会社ユーフォリア(関西学院大学 競技スポーツ局への提案)
提案内容「学生と地域社会による 正しいコンディション管理の実現と、新たな大学スポーツの価値創出」
ユーフォリアは、アスリートのコンディション可視化アプリ「ONE TAP SPORTS」を開発・提供する企業だ。今回、競技スポーツ局が新設されたメリットを活かし、先進的な大学スポーツのあり方を共に模索したいと話す。1stステップとして、学生アスリートのデータを取得。データを学内の教授やユーフォリアで分析し、学生トレーナーなどに情報提供。チームの強化につなげる。2ndステップでは地域商店を巻き込み、学生の食事支援を図る。3rdステップでは、蓄積したデータをもとに企業との産学連携プロジェクトなどを検討するという。
「スポーツを核に関西を盛り上げていきたい」――閉会の挨拶
各チームの発表と採択企業の発表が終わった後、メンター陣が本イベントに対する講評を述べた。その後、地域版SOIPの主催者であるスポーツ庁・城坂氏、および運営をリードした大阪商工会議所・スポーツハブ KANSAIの東氏と倉骨氏が挨拶を行った。
スポーツ庁・城坂氏は、「参加企業の話を聞けた点もよかったし、メンターのアドバイスも勉強になった。2日間、意義のある時間だった。現場の熱量は非常に高かったため、スポーツ庁としても、この熱量を持ち帰って活かしたい。ビジネスビルドは今日がスタート。最後まで走り切りたい」と話した。
スポーツハブ KANSAI・東氏は、「OpenStreetさんを担当させてもらったが、最初と最後のプレゼンがまったく違った。メンターの皆さんの助言などをうまく咀嚼され、最後のプレゼンを完成された。成長を目の当たりにできた。関西は東京に負けているところがあるが、私たちは大阪というエリアで活動をしているので、スポーツを核に関西を盛り上げていきたい」と意気込んだ。
スポーツハブ KANSAI・倉骨氏は、不安に思いながらのスタートだったが、結果的に合計89件の提案があり、予想を上回る数だったとしながら、「関西のスポーツ産業に対する期待を強く感じた。逆にサポートする立場として、身の引き締まる思いもあった」とコメント。さらに、「その中で4件の採択となったが、89件の中には素晴らしい提案が非常にたくさんあった。もう少しこの点を工夫したら、改めて提案できるのではないか、他のエリアなら逆転するのではないかと感じるものもあった。引き続きサポートしていきたい」と述べ、採択されなかった企業も含めて、スポーツハブ KANSAIとして支援していく考えを示した。
閉会の挨拶終了後は、参加者らによる交流の時間が設けられ、さかんに意見交換がなされる様子が見られた。久々となる「リアルな場」でのビジネスビルド。ホストチームと応募企業の1対1の関係にとどまらず、メンターも含めて幅広く新たなつながりが育まれる場となったようだ。
取材後記
「ガンバサイクル」がホームスタジアム周辺に、利便性とにぎわいを提供する未来。デジタル技術が、ラグビーの新リーグを盛り上げる未来。関西学院大学から、新たな学生スポーツの在り方が示される未来。ここから新しいスポーツビジネスが生まれ、モデルとなって全国へと波及していく。そんな様子が脳裏に浮かぶイベントだった。「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」第2戦は北海道――。関西とはまた違った地域特性を持つ北海道から、どのようなスポーツビジネスが生まれるのか。北の大地から届くレポートにも、ぜひ目を向けてほしい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)