地域版SOIP「ビジネスビルド」2つ目の舞台<北海道>に密着!――レバンガ・レッドイーグルスと共創に挑む2社が決定!
北海道、関西、中国、沖縄の全国4エリアでスポーツビジネス創出を図り、地域から日本全土を着火する「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」(ビジネスビルド)。各エリアの地場スポーツチームがビジネスアイデアを募集し、応募企業と2日間のディスカッションを通じて、社会実装可能なスポーツビジネスを練り上げていくイベントだ。2日目の終わりに実施される最終プレゼンで採択された企業は、実証実験に向けたインキュベーションに進むことができる。
第一弾の関西エリアに次いで、11/12(金)・11/13(土)には、第二弾となる北海道エリア「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD HOKKAIDO」が開催された。
北海道エリアのホストチームは「レバンガ北海道(バスケットボール)」「レッドイーグルス北海道(アイスホッケー)」の2チーム。いずれも北海道に拠点を持ち、地域に根付いた活動を続けてきたチームだ。
イベントでは白熱の議論が展開され、各社ともに持ち寄ったビジネスアイデアをさらに研ぎ澄ましていった。本記事では、その模様をレポートしてお届けする。北海道のスポーツビジネスの未来を占うイベントの様子を、ぜひご覧いただきたい。
2日間のブラッシュアップを経て、5社が最終プレゼンに登壇
11月12日午後0時30分、2日間に渡って繰り広げられるイベントの幕が上がった。DAY1は、主にビジネスアイデアのブラッシュアップが行われる。ホストチームとの意見交換や各界で活躍するメンターからのアドバイス、中間プレゼンなどを経て、各社はビジネスアイデアを整理・再検討していった。DAY1のプログラムは20時過ぎに終了したが、その後も各社は翌日の最終プレゼンに向けて、作戦を練り続けた。
▲各界で活躍するメンター陣
そして、翌日のDAY2。午前中の最終メンタリングを経て、各社はプレゼン資料を完成に近づけていった。ビジネスアイデアの骨子やPoCの計画、アイデア実現までのマイルスートンなど、事業化に必要なピースが一つひとつ具体化され、資料のなかに当てはめられていく。
そして、11月13日14時30分。各社の代表者が、ビジネスアイデアのすべてを一通の資料に託し、最終プレゼンの壇上に立った。続いては、最終プレゼンに臨んだ5社のなかで、見事、採択に至った2社のプレゼン内容を紹介する。
【レバンガ北海道】「VRファンコミュニティによるコアファン層拡大」を提案したVRooMを採択企業に選出
北海道で唯一、プロバスケットリーグ「B1リーグ」に所属するレバンガ北海道。リーグ内でも屈指の観客動員数を誇る人気チームだ。今回、レバンガ北海道は、さらなる顧客層開拓に向けた2つの募集テーマを設定した。
■募集テーマ「急成長マーケットにおける先端技術導入によるファンの活性化」
・テクノロジーを活用した「来場」体験価値の向上
・アリーナ外で楽しむ新たな観戦体験・機会の創出
この募集テーマには3社が挑み、審査の末、VRスタートアップの「株式会社VRooM」がインキュベーションへの切符をつかんだ。
■株式会社VRooM
提案内容「xR活用でファンコミュニケーション及び観戦体験・機会の創出」
VRooMの昇宇慶氏が提案するのは、VRコミュニティ「バーチャルレバンガシティ」の構築による、コアファン層の拡大だ。
プレゼンの冒頭、昇氏は、今回の提案がレバンガ北海道のオフィシャルファンクラブ最上位会員「プレミアムクラス会員」の加入促進を目指すものだと宣言する。現在、レバンガ北海道のプレミアムクラス会員は約300名。昇氏は、今回の提案を通じて、その数を450人に伸長させたいと話す。
そのカギとなるのがバーチャルレバンガシティだ。バーチャルレバンガシティとは、VR空間上で選手や他のファンと交流できるコミュニティのこと。コミュニティ内では、それぞれのアバターを通じてコミュニケーションが図れるほか、自らの「部屋」を作成できるなど、選手や他のファンと共に暮らすような感覚が味わえる。
このバーチャルレバンガシティを無料で展開し、ファンと選手や、ファン同士の交流を深めながら、コアファン層を拡大。プレミアムクラス会員への加入につなげるのが、VRooMのアイデアだ。さらに、バーチャルレバンガシティ内では、アバターや部屋の作成に追加課金アイテムを提供するなど、複数のキャッシュポイントを設定して、収益化も目指される。
プレゼンの最後に、昇氏は、レバンガ北海道の2021-22シーズンのチームスローガン「CRAZY」に触れ、今回の提案の新規性をアピール。まだ国内では例の少ないVRファンコミュニティという、CRAZYな提案にぜひ力を貸してほしいと訴えた。
<ホストチーム・受賞者コメント>
採択理由について、レバンガ北海道の横田氏は「国内のバスケットボールチームで先例のない、新規性の高いアイデアが魅力的だった」と述べ、さらなるコアファン層拡大に向けて、積極的に連携していきたいと語った。
受賞のコメントを求められると、昇氏は「認めてもらえて良かったです…」と一言漏らし、目に熱いものを滲ませた。さらに、「私たちの事業には価値があると信じていました。しかし、それを証明するためには何らかの成果が必要で、だからこそ、ビジネスビルドへの応募を決めました。今回、このような成果を残せたのは、協力してくださった皆様のおかげです」と喜びを語った。
【レッドイーグルス北海道】「地域ヘルスケアシティ」の創出を目指すtazawa.co.ltdが採択
王子製紙のアイスホッケー部を起源に持ち、95年以上の長い歴史を誇るレッドイーグルス北海道。2021年4月にはクラブチーム化を果たし、プロスポーツチームとして新たなスタートを切っている。今回のプログラムでは、そうしたチームの伝統を革新するアイデアが求められた。
■募集テーマ「伝統あるスポーツを革新、未開拓マーケットへ浸透させる」
・2~30代などの若年者層に向けた新たなタッチポイントの創出
・初心者の方でも楽しめる観戦体験価値の向上
2チームによる最終プレゼンの末、「tazawa.co.ltd」が採択された。
■tazawa.co.ltd
提案内容「モバイルテクノロジー活用×来場体験価値向上」
tazawa.co.ltdの不破直継氏が提案したのは、ウェアラブルデバイスとヘルスケアアプリを組み合わせた、地域活性化・健康増進ソリューションだ。不破氏は、このソリューションにより「スポーツチーム主導の地域ヘルスケアシティ」を実現したいと述べる。
ソリューションは、バイタルデータを取得できる腕時計型のウェアラブルデバイスと、ユーザーの歩数ごとにポイントが付与されるヘルスケアアプリの二つで構成されている。
ウェアラブルデバイスは、主に二つの活用方法を想定。まず、一つ目がレッドイーグルス北海道の選手による利用だ。選手が試合中やトレーニング中にウェアラブルデバイスを装着することにより、脈拍数や体温、活動量などを可視化し、選手の怪我防止やトレーニング効果の向上などに活用する。
二つ目が地域社会での利用だ。レッドイーグルス北海道のファンを中心にウェアラブルデバイスを普及し、プロスポーツ選手と同様の機器を装着することにより健康意識の増進を図る。
そして、その取り組みに並行し、ヘルスケアアプリとレッドイーグルス北海道が連携。健康志向の強いヘルスケアアプリの既存ユーザー約30,000人を、レッドイーグルス北海道の試合に送客して、新規ファン層の開拓を進めるとともに、スポーツチームが中心となった地域健康社会を生み出す。
不破氏はこのソリューションを、将来的にはレッドイーグルス北海道のホームタウンである苫小牧市と共同で推進したいと語る。行政との連携により、ビジネスモデルの強化を図り、医療費削減や消費活動の活発化など、地域活性化の具体的な効果につなげたいとした。
<ホストチーム・受賞者コメント>
レッドイーグルス北海道・田中氏は、採択理由について「今後、チームとして、ますます地域社会と密着して、苫小牧市だからこその価値を発信していかなければならないなか、地域連携のアイデアを提案してくれたのは非常に嬉しかった」と述べた。
これを受け、tazawa.co.ltdの不破氏は「実は、私は高校時代、アイスホッケーの選手で、レッドイーグルス北海道さんの前身の実業団チームを目指していた過去があります。もちろん、今でもアイスホッケーを愛する気持ちに変わりはありません。今後は、レッドイーグルス北海道さんと手を取り合って、必ず地域活性化を実現していきたいと思います」と受賞の喜びを述べた。
VR、サブスク、映像プラットフォーム…テクノロジーを活用したビジネスアイデアが続々
このほか、最終プレゼンには3社(株式会社ShimaFuji IEM/株式会社エス・アイ・ジェイ/CBC株式会社)が登壇。採択には至らなかったが、各社の強みが反映された、独自のビジネスアイデアが披露された。
■株式会社ShimaFuji IEM(レバンガ北海道への提案)
提案内容「アリーナ周辺全体をエンタメ化:VR+AR/ホログラム総合エンタメxRsion」
VRコンテンツの制作などを行うShimaFuji IEMは、VR+ARを活用したコアファン層向けの「文通」ソリューションを提案。このソリューションは、VRゴーグルを装着した来場客が選手と一対一の関係でコミュニケーションし、周囲の観客には分からない「秘密のやりとり」をすることで、特別な体験価値を提供するというもの。これにより、既存ファンの満足度を高め、さらなるコア化を図る。
■株式会社エス・アイ・ジェイ(レバンガ北海道への提案)
提案内容「データを活⽤した地元×スポーツ活性化プロジェクト」
野球専門メディア「ベースボール・タイムズ」などを制作するコンテンツ企業・エス・アイ・ジェイは、北海道のバスケットボール選手のデータベース化を通じた、道内のバスケットボール市場活性化を提案した。サブスク型の選手データベースシステム「Elephants」を活用し、道内のバスケットボールチームや選手をデータベース化。さらに、データベースを活用して独自の紙媒体メディアを発行し、レバンガ北海道の集客・マーケティング施策などへの活用を目指す。
■CBC株式会社(レッドイーグルス北海道への提案)
提案内容「ファンが熱狂できる観戦体験の創出」
化学品、医薬、農薬、食品、電子機材などのトレーディング・及び製造販売事業を手掛けるCBCは、360度自由視点とコンピュータ・ビジョン・プラットフォームを活用した新たな観戦体験の創出を提案。コンピュータ・ビジョン・プラットフォームは、多種多様な観戦体験を可能にする映像プラットフォーム。スマホやタブレットの画面をタップするだけで、選手情報やルールの確認、試合予想やMVP選出の投票などが行える。さらに、同プラットフォーム内での自由視点テクノロジーの活用を行い、ファンがアイスホッケーにより熱狂できる環境を構築したいとした。
「今日のイベントはゴールではなく、スタート地点」―採択2社は実証実験へ
最終プレゼン、審査発表の後には、メンター陣らによる講評、スポーツ庁を始めとした主催者・運営パートナーによる総評が述べられた。以下では、3名の運営パートナー・主催者のコメントを紹介する。
運営パートナーであるSPOPLA北海道の小川貴大氏は、ホストチーム、応募企業、メンターを始めとした、すべてのイベント関係者に謝意を表したのち、「今日のイベントはゴールではなく、スタート地点です」と力を込めた。さらに、小川氏は「この取り組みの最終的な目的は、北海道のスポーツ界を盛り上げることです。そのため、今後のインキュベーション、実証実験も成功に導けるよう、私自身、ますます尽力していくつもりです」と、採択企業への支援に意気込みを見せた。
続いて、北海道経済産業局の天池毅裕氏は、イベント全体の熱量について言及。「錚々たるメンターの方々を前に、ビジネスアイデアをぶつけるのは、計り知れないプレッシャーだったと思います。採択の可否に関わらず、応募企業の皆様には敬意を表します」と話し、2日間に渡ってビジネスアイデアの構築に向き合った5社をねぎらった。
最後に、主催者であるスポーツ庁の坂本弘美氏は、採択された2社に対して「皆様とホストチームの方々は、受発注の関係ではなく、共創パートナーです。ぜひ対等の関係で、地域貢献を実現できるような事業を作り上げていってください」と、今後への期待を述べた。
さらに、坂本氏は、その他の応募企業に対して、「今回は残念ながら採択はされませんでしたが、皆様のビジネスアイデアは、日本の産業界を牽引するメンターの方々のアドバイスが反映されたものです。そのビジネスアイデアを取りやめるのではなく、ぜひ他の機会に生かしていってほしいです」と話し、2日間に渡るイベントを締め括った。
取材後記
イベントはドラマの連続だった。特に、採択された2社は、並々ならない想いで最終プレゼンに臨んでおり、その姿勢からただよう熱気は、聴衆を大いに惹きつけた。登壇者の一挙一動には真剣な視線が注がれ、会場はさながらスポーツの試合のような緊張感に満たされていた。新たなスポーツ産業の創出を目指す「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」だからこそ、こうした感動と興奮が生まれたに違いない。
そして、ビジネスビルドは第三弾の沖縄に続く。舞台は北の大地から南国の楽園へ。豊かな自然と独自の文化を持つ沖縄で、次はどのようなドラマが生まれるのだろうか。
(編集・取材:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)