【スタートアップの種を育てる】ユニーク過ぎるピッチコンテスト――最優秀賞は”サーキュラー広告”、そのほか“CBD・ギャル・清走中”など、「QWSステージ#10」を詳細レポート!
2019年11月に渋谷スクランブルスクエアに新たな共創拠点『SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)』が誕生した。コンセプトに「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」を掲げ、まだ世に表れていない「問い」をベースにこれまでにない価値を創出し、世界に届けることを大きな目的の一つとしている。現在までに大企業やスタートアップ、自治体、大学など多様なバックボーンを持つメンバーが会員に加わり、会員年齢も14歳から91歳までと多様な個性や領域を越えた深い知性が交差・交流し、可能性の種を生み出し続ける共創施設となっている。
そこで今回TOMORUBAでは、【共創施設特集】として2年間で150を超えるプロジェクトを支援してきたSHIBUYA QWSの各種取り組みにフォーカス。「コミュニティ運営の仕組み」「独自のプログラム」「約800ものイベント」など、次の可能性を創造する多種多様な仕掛けの魅力に迫り、取材形式でお届けする。
第四弾記事で取り上げるのは、3カ月に1度行われるコンテスト形式のプログラム「QWSステージ」だ。同プログラムはSHIBUYA QWSで「問い」を起点に価値創造に取り組むプレイヤーたちの成果発表の場で、毎回若々しい感性や斬新なアイデアで、会場を沸かせている。4月28日には第10回目である「QWSステージ#10」が開催され、エントリーした14プロジェクトのプレイヤーたちがピッチに臨んだ。
「QWSステージ#10」の冒頭には、渋谷スクランブルスクエア株式会社 SHIBUYA QWS エグゼクティブディレクター 野村幸雄氏がプログラム開始の挨拶をし、その後、SHIBUYA QWSの立ち上げに寄与したメンバーの一人である林千晶氏(株式会社ロフトワーク 共同創業者)のキーノートトークが行われた。
――本記事ではまず、林氏によるキーノートトークで語られた、これからの時代に必要な”3つのルール”について紹介しつつ、白熱した「QWSステージ#10」の模様をお伝えしていく。
新たな時代に必要な「3つのルール」
「今日は大変革の時代を動かすことになる”3つのルール”をお伝えしたいと思います」と話す林氏。1つめは”若さ”だという。「今までは未熟と捉えられていた若さですが、これからは力となります。SHIBUYA QWSで活動を広げる若い人たちも、さまざまな試みを行っています。例えば、”超帰省”という概念が生まれ、故郷を持っている人と一緒になって地元に行き、地域の文脈や営みを読み取りながら旅行する。そうした活動が出てきています」。
そして2つめのルールは、”世界を訪れての体感”だ。「実際に行ってみないとわからないこと、感動できないことはたくさんあります。例えば、コペンハーゲンでは、フードロスになりそうな食材を持ちより、老若男女で毎日食事会を行っています。こうしたことからインスピレーションを受け、自分たちのやるべきことも見えてくるのではないでしょうか」。
3つめのルールは、”大胆に夢を見る”。「私は今”ヒダクマ”という会社を作り、木の持つ可能性を引き出しています。これまで家などを作るために使われていた木材を、もっと別の使い方ができるのではないか。そうした視点で世界中の人の力を借りながら新たな価値を見出そうとしています」。
最後に林氏は以下のように語り、キーノートトークを締めくくった。「これからはルールが大きく変わります。『これは無理だろう』ということにこそ、きっとチャンスはあるはずです。私たちは想像できる範囲のことを形にしようと頑張っています。しかし、1年後には想像できないことをやっていたい。想像できることを形にしていく過程で、まったく新しいコトや人と出会い、現状では想像できないことをやっている。そうなることを強く望んでいます」。
▲林 千晶氏(株式会社ロフトワーク 共同創業者)
“SHIBUYA サーキュラー広告”が【味の素賞】と【SQI最優秀賞】をW受賞!
次にSHIBUYA QWSで活動する14プロジェクトのプレイヤーたちのピッチが行われた。ピッチの内容は下記の審査員によりジャッジされ、【NTTデータ賞】・【味の素賞】・【SQI協議会(※)優秀賞】・【SQI協議会最優秀賞】の4つの賞が計5チームに授与された。まずは、各賞の受賞プロジェクトとプレゼンした内容について紹介していく。
※SHIBUYA QWS Innovation 協議会
<審査員>
・株式会社日本政策投資銀行 業務企画部 イノベーション推進室 課長 天野学氏
・沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター ビジネス推進部 課長代理 本田未來氏
・味の素株式会社 食品事業本部 Z世代事業創造部 事業創造グループ長 山田裕介氏
・株式会社NTTデータ 執行役員 製造ITイノベーション事業本部 本部長 兼 コンサルティング&ソリューション事業本部 本部長 杉山洋氏
・新潟県産業労働部 創業・イノベーション推進課 創業支援班 主事 山本あす香氏
【NTTデータ賞】
株式会社KAMADO 柿内 奈緒美氏
同プロジェクトは「文化とお金を社会に循環させるには?」を問いに活動を続けてきた。KAMADOが目指しているのは、アート・表現と、社会・個人がWin-Winの関係を築く「文化の土壌」を作ることだ。現在、Webマガジン「KAMADO」とアートや文化に触れる機会を作るプラットフォーム「OUR ART PROJECT」を運営している。Webマガジンは、アート作品が抽選でもらえる「KUJI」とアーティストのサポートにつながるメッセージ購読サービス「FUMI」の機能を持つ。これにより、寄付文化が根付いていない日本でも、アートへの支援が行いやすくなる。OUR ART PROJECTは企業と個人の寄付が基軸になっている。
柿内氏は「これまでにないアート支援の仕組みを作ろうとしてきた」と強調する。QWSチャレンジ 3ヶ月の成果としてコンセプトムービーやWebサイトの制作をはじめ、足利市との連携などを行ってきた。ピッチの中では、東京藝術大学・取手市・市民の三者共同によるアートプロジェクトの運営を担う「NPO法人取手アートプロジェクトオフィス」のインタビュー動画も紹介された。
社会が経済成長を追い求めてきたために格差や環境の問題が起こっていることや、新型コロナウイルスや戦争の問題も取り上げながら、柿内氏は「私たちが社会をどうしたいのかが問われています」と指摘し、「これからは人がより良く生きることに向かい合うウェルビーイングの時代になります」と話す。その上で、長期的に深い幸せを味わうにはアートが必要ということは学術的にも発表されていると解説した。柿内氏は「お金は感謝や思いを伝えるツールとなるのではないでしょうか。KAMADOの取り組みに共感していただけたなら、ぜひ参加してください」と呼びかけ、ピッチを締めくくった。
【味の素賞】
SHIBUYA サーキュラー広告 守田 篤史氏
同プロジェクトは「広告は悪者なのか?屋外広告が循環していくエコシステムを探る」を問いに活動を続けてきた。守田氏は広告を「渋谷を彩る風景」と捉えているが、大量消費を想起させるネガティブなイメージも根強くある。このイメージを払拭するため、「広告がサステナブルであるためには」をテーマに渋谷にある屋外広告のあり方に一石を投じる活動を始めた。
渋谷の屋外広告の掲示期間は約2週間とされるが、一方で、広告の素材の耐久年数は6~10年という。役割と素材の寿命にギャップがあり、まだ使えるものを廃棄しているのが現状だ。そこで、廃棄される素材を回収し、再利用する仕組みを構築。知財など権利の問題にぶつかったが、独自のアイデアで課題を解決した。権利を守るための知財が廃材を再利用するためにはネックとなったが、SHIBUYA サーキュラー広告では、むしろ社会に広げる手段として活用。これまでの知財活用になかった新しい考えを実現し、特許庁(デザイン経営プロジェクト)にも高く評価され、産・官2つの方向から屋外広告の回収とアップサイクルにアプローチできることになった。
現在までに、テニスコート10面分の屋外広告を回収し、守田氏が実際に着用しているリュックやサコッシュなどへアップサイクルしている。渋谷区の屋外広告の使用は年間20~30トンと言われているが、このうちの20%を回収して利活用することが次の目標だ。この目標を達成するためにも自社でのアップサイクル製品の提供だけではなく、屋外広告を素材化し社会全体で使える素材にすることが大切だと考えている。守田氏は「時代を表す広告がサステナブルになることは社会にとって大きな意味があるはずです。広告がゴミになるではなく、循環できる素材になる。そんな『格好いい』広告のあり方を模索します」と力を込めた。
【SQI協議会優秀賞】(※3チームが受賞)
■HARENOMI 岡庭 晴氏
同プロジェクトは「がんばる人へ『自然体になるきっかけ』を届けるには?」を問いに活動を続けてきた。岡庭氏はかつて自身のやりたいことがわからず焦っていたところ、瞑想を行うことで心身が整い、自分の進むべき道が選べるようになった経験を持つ。このことをきっかけに「心と身体のメンテナンスができてこそ幸せなライフスタイルを選べる時代が来る」と確信した。現在は選択肢があまりに多く、日常的にストレスを抱え、バーンアウトも多く起こっている。そこで、心と身体をほぐす「お守り」を作ることに思い至ったと話した。
そのお守りとは麻から抽出される自律神経の栄養素CBD(カンナビジオール)を用いた食品、サプリグミだ。CBDはリラックスタイムをサポートする成分として、世界中で人気となっており、医療現場での使用も見られる。岡庭氏によれば、日本初のCBDを用いた無添加グミを作り、都内のデパートや百貨店などで販売を行っている。メディアなどでも取り上げられ、CBD領域では日本を代表するブランドを目指す。
一方、CBDは国内での普及はまだまだ進んでおらず、抵抗感を持たれる場合もあると話す。岡庭氏は「今後、国内でのCBDの正しい理解を広め、求めている人に届けたいと思っています。メンタルヘルスへの学際的なアプローチを当たり前にし、明日が楽しみと言える人を増やすことを目指します」と意気込みを見せた。
■CGOドットコム リリースペイシー氏
同プロジェクトは「ギャルマインドは世の中をアゲにできるのか?」を問いに活動を続けてきた。リリースペイシー氏は「日本をぶち上げたい」と語る。そのためには、会社にいる時間を「アゲ」にすることがカギとなっていると考えた。そこで、アゲの象徴的存在であるギャルを企業の会議に参加させ、上司に意見が言いづらい、部下とどのように仲良くなればいいかわからないなどという「サゲ」のポイントを解消することを目指す。ポジティブ思考のギャルがいることで、心理的安全性が向上されると強調した。
ギャルマインドが企業を変える、をキーワードにCGOドットコムは、肩書、役職は非公開、タメ語で話す、あだ名で呼び合うなどのルールを設けた「ギャル式ブレスト」を開発。これまでに10社以上がギャル式ブレストを行い、複数のメディアにも取り上げられてきた。参加者からは「コミュニケーションのスタイルが変わった」などの評価を得ているという。さらには「自己肯定感が上がった」との声もあるとのことだ。
これを受け、CGOドットコムは「ギャルマインド講座」を2時間にわたり都内の大学で行った。講座を通じ多くの参加者が自分を価値ある存在だと捉えることができるようになったと伝えられた。リリースペイシー氏は「ギャルにはサゲをアゲにできる力がある。もっとギャルマインドを広げたい。」と熱弁を振るった。ピッチ中も、ギャルマインドの直感的で忖度のないトークにより、会場は終始笑いに包まれていた。
■清走中 北村 優斗氏
同プロジェクトは「ゴミ拾いを21世紀の遊びにするには?」を問いに活動を続けてきた。清走中は人気TV番組「逃走中」と「ゴミ拾い」を融合させたゲーム感覚のゴミ拾いイベント。街をゲームエリアとして種類や重量をチームで競い合う。これまでに700人以上が参加する人気イベントとなっている。
北村氏は活動を続ける中で「誰を笑顔にしているか」を疑問に持ったという。確かに環境問題は叫ばれているが、「目線が先に行きすぎています。もっと目の前の課題としなければ自分ごととして捉えられず、持続可能な活動になりません」と強調した。この問いを起点に着目したのが、年間数億円もゴミの清掃に予算をかける自治体が少なからずあることだ。
清走中であれば、大勢で楽しみながら短時間で行うことができ、大幅な節税が期待できる。子どもたちに遊び場を提供すると共に、地域の商店街などとコラボレーションし経済効果を生み出すことも可能だ。2022年度は全国16カ所で開催を予定している。また、今春からは高校の社会科の資料集に取り組みが掲載されたという。北村氏は「楽しさを武器に清走中の活動を広めたい」と意気込んだ。
【SQI協議会最優秀賞】
■SHIBUYA サーキュラー広告 守田 篤史氏
「味の素賞」とのW受賞になったSHIBUYA サーキュラー広告に対し、SHIBUYA QWS エグゼクティブディレクター 野村幸雄氏は「いつも難航する審査が、今回は満場一致で決まりました。役割と素材の寿命のギャップに着目し、サステナブル社会に貢献している点が優れています。また、効果を数字に落とし込んだところも高く評価されました」と評した。
守田氏は「どうすれば社会実装できるか、SHIBUYA QWSでの活動を通じ模索してきました。1年間 SHIBUYA QWSにいたことが結果として実り、とても嬉しく思います」と喜びを語った。
ユニークなアイデアが印象的な、残る9チームのピッチ内容とは?
ここからは、残念ながら受賞に至らなかったものの、独自性が光る9プロジェクトのピッチをダイジェストでお送りしていく。
■neco-note 黛 純太氏
同プロジェクトは「猫の推し活サービスで、保護猫団体の”自続可能性”を高められるか?」を問いに活動を続けてきた。neco-noteは「推し猫」を選んで課金し、推された猫が助かるという、スマホアプリで展開するサービスだ。課金された一部が保護猫団体に寄付され、さらに猫の保護活動を進めることができる。
neco-noteは既に公開されており、メディアで紹介されるなど大きな反響を呼んでいる。サービスを通じ、経済循環にとどまらず、「人の猫」から「人と猫」という対等の関係構築を目指す。こうした関係を後押しするのが、NFTだと黛氏は強調する。ユニークIDの成長で事業性を担保し、トレーサビリティの確保で社会性が担保されるという。「NFTやブロックチェーンが、猫と人との新しい関係作りの一助となるようにしたい」と熱意を込めた。
■fairy’s diary nao氏
同プロジェクトは「コンプレックスとのポジティブな付き合い方とは?」を問いに活動を続けてきた。現在、世界に約3億6500万人の多汗症患者がいると言われており、日常生活や就職などの面でハンディキャップがある。nao氏自身も20年以上、多汗症というコンプレックスと向き合っている。そうした経験を基に、社会に対し正しい疾患の認知を広めると共に、当事者の自分と社会に対する諦めを覆し、一歩を踏み出す勇気を後押しすることを目指した。
fairy’s diaryでは、ミュージックビデオを制作し世界に発信する。nao氏は「コンプレックスは自分にしかない個性と捉え、エンターテインメントを通じて自分を表現することで、誰もが自分のストーリーを語れる世界を作るのが夢」と語った。
■レイワセダ 平井 理久氏
同プロジェクトは「全人類がクリエイターな世界は訪れるだろうか?」を問いに活動を続けてきた。実現したいのは「想像が創造に変わる世界」、つまり動画や音楽など思い通り創ることのできる世界だ。この世界を実現するに当たり、レイワセダでは動画編集などで生じる単純作業が壁になる分析して単純作業を大幅にカットできるソフトウェアを開発。AIを活用することで、動画編集では95%の作業をカットできるようになったという。
実際に使用したクリエイターからは「速い」「精度が高い」などと高評価されたとのことだ。今後はさらに機能の拡張し、最終的にはワンクリックで制作物が完成されることを目指す。レイワセダは会社を設立し、より活動を本格化させる予定だ。
■渋谷肥料 坪沼 敬広氏
同プロジェクトは「渋谷を『消費の終着点』から『新しい循環の出発点』にシフトできないか?」を問いに掲げて事業を拡大している。その中で特に力を入れているのが、都市の生ごみを再利用した肥料で農作物を栽培し、再び都市で仕入れて商品化する「サーキュラースイーツ®」だ。
昨年の都内での出店を経て、現在は通年で販売する新商品を開発している。スイーツの味や見た目はもちろん、パッケージの素材選定や廃棄農作物の有効活用、地域との連携といった様々な観点からの創意工夫に力を注ぐ。坪沼氏は渋谷肥料の取り組みを「新しいセオリーを創る挑戦」と強調し、「循環型社会における商品開発のモデルケースになることが目標です」と未来に思いを馳せた。
■夕暮れのえてがみ 山口 晴氏、江連 千佳氏
同プロジェクトは「顔の見えないロールモデルは人生を変えるか?」を問いに活動を続けてきた。女性の生き方が多様化している反面、理想のロールモデルは固定化しており、特にZ世代に対しての参考が少ない。この状況を打破するため、Podcast番組「夕暮れのえてがみ」を通じて自分の道を切り拓いた女性から次の世代を生きる女性に「心のお守り」を届ける。
夕暮れのえてがみの調査では、ロールモデルは人生を模倣する対象ではなく、人生を後押しするエンパワーメント型として捉える傾向が多くなっているという。番組はリスナーの希望を聞いた上でキャスティングし、ロールモデルとの偶発的な出会いを促す。番組は3月8日の国際女性デーにスタートし、多くの反響を呼んでいるとのことだ。
■レンタル博士 北村 景一氏
同プロジェクトは「学問と社会の断絶はなぜあるのか?新しいプラットフォームで研究と社会の架け橋をつくる」を問いに活動を続けてきた。解を導き出すのが困難な大きな問いに対し、研究者の力を活用する仕組みを作るのが、レンタル博士の狙いだ。プラットフォームの基盤となる研究者の登録サービスをリリース。既に100人近くが登録しているという。
現在は、プラットフォームのためのコンテンツを開発するなどしている。また、産学連携の取り組みも進め、企業と共に研究者が主体的に活動できるアイデアコンペの開催を計画しているとのことだ。北村氏は「企業、人、社会が問いに直面した時に、気軽に簡単に研究者に頼れる社会を作ります」と熱く語った。
■DOUSHI 河野 翔一氏
同プロジェクトは「“勝つ“だけの『シングル・ゴール』でなく”価値観“を後押しする 『ダブル・ゴール』な社会を実現するためには?」を問いに活動を続けてきた。DOUSHIはスポーツを通じ、目的やゴールを考える。河野氏は空手の日本一の経験を持っているが、勝つことだけを価値とすることに疑問を感じたという。
DOUSHIでは勝利至上主義を改革し、勝つことと同時に自分なりのゴールを設定する「ダブル・ゴール」への変換を目指す。「勝利」と「挑戦」を評価するスポーツ大会の企画運営などがその具体例だ。こうした試みは企業研修など人材育成に関わる人に興味を持たれたという。河野氏は「スポーツも変革の時代を迎えています。持続可能なスポーツの新たなモデルを構築します」と意気込んだ。
■GOOD FOOD GOOD MOOD 半田 寛明氏
同プロジェクトは「私たちはなぜ、食事をするのか?――バイタルデータで紐解く『食事』」を問いに活動を続けてきた。「食事」は本来楽しむものだが、悪い印象を持たれているケースもあるという。それは、例えば糖尿病患者の方にとっての食事だ。これを受け、食事の写真を撮るだけで次の食事を提案してくれるアプリを開発した。これにより、糖尿病の治療に必要とされるインシュリン注射の回数を減らせる可能性もあるという。
既に一部のクリニックでの、試験的な運用が始まっている。GOOD FOOD GOOD MOODの活動は、個人や団体の共感を呼び、多くのサポートを受けているとのことだ。さらに、よく知られている2型糖尿病のほか、妊娠糖尿病にも着目することになった。現在は、妊娠糖尿病の患者の方向けに美味しい食事の実現にも並行して取り組んでいると伝えられた。
■Dramatic Dining 竹島 唯氏、近藤 香氏、田村 寿康氏
同プロジェクトは「コロナによって生まれた日常の制限を、アート体験としてポジティブに転換できるか?」を問いに活動を続けてきた。Dramatic Diningはアート作品を手がける時、「問い」から始めると話す。
例えば、「夜だけ浮かび上がる街に迷い込んだらどんな感覚になるか」との問いを立て、観客が出演者のダンサーと一体感を味わいながら物語に入り込む仕掛けを手がけるなどした。観客が物語に没入体験できる演出をDramatic Diningは「イマーシブシアター」と呼び、見慣れている風景に「意味」を見出し、世界観を広げることを目指している。イマーシブシアターを用いることで、黙食がアート視点で捉え直され、食の世界に没入する新たな体験を創り上げた。Dramatic Diningはイマーシブシアターを企業のブランディングや観光イベントなどに応用することを視野に入れていると語った。
――ピッチの後、SHIBUYA QWSのコーポレート会員である富山県首都圏本部 飯田裕氏、一般社団法人SWiTCH 佐座マナ氏、NOK株式会社 岡村俊宏氏、味の素 株式会社 海蔵寺栞里氏による「コーポレートトーク」が実施された。SHIBUYA QWSに入居した目的や、入居したことで出会ったユニークな人といったテーマのもと、活発な意見交換が行われた。
QWSステージ#10~プロジェクトが見つけた「可能性の種」とは?
取材後記
「問い」を起点にしたプロジェクトの成果を発表するQWSステージでは斬新でこれまでにないアイデアや着眼点が多く見られた。ピッチを行った各チームの代表も「Z世代」と言われる若者が多かった点も印象的だ。彼ら・彼女らが持つ課題感や新鮮な視点を得られることは、SHIBUYA QWSという共創施設の大きな特徴だろう。
大企業の新規事業担当者からは「社内でビジネスアイデアを出すことに限界がある」という声を耳にすることも多いが、SHIBUYA QWSに集う10〜90代のバラエティに富んだ人々と交流することで、新たな事業のタネを見つられる可能性もあるはずだ。「新規事業に手詰まり感がある」ーーそんな方にはぜひSHIBUYA QWSの活用をおすすめしたい。
(取材・編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)