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コード製造会社 3代目社長の軌跡 世界いちのキャビアを創るまで【後編】

コード製造会社 3代目社長の軌跡 世界いちのキャビアを創るまで【後編】

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家業を継いでから新たなビジネスチャンスにチャレンジする「ベンチャー型事業承継」。業態転換や新規事業に挑んだ跡継ぎベンチャーを取材し、その経験とノウハウを発信するのが「事業承継の原体験とイノベーション」です。

昨日の【前編】に引き続き、コード製造会社・金子コードを引き継いだ3代目社長、金子智樹氏が世界一のキャビアを作るまでの軌跡をお届けします。

第1ステージは会社の立て直し。全社に掲げた5つの目標

ーー新規事業を始めようと思ったきっかけを教えてください。

金子氏 : 私はすべての中小企業は新規事業をすべきだと思っています。業績がいい会社はもちろんのこと、業績の悪い会社も新規事業を意識しなければ将来はありません。そして、新規事業はいざ作ろうと思って作れるほど簡単でないこともわかっていました。そのため、入社した時から常に新規事業は意識していたのです。

ただし、会社を継いですぐに新規事業を始められたわけではありません。私が会社を継いだ当初は、最悪の状況は乗り切ったもののまだ業績が悪く、新しいことを始めても成功確率が低いと思ったのです。そこで私は会社を継いでから65歳で現役を引退するまでの計画を立て、新規事業を始めるための準備に取り掛かりました。

ーーどのような計画を立てたのでしょうか。

金子氏 : 私は65歳まで社長を続けようと思っていたため、38歳で会社を継いでからの在職期間は27年。それを9年ずつ3つに分割し、第1ステージから第3ステージと考えたのです。そうすることで、私も目標が定めやすいですし、社員たちにも伝わりやすくなります。

新規事業は第2ステージのテーマにして、第1ステージはそのための下準備。当時赤字だった会社を立て直し、最高の状態で新規事業に取り掛かろうと思ったのです。

ーー第1ステージで何をしたのか教えてください。

金子氏 : 私が行ったのは5つです。一つは売上を回復させること。「グローバル40」という目標を掲げ、当時25億円の売上を40億円にしようとしたのです。最終的にこの目標は大幅達成し、9年目が終わる時は売上が50億円にまでなっていました。

2つ目は人材です。会社を継いだ当時リストラをした影響で、優秀な人も会社を辞めてしまったので、まずは組織を建て直さなければならない。採用と人材育成に大きく投資し、外部のコーチングも採り入れながら社員教育を徹底しました。

3つ目はブランディング。海外ではどんな小さな企業でもしっかりブランディングをしていたのですが、日本で本気でブランディングをしている企業は少ないですよね。それでは業績も伸びませんし、人も集まりません。そこで私はデザイナーを呼んで、本格的にブランディングを始めたのです。

4つ目はグローバル化。「グローバル40」で掲げた売上40億円のうち、10億円は海外で立てることを目標にしました。単に目標を作るだけでなく、パネルを作ってみんなが見えるところに貼り、会社全体で意識をグローバルに向けたのです。

最後の目標は財務強化。当時2%だった営業利益を10%にまで上げる目標を立てました。日本の製造業の平均営業率は4%と言われており、それではお金が貯まらず新規事業を始める余裕がありません。しっかり設備投資しながら新規事業のための資金を貯めるにはどうしても10%は必要だったのです。

結果的に、9年目が終わった時には掲げた目標をすべて達成し、海外での売上も営業利益率も大幅に達成できました。それは社員たちの自信にも大きく繋がり、新規事業を始めるための最高の状態が整ったのです。


新規事業の準備は整い、いざキャビアづくりへ

ーー準備が整った上で、どのように新規事業を始めたのでしょうか。

金子氏 : 新規事業を始めるにあたっては、電話コード事業のトップを呼び出し「明日からコード事業を外れて、新規事業のネタを世界中から探してきてくれ」と指示を出しました。その時にネタの条件として挙げたのが、次の2つです。

1.今の事業の延長線上ではないこと

2.10年かけて成果が出るテーマであること

1つ目の条件については、そもそも既存事業の延長線上にあるものは新規事業ではないと思っているからです。既存事業とシナジーがあるなら、既存事業の人がやればいいので、わざわざ新規事業の部署としてやる必要はありません。

加えて、新しいビジネスを考える時に、既存事業とのシナジーを考えてしまうと視野が狭くなってチャンスを逃してしまいます。今の時代に何が一番ビジネスチャンスがあるのか、フラットな状態から探してもらいたいと思いました。

2つ目の条件は中小企業の強みを活かすため。中小企業の大きなリスクは大企業に新規参入されることです。そのため大企業が参入してこれない事業に参入しなければなりません。上場企業の社長の平均在任期間は6.2年。大企業の社長が自分の在任期間中に成果を出したいと思えば、10年もかかる事業には手が出しづらいですよね。そう考えてオーナー企業の強みを活かした事業選びをしたかったのです。

ーーどのような事業を提案されたのか教えてください。

金子氏 : 彼は約2ヶ月に渡って世界を飛び回った結果「食」領域でのビジネスを提案してきました。日本にいると食の問題はあまり感じませんが、世界では食料不足が社会問題になっていますし、日本では逆に食品ロスが問題になっていますよね。食品業界は世界レベルで様々な課題が眠っており、逆に言えばビジネスチャンスがあると思ったのです。

食に事業テーマを絞ってからは、二人で様々なアイディアを出し合って検討しました。会社で畑を買って野菜を育てるアイディアなどもありましたが、最終的に出た答えがキャビア。その背景には、私が個人的にワインが好きなことも関係しています。

実は以前からワインに関する事業をしたくて、出張に行ってはワイナリーなどを探していたんです。しかし、実際はワイン事業に参入するのは難しく、ワインと近いキャビアを私から提案してみたところ、一週間ほどで市場調査をしてきて。


▲静岡県春野町、天竜川の源流を活かしてチョウザメを養殖し、生み出された『ハルキャビア』。

ーーキャビアにビジネスチャンスはあったのですか?

金子氏 : キャビアは世界的に天然物がとれず、世界での需要は増えているのに供給が不足している食材です。食品を作るなら、そのように付加価値をつけて値崩れしにくいものを選ぼうと思っていました。何より、新規事業担当者が一週間かけて作った分厚い資料を前にしてキラキラした目で「キャビアでいきましょう」と言われたのが響いて。

その目を見たら、すぐにOKを出していましたね。

ーー資料の内容が決め手ではないんですね。

金子氏 : その時の資料はほとんどネットで調べた情報ばかりで、今見返したら決して質は高くありません。事業計画も穴だらけで、ほとんど計画どおりにはいってないんです。

それでもOKを出したのは彼がやる気が本物だったから。「そんなことでいいの?」と思うかもしれませんが、新規事業のハードルは低くてもいいんです。そうでなければ中小企業の新規事業は始まりません。どんなに始める前に議論を重ねても、実際に事業を始めて自分の足で集めた情報でなければ何も意味がないのですから。

大事なのは「どうスタートしたか」ではなく「どう発展させていくか」。「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、新規事業が既存事業にいい影響を与えたり、別の事業に繋がる可能性もゼロではありません。それもこれも、まずは始めてみないとわからないのです。

ーーキャビアの事業も何かにつながったのでしょうか?

金子氏 : 事業が利益をあげているのはもちろんのこと、キャビアの事業を展開することで、世界中で人脈ができました。お客様が富裕層なので、その人脈を作って新しい富裕層ビジネスのアイディアも生まれています。既に高級テーブルウェアの事業や陸上養殖ビジネスのプラットフォームの事業なども生まれており、2020年にはノーベル・サステナビリティ・トラスト・ジャパン(※)の理事長にも就任しました。それらは全てキャビアから巡り巡っての結果です。

もしも既存事業の延長線で新規事業を考えていたら、今のようなビジネスの広がりは見せなかったでしょう。

※ノーベル・サステナビリティ・トラスト・ジャパン:ノーベル賞創設者であるアルフレッド・ノーベルの曾甥マイケル・ノーベル博士が会長を務める団体。持続可能な調和の世界を作るために活動している。



ーー全くの異業界である養殖事業を成功させた秘訣があれば教えてください。

金子氏 : 実際にやってみてわかったのですが、ものづくりの会社は養殖と相性がいいと思います。ものづくりの会社はとにかく細かくデータをとって製品を管理しますよね。その感覚を養殖にも活かすと、従来の養殖業者に負けない魚が作れるんです。

使う技術はもちろん違いますが、ものづくりの会社が新規事業を始めるなら、養殖はおすすめですね。

ーー養殖事業の現状はいかがですか?

金子氏 : 10年で成果を出す、つまり世界で一番になると思って始めた養殖事業ですが、8年目となる今でその目標は達成していると思います。売上では世界一には及びませんが、世界各国のセレブが私たちのキャビアを1番だと言ってくれているので。

少なくとも私たちは世界で1番のキャビアを作っていると自負しています。

第3ステージはオープンイノベーションで世界一の事業を目指す

ーー第1ステージで業績回復、第2ステージでは新規事業。第3ステージのテーマを教えてください。

金子氏 : 第2ステージとは違う形での新規事業に挑戦したいと思っています。これまで新規事業といえば、社内のリソースを使って立ち上げるのが常識でした。それ故に限界がありますし、その多くが失敗します。

しかし、ここ数年でオーソドックスになりつつあるのがオープンイノベーション。外部のパートナーと一緒に事業を作っていく方法です。自分たちが持っていないリソースを使えるため、中小企業の可能性は大きく広がりました。

ーーオープンイノベーションを前提にすると、事業の立ち上げ方はどう変わるのでしょうか?

金子氏 : 事業のスタートが変わります。以前なら事業モデルを考える時に「何ができるか」からスタートしなければいけませんでした。しかし、今は「何がしたいか」を考えて、足りないピースを補ってくれるパートナーを探しに行けばいいだけです。

キャビアは社内のリソースを使って立ち上げましたが、SUNDREDやさかなファームなど今は外部と組んで事業を立ち上げています。第2ステージで世界一をとったように、今度はオープンイノベーションを使って世界一となる事業を作っていきたいと思います。



(取材・文:鈴木光平、撮影:加藤武俊)


■連載一覧

第1回:リサイクル会社の4代目社長が手掛ける業界のDX。ITを駆使した循環型社会とは

第2回:コード製造会社 3代目社長の軌跡 世界いちのキャビアを創るまで【前編】

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  • 奥田文祥

    奥田文祥

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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