『REGION JOIF』初開催のステージは関西!――スタートアップ、大企業、自治体、支援団体が繰り広げた熱いピッチをレポート
国内最大級のオープンイノベーションカンファレンス『Japan Open Innovation Fes』(以下、JOIF)が9月13日に開催される(主催:株式会社eiicon)。これに先立ち、国内各地域のイノベーションを活性化させる今年初開催のイベント、『REGION JOIF 2024 in KANSAI』が、7月12日に大阪市のイノベーション施設「NORIBA10 umeda」で行われた。
同イベントの目玉の一つのスタートアップのピッチでは、審査員や参加者が投票し、もっとも評価された一社が『JOIF2024』で行われる本選(「JOIF STARTUP PITCH」)の参加権を獲得する。
『REGION JOIF』の第一弾として選ばれた関西エリアは、オープンイノベーションのエコシステムの創出などに意欲的だ。冒頭、株式会社eiicon地域戦略事業本部 柏木淳が挨拶。「今、地域でイノベーション、オープンイノベーションが活発化している。中でも、関西は魅力的なスタートアップが多く、支援も手厚い。本日は盛り上がりを見せる関西のイノベーションをぜひ体感してほしい」と述べ、開会を宣言した。
この日は大企業リバースピッチ、スタートアップピッチ、自治体&支援団体ピッチ、コラボレーションピッチが繰り広げられたほか、交流会で参加者同士の親睦を深めたり、活発な議論が交わされたりした。以下に当日の様子をレポートする。
関西のオープンイノベーションを牽引する! 大企業リバースピッチ
まず紹介するのは、大企業リバースピッチだ。関西でオープンイノベーションに取り組む大手企業を代表して、南海電気鉄道と新井組の2社がピッチに臨んだ。
●南海電気鉄道株式会社
同社は私鉄として国内最古である140年の歴史を持ち、幅広い事業を展開している。社内外から随時提案を求めるなど、イノベーションに積極的な姿勢を示し、複数の新規事業がスタートしている。現在、駅などを活用したモニター調査事業に乗り出し、パートナーを求めている。
●株式会社新井組
兵庫県西宮市に本社を構える同社は、総合建設業を行っており、民事再生を経て再建した経験を持つ。現在、「社会課題(SDGs)起点のビジネス創出」「イノベーションエコシステムの構築と展開」「社内イノベーション風土の醸成」をテーマに新市場への展開などを目指している。
本戦への登壇権獲得を目指して――6社によるスタートアップピッチ
大企業によるリバースピッチの次に行われたのは、スタートアップピッチだ。審査員と参加者が審査項目に沿って採点を行い、最多点を得たスタートアップが、『JOIF2024』で行われる本選(「JOIF STARTUP PITCH」)に参加することができる。なお、以下の3名が審査員として参加し、質疑応答や審査を行った。
<審査員>
・渡邊太郎氏(株式会社新井組 成長戦略部 部長)
・渡邉秀斗氏(一般社団法人うめきた未来イノベーション機構 プロジェクト推進・共創企画室 マネージャー)
・村田宗一郎氏(株式会社eiicon 常務執行役員 CHRO/人事本部長 地域創生イノベーション創出支援事業本部 本部長)
厳正なる審査の結果、大阪大学発スタートアップ・リバスキュラーバイオが最も高い評価を獲得し、本選へと駒を進めた。ここからは、リバスキュラーバイオのピッチ内容に加え、その他にピッチを行ったスタートアップ5社(フツバー、Holoway、光オンデマンドケミカル、オーシャンアイズ、エニシア)の様子も紹介する。
●リバスキュラーバイオ株式会社
同社は医師、研究者、製薬会社出身者で構成される、大阪大学発のスタートアップ。手がけているのは血管再生医療だ。現在、心疾患は死亡原因の20%を占め、認知症は世界で5.5億人が罹患しており、同社によれば疾患のボトルネックは血管にあるという。
一方、血液を全身へ届ける微小血管の根治療法は存在しておらず、血管疾患のラストワンマイルの課題と言える状況だ。同社は新発見の幹細胞、血管内皮幹細胞ESCで治療を試みる(日米で特許取得)。具体的な治療法は、破壊された微小血管の再生と血管のつくる物質の欠損の復活だと説明する。ESCは自らが直接的に血管をつくるため、より重症度の高い病変でも高い有効性が維持できると強調した。今後、2026年には日本での臨床試験の開始に挑戦する。
●株式会社フツパー
同社はAIを活用し、製造現場での人手不足の解消に取り組んでいる。中でも強みを持つのが外観検査で、独自の技術で高精度かつ低コストにトータルサポートを行い、さらに品質管理機能も提供。「世界テック大手を凌駕し第四次産業革命を集大成に導く」と意気込んだ。
●株式会社Holoway
同社は兵庫県立大学の認定ベンチャーだ。独自のデジタルホログラフィ測定技術を用いた、精密測定検査装置を開発している。測定技術の革新を通して微細化・大面積化トレンドに対応し、モノづくりのスタンダードを変えるインパクトの創出を試みている。
●光オンデマンドケミカル株式会社
同社は神戸大学発スタートアップで、バイオメタンを原料とする医薬品原薬と中間体の生産を手がけている。複数の特許を有し、光化学反応を用いた生産(光ものづくり)を行うのが特徴だ。サスティナブルな化学品で、脱炭素とSDGsへの貢献を目指す。
●株式会社オーシャンアイズ
同社は京都大学発スタートアップで、海洋データを用いた事業を行っている。目指しているのは、海をより安全・効率的・持続的な活動の場にすることだ。例えば、魚群がいる可能性の高い海域情報の提供などがある。このほか、ブルーカーボンや洋上風力発電なども推進している。
●エニシア株式会社
同社は、京都大学発スタートアップ。医師の紹介状作成サービス「みんなの地域連携室」(R)を提供している。医師の負担を減らしながら、患者の安心感の醸成にもつながる。政府が電子カルテを普及させていることもあり、今後マーケットの大きな広がりが期待できる。
関西は支援リソースが豊富!――自治体&支援団体ピッチ
本イベントには、オープンイノベーションを積極的に支援する自治体や支援団体も参加した。計8つの組織・団体によるショートピッチの様子を紹介する。
●和歌山県成長産業推進課
和歌山県は食や観光が主要産業だが、ロケット射場をきっかけに新たに宇宙産業を盛り上げる。今後「将来の中核産業として地域に成長産業の集積の土台を築き」「GX実現先進県、脱炭素社会先進県となる」ことを目指し、オープンイノベーションにも力を入れていく予定だ。
●兵庫県産業労働部新産業課
兵庫県ではスタートアップや事業会社などを問わず、様々なプレイヤーの共創を支援しているほか、神戸市とともにエコシステムの創出にも努めている。また、ドローンをはじめとする次世代産業の振興に向けたプラットフォームやコンソーシアムでの共創支援にも注力している。
●神戸市経済観光局新産業創造課
神戸市は地元企業の新事業創出や行政・地域が抱える課題を、全国のスタートアップなどと共に解決を目指すプログラムSo-Ii(ソウイ)をスタートさせた。また、ビジネス交流拠点「ANCHOR KOBE」を通じて新たな連携を促進するなど、共創に積極的な姿勢を見せている。
●一般社団法人京都知恵産業創造の森(KOIN)
知の交流と融合により新たな価値の創造を目指し、京都府、京都市、京都商工会議所、京都工業会が設立した。創業、資金調達などの支援を行うほか、海外エコシステムとのネットワーク構築している点が、大きな特徴となっている。
●大阪商工会議所 産業部
同会議所は独自のスタートアップ支援事業「Daisho Start-up Operation」を展開している。全国有数の企業ネットワークを駆使し、ビジネスマッチングを強力にバックアップする。今回は大学発スタートアップや学生ベンチャー向けのプログラム「U-START UP KANSAI」を紹介。
●ソフト産業プラザTEQS(公益財団法人大阪産業局)
IoT、5G、ロボット、AI、web3、メタバースなど先端技術をキーワードにビジネス支援を行っている。今回は5Gを活用したオープンイノベーションプログラムを紹介。過去のプログラムではPoC実施などの実績がある。
●大阪イノベーションハブ(公益財団法人大阪産業局)
創業前から創業5年以内の関西圏のスタートアップを対象に、最大1,000万円の活動資金の提供をはじめ、メンター、地域リソースを通じたハンズオン支援プログラム「起動」を実施している。大手企業や大学の協力を得て進められ、今年度は第3期が開催される予定。
●一般社団法人うめきた未来イノベーション機構 プロジェクト推進・共創企画室
うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」を拠点に官民が参画する体制で関西全体を俯瞰したイノベーション支援を実施している。東京に一極集中ぎみのスタートアップだが、関西の豊富な事業シーズと支援リソースを繋ぐハブ機能を発揮し、エコシステムの活性化を図る。
MADE in KANSAI の共創事例を全国へ!――コラボレーションピッチ
イベントの最後には、関西エリアで生まれている共創プロジェクトのピッチが行われた。登壇したのは、「株式会社神戸新聞社 × 株式会社omochi」、「株式会社アシックス × 株式会社みみずや」、「三井住友海上火災保険株式会社 × 株式会社Revo Energy」の3つの共創プロジェクトの担当者だ。
●株式会社神戸新聞社 × 株式会社omochi
神戸市内企業と市内・全国のパートナー企業による新規事業創出を目指すオープンイノベーションプログラム、「Flag」から誕生した共創プロジェクト。omochiは食の豊かさに触れられる時間と場所を広げたいとの思いから2022年に創業した。両社の共創は3年目となる。中学・高校生を中心に食を起点とした探究的な学びの事業を進め、神戸新聞のリソースを活かしながら、積極的に情報発信を行い読者から好評を得ているという。さらに地域を巻き込んでいくのが狙いで、マネタイズも実現しつつあるという。今後は命を守るという観点から、震災に関する学びの場も提供していきたいと話した。
●株式会社アシックス × 株式会社みみずや
本共創プロジェクトも、神戸市のオープンイノベーションプログラム「Flag」から誕生した。アシックスとみみずやは「アグリスポーツワーケーション」に取り組んでいる。目指しているのは、「スポーツ×農業の力(アグリスポーツ)」で日本の社会課題を解決することだ。特に、働き方改革と地方創生を試みる。実証実験などから、アグリスポーツは創造力・集中力の向上に効果を発揮することが明らかになっており、また、トレーニングの効果もある。コンテンツ開発と合わせてビジネス展開する上での課題、農地から勤務地への移動などの解決を図りながら2025年の事業化を目標とする。
●三井住友海上火災保険株式会社 × 株式会社Revo Energy
大阪イノベーションハブが支援する共創プロジェクト。Revo Energyは、ミドリムシで再生可能なバイオディーゼル燃料を創生し、脱炭素社会への貢献を目指している。一方、三井住友海上火災保険はリスクの予防、補填、リカバリーを行い、保険本来の機能に加えて「補償前後の価値」を創造。スタートアップの事業を強力にバックアップしている。今回、培養効率のアップを試み一定の成果を上げ、AUBAを通じて出会った物流会社、SGムービング株式会社向けに創エネプラットフォームを構築。同プラットフォームでは自給自足で燃料を補給でき、さらにCO2吸収するためカーボンニュートラルにも繋げられる。今後、大阪・関西万博を見据えた、実証コンソーシアム設立を進める予定だ。
コラボレーションピッチの後、スタートアップピッチの結果発表が行われ、リバスキュラーバイオが本選への登壇権を獲得したことが伝えられた。審査員を代表し、eiicon 常務執行役員である村田宗一郎が「大きく深いペインに立ち向かい、さらにその解決を可能にする技術力とチームがある。時間もお金もかかる大きな挑戦だと思うが、ぜひ血管再生医療で素晴らしい世界を実現してほしい」とエールを送った。
これに対し、リバスキュラーバイオの代表取締役社長 大森 一生氏は、「私自身、10年医者を経験した。治療法のない病気になった患者様と接するのは、辛さも悔しさもあった。そうした思いを抱えながら、本事業と向き合ってきた。これから新しい治療を実現させたい」と熱く語った。
――この後、閉会の挨拶が行われ、交流会も実施された。今回、初めて開催されたREGION JOIFは大盛況のまま幕を閉じた。
取材後記
『JOIF』が第8回を迎えるにあたり、本年度からその地方版というべき『REGION JOIF』が開催される運びとなった。第一弾の開催地に選ばれたのが関西エリアだ。同エリアの関係者は「東京に比べればまだまだ」と謙遜するが、大阪をはじめ、首都圏に次ぐ大都市や大学が集まるエリアだけに、有力なスタートアップが多いのはもちろんのこと、自治体や支援団体の後押しは手厚く、イノベーションや共創の取り組みは盛り上がりを見せる。そのことがピッチを通じてひしひしと伝わってきた。今後、日本が世界でのプレゼンスを取り戻すには、日本全体でイノベーションに取り組む風土の醸成が必要になるはずだ。『REGION JOIF』はその役割を十分に果たしてくれるのではないか。
●9月13日に開催される『Japan Open Innovation Fes2024』(JOIF2024)の詳細は以下よりご覧ください。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)