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Ⅳ期目となるアクセラが始動したNEXCO東日本――過去採択企業・AirXと取り組む「ヘリコプター遊覧」プロジェクトから見える”共創の本気度”

Ⅳ期目となるアクセラが始動したNEXCO東日本――過去採択企業・AirXと取り組む「ヘリコプター遊覧」プロジェクトから見える”共創の本気度”

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関東以北、長野、新潟から北海道までの高速道路の建設・維持・管理・運営を担う東日本高速道路株式会社(以下、NEXCO東日本)。同社は2021年に新組織「ドラぷらイノベーションラボ」を立ち上げ、アクセラレータープログラム『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』をスタートさせた。

すでに過去3回のプログラムを開催しており、2024年8月1日から第Ⅳ期目となる『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』が始動。「新たな体験価値の提供を目指す4テーマ」と「早期の解決を求める高速道路事業の課題に対して解決を目指す3テーマ」を合わせた合計7つの共創テーマを掲げ、パートナー企業の募集をスタートする(早期応募締切:9月5日、最終応募締切:10月1日)。

TOMORUBAでは第Ⅳ期のプログラム開始に先立ち、プログラム運営事務局としての役割を担うドラぷらイノベーションラボのメンバーへのインタビューを実施。昨年度までのプログラムの成果や手応え、本年度のプログラムの特徴、新設されたテーマなどについて伺った。

また、本記事の後半では、第1期の採択企業である株式会社AirXの手塚氏と藤園氏、ドラぷらイノベーションラボのメンバーにお集まりいただき、昨年10月に実施した「⾼速道路のSAを離着陸地とするヘリコプター遊覧」について、プロジェクト実施までの共創エピソードや実施後の手応え、今後の展望などについて詳しくお聞きした。

【事務局インタビュー】早期の解決を求める高速道路事業の課題3テーマを加えた7つの共創テーマを設定

まずはプログラムの運営事務局を務めるドラぷらイノベーションラボの吉原氏、山本氏へのインタビューを行った。両氏にはNEXCO東日本が新規事業開発に取り組み続ける背景やアクセラレータープログラムを実施する理由、これまでのプログラムで得られた成果などをお聞きするとともに、今年度のプログラムの特徴や共創テーマの設定背景などについても解説いただいた。

――『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』は、今回でⅣ期目を迎えますが、改めてNEXCO東日本が新規事業に取り組む背景、本プログラムを開催する理由・狙いについてお聞かせください。

吉原氏 : 私たちが管理を担う高速道路は、供用開始から50年以上が経過し、老朽化への対応が急務となっています。また、近年激甚化している災害や気候変動、さらには人口減少、高齢化など、社会の変化とともに様々な問題・課題が生じています。私たちNEXCO東日本は、このような社会環境の変化に対応し、新たな課題を解決していくことで、高速道路という貴重な資産を次世代に継承していく責務があると考えています。

高速道路事業が抱える様々な課題を解決し、安全・安心・快適・便利な高速道路を維持し続けるためにも、私たちとパートナー企業の皆様との共創には大きな意義があると考えています。今回のようなプログラムを通じてパートナー企業の皆様が持つ独創的な技術やアイデアを、高速道路の未来に直結するようなソリューションの創造につなげていくつもりです。

▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 部長 吉原 健一氏

――これまでの共創の成果についてどのような感想をお持ちですか?

吉原氏 : 最初の頃は、当社の現場も戸惑いながらの共創ではあったと思います。ただ、パートナー企業の皆様との共創から生まれる新しい製品・サービスを実際に使ってもらったところ、現場からも「もっとこんな使い方を試してみたい」という声が上がってくるようになりました。現場を含む社内全体にドラぷらイノベーションラボの取り組みや共創の考え方が浸透しつつあると感じており、「仕組みとして回り出してきたな」という印象を持っています。

また、Ⅱ期、Ⅲ期と回を重ねるごとに、高速道路の「安全・安心」に関するソリューションだけでなく、「快適・便利」に資するような地域・エリアへの貢献につながるソリューションも生まれつつあるなど、共創の形に広がりが生まれていることを大変嬉しく思っています。

――続きまして、今年度のプログラムで設定された募集テーマについて教えてください。

山本氏 : 今年度のプログラムでは7つの募集テーマを設けています。大きく分類すると、「高速道路を利用するお客さまへの新たな体験や価値提供する提案」を広く募集する4つテーマ、「早期の解決を求める高速道路事業の課題に対して解決につながる提案」を募集する3つのテーマがあります。

<新たな体験価値の提供を目指すテーマ>

●募集テーマ①/次世代に向けた高速道路事業のアップデート

●募集テーマ②/サービスエリア・パーキングエリアの更なる価値向上

●募集テーマ③/各種アセットを活用した地域連携強化や新事業創出

●募集テーマ④/サステナブルな事業運営とSDGsへの貢献

<早期の解決を求める高速道路事業の課題の解決を目指すテーマ>

●募集テーマS-①/長距離ドローンを活用した道路管理業務の効率化・省力化

●募集テーマS-②/リアルタイムでの高速道路上の異常検知・アラート通知

●募集テーマS-③/構造物の点検業務・調書作成の効率化・自働化

後者の3テーマに関しては、当社の各部門で特に早期の課題解決が求められている課題ものです。また、これら3テーマは今までのプログラムにはなかった新しいテーマであり、今年度のプログラムを特徴づける新要素となっています。

▲東日本高速道路株式会社 技術本部 事業創造部 事業創造課 課長代理 山本 幸典氏

――お二人が個人的に注目している募集テーマがあれば教えてください。

山本氏 : 個人的には「募集テーマS-②/リアルタイムでの高速道路上の異常検知・アラート通知」について強い関心を持っています。高速道路の安全・安心に関わる重要な要素であり、様々な異常をアラートでスピーディーに知ることできれば、その後の迅速な対応が可能になります。

吉原氏 : 私は「募集テーマS-①/長距離ドローンを活用した道路管理業務の効率化・省力化」に関心を持っています。現状は自動車や人力で状況把握を行っていますが、長距離・長時間航行できるようなドローンがあれば、深夜であってもインター間を往復して点検を行い、その状況を防災対策室などでモニタリングできるようになります。そのようなソリューションにつながる技術・提案には大いに期待したいですね。

――貴社がパートナーに提供できるアセット・リソースについてもお聞かせいただけますか?

山本氏 : 高速道路の本線、休憩施設としてのサービスエリア・パーキングエリア(以下、SA・PA)を実証フィールドとして活用いただけます。ただし、お客さまの安全安心を確保することが第一となりますので、実証の進め方は調整をさせていただくことになります。この他、当社が保有する様々なデータをご提供しながら共創を進めていくことも可能です。

吉原氏 : ハード的なアセット以外にも、SA・PAのコンシェルジュをはじめとする、人的リソースをご提供することもできますし、沿線の自治体との関係性・ネットワークなども活かすことが出来ると思います。このようなアセット・リソースを活用した自治体や地域の課題解決につながるソリューション、さらには地域と地域をつなげるようなタイプのソリューションにも期待しています。

●多様なパートナー企業と刺激し合いながらプロジェクトを進めていきたい

続いては、現在も様々な共創プロジェクトで活躍しているドラぷらイノベーションラボの上田氏・木村氏・熊谷氏の3名にお集まりいただき、未来の共創パートナーに向けてのメッセージをいただいた。

――現在、木村さん、熊谷さんが担当されている共創プロジェクトについて教えてください。

木村氏 : 現在は2つの共創プロジェクトを担当しています。一つは第2期の採択企業である農業生産法人株式会社グリーンズグリーンさんと取り組んでいる「緑化と防草を一体化した苔シート」に関する環境保全のプロジェクトです。もう一つは第Ⅲ期の採択企業、株式会社and.dさんと取り組んでいる「AI観光アシスタントによる観光促進」に関するプロジェクトです。

▲東日本高速道路株式会社 技術本部 事業創造部 事業創造課 木村 祐介氏

熊谷氏 : 私も木村さんと同じように2つのプロジェクトを担当しています。一つは第Ⅲ期の採択企業、株式会社さとゆめさんと取り組んでいる「地域のストーリー(物語)を伝える地域拠点・地域アンテナショップの設置」に関するプロジェクトです。もう一つは第Ⅲ期の採択企業、株式会社Livaさんとの「食の体験型ショールーミングを目指した新しい試食の形」をSA・PAで提供するためのプロジェクトです。

▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム 熊谷 高晃氏

――今回のプログラムの7つのテーマの中で、個人的に注目しているテーマがあれば教えてください。

熊谷氏 : 高速道路に付随するSA・PA関連のテーマに注目しています。また、当社の様々なアセットを活かした事業の創造にも力を入れていきたいので、今回のプログラムでは、そのような提案をしていただける方々に注目したいと考えています。

上田氏 : 個人的には、カーボンニュートラルやGX(Green Transformation)、地球温暖化などの課題が気になっているので、「募集テーマ④/サステナブルな事業運営とSDGsへの貢献」に注目しています。当社としてもLED電球や再生紙への切り替えなどに取り組んではいますが、より事業に近い領域での貢献ができればと考えています。

たとえば高速道路においては、建設会社さんなど、様々なパートナーと事業を進めていますが、資材調達から工事の施工、完成・供用後など、事業の各フェーズでカーボンニュートラルの実現に貢献する方法があるはずです。今回のプログラムをきっかけに、そのような取り組みを一つでも多く進めていきたいと思っています。

▲東日本高速道路株式会社 技術本部 事業創造部 部長 上田 功氏

――最後に、未来の共創パートナーへのメッセージをお願いします。

木村氏 : パートナー企業の皆様が有する高い技術力や熱い意志を、当社のフィールドで遺憾なく発揮いただきたいと考えています。共創を通じて新しい事業を生み出していくことはもちろんですが、当社自身が変わっていけるような取り組みにもしていきたいと思っています。私自身もパートナー企業の皆様の窓口となって力を尽くしていくつもりですので、高い技術と高い志を持った方々にご応募いただけると嬉しいです。

熊谷氏 : 「NEXCO東日本は堅い会社」というイメージを持たれている方も多いと思いますが、最近ではドラぷらイノベーションラボの理念や活動に共感してくれる社員の数も増えつつあります。若手からベテランまで、「新しいものを作りたい」「課題を解決したい」という共通した思いを持っていますし、私自身も強い意志でスピード感を持ってプロジェクトを進めていくつもりです。また、今回設定している募集テーマは、AIや地域活性化といった近年のトレンド分野との親和性も高いので、そのような分野を軸とした提案もお待ちしています。

上田氏 : 「E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM」は、今回でⅣ期目を迎えます。これまでにも多くのパートナー企業の皆様に参加いただき、PoCも含めて様々な協業・共創をさせていただきました。当社は「高速道路」という看板を背負ってはいますが、今回の7つのテーマをご覧いただければわかるように、当社内には様々な事業フィールド、業務フィールドが広がっており、あらゆる領域の企業の皆様に参加いただけるチャンスがあると考えています。

これまでの共創を通じて、私たちはパートナー企業の方々に多くのことを学ばせていただきました。また、逆に私たちがパートナー企業の方々に気づきをご提供できたケースも少なくないと感じています。実際のところ、そのような相互作用こそが共創の望ましい形であろうと考えていますし、これからも互いに刺激し合いながらプロジェクトを進めていくことで、パートナー企業の皆様に「参加して良かった」と思っていただけるようなプログラムにしていくつもりです。

【共創インタビュー】 NEXCO東日本×AirX――⾼速道路のSAを離着陸地とするヘリコプター遊覧

続いては、プログラム第1期の採択企業であり、新たな時代に向けたエアモビリティ事業を手がける株式会社AirXの手塚氏と藤園氏、ドラぷらイノベーションラボの瀬川氏と長谷川氏へのインタビューを実施。昨年10月に実施した「⾼速道路のSAを離着陸地とするヘリコプター遊覧」に関する両社の共創エピソードについてお聞きした。

●AirXの採択はNEXCO東日本にとっても大きなチャレンジだった

――最初にAirXの手塚さんにお聞きします。NEXCO東日本のアクセラレータープログラムにエントリーした理由を教えてください。

手塚氏 : 私の実家は高速道路のSAの近くにあり、幼い頃から高速道路やSAが生活に溶け込んだ地域で暮らしてきました。その後、自分で空の事業を立ち上げて進めていく中で、「いずれ何らかの形で高速道路とも連携できたら嬉しいな」と考えていたところ、NEXCO東日本さんがアクセラレータープログラムを開催することを知り、「これはすぐに応募しないと!」と思い、エントリーさせていただきました。

▲株式会社AirX 代表取締役 手塚 究氏

瀬川氏 : AirXさんから当社にお声かけを頂き、私としては「楽しそうだけど空の会社か…ウチの会社との相性はどうなんだろう」と、戸惑いながらお話をさせていただいたのが最初の出会いですね(笑)

▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム リーダー 瀬川 祥子氏

――その後、NEXCO東日本はプログラムにエントリーしたAirXを採択企業の一社に選んでいますが、どのようなポイントが採択の決め手になったのですか?

瀬川氏 : AirXさんがエントリーしてくださったのはプログラムの第Ⅰ期で、AirXさんの採択は当社にとっても大きなチャレンジでした。そもそも当社は高速道路の会社であり、高速道路は地上を走るものなので、「道路と空はちょっと遠いかもしれない」と思っていました。

ただ、当社のアセットであるSA・PAを始めとして、高速道路に新しい役割や価値が生まれるチャンスであることも確かであり、それはドラぷらイノベーションラボを立ち上げた意義や理念とも合致しています。それでもチャレンジングな採択ではあったため、審査の中で手塚さんには「採択させていただいたとしても、PoC実現までに何年も掛かってしまうかもしれませんが大丈夫でしょうか?」とご相談させていただきました(笑)

結局、一緒にPoCができたのは昨年と、最初に考えていた通り時間は掛かってしまいましたが、そのようなことも含めて「一緒に乗り越えた」という経験を積めたことは嬉しく思っています。ボランティアで災害復旧活動に熱心に取り組んでいらっしゃる手塚代表のお人柄はもちろんのこと、今回の空のご提案に関しても「観光と防災をセットで」という発想が、当社の理念との親和性が非常に高かったため、「一見すると遠い分野にみえても一緒にやっていける」と思えたことが大きかったと思っています。

――最初に瀬川さんが感じられたように、NEXCO東日本の道路の事業とAirXの空の事業は、一見すると縁遠い印象を受けます。そのような前提があるとして、AirXの皆さんがエントリーや提案の際に注意したこと、心掛けたことがあれば教えてください。

手塚氏 : まずはNEXCO東日本さんのような業界を代表する企業が「なぜベンチャーと共に新規事業開発を行うのか」「なぜオープンイノベーションにチャレンジしようとされるのか」という根本的な目的や理念、考え方を理解することが重要だと考えていました。

最初の頃は、そのような目的・理念を教えていただく中で、改めて自分たちの事業や「空の可能性」について考える時間を作っていただけたと感じています。そうした時間の中で、現在の自動車網の中に自動運転の車が走ったり、空のモビリティが入っていく可能性について議論させていただいたり、楽しさの側面もありつつ、安全・安心や地域の方々の暮らしに関連する部分で「連携させていただけるポイントがありそうですよね」というお話をさせていただいた記憶があります。

――道路事業の会社と空の事業の会社が連携するということで、実際に採択された際のニュースバリューも大きかったと思います。その当時の周囲の反応はいかがでしたか?

手塚氏 : エアモビリティの業界は海外のプレイヤーも多いため、そのような方々から「日本で新しいチャレンジをする機運が盛り上がっているんだね」というポジティブなフィードバックをいただきました。また、高速道路沿いの自治体様からもお声掛けをいただき、観光防災協定という形での連携につながるなど、様々な方々からの反響がありました。

▲「⾼速道路のSAを離着陸地とするヘリコプター遊覧」に使用された機体(画像出典:プレスリリース

●長者原SAにはヘリコプターの離発着における様々な好条件が揃っていた

――ここからは昨年10月に行われた『東北道 長者原SA(上り線)離着陸ヘリコプター遊覧プラン』を中心に、両社の共創プロジェクトについてお聞きしていきます。AirXの採択後、どのような流れでプロジェクトが進んでいったのでしょうか?

長谷川氏 : AirXさんからご提案いただいたPoCの内容は、高速道路のSA・PAにヘリコプターを離発着させる場所を設け、そこからお客さまを乗せて遊覧飛行を実施するというプランでした。そのため、まずはヘリコプターの離発着ができる候補地を探すことからスタートしました。もちろん、どのようなSA・PAでもOKというわけではなく、様々な候補地の中から条件をクリアできる場所を検討し、最終的には東北自動車道の長者原SAの上り線を離発着場に選びました。

離発着場が決まった後は、AirXさんから長者原SA周辺の観光資源等々を考慮したフライトコースをご提案いただきました。同様に弊社でも昨今の復興ツーリズムへの需要の高まりなどからコースの提案をさせていただくなど、両社が協力しあい、様々な役割分担のもとで計画を練っていき、プロジェクトを進めていきました。

▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム サブリーダー 長谷川 弘幸氏

――大企業とスタートアップの共創プロジェクトということで様々なハードルをクリアする必要があったかと思います。まずはAirX側で、とくに注力されたこと、苦労されたことなどについて教えていただけますか?

藤園氏 : ヘリコプターは多くの人にとって馴染みの薄い乗り物ですので、まずは「どのような離発着条件や運行条件が必要なのか」といったヘリコプターに関するナレッジの共有から進めさせていただきました。

いくらヘリコプターといっても単純に広い空地があればどこへでも降りられるわけではなく、航空法などで様々な基準が設けられています。そのような航空法の枠組みの中での知識の共有、さらには実際にお客さまを乗せる際に必要になるオペレーション上の注意事項なども含め、実施日直前まで何度も議論・検討・確認を重ねていきました。

▲株式会社AirX 執行役員 事業開発本部 藤園 光英氏

――最終的に長者原SAに決定するまでには、それなりの時間が掛かったのですか?

藤園氏 : そうですね。NEXCO東日本の皆さんと一緒に東北や新潟の候補地を何カ所も回らせていただきました。ただ、その過程でお互いの親睦を深められた部分もあったと思います。

長谷川氏 : 何度も出張にお付き合いいただき本当にありがとうございました(笑)。最終的に離発着地に決まった長者原SAには、駐車場や商業施設の他に癒しの空間としての園地があります。その園地が高台に位置しており面積も広かったため、ヘリコプターを飛ばすために必要な視界や空間も確保できるなど、お客さまの安全を担保しながら遊覧飛行を実施できる好条件が揃っていました。

――NEXCO東日本側で、とくに注力されたこと、苦労されたことについてお聞かせください。

長谷川氏 : 警察、消防、SA関係者、周辺自治体の皆様など、プロジェクトに関係するステークホルダーの数が多かったこと、また今回のプロジェクトが全国の高速道路で初の試みでもあったため、そのような方々へ丁寧に調整や説明する必要があり、おのずと時間が掛かりました。

また、長者原SAの近くには化女沼という日本有数の雁の飛来スポットがあり、長者原SAの敷地も含めて環境省が定める鳥獣保護区に指定されていました。そのため、雁の飛来時期や飛来コースに配慮したフライトルートをなどを計画する必要があり、環境省や有識者の方々とご議論を重ね、合意形成を図るなど、貴重な経験をさせていただきました。

藤園氏 : 鳥獣保護法への対応や周辺自治体である大崎市との調整も含め、長谷川さんを中心とするNEXCO東日本の皆さんが一つひとつ丁寧に進めてくださったことにより、スムーズなオペレーションを実施できる環境が整ったのだと思います。本当にありがとうございました。

――そのような様々な過程を経て昨年10月のプラン実施につながっていったのですね。実際には4種類の遊覧プランを販売されていますが、プライシングなどのビジネス設計面で苦労されたことはありますか?

藤園氏 : プライシングにはそれなりに苦労しました。まず、普段私たちがヘリコプターを格納している場所は関東圏にあるため、どうしても東北の長者原SAまでの回送費が原価に掛かってきます。その原価を回収するためには「何回お客様を乗せる必要があるか」「何人のお客様を乗せる必要があるか」といった部分を考慮しつつ、あまりに値段が高過ぎてもお客様に乗ってもらえないため、それらの要素を突き合わせながら商品設計を行いました。

このようなプライシングにおけるバランスや按分調整については、かなり勉強させていただけたと思っています。それでも結果的にはオンライン販売の時点で7、8割のプラン枠が売れたほか、現地での直接販売を含めれば完売に近い結果が得られました。

▲2023年10月に実施されたヘリコプター遊覧のフライトマップ・コース概要(画像出典:プレスリリース

●高速道路利用者だけでなく、地域の方々からも受け入れていただけた

――SAを離発着場とするヘリコプター遊覧プロジェクトを実施した感想・手応えについてお聞かせください。

長谷川氏 : 私はプロジェクトの調整・準備には関わったものの、実施当日は天候不良により不催行となったため、現地で立ち会えなかったんです(笑)。ただ、当日の実施に関わったメンバーから聞いた話によると、小さなお子さんや90歳代のご高齢の方、車椅子の方など、本当に様々な方々にご搭乗いただいたと聞いています。

また、オンラインでご予約いただいたお客さまだけでなく、当日その場でご搭乗を決められたお客さまも少なくなかったそうです。偶然にも長者原SAに立ち寄られたお客さまに対して、地域の魅力を発信する機会に繋がったことは大変意義あることでした。このようなことからもAirXさんが目指す「空を身近に、人生が豊かに」というコンセプトを、長者原SAにいらっしゃった多くのお客さまに体験いただけたと感じています。

また、今回のプロジェクトは長者原SA周辺の地域住民の方々からも注目いただいており、実際に大崎市内から直接SAにお越しいただき搭乗された方もいたそうです。高速道路のお客様だけを相手にする実証実験に終わらず、地域住民の方々にも私たちの取り組みが受け入れられていたことがわかり、大変嬉しく思っています。

――AirX側から本プロジェクトに関わった藤園さんはいかがですか?

藤園氏 : お客様の使い道・用途が多岐にわたっていたことが印象に残りました。たとえば結婚記念日の思い出作りのために搭乗されたお客様、お子さんと一緒にテーマパークに行くための予算を振り替えて搭乗されたお客様、仙台市へのドライブを予定していたもののSAでヘリコプターに乗れることを知り、急遽予定を変更して搭乗されたお客様、さらには東北周遊のオプショナルツアー的な位置付けで搭乗された当社のリピーターのお客様もいらっしゃいました。

――SAを活用したヘリコプターの遊覧プランを、今後はどのように発展・進化させていこうと考えていますか?

長谷川氏 : 今年も9月中旬に長者原SAで実施する予定です。昨年も世界農業遺産の大崎耕土を周遊するコースや鳴子ダムを周遊するコース、石巻・女川などの復興地域を巡るコースなどを設定しましたが、今年は昨年以上に地域自治体との連携を深め、小さな観光資源も含めてフォローできるようなコースを提供していくつもりです。また、将来的には、ヘリコプターに乗った遊覧と、地域の観光がセットで楽しめるようなプランも検討したいと考えています。

藤園氏 : 自治体の方々や地域に住んでいる方々だからこそ知っている観光情報も少なくないと思うので、そのような情報もいただきながらコースの再編を検討していきたいですね。

――最後にAirXの手塚代表にお聞きします。NEXCO東日本のアクセラレータープログラムに参加する意義やメリットについて、現段階で改めて実感されていることを教えてください。

手塚氏 : 当社は「空を身近に、人生が豊かに」というビジョンを掲げて事業を推進していますが、高速道路事業者であるNEXCO東日本さんとは、今後も平時・有事の両側面で様々な連携をさせていただける可能性があると考えています。

NEXCO東日本さんは、ハードとソフトの双方で非常に魅力的なアセットをお持ちです。ハードに関しては東日本の様々なエリアにつながる高速道路網がありますし、沿道自治体との関係性も強固です。

また、ソフトの領域では、道路の復旧スピードの速さ、安全・安心に資する卓越した支援体制など、私たちが空の事業を行う上でも学ばせていただけることが非常にたくさんあると感じています。今後もハード領域での連携を推進しつつ、ソフト領域でも様々なことを学ばせていただきながら、空のモビリティを安心・安全な乗り物にしていきたいと考えています。

取材後記

高速道路会社初のアクセラレータープログラムとしてスタートした『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』も今回Ⅳ期目を迎える。すでに過去3回のプログラムを通じて様々な共創事例が誕生しており、今回の記事で紹介したAirXとのヘリコプター遊覧プランの実証実験のように、事業化につながるような成果を上げつつあるプロジェクトも少なくないという。「道路と空」という一見縁遠いビジネス同士が結びつくことで新たなイノベーションが生まれたように、あらゆる業種・業態のベンチャーやスタートアップに門戸が開かれていることは間違いない。少しでも共創の可能性を感じるようであれば、積極的にエントリーすることをお勧めしたい。

●『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM 2024』の詳細はこちらよりご確認ください。

※なお、本プログラムの説明会を8/8 16:00〜17:30に開催します。
参加にご関心のある方は、お気軽に下記よりお申込みください。

https://e-nexco24program-0808.peatix.com/

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:前手秀紀)

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