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【Ⅴ期目始動】スタートアップ出資も実施し、進化を続けるNEXCO東日本のアクセラ――AIで道路管理の未来を形作る、過去採択企業との共創プロジェクトを深掘りする

【Ⅴ期目始動】スタートアップ出資も実施し、進化を続けるNEXCO東日本のアクセラ――AIで道路管理の未来を形作る、過去採択企業との共創プロジェクトを深掘りする

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関東以北、長野、新潟から北海道までの高速道路の建設・維持・管理・運営を担う東日本高速道路株式会社(以下、NEXCO東日本)。同社は2021年に「ドラぷらイノベーションラボ」を立ち上げ、アクセラレータープログラム『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』をスタートさせた。

すでに過去4回のプログラムを開催しており、2025年8月1日からは第Ⅴ期目となる『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM 2025』が始動。高速道路の利用者に向けて、新しい価値提供に資する以下4つのテーマを掲げ、パートナー企業の募集を開始する(早期応募締切:9月1日、最終応募締切:9月17日)。

●テーマ01 : 次世代高速道路に向けた安全・安心・快適・便利のアップデート

●テーマ02 : サービスエリア・パーキングエリアの更なる価値向上アップデート

●テーマ03 : 各種アセットを起点とした地域連携強化や新事業創出

●テーマ04 : サステナブルな事業運営とSDGsへの貢献

TOMORUBAでは第V期のプログラム開始に先立ち、プログラム運営事務局としての役割を担うドラぷらイノベーションラボのメンバーへのインタビューを実施。昨年度までのプログラムの成果や手応え、本年度のプログラムや共創テーマの特徴について伺った。

また、本記事の後半では、第Ⅳ期の採択企業である株式会社アーバンエックステクノロジーズの山本氏・福冨氏・椎野氏とNEXCO東日本 高崎管理事務所の皆さんにお集まりいただき、現在両社が取り組んでいる「AIによる区画線剥離率の測定システム」に関する共創エピソードやPoCの手応え、今後の展望などについて詳しくお聞きした。

【事務局インタビュー】 「永遠に進化し続けるプログラム」を目指してアップデートを続けていく

まずはプログラムの運営事務局を務めるドラぷらイノベーションラボのメンバーへのインタビューを実施した。NEXCO東日本がオープンイノベーション/新規事業開発に取り組み続ける背景やアクセラレータープログラムを実施する理由、これまでのプログラムで得られた成果などをお聞きするとともに、今年度のプログラムの特徴や共創テーマの設定背景などについても解説いただいた。

<写真左→右>

●東日本高速道路株式会社 技術本部 事業創造部 ドラぷらイノベーションラボ 副代表 千葉 隆仁氏

●東日本高速道路株式会社 技術本部 事業創造部 事業創造課 ドラぷらイノベーションラボ  山本 幸典氏

●東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ 大久保 宏和氏

●東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ 熊谷 高晃氏

●東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ リーダー 瀬川 祥子氏

昨期より出資も実行。より幅広いパートナーとの共創・社会実装を目指す

――今回でⅤ期目を迎える『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』ですが、NEXCO東日本がオープンイノベーション/新規事業に取り組む背景、本プログラムを開催する理由・狙いについて改めてお聞かせください。

NEXCO東日本・千葉氏 : NEXCO東日本の主たる事業は高速道路の維持管理ですが、社会が急速に変化していく中で、高速道路のあるべき姿をアップデートしていくためには民間企業として新たなチャレンジを進めていく必要があります。今回のようなプログラムを開催することで、当社のアセットやリソースにスタートアップの方々が有する新しい技術やアイデアを掛け合わせるきっかけを作り、お客さまへの価値提供につながる新しい事業・サービスを生み出したいと考えています。

NEXCO東日本・瀬川氏 : 5年前、右も左もわからない状況からスタートしましたが、過去4回のプログラムでは毎期100件近いご応募をいただき、昨期は過去最高数となるご応募をいただきました。本当に心強いですし、ありがたいと感じています。また、昨期には出資も無事に実行することができました。今期はⅤ期目ということで一つの節目となると考えており、より幅広い分野のパートナーと共創することで社会実装を目指していくつもりです。

――第Ⅰ期の採択企業であり、ヘリコプター・エアモビリティ事業を展開する株式会社AirXに出資をされたそうですが(※)、反響はいかがですか?

NEXCO東日本・瀬川氏 : 社内外の様々な方々から多くのお声をいただいています。AirXさんとの共創を通して、地域の皆様との連携を考える上での視野の広げ方や課題の捉え方など、当社としても様々な知見、刺激を頂いています。これからも引き続き新しい連携の形を見出していきたいと考えています。

※NEXCO東日本プレスリリース:「高速道路とエアモビリティの連携を推進 スタートアップ企業 株式会社AirXへの出資を行いました」(2025年1月)

――今回でⅤ期目となりますが、NEXCO東日本の社内にもオープンイノベーションやスタートアップと共創を行えるようなカルチャーが浸透してきていると感じますか?

NEXCO東日本・瀬川氏 : そうですね。社内からたくさんの心強い応援をいただいています。そして、実践することで、課題も把握できつつあると思っています。今後さらに円滑にPoCを進めていけるよう、また、より良いプログラムになるようにしたいと思います。そのため、例えば、より多くの社内の人にスタートアップと関わっていただける方法など、これからも「永遠に進化し続けるプログラム」を目指してアップデートを続けていくつもりです。

NEXCO東日本・大久保氏 : 私は直近までグループ内の別会社に出向していたため、社外からNEXCO東日本を見ていましたが、ホームページなどに長者原SAからヘリコプターを飛ばしたAirXさんとの取り組みが掲載されていたので、スタートアップとの連携が進んでいることは認識していました。本業である高速道路事業以外の新たなビジネスにチャレンジしていることについて、とても興味深く感じていましたね。

省人化、逆走防止、地域連携など幅広い課題に取り組める募集テーマを設定

――ここからは今年度のプログラムで設定された募集テーマについてお聞きしていきます。まずは、昨年度7つだった募集テーマを4つに絞られた理由を教えてください。

NEXCO東日本・山本氏 : 昨年度は特定の課題を具体的に提示させていただきましたが、今年度はプログラムを通じて継続的に提示してきた課題を4つのテーマに再編し、より幅広い分野のスタートアップの皆さんもご応募いただきやすい形に変更しました。

――皆さんそれぞれが注目している課題、解決していきたい課題などがあれば教えてください。

NEXCO東日本・熊谷氏 : やはり「人」に関わる課題はすごく大きいと思います。将来的に日本の人口が減り、労働者人口が減ることが確実視されている中で、「どのように道路を維持管理していくか」、「どのように地域を支えていくか」という課題については、ハード・ソフトの両面で解決策を見出していく必要があると考えています。また、このような人的リソースに関わる課題については、4つのテーマそれぞれで重要になると捉えています。

NEXCO東日本・山本氏 : たとえば事故や災害が起こった際は、インターチェンジ間で通行止めを実施しており、お客さまの行先に応じて振り分けを行ったり、ランプウェイの閉鎖を手作業で行っています。このような作業を安全にマネジメントできるシステムがあれば、効率化・自動化・省人化を実現できると現場にとっても大きなメリットとなります。

NEXCO東日本・大久保氏 : 今日では自動運転車やコネクテッドカーなど新しいテクノロジーが続々と実現しています。このような社会においてNEXCO東日本では高速道路でご提供する価値をアップデートさせたいと考えています。パートナーの皆さんの知恵をお借りしながら、未来の「安全・安心・快適・便利」を実現するアイデアを見出していきたいです。

NEXCO東日本・瀬川氏 : 私は、テーマ3に掲げている「各種アセットを起点とした地域連携強化や新事業創出」に注目しています。

第Ⅲ期の採択企業である株式会社さとゆめさんとも地域連携に関する共創を実施し、お客さまや地域の事業者の方、自治体の方から多くのお声を頂きました。今後、さらに地域に根付いた価値を生み出していくために、小さなアイデアであったり、限定的な地域であるなど小さな取り組みであって、積極的にご応募いただけると嬉しいです。

目の前の課題解決だけでなく、未来を見据えた共創も進めていきたい

――最後に、未来の共創パートナーへのメッセージをお願いします。

NEXCO東日本・千葉氏 : 今回のプログラムによって、高速道路の安全・安心に資する価値や、ご利用いただくお客さまに快適・便利と感じていただけるような価値を創出してきたいと考えています。利益追求だけでなく、社会的意義のある事業や提案を楽しみにしています。

NEXCO東日本・山本氏 : スタートアップの皆さんと課題感を共有しながら実証実験などを進めていくことで、効率的かつスピード感を持って課題解決を進めていこうと考えています。

NEXCO東日本・大久保氏 : 当社は民営化から20年を迎えますが、スタートアップの方々からすれば、まだまだ柔軟性に欠けるところがあると思います。社内部署との連携についても一筋縄で行かないこともあるかもしれませんが、私たちは全力でサポートいたします。皆さんの思いやアイデアを事業化や社会実装につなげていきたいと考えているので、ぜひご応募いただければと思います。

NEXCO東日本・熊谷氏 : 目の前の課題解決はもちろんですが、そこからつながる未来を見据えた取り組みまで一緒に進めていけたらと考えています。また、今回でⅤ期目を迎え、毎年コツコツと作ってきた社内体制が形になりつつあるので、「採択されたけど前に進まない」というスタートアップの皆さまの懸念事項については、ある程度解消できていると思っています。

NEXCO東日本・瀬川氏 : 本プログラムは、スタートアップの皆さんと当社との関係性を作っていくきっかけの一つであると捉えています。熊谷が話したように未来を見据えた取り組みを想定しているので、今回のプログラムでPoCをして終わりではなく、当社と一緒になって「新たな未来を一緒に作っていきたい」と思ってくださる方々にお越しいただきたいと考えています。

9月1日の早期応募締切までにご応募いただければ、アイデアや提案内容について余裕を持ってお話しができるので、思い立ったらすぐにご応募いただければと思います。

【共創インタビュー】 NEXCO東日本×アーバンエックステクノロジーズ――AIによる区画線剥離率の測定システム

続いては、昨年度の採択企業である株式会社アーバンエックステクノロジーズの山本氏・福冨氏・椎野氏とNEXCO東日本の山本氏および高崎管理事務所の皆さんへのインタビューを実施。現在両社が取り組んでいる「AIによる区画線剥離率の測定システム」に関する共創エピソードやPoCの手応え、今後の展望などについてお聞きした。

<写真左→右>

●東日本高速道路株式会社 関東支社 高崎管理事務所 今野 叶翔氏

●東日本高速道路株式会社 関東支社 高崎管理事務所 村上 遥佳氏

●東日本高速道路株式会社 関東支社 高崎管理事務所 改良担当課長 千明 裕之氏

●東日本高速道路株式会社 技術本部 事業創造部 事業創造課 ドラぷらイノベーションラボ  山本 幸典氏

●株式会社アーバンエックステクノロジーズ 事業開発部 福冨 義章氏

●株式会社アーバンエックステクノロジーズ 事業開発部 椎野 寿樹氏

●株式会社アーバンエックステクノロジーズ 取締役 事業開発部 部長 山本 正憲氏

「道路管理の現場」を知れる場があることに魅力を感じた

――まずはアーバンエックステクノロジーズの福冨さんにお伺いします。昨年度のプログラムにエントリーした理由を教えてください。

アーバンエックス・福冨氏 : 道路管理の「現場」に近い場で事業開発に取り組めるプログラムであったことに魅力を感じました。新しい製品の開発や既存製品の価値向上を進める際にもっとも重要になるのは現場の方々の意見です。そのため「現場の状況や現場の方々の意見を知ることができる場を一つでも増やしたい」と考えたことが、プログラムにエントリーした一番大きな理由です。

――アーバンエックステクノロジーズでは、自治体・企業のインフラ管理者向けにサービスを提供しています。今回のPoCの内容はどのようなものなのでしょうか?

アーバンエックス・福冨氏 : 基礎になっているのはAIで道路の維持管理を行う「RoadManager」というサービスで、インストールしたスマホを車に設置して走らせるだけで、個人の判断基準によらず画像から路面の損傷を自動検知します。現在対応している損傷の種別はポットホール(舗装の穴)や舗装のひび割れ等なのですが、今回のNEXCO東日本さんのプログラムでは、区画線(車線の境界などに引かれている白線)の剥離率を測定できるような実証を行っています。

▲すでにいくつかの自治体にも導入されている「RoadManager」。同サービスで検知した損傷はWEBダッシュボードで検索して地図上に表示したり、帳票pdfとして出力したりすることが可能だ。(画像出典:アーバンエックステクノロジーHP

――NEXCO東日本としては、どのような期待感を持ってアーバンエックステクノロジーズを採択したのでしょうか?

NEXCO東日本・山本氏 : 将来に向けて「自動運転」を考えたとき、センサーの目標となる区画線の維持管理が重要になることは間違いありません。また、白線にはライトの反射を受けてキラキラと光るカレット舗装を施していますが、これが剥離してしまうと夜間の走行に支障をきたすことにもなります。

アーバンエックステクノロジーズさんからは、「スマホで撮影しながら機動的に区画線の維持管理を実施する」という既存の維持管理方法とは異なるアイデアをご提案いただけたので、当社が抱えている課題感とマッチしていると判断し、採択させていただきました。

スマホを取り付けた車で走行し、区間ごとの定量値でAIで白線の剥離率を解析

――現在両社で進めている取り組みやPoCの内容について詳しく教えてください。

アーバンエックス・福冨氏 : 今年の5月頃から「スマホを用いたAIによる区画線剥離の測定システム」に関するPoCを進めています。具体的にはスマホを取り付けた車で高速道路上を走行し、一定の区間ごとにAIで白線の剥離率の解析を行います。また、その精度が正しいものか否かについて、同じ区間の地上に降りて、車線規制内で上から写真を手動で撮って整合性を検証しています。

――昨年末の採択から今年5月のPoC実施に至るまでの間は、どのように話が進んだのでしょうか?

NEXCO東日本・山本氏 : アーバンエックステクノロジーズさんの採択が決まってPoCに進む契約をする前に、剥離率の測定に関する詳細事項、PoCに最適なフィールド、支社との協力体制といった様々な要素を検討しました。その結果、高崎管理事務所のフィールドでのPoC実施が決まりました。

アーバンエックス・福冨氏 : エントリー時は「スマホを用いたAIによる区画線の剥離率の測定」という提案のみで、測定・現場導入・可視化のご提案でしたが、その後に話を進めていく中で「剥離率の精度をきちんと測ろう」という話に発展していきました。

2025年の年明けにNEXCO東日本さんと初めて対面で打ち合わせをさせていただいた際に、当社から「1.正確な精度の検証」「2.現場への実装」「3.自動運転技術と区画線の剥離率の関係に関する詳細調査」という項目をご提示し、「1〜3のどれを優先しましょうか?」とお聞きしたところ、「全部」という返答がありまして(笑)。

とくに精度の検証については「今はない基準を作るとなると、測定精度の検証は重要ですよね」というお話をいただき、そこで私自身もハッと気付かされた気持ちになったので、PoCの契約前ではありましたが「確かに大事なことなのでやっていきましょう」ということになり、実施項目に精度検証を追加しました。

NEXCO東日本・山本氏 : 当社内で運用するとなれば精度の話は必ず出てきますからね。「そこはしっかりと確認していきましょう」ということで、アーバンエックステクノロジーズさんと話し合いを重ねました。

――今回の取り組みやPoCを進める中で、印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。

アーバンエックス・椎野氏 : 今回、NEXCO東日本さんと初めて一緒に仕事をさせていただきましたが、安全に対する意識の高さに驚かされました。ここまで徹底しているからこそ、多くの方が安心して高速道路を利用できているのだと思います。その分、PoCの準備に関しては「やらなければならないこと」のチェックリストが非常にたくさんありました。当社は自治体さんとも仕事をしていますが、NEXCO東日本さんは自治体さんと比べても数段上のレベルでのチェックを徹底されていました。

アーバンエックス・福冨氏 : 先ほどの精度検証の話もあるので、今回のPoCでは正解の値を取得する必要がありました。車にスマホを取り付けて走りながら撮るだけでは正解の値が取得できないので、工事の車線規制内に入らせていただき、その中で直接写真を撮るようなこともさせていただきました。自治体さんの案件でもそこまで取り組んだことはなかったので、当社としても様々な新しいことにトライできたと感じています。

アーバンエックス・山本氏 : 今回のPoCは、NEXCO東日本本社の方々はもちろん、高崎管理事務所の皆さんや関連会社の方々など、多くの方のご協力をいただいて実現しています。ドラぷらイノベーションラボや高崎管理事務所の皆さんが、要所要所で細かい調整を行ってくださったお陰だと思いますし、本当にありがたいことだと思っています。

――「区画線の剥離率を測定する」というこれまでにないPoCを牽引した高崎管理事務所の皆さんにもお聞きします。今回の取り組みやPoCを進める中で印象に残っていることはありますか?

NEXCO東日本・千明氏 : 高崎管理事務所では約140キロにおよぶ高速道路を管理しており、規制に関する工事会社も10社ほど抱えています。規制は高速道路を利用するお客さまの安全を確保するために必要なものであり、1日平均約25カ所で規制を張って工事を行っています。また、高崎管理事務所では隣接する4つの事務所の管区も含めて規制調整を行っているため、今回のPoCにおいてもスムーズな検証が行えるよう、幅広い範囲で規制の調整に注力しました。

NEXCO東日本・村上氏 : 規制の工程を立ててもらった上で、アーバンエックステクノロジーズさんにお伺いを立てながら調整を進めていきました。雨などの天候に対しても柔軟に変更を行い、やり遂げられたことが印象に残っています。

NEXCO東日本・今野氏 : 今回の取り組みに参加したことでAIの可能性を感じることができたほか、たくさんの人々が関わるPoCの一連の流れについても理解することができました。今回のようなシステムが現場に実装されるのは素晴らしいことだと実感しています。

PoCを通じた精度検証や基準作りを進めながら、早期の実装を目指していく

――今回PoCを行ったことで見えてきた現時点での成果や感触について教えてください。

アーバンエックス・福冨氏 : 数百メートル分の路面撮影が終わった段階に過ぎないので、具体的な成果についてはこれからの話になると思います。現時点では、精度検証の重要性を理解する一方で「正解値を取得することの難しさ」も実感しており、これからの課題になってくるだろうと認識しています。

そのため、まだ当社内でも議論中の技術ではありますが、「3次元の仮想空間上で高速道路を走行するシミュレータを設け、その中に生成AIで『剥離した区画線』を作ることで、剥離率の正解値が既知である区画線と、そこを走行したときに車上から撮影される画像を取得する」といった新たな検証方法についても検討を進めています。

アーバンエックス・山本氏 : AIの世界は日進月歩なので、次から次へと新しい技術が登場します。事前に「これで行ける」と考えていた技術だけではなく、新しい技術も積極的に取り込みながら進めていく必要があると考えています。

アーバンエックス・椎野氏 : 現在はPoCの段階ですが、今後は「どのような製品・サービスとしてアウトプットすべきか」という部分も課題になってくると考えています。今のうちから先々を見据えて動き、実際に製品を使っていただく方々とのディスカッションを重ねていきたいと思っています。

アーバンエックス・山本氏 : 当社としても、今年の秋口からは現場のメンバーとともに実装を見据えた検証を行っていく予定です。

――高崎管理事務所の皆さんは、現時点での感触についてどのように感じられていますか?

NEXCO東日本・千明氏 : 今までは路面標示に関するNEXCO東日本内の基準があり、人の視覚的な判断に頼る部分が大きかったのですが、車で道路を走行しながら損傷箇所をシステム的に判断できる仕組みが実現すれば維持管理事業に関する大幅な効率化が期待できると感じています。これまでのような目視では人によって差異が生じることも多かったので、現場としてもありがたいです。

NEXCO東日本・村上氏 : 11月〜3月までの積雪期間は除雪や大型車のチェーンによって白線の剥離が生じやすいシーズンであり、これまでは毎年春先に雪が溶けてから目視で確認を行って白線の引き直しを実施していました。今回のプロジェクトから生まれた技術が導入されることになれば、引き直しを行う箇所の優先度もわかりやすくなるので、お客さまが安全に運転できる環境をより構築しやすくなると思います。

NEXCO東日本・今野氏 : 例年春先に行っていた現地確認の労力を効率化できるのであれば、現場としても非常に助かりますよね。

▲NEXCO東日本 高崎管理事務所とアーバンエックステクノロジーズが一体になって実施しているPoC。

――最後に、両社によるプロジェクトの今後の展望をお聞かせください。

アーバンエックス・福冨氏 : 短期的にはPoCの実施を通した「精度の検証」に注力するつもりです。その過程で発生する課題を明らかにしながら一つひとつ乗り越えていく必要があると考えています。また、中長期的には「基準作り」を進めていきます。現場に導入するためには「どのように測るのか」「剥離率が何%以上になったら補修するのか」といった基準が必要になるので、NEXCO東日本さんと一緒に考えていきたいと思います。

アーバンエックス・椎野氏 : スマホ+AIによる剥離率の測定に限らず当社は様々な技術を持っているので、今回のPoCをきっかけにNEXCO東日本さんの様々な点検業務の自動化・効率化をサポートするような取り組みに関わらせていただきたいと思っています。

アーバンエックス・山本氏 : 人口減が必然的に訪れる中、当社では「しなやかな都市インフラ管理を支えるデジタル基盤をつくる」というビジョンを掲げて事業を行っています。熟練工の方が減っていく時代においても、安心・安全を担保できるような新しい価値の創出に挑戦していくつもりです。

NEXCO東日本・山本氏 : 今回のPoCでシステムの有用性が確認できれば、当社としても速やかに実装を進めていくつもりです。また、実装後も様々な使い方ができると期待しているので、今回の取り組みを将来につなげていきたいと考えています。

取材後記

今回でⅤ期目を迎えた『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』では、過去のプログラムを通じて様々な共創事例が誕生しており、複数のプロジェクトが社会実装に向けての取り組みを進めているという。今回の記事で紹介したアーバンエックステクノロジーズとの実証実験は、高速道路の維持管理というNEXCO東日本の主業務をアップデートする取り組みであるため、今後の実装に向けてもスピーディーな展開を期待できるだろう。

また、今年度のプログラムで設定された4つの募集テーマについては、それぞれに幅広い課題にアプローチできる余地があるため、あらゆる業種・業態のベンチャー・スタートアップにチャンスがあると言えそうだ。早期応募締切は9月1日、最終応募締切は9月17日なので、NEXCO東日本との共創に少しでも可能性を感じている方は、ぜひ早めのエントリーを検討いただきたい。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)

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