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【NEXCO東日本】第2期アクセラの募集スタート!運営事務局メンバーの新たな決意&採択企業と実施した実証実験のリアルに迫る

【NEXCO東日本】第2期アクセラの募集スタート!運営事務局メンバーの新たな決意&採択企業と実施した実証実験のリアルに迫る

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昨年度、高速道路会社として初となるアクセラレータープログラム『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』を開催した東日本高速道路株式会社(以下、NEXCO東日本)。

ヒト・モノの移動に新しい価値を提供する3つのテーマを設定した同プログラムには合計84件もの応募が集まり、そのうち5社が採択企業に選ばれた。また、採択とならなかったものの、将来的なアライアンスを視野に連携できる可能性があった3社とも取り組みを進めるなど、NEXCO東日本は同プログラムによって8社のベンチャー・スタートアップと強固な関係性を築いている。

さらに同社は8月1日より、第2期の参加を検討する企業からのエントリー受付をスタートするなど、イノベーション創出へ向けての動きを加速させている。

TOMORUBAでは新たなプログラムの開始に先立ち、プログラム運営事務局としての役割を担う「ドラぷらイノベーションラボ」のメンバーへのインタビューを実施し、昨年度のプログラムの手応え、採択企業との共創状況、本年度のプログラムの特徴などについて伺った。

また、本記事の後半では、昨年度の採択企業である株式会社デジタル・フロンティアの小北氏、同社との共創に関わるドラぷらイノベーションラボのメンバー、さらにはNEXCO東日本グループ各社の関係者にお集まりいただき、今年6月に実施した「アバターによる有人遠隔接客サービスの実証実験」について詳しくお聞きした。

採択5社のうち3社との実証実験が完了。残りの企業との共創も順調に進行中

まずはプログラムの運営事務局を務める「ドラぷらイノベーションラボ」のメンバー5名に、昨年度のプログラムで採択した企業との共創状況や、会社として初の試みとなったアクセラレータープログラムで得られたものについてお聞きした。また、昨年度の経験を踏まえた上で設計された本年度のプログラムの特徴、改めてスタートアップに期待したことなどについても伺った。



――まずは昨年度のプログラムで採択した企業との共創状況について教えてください。

瀬川氏 : アルティマトラスト、AirX、デジタル・フロンティア、FaroStar、Placyという5社を採択させていただいたほか、今後連携を検討していた3社(365 ブンノイチ、BONX、LOOVIC)とも取り組みを進めています。

現状、採択企業のうち3社との実証実験が終了しており、今後の方針を検討・調整中です。残りの2社のうち1社とは7月末から実証実験を開始します。もう1社との実証実験も実施時期・場所等の調整を行っています。

また、正式な採択とはならなかった3社とは、既存商品の業務高度化への活用を検討している案件もあれば、試作品完成を目指しながら取り組みを調整している案件もあります。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム リーダー 瀬川 祥子氏

都市工学を修了した技術大好き理系事務職。地域振興、グループ会社の経営支援のほか、技術開発系子会社である株式会社ネクスコ東日本イノベーション&コミュニケーションズの立ち上げにも携わる。

――採択したPlacy社の提案内容は「音楽によるマップコンテンツを通じた地域回遊性向上」、FaroStar社の提案内容は「ドローンの自動管制」など、貴社の本業とは大きく異なる事業分野での提案ですが、これらの企業の採択理由についてお聞かせください。

石井氏 : Placyさんの提案内容は、昨年のプログラムで掲げていた「ヒトとモノの移動のアップデート」に合致していると思いますし、当社は今まで、高速道路で“移動中”のお客様に対して、十分な「楽しみ」や「エンタテインメント」を提供できていなかったと感じています。

実際に一緒に共創を進めていく中でも、当社がこのようなサービスをお客様に提供していく意義は非常に大きいと実感しているところです。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム 石井 絢佳氏

入社後、用地買収部門や道路管理部門、さらには高速道路の建設部門などに所属し、業務に従事。昨年のプログラム開始と同時にドラぷらイノベーションラボ推進チームに参加。

長谷川氏 : 当社は陸の管制の会社、FaroStarさんは空の管制の会社ということで、オペレーション内容は大きく異なりますが、共に「安全が最優先」の事業を展開していることに共通点があったので、互いの管制技術を組み合わせることでシナジーが生まれることを期待しました。

市川氏 : 今後、当社としては、高速道路の上を無管制で飛ぶドローンに起因して発生する事故についても対策が必要となる可能性があると考えています。高速道路のさらなる安心・安全の向上を目指すためにも、会社としてドローンの管制技術を持っておく必要がありますし、高速道路上の落下物を検知・排除するような用途にもドローンを使える可能性があります。FaroStarさんとの共創が、そのようなきっかけになると期待して採択を決定しました。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム 代表 市川 敦史氏

長年道路管理部門に在籍し、民営化後はアルジェリアの高速道路開発プロジェクトや前職では準天頂衛星を活用した雪氷車両の自動化開発などに従事。2022年6月より同ラボの代表に着任。

――FaroStar社とは、今年の5月に南相馬鹿島SA(サービスエリア)付近で実証実験を行われていますが、実験の内容について教えてください。

長谷川氏 : 飛行中のドローンが、自動で衝突を回避できるかを検証しました。当日の現場では自動操縦で飛ばしたドローンに対し、別のドローンを近づけ、自動で衝突を回避して元の軌道に戻って目的地まで辿り着けるか否かを確かめました。結果、4回の衝突実験すべてにおいて衝突回避を確認することができました。

本来であれば3月に行う予定の実験でしたが、実験の直前に付近で震度6強の地震が発生したため、改めて5月に実地する運びとなったのです。ただ、この地震があったことで、社内で「地震による高速道路の損傷・被害状況をドローンで確認できないか」という話が持ち上がったため、FaroStarさんと話し合い、道路損傷をドローンで確認する実証実験も追加で実施することになりました。FaroStarさんの機動力とラボメンバーの柔軟な判断により、当初予定していなかった領域に関する実証実験が行えたことも、大きな成果の一つであると感じています。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム サブリーダー 長谷川 弘幸氏

技術職として中部圏の建設事業を中心に携わった後、民営化を機に東日本の管理事業、新規事業、前職の茨城県内の建設事業を経て現職に従事。一度目の新規事業配属時はWebサイトの構築やビッグデータを活用したビジネスも担当した。

お客さま・スタートアップ・当グループの3者でwin-win-winの関係を築きたい

――昨年度のプログラムで得られた手応えや定性的な成果・メリットなどについて教えてください。

瀬川氏 : 私が一番実感しているのは「共創の素晴らしさ」です。共に様々な課題に向き合っていくことで、最終的に、当初の想像を超えるようなアイデア・解決策が生まれる瞬間に立ち会うことができた時、本当にやってよかったなと感じています。

運営事務局としてのドラぷらイノベーションラボは、まだまだ至らない部分が多いですし、さらなる成長が求められていると感じますが、スタートアップの皆さんや他部署の方々、グループ各社の方々にご支援いただき、何とかここまで進めることができました。このような社内外に広がる「共創の輪」は、昨年度のプログラムを通じて得られた大きな成果であると考えています。

市川氏 : 当社は以前から社外の企業や関係機関と協業してきましたが、これまでは主に大手企業、大学や研究機関等パートナーの範囲が限られていました。アクセラレータープログラムは、これまでの当社のアプローチとは異なりますし、そこで出会えるベンチャーやスタートアップの方々は、従来とはまったく異なる発想を持っている上にスピード感も段違いです。そのような意味でも当社やグループ企業の社員にとって良い刺激になっていることは間違いないと思います。

白圡氏 : 私は採択企業とはならなかった3社のうち、BONXさんとLOOVICさんの試作品開発で共創していますが、スタートアップの皆さんの熱量の高さには驚かされるばかりです。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム サブリーダー 白圡 新氏

日本道路公団民営化に際してグループ再編を担当。その後は海外へのインフラ輸出に関するフィジビリティスタディ、プロジェクトファイナンスに携わる。

――昨年度と今年度のプログラムの違い、今年度から新たに加わった要素などがあれば教えてください。

瀬川氏 : 基本的に昨年度の内容を踏襲している部分が多いのですが、もっとも大きな変更点としては、昨年度は「SA・PAを休む場から地域経済を支える場へ」と設定していたSA・PAに関するテーマを、「SA ・PAの価値向上、新たな顧客体験の創出」と「SA・PA をハブとした地域の魅力創出・発信」という2つのテーマに分割したことが挙げられます。そのため募集テーマは昨年度の3つから4つに増えています。

「SA ・PAの価値向上、新たな顧客体験の創出」に関しては、昨年度以上にSA・PAという施設・機能そのものにスポットを当て、いかにバージョンアップできるか、いかに次世代の施設にできるかといったアイデアを募るテーマとなっています。SA・PAの運営を担う当社グループのネクセリア東日本では、組織横断のワーキンググループを設立し、私たちの取り組みに対して積極的に賛同してくれています。

一方の「SA・PA をハブとした地域の魅力創出・発信」については、政府が掲げる新しい資本主義のグランドデザインの中でも語られている地方創生をメインのキーワードとして、「“つなぐ”価値創造」、社会課題解決をより意識して、テーマとしました。

――募集テーマ以外の部分で変わったポイントはありますか?

長谷川氏 : プログラムのスケジュールを多少変更しています。今回は提案を受けてから実証実験までの間に一定の調整期間を設けました。昨年度と比べて、実証実験の実施前に私たちとスタートアップの間で、じっくり議論を重ねながら目線合わせができるスケジュールになっていると思います。


▲2022年6月に代表取締役社長に就任した由木文彦氏(写真中央)と事務局メンバー。今年度のプログラムも経営層から期待が寄せられている。


――今年度のプログラムへの期待、貴社との共創を検討されている方々へのメッセージをお願いします。

市川氏 : 当社のプログラムは昨年スタートしたばかりであり、企業の成長フェーズに例えればアーリーステージの状況です。他社様のプログラムのように完成・熟成されていませんが、だからこそ様々な部分で融通が効きますし、参加いただける皆様と一緒にプログラムを良いものに育てていきたいと考えています。

私たちが維持・管理する高速道路の課題や地方・地域の課題をスタートアップの皆様と一緒に改善・解決していくことで、高速道路をご利用されるお客さま等に新たな価値を提供できるだけでなく、当社グループの社員も成長できますし、スタートアップの皆様も事業を拡大できるということで、三者でwin-win-winの関係性を構築できると考えています。

石井氏 : 私自身はデジタル・フロンティアさん、Placyさんとの共創プロジェクトに参加していますが、本当にゼロから一緒に作り上げていく作業が多く、常にワクワクしながら取り組ませていただいています。今年度も引き続き、未来のために夢のある共創ができればと考えていますし、今回のプログラムが多くの皆様との出会いのきっかけになればいいなと考えています。

白圡氏 : 高速道路の利活用にとどまらず、人の移動に関するすべての課題にアプローチできるポテンシャルを持ったプログラムであると考えています。会社の枠を越え、多くの方々のお役に立つような「これっていいよね!」という世界観を一緒に作っていけたら最高です。

長谷川氏 : 私はFaroStarさんなど3社との共創を担当していますが、いずれのスタートアップも非常に情熱的かつ建設的であり、数多くの議論を積み重ねて来れた気がしています。今年度のプログラムでも「世の中を変えたい」という熱い思いを持った多くの方々と出会えることを楽しみにしています。

瀬川氏 : 市川が話した通り、このプログラム自体が卵から孵ったばかりの状態ですが、私たちが最終的に目指しているのは社会課題の解決や地域への貢献であり、より良い未来につながるようなビジネスの創出です。

今後も共に創っていく姿勢を大切にしながら皆様と一緒に進んでいきたいと考えていますので、NEXCO東日本グループの理念やミッション、私たちの思いに共感いただける皆様からのコンタクトをお待ちしています。ぜひ、私たちと一緒に未来につながるビジネスを創りましょう。

6月に行われた「アバターによる有人遠隔接客サービス」の実証実験について

続いては昨年度の採択企業の1社である株式会社デジタル・フロンティアの小北氏、同社との共創の全体進行を担ったドラぷらイノベーションラボの瀬川氏・石井氏、さらには実証実験で様々な役割を担ったNEXCO東日本グループ各社の関係者の方々から、今年6月に実施した「アバターによる有人遠隔接客サービスの実証実験」を中心とする共創エピソードについて詳しくお聞きした。



――まずはデジタル・フロンティア社の小北さんにお聞きします。昨年度、NEXCO東日本のアクセラレータープログラムにエントリーした理由を教えてください。

小北氏 : 当社はCGに強みを持つ映像制作会社であり、普段はアニメや映画、ゲームなどのエンタメ系コンテンツを制作していますが、技術をエンタメ分野以外で活かす新規事業を模索していました。その方法の一つとして、遠隔接客用アバターの開発に取り組んでおり、アバターの実証が行えるフィールドを探していた際に、プログラムの存在を知ったのです。NEXCO東日本さんは管内で300カ所以上のSA・PAを運営しており、そのリソースに魅力を感じてエントリーしました。

また、プログラムのテーマの中に地域貢献が謳われていたこともエントリーする理由の一つとなりました。当社としても以前から、遠隔接客用アバターを活用することで地方の雇用創出に貢献したいと考えていたからです。

NEXCO東日本さんと組むことで、働きたくても外に行けない高齢者の方、どうしても在宅で勤務しなければならない方、あるいは外見にコンプレックスを抱えていて人前に出にくい方など、今まで外に出て働くことが難しかった方々のための新たな雇用機会創出にも関われるのではないかと考えました。


▲株式会社デジタル・フロンティア 執行役員 経営企画・営業推進室 室長 小北 哲平氏

――NEXCO東日本としては、どのような期待感を持ってデジタル・フロンティア社を採択されたのでしょうか?

瀬川氏 : まずはデジタル・フロンティアさんのアバターの精緻さです。審査員の多くが「この技術は凄いね」と感動していました。さらに、携帯アプリで操作でき、しかも、ほぼ遅延なく動いていることにも驚かされました。

当社のSA・PAは民営化以降、皆様から「変わったね」と言っていただけておりますが、最新・最先端のサービスをご提供するというイメージはないのではないかと思います。そのような中、SA・PAで、このような新しいタイプのサービスを多くのお客様に触れていただく機会をご提供できたら良いのではと考えました。さらに言えば、先ほど小北さんが仰っていた地方の雇用創出に関する考え方が、私たちの掲げているビジョン・ミッションとの親和性が高いと感じたことも採択理由の一つです。

アバターはメタバースのような仮想空間で活用されるイメージが強いものですが、メタバース自体、まだまだ多くの方々にとって馴染みの薄い世界だと思います。SA・PAのアバターを通じてメタバースの世界を身近に感じてもらえるかもしれませんし、SA・PAという現実世界からメタバースの世界につながるエントランス感や、「最先端」のような、お客様に「新しい価値」を感じてもらえると良いと考えました。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム リーダー 瀬川 祥子氏

――サービスエリア事業課の矢澤さん、池上さんは、どのような経緯で今回の共創プロジェクトや6月の実証実験に参加されたのでしょうか?

矢澤氏 : 私と池上が所属するサービスエリア事業課は、SA・PAのインフォメーションコーナーの道路案内業務を、ネクセリア東日本へ委託しております。その中で、コロナ禍以降、非対面でのご案内方法について模索しており、様々なツールを試してきたという経緯があります。

今回、ドラぷらイノベーションラボからデジタル・フロンティアさんの話をお聞きし、ぜひとも管内のSA・PAのインフォメーションコーナーで試してほしいとお願いしました。実証実験の実施においては、私と池上で現場側の取りまとめや調整を担当しました。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 サービスエリア事業部 サービスエリア事業課 課長代理 矢澤 佐奈子氏

――以前はどのような非接触ツールを検討・試行されていたのでしょうか?

池上氏 : 今年の2月より蓮田SA(上り線)でAI及びリモート案内ができるサービスを実施しておりますが、なかなかお客様に使っていただけないという課題があります。そのような状況の中、今回のお話をいただいたのです。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 サービスエリア事業部 サービスエリア事業課 池上 祐一氏

――ネクセリア東日本の矢野さん、ネクスコ東日本エリアサポートの平山さんは、それぞれどのような役割を担当されたのでしょうか?

矢野氏 : ネクセリア東日本は、NEXCO東日本管内のSA・PAに設置されている建物の管理やインフォメーション業務を実施している会社です。また、インフォメーション業務の実際の運営に関しては、ネクスコ東日本エリアサポートとも連携しています。私自身は今回の実証実験の実施に際する現場調整や機器設置に関する調整などを担当しました。


▲ネクセリア東日本株式会社 本社営業部 CS推進課 課長代理 矢野 剛士氏

平山氏 : 矢野さんから話があったように、ネクスコ東日本エリアサポートは、SA・PAにおけるインフォメーション業務の運営を行っています。現在、管内34カ所のインフォメーションコーナーにおいて、当社の社員がコンシェルジェとしてお客様へのご案内を担当しています。

今回の実証実験では、実際にアバターを活用するコンシェルジェへの指導・サポートを中心に、社内の様々な調整業務を担当しました。


▲株式会社ネクスコ東日本エリアサポート 本社フロントサービス部 フロントサービス課 課長 平山 勝喜氏

実証実験の実施に際して乗り越えなければならなかった3つの壁

――どのような話し合いの中で実証実験が進んでいったのでしょうか。

石井氏 : デジタル・フロンティアさんの採択が決まった後、私たちドラぷらイノベーションラボは、デジタル・フロンティアさんや現場サイドの関係者と直接話し合いながら実証実験の内容や期間を決めていき、詳細を詰めていきました。実験の実施場所についてはサービスエリア事業課が選定し、常磐道の守谷SA(下り線)に決定しました。


▲東日本高速道路株式会社 サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム 石井 絢佳氏

矢澤氏 : 池上からもあったように、蓮田SA(上り線)の試行実施では「お客様に使ってもらえない」という課題があるため、まずはお客様の多い大型のSAを選ぶ必要がありました。6月は常磐道沿いの観光地が盛り上がる時期であり、守谷SA(下り線)をご利用いただけるお客様が増えます。また、守谷には側道からSA内に入ることのできるウォークインゲートもあり、高速道路に乗らないお客様にもご利用いただける環境が整っています。そのような理由から守谷SA(下り線)を選定しました。

石井氏 : 私たちとしても出来るだけ多くのお客様に興味を持っていただき、使っていただく必要があると考え、細かい部分についても協議を重ね、解決策を模索してきました。そこで出てきたアイデアの一つがアバターの画面の周囲を囲むパネルのイラストです。

アバターを通して実際にご案内を行っているコンシェルジェの皆さんをイメージしたイラストなのですが、AIやbotではなく「実際の人間が案内をしている」という事実を、言葉ではなく直感的にイメージしてもらうことを狙って作成しました。



――その他に実証実験で苦労されたこと、乗り越えなければならなかった壁などがあれば教えてください。

石井氏 : 個人的には3つの課題があったと感じています。1つ目は先ほどから話に上がっている「いかにお客様に使っていただくか」という課題、2つ目は実際にアバターで案内を行うコンシェルジェの皆さんに「いかにシステムを操作してもらうか」という課題、3つ目は実証実験中に発生した不具合の対応です。

2つ目の課題については、何度もコンシェルジェさん向けの操作説明会を行ったほか、デジタル・フロンティアさんや他の協力会社さんにも説明会に参加いただき、コンシェルジェさんからのフィードバックをもとにシステムのUIや仕様を変更するなど、様々な試行錯誤を重ねました。

また、実証実験中の不具合に関しては、コンシェルジェの皆さんに臨機応変に対応いただけたほか、デジタル・フロンティアさんも毎日現場に足を運んでいただき、その度に迅速に対応いただけたので、お客様からのクレームは一件もありませんでした。結果としては、いずれの課題も無事にクリアできたのではないかと考えています。

小北氏 : 本当はもっと安定したシステムをご提供したかったのですが、いざ現場で動かしてみると私たちの予想もつかないようなシステム障害が発生しました。ただ、現地のコンシェルジェの皆さんからお話を聞き、お客様の状況を見ながら現場で応急処置をしていくという経験は、私たちにとって非常に大きな経験となりました。

――矢野さん、平山さんはいかがですか?

矢野氏 : 先ほど話があったように実証実験中は様々なシステム障害が発生しましたが、障害の原因はSA・PAのネットワーク環境が脆弱であることにも関係しています。今後、このような取り組みを続けていくためには、SA・PAのインフラ整備も同時に進めていく必要があると感じました。

平山氏 : 今回インフォメーションコーナーにアバターを導入する話をしたとき、多くのコンシェルジェは「自分の仕事が奪われるのではないか」と心配していたんです。そのため私は、コンシェルジェの皆さんに「今回の取り組みは仕事を奪うようなものではなく、仕事の幅を広げるものである」と説明しました。

そもそもコロナ禍が発生した直後にはインフォメーション業務を休止していますからね。今回のようなツールがあればお客様と接触することなく、自宅からでも仕事ができますし、パンデミックに限らず地震や台風などの災害が発生しても遠隔から対応できるので、インフォメーション業務を継続することができます。

また、今回の取り組みは、お客様の利便性向上にもつながります。現在、管内には300カ所以上のSA・PAがありますが、インフォメーションコーナーが設置されているSA・PAは34カ所しかありません。今後、アバターを活用したご案内が実施可能となれば、管内すべてのSA・PAでご案内を行うこともできると思います。

これらのことは総じてコンシェルジェの働き方の幅を広げることにつながるので、その辺りのメリットについて丁寧に説明することを心がけました。

――石井さんに上げていただいた課題の1つに「いかにお客様に使っていただくか」というものがありましたが、今回の実証実験では、最終的にどのくらいのお客様がアバターを利用されたのでしょうか?

石井氏 : 2週間で300名弱のお客様にご利用いただいたほか、そのうち約100名のお客様はアンケートにもご回答いただきました。短期間でこれだけの方にご利用いただけた結果については非常に満足しています。また、テレビでも報道してもらうことができたので、そのニュースをきっかけに足を運んでいただいたお客様も数多くいらっしゃいました。


アバターを通すことでしか発生し得ないタイプのコミュニケーションもある

――小北さんにお伺いしますが、今回の実証実験を経て見えてきたことはありますか?

小北氏 : 今回の実験に際して守谷SA(下り線)に何度も足を運び、現場の様々な方々とお話をさせていただきましたが、中でもコンシェルジェのみなさまのプロ意識の高さやホスピタリティの高さには何度も驚かされました。

アバターはコンシェルジェさんの役割のすべてを担うことはできませんが、コンシェルジェさんの役割の一部を担う存在になれることは間違いありません。今回の実証実験を通して痛感したのは、コンシェルジェの皆さんが大切にしている「おもてなし」を、アバターで表現することの難しさです。

見た目の所作なのか、地声を使って人間味を出すことなのか、どこに正解があるのかはわかりませんが、今後もコンシェルジェさんたちの「おもてなし」を、いかにアバターというデジタルで表現するかについては、当社が注力していくべき大きな課題であると感じました。

――引き続き、小北さんにお伺いします。NEXCO東日本さんと共創する魅力はどこにあると感じていますか?

小北氏 : 現在のところ、ほとんどの人はアバターを通して接客したり、接客されたりすることに慣れていませんが、NEXCO東日本さんが持つ高速道路という交通インフラを活用させていただくことで、近い将来、そのようなコミュニケーションが習慣化され、日常に溶け込んでいくと考えています。

JR東日本さんのSuicaが良い例だと思っております。昔は切符で改札を通っていたのが、いつの間にかSuicaに変わり、習慣化され、日常に溶け込んでいきました。大規模な交通インフラを持つ企業さんと組むことのメリットは、そのような部分にあると考えています。


――今回の共創を通じて小北さんの中にあったNEXCO東日本さんのイメージは変わりましたか?

小北氏 : そうですね。エンタメ系の企業にいる私からすると、NEXCO東日本さんは「非常にお堅い会社」というイメージがありましたが、少し変わったと思います(笑)。

また、NEXCO東日本社内はもちろん、多くのグループ企業さんとの分業体制も確立されていますが、互いの連携が素晴らしいことに加え、どの部署の方も、どの会社の方も、プロジェクトに参加している全員の方が責任感を持って真剣に取り組んでいることに驚かされました。

一般的な企業であれば、これだけ組織が細分化され、分業化が進んでいれば、どこかで責任感が希薄になるはずなんです。ただ、NEXCO東日本グループの皆さんは、会社や部署、役割が違っていても、一人ひとりがあらゆる仕事に対してプロ意識を持っています。そこは本当に凄いところですよね。

――最後に石井さんにお聞きします。今回の実証実験の結果を受け、今後、両社の共創をどのように発展させていくかについて、現在のお考えをお聞かせください。

石井氏 : 今後はSA・PAの繁忙期・閑散期なども考慮しながら、アバターによる接客サービスの可能性を探っていく予定です。また、アバターを活用することで、お客様が情報を求めている地域に対して、その地域に詳しいコンシェルジェが接客を担当するといった活用の仕方もあると考えています。

さらには小北さんが話されていたように、今回のアバターの活用が進めば容姿による印象に左右されない働き方ができるようになります。多くの人が生活しやすく、働きやすい社会をつくるためにも、デジタル・フロンティアさんとの共創・取り組みを前進させていきたいと考えています。


取材後記

今回のインタビューを通して、NEXCO東日本グループ全体にイノベーションの機運が高まっていることを改めて実感できた。その中心を担っているのは「ドラぷらイノベーションラボ」であることは間違いないが、デジタル・フロンティアの小北氏が語っていた通り、所属する部署や会社の違いこそあれ、共創プロジェクトに参加しているメンバー各自の当事者意識は一様に高かった。一般的に大きな組織や分業化が進んでいる組織はイノベーションを起こしにくいと言われているが、NEXCO東日本グループに関しては、そのような常識は当てはまらないかもしれない。

同グループの持つ膨大なリソースやデーターに魅力を感じている方はもちろんだが、一緒に取り組む人たちの熱量や、会社や部署を超えて多くの人たちの力を結集できる共創相手を探している方は、ぜひNEXCO東日本グループのプログラムにエントリーいただきたい。(詳細は以下バナーよりご覧ください)


(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊/古林洋平)

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