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「新たな価値観・技術を取り込んでいく」――新社長・由木氏が語る、NEXCO東日本が新事業創出で目指す未来図

「新たな価値観・技術を取り込んでいく」――新社長・由木氏が語る、NEXCO東日本が新事業創出で目指す未来図

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関東以北、長野、新潟から北海道までの高速道路の建設・運営・維持・管理を担う東日本高速道路株式会社(以下、NEXCO東日本)は、昨年度、高速道路会社としては初となるアクセラレータープログラム『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』を開催するなど、様々なスタートアップ企業との共創を通じて新規事業の創出に取り組んでいる。

同社は84社からの応募があった昨年度の成果を受け、早くも第二回のプログラム開催を発表し、8月1日より新たなスタートアップ企業のエントリー受付を開始した。

今回、TOMORUBAでは、新たなプログラムのスタートに先立ち、今年6月28日に同社の社長に就任した由木文彦氏へのインタビューを実施。会社としてのイノベーションに対するビジョン、同社の新規事業創出をリードする組織「ドラぷらイノベーションラボ」や今年度のプログラムにかける思い、共創パートナーへの期待などについて詳しくお聞きした。


▲東日本高速道路株式会社 代表取締役社長 由木文彦氏

1983年東京大学法学部卒業後、建設省(現:国土交通省)へ入省。国土交通省都市計画課長、京都市副市長、国土交通省住宅局長、国土交通省総合政策局長、国土交通審議官、復興庁事務次官などを歴任し、2022年6月東日本高速道路株式会社 代表取締役社長に就任。

現状維持はリスク。新しい価値観・新しい技術を経営に取り込んでいく

――今年6月にNEXCO東日本の代表取締役社長に就任されたとのことですが、まずはじめに由木社長のご経歴についてお聞かせいただけますか?

由木氏 : 1983年に現在の国交省の前身となる建設省へ入省し、昨年7月に退官するまでの約38年間、国家公務員として様々な形で国土交通行政に携わってきました。

当社は2005年に日本道路公団を分割・民営化することで設立された会社ですが、その当時、私は総理大臣官邸で仕事をしていたため、内閣としての立場から日本道路公団の民営化の推進に携わっていました。

それから17年の歳月が流れましたが、自分が民営化の際に関わった会社に、再び社長の立場で関わるということで不思議な巡り合わせを感じますし、組織に対する親近感や信頼感もあるため、今回の就任を大変嬉しく思っています。

――2020年には復興庁の事務次官を務められていますが、復興事業を通して高速道路や幹線道路などに関わられた経験もお持ちなのでしょうか?

由木氏 : そうですね。復興において道路の占める役割は非常に大きなものでした。とくに被災当時は道路が使えなければ現地に辿り着くことも、支援物資を運ぶこともできなかったので、東北地方を縦に貫く東北自動車道を起点に東西に伸びる幹線道路の道路啓開(道路を使える状態にすること)を行う「くしの歯作戦」を展開することから復興事業を進めていきました。高速道路や幹線道路の存在がなければ、あれだけのスピードで復旧復興を進めることはできなかったでしょう。

また、高速道路の盛土が津波の進行を防いだり、高速道路の敷地に避難することで一命を取り留めた方々がいたりと、道路は災害時に人の命を守る役割も果たしました。もともと東北沿岸部は漁業や港湾で発展してきた地域であり、道路が担うべき役割が非常に大きいため、震災以降も高速道路や高規格幹線道路の建設・整備を進めることで、地域の復興や発展を支援してきました。

――続きましてNEXCO東日本のイノベーションに対するビジョンや方針についてお聞きします。会社として新規事業創出やイノベーションに取り組む必要性については、どのようにお考えでしょうか?

由木氏 : 私たちを取り巻く社会情勢の変化は非常に激しいものがあります。国際情勢に目を向ければウクライナ情勢のような様々な問題が発生していますし、経済についても急激な円安進行で物価が上昇しています。また、新型コロナウイルスのような想像すらできなかった事象も起こっています。これらのことだけでも非常に先の読めない難しい時代に入っていることは明らかです。

それらの諸問題に加え、我が国では今までに経験したことのない人口減少の時代を迎えています。私の生まれた1960年には、日本で約160万人の子供が生まれていましたが、昨年生まれた子供は約80万人です。つまり、60年前と比べて子供の数が半分に減っていることになります。単純に社会の担い手の数が半分になるのですから、社会構造の大きな変わり目に直面していることは間違いありません。

そのような社会情勢・社会構造の変化が起こっている一方で、SDGsや脱炭素、ダイバーシティ&インクルージョンといった新しい価値観、新しい技術が次々と生まれています。当社には、24時間365日、安全・安心・快適・便利な高速道路を提供するという大きな事業の柱がありますが、このような様々な変化にも対応・適応できるような経営を行っていくためにも新規事業創出やイノベーションに取り組む必要があると考えています。

――新規事業の創出やイノベーションをおこすためには、新たな技術を採り入れることも必要になるかと思います。由木社長はどのような技術に注目されていますでしょうか。

由木氏 : 道路に深く関係する技術としては自動運転がありますし、社会全体ではICTやDX、グリーンイノベーション、さらにはAIやビッグデータなどもあります。このような技術をいかに扱っていくかについては、今後の当社にとって大きなテーマとなりますし、あらゆる企業にとって、新しい技術や新しい価値観を無視して現状維持を続けること自体がリスクになりつつあります。

当社は1日に274万台の自動車が通行する高速道路というアセットを有していることもあり、社会貢献に対する大きな使命感を持つ会社ですが、そのようなベースを活かしつつ、新しい価値観や新しい技術を取り入れながら企業経営を変えていかなければなりません。

実際に当社の中期経営計画では、令和3年度から令和7年度の5年間を「新しい未来社会に向けて変革していく期間」であると位置付けており、イノベーティブな取り組みや新しいチャレンジを続けていくことを目標の一つとして掲げています。


自社のアセットを社外から再評価してもらうことで様々な気付きが得られた

――グループの新規事業創出をリードする「ドラぷらイノベーションラボ」は、貴社の事業においてどのような意味を持ち、どのような役割を担っているとお考えでしょうか。

由木氏 : 日本道路公団という半官半民の組織を民営化した際に求められていたことは、お客様目線のサービスを提供すること、事業や業務を効率的に行うこと、さらには透明性を持った経営を行うことの3点でした。

お客様目線に関して言えば、SA(サービスエリア)・PA(パーキングエリア)は、道路公団時代から劇的に変化しており、清潔で使いやすい施設に変化していますし、高速道路の通行料金についても様々な割引制度を導入してきました。また、料金割引のインセンティブなどを取り入れることでETCの導入を促進し、現在では90%以上の料金支払いがETCで決済されているなど、効率化についても様々な施策を展開してきました。さらには資本関係を明確にし、一般の企業と同じように決算も連結で行うなど、企業グループとしての透明性を高める努力も続けてきました。

このように民営化の際に期待されていたポイントは、ある程度進展していることは確かですが、世の中の変化にスピード感を持って対応するような新しいチャレンジができているかと言えば、まだまだ不十分であると言わざるを得ません。それは当社の本業である高速道路の維持・管理では「利潤を追求しない」という立て付けで事業がスタートしていることが大きく関係していますし、安全・安心・快適・便利な高速道路を提供することが最優先であるため、どうしても新しいことに取り組みにくい風土があったのです。

そのような環境下でも、やはり新しい価値観・新しい技術を取り入れつつ、イノベーティブな挑戦をしていく必要があるということで、社内で議論を重ねる中で誕生したのが「ドラぷらイノベーションラボ」です。自社内だけにこだわらず、社外の方々の様々なアイデアや発想、新しいビジネスにチャレンジする姿勢などを取り入れながら、当社の民間企業としてのチャレンジングな部分を伸ばしていくような取り組みを推進していく組織ということで、大変期待しているところです。

――昨年度、ドラぷらイノベーションラボが中心となって開催したアクセラレータープログラム『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』では、84社もの企業からの応募が集まりましたが、プログラム開催によって得られた効果やメリットについてはどのようにお考えですか?

由木氏 : 当社がイノベーションの創出を目指す上で、昨年度のようなアクセラレータープログラムは非常に効果的な取り組みだったのではないかと考えています。

当社は高速道路やSA・PAというアセットを中心に、交通量や購買に関する情報、さらにはお客様のご意見など、様々なデータを持っています。これらの資産を社会貢献に活かしたいというモチベーションを持つ当社と、様々なアイデア・技術を持ったスタートアップ企業の方々が、一緒になって社会課題解決に向けた取り組みを進めていけば、お互いの境界領域で新しい価値を生み出せるのではないかと考えています。

私なりに昨年度のご提案を拝見させていただきましたが、「高速道路と空の交通を結びつけられないか」といったユニークな提案もあるなど、社外の84社の皆様の視点から当社のアセットを再評価いただくことで、様々な気付きを得ることができました。

さらには当社の社員が思いも寄らない、新たな発想に触れることができたことも大きなメリットの一つであると捉えています。たとえば「音楽を使った地域貢献ができないだろうか」「SA・PAの案内をアバターでできないか」「プロジェクションマッピングのようなデジタルアートを活用できないか」といった発想は、社内の人間だけで集まって考えても生まれてこなかったアイデアでしょう。

また、当社の社員とスタートアップ企業の方々でワーキンググループを作ることで、課題解決のために縦割りの組織を超えて様々な議論をするといった仕事のスタイルを経験できるなど、当社の社員や組織全体にとって非常にポジティブな影響を与えていただけたと感じています。


採択企業も含む84社すべての提案内容を社内で共有している

――貴社としてもスタートアップの若い力・新しい力と自社のアセットを掛け合わせることで、新しいものを生み出そうという期待感を持たれているのですね。

由木氏 : その通りですね。ベンチャーキャピタルのようにベンチャーの投資・育成を本業とされる方々もいますが、私たちは高速道路の維持・管理という本業があり、本業を支えるアセットや本業から得られる貴重なデータを有しています。私たちとしては、これらのアセットやデータを活用した社会貢献活動に取り組みたいと考えていますし、それらを活かすためのアイデアや技術を持っているスタートアップ企業の方々との相性も良いはずだと考えています。

――確かに貴社の保有しているアセットなどは魅力的です。『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』のようなアクセラレータープログラムを通じて出会ったスタートアップにも積極的に活用してもらいたいということですね。

由木氏 : その通りです。社外の方々の客観的な視点で当社の持つ資源を見ていただき、「こんな使い方はできないか」といったようなキャッチボールができると、思いも寄らない素晴らしい活用方法が見つかるのではないかと期待しています。

あとは今後の大きなトレンドとなっていく可能性が高い自動運転やカーシェアといった領域でのアイデアにも期待したいですね。自ら車を運転する必要もなく、あらゆるものが車とつながるコネクテッドカーの世界になれば、車を住居やオフィスにすることもできるでしょう。また、自分で車を保有しなくても必要なときだけ自動運転の車を呼び出して、それに乗って出かければOKという社会が来るはずです。

イノベーションの芽は、道路・自動車など、当社の事業に近しい領域にもたくさんあると考えていますので、ぜひ柔軟な発想を持った方々と一緒にディスカッションしていきたいですね。

――最後になりますが、共創パートナーとなり得る方々へのメッセージをお願いします。

由木氏 : 昨年度のプログラムでは最終的に5社のアイデアを採択させていただきましたが、採択企業も含む84社の皆様すべての提案内容は、守秘義務に留意しながら社内で共有しています。採択とはならなかったものの、今後につながりそうなアイデアに関しては将来的なアライアンスを視野に入れた共創を検討しますので、ぜひ今回も多くの皆様からの幅広いご提案を頂戴できればと思っています。

先ほども申し上げた通り、当社の中期経営計画では、この5年間を「新しい未来社会に向けて変革していく期間」であると位置付けていますが、何事も一夜にして大きく変わることはありません。日々の小さな変化を積み重ね続けることでしか、物事を大きく変えることはできないと考えています。

「ドラぷらイノベーションラボ」による『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』は、当社が変わっていくためのステップの一つですが、このような取り組みを積み重ね、発展させていくことで、大きな変化を生み出せると確信しています。このような私たちの思いに賛同いただける多くのパートナーの皆様と一緒に、より良い共創ができれば幸いです。


取材後記

社長就任から1カ月も経たないタイミングでの取材であったにも関わらず、由木新社長は、昨年度の『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM』に関するスタートアップ企業の提案内容や共創の進捗、社員の意識の変容など、組織として得られた様々なメリットついても正確に把握されていた。このようなトップのコミットメントは、NEXCO東日本が全社を挙げて本気でイノベーションに取り組もうとしている事実の証左に他ならない。新社長のもとで着々と進められようとしているNEXCO東日本の進化と変革、さらには同社にとって2回目のアクセラレータープログラムとなる『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM 2022』の動向に注目していきたい。(プログラム詳細は以下バナーよりご覧ください)


(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)

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  • 田上 知美

    田上 知美

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