【最終応募締切10/2】3期目を迎えるNEXCO東日本のアクセラ――過去採択プロジェクトの裏側や選考のポイントも!事務局メンバーが登壇した説明会を徹底レポート
東日本全域の高速道路を建設・管理する東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)が、3期目となるアクセラレータープログラム『E-NEXCO OPEN INNOVATION PROGRAM 2023』を開始。パートナー企業を募集している(早期応募締切9/6、最終応募締切10/2)。
本プログラムは、NEXCO東日本の持つ高速道路網やサービスエリア・パーキングエリア(SA・PA)、各種データといった魅力的なアセットを活用し、共創に挑めることが特徴だ。総額2500万円もの実証実験サポート費用も用意されている。また、1期・2期での経験を踏まえて、プログラムの運営体制もより強化されていることも見逃せないポイントだ。
去る8月22日、本プログラムの事務局メンバーらによるオンライン説明会が開催された。説明会では、同社の事業概要やプログラム詳細、募集テーマについて詳しく紹介されたほか、特別セッションを通じて、過去のプログラムから生まれた実績やプログラムの運営体制、選考基準などが明らかにされた。本記事では、その様子をダイジェストで紹介する。
※関連記事:高速道路やSA・PAが実証フィールドで費用サポートもあり!第3期を迎えるNEXCO東日本の共創プログラムの中身に迫る
【事業紹介】 高速道路会社では唯一の共創プログラム、未開のアセットを開拓できるチャンス
オープニングトークを飾ったのは、東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本) サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム 代表 市川敦史氏だ。市川氏は、同社の事業内容について次のように紹介する。
市川氏によるとNEXCO東日本は、旧・日本道路公団3社のうち関東から北海道までのエリアを管轄している。都市間交通を担う同社の高速道路は、地域活性化はもちろん、物流支援、医療アクセス改善、災害時の対応などにも貢献していると話す。
主となる事業は「高速道路事業」と「関連事業」の2つに分かれる。「高速道路事業」では3943kmにも及ぶ高速道路を維持管理し、年間の料金収入は約8000億円にもなる。本事業で進行中のプロジェクトとしては、新規建設延長、4車線化延長、老朽化に伴うリニューアルプロジェクトなどがあるという。また、「スマートメンテナンスハイウェイ(SMH)」と銘打ち、ICTやロボティクスなどの最新技術を高速道路のアセットマネジメントに導入する動きがあるほか、自動運転社会の実現に向けた構想も公表しているそうだ。
一方、「関連事業」ではサービスエリア・パーキングエリア(SA・PA)などの関連施設を運営し、年間の売上高は約1500億円を誇る。本事業では、施設のサービスレベル底上げや地域特性に応じた個性的なサービス開発に取り組むほか、資産活用事業、カード事業、旅行事業、物販事業なども幅広く展開。さらなる新規事業の開発にも注力しているという。
本プログラムの事務局を担う組織「ドラぷらイノベーションラボ」は、「高速道路事業」と「関連事業」がタイアップし両輪体制で運営するため、同社のすべての事業と円滑な共創が可能だ。
また、本プログラムは国内にある高速道路会社で唯一のアクセラレータープログラムであることから、共創が実現すれば「高速道路初」の取り組みとなる。高速道路のアセットはスタートアップにとって「未開の場」であり、前例のないユニークな提案を試せるチャンスでもある。市川氏は、こうしたプログラムの特長を踏まえ、ぜひ応募してほしいと呼びかけた。
そして最後に「スタートアップ企業の皆さま、当社のお客さまや地域の皆さま、そして当社の3者が、トリプルウィン(WIN-WIN-WIN)の関係になれるよう一緒に取り組んでいきたい」と意気込みを語り、事業説明を締めくくった。
【プログラム紹介】 高速道路周辺、SA・PA、利用者データなど豊富なアセットを活用し、新たな価値の共創を
続いて、本プログラムの運営サポートを担う株式会社eiiconの曽田将弘より、プログラムの概要が紹介された。曽田は3期目となる本プログラムの特徴を3つ挙げる。
1つ目が、実証・実装するうえでの非常に広大なフィールドを提供可能であること。2つ目が、採択後の実証・実装に必要な資金面のサポート(総額2500万円)が用意されており、将来的には出資も検討可能であること。3つ目が、取引先ネットワークを活用したり、従業員に協力を求めたりすることが可能であることだ。こうした強力なバックアップ体制のもと、新しい事業アイデアを実証・実装し、事業化を目指すことができるプログラムだという。
応募条件は「法人登記がなされていること」と「プロダクトや技術を保有すること」の2つだけ。これを満たしていれば企業規模は問わない。今年度の募集テーマは次の4つで、各テーマの詳細について担当者より説明が行われた。
【テーマ①】次世代に向けた高速道路事業のアップデート
テーマ①を紹介したのは、技術本部 事業創造部 事業創造課長 川嵜裕二 氏だ。川嵜氏は、高速道路事業といえば、道路建設からはじまり清掃・パトロール・メンテナンスなどの維持管理を行ったうえで、通行料金をもらうというビジネスモデルだと説明する。
昨今では、道路老朽化への対策や自動運転社会実現に向けた対応が求められているが、そうした次世代に向けて、どのように既存の高速道路をアップデートしていくべきか、共創パートナーとともに考えていきたいと語った。
【テーマ②】サービスエリア・パーキングエリアの価値向上
テーマ②については、サービスエリア・新事業本部 新事業推進部 ドラぷらイノベーションラボ推進チーム リーダー 瀬川祥子 氏が説明。本テーマは、SA・PAをバージョンアップしたいとの考えから設定したものだという。共創イメージとして、SA・PAの空きスペースなどを活かしての価値創造、物流や交通事業者の課題解決に資するアイデアなどを挙げる。
また、SA・PA内にあるウォークインゲート(一般道からの歩行者用出入口)や「地域への入口」とも呼ばれるインターチェンジの特性を活かし、地域コミュニティに貢献できるソリューション提案にも期待していると話した。
【テーマ③】各種アセットを起点とした地域連携強化や新事業創出
続いて、テーマ③も瀬川氏が紹介。テーマ②はSA・PAそのものの価値向上をテーマとしているが、テーマ③ではSA・PAのハブとしての機能に着目している。たとえば、ラストワンマイルの物流課題に資するアイデアや、車離れが進むZ世代にドライブを楽しんでもらうためのソリューション、あるいは同社の多様なアセットを活用した新規事業案などを想定している。
多様なアセットの一例として、同社が保有する日比谷公園の地下駐車場や駐輪場、ランナーズステーションのほか、高速道路高架下のスペース、トラックターミナルなどを提示。同社の不動産・金融・旅行などの周辺事業と連携できる提案なども求めている。
【テーマ④】サステナブルな社会への貢献・事業運営
最後のテーマ④は川嵜氏より紹介された。本テーマはインフラ会社だからこその責任として、持続可能な社会に貢献していきたいとの考えから設定したものだという。
具体的には、世界的な潮流ともなっている脱炭素社会や循環型社会の実現、地域や沿道の生活環境向上、人口減少・高齢化に適応した運営方法の確立などを想定。同社のサステナビリティのある事業運営につながる提案に期待しているそうだ。
募集テーマの紹介が終わった後、瀬川氏がアセット活用における注意点や活用可能性に関して、次のように説明した。
まず、物理的な空間の活用についてだが、高速道路自体や高速道路の中に関しては安全が最優先となるため、直接の使用はハードルが高い。一方で高速道路の脇にある斜面(法面)や高架下のスペース、インターチェンジの内側などは、高速道路での走行に影響を及ぼさない範囲であれば利用可能だという。また、SA・PAに関してだが、ドッグランが設けられているような周辺スペース、外部からの入口であるウォークインゲートなどは、ぜひ活用してほしいそうだ。一方で駐車場は、交通が優先される場所なので活用のハードルは高いとした。
次に、ビッグデータについてだが、路線データ、橋梁・トンネルデータ、トラフィックカウンターデータなど、幅広いデータの提供が可能だという。しかし、現時点においてデータ販売ビジネスは検討をしておらず、あくまで交通安全や渋滞予測などサービス向上に資する活用目的においてのみ提供可能だとした。アセットの使い方などに関して疑問点がある場合は、事前相談(20分)も受け付けているので、気軽に相談してほしいと呼びかけた。
審査から採択までの流れは次の通りだ。9/6までの応募については「早期応募特典」を設けており、面談・意見交換(50分)の機会を用意しているそうだ。面談後に応募内容を修正・変更することも可能なので、ぜひ積極的に活用してほしいと促した。なお、採択の公表は、2024年1月の定例会見時を予定している。実証実験が実現できる準備を整えたうえで、採択の公表を行う予定だ。
【特別セッション】 「事務局キーマンに聞く!プログラムの裏側を徹底インタビュー」
プログラムの説明が終了した後、本プログラムの事務局メンバーが登場し、特別セッションが催された。ここでは、過去採択企業のプロジェクト進捗状況や共創プロジェクトの実施体制、選考の際に重視しているポイントなどが、余すことなく打ち明けられた。
<登壇者>
※上記3名に加え、ドラぷらイノベーションラボ推進チーム リーダー 瀬川 祥子氏も登壇した。また、ファシリテーターは、本事業の運営をサポートする株式会社eiiconの曽田が務めた。
●トピックス①「過去の採択プロジェクトは、その後どうなっている?」
eiicon・曽田氏: 過去のプログラムからは、どれぐらいの数の企業が採択されてきたのですか。
長谷川氏: 第1期で5件、第2期で7件の計12件を採択しています。また第1期については、将来的なアライアンスを視野に取り組んでいく連携案件をプラスで3件採択しました。
eiicon・曽田氏: 公式には合計12件、それ以外で3件を採択したとのことですが、そのなかで実証・実装に進んでいる案件があればお伺いしたいです。
長谷川氏: 第1期の採択および連携案件のうち、3件はPoCを経て次のステップである共同研究や試験導入に進んでいます。当社の本業である高速道路の「安心・安全・快適・便利」につながるのではないかという観点で、今も継続してプロジェクトを進めている状況です。
eiicon・曽田氏: 共創プロジェクトはどのような体制やメンバーで進めているのでしょうか。
長谷川氏: 採択段階で、提案内容を踏まえて社内の担当部署を決定します。そのうえで、専門的な知識を持つ社員が採択案件の審査を行います。社内の担当部署は、本社に限らず支社や現地を預かる事務所も含みます。その担当部署がPoCのキックオフ段階から参画し、PoCの内容や調整、実証フィールドの選定に関わっています。
また必要に応じてですが、ともに現地調査を実施したり、関係機関と打合せを行ったり、社内担当部署・事務局・スタートアップの3者が揃うミーティングを開催したりと、準備期間から会社全体でPoCをサポートしています。私たち事務局では案件ごとに1名ずつ担当者を置き、調整窓口としてプロジェクト終了まで密にコミュニケーションをとる体制を整えています。
eiicon・曽田氏: プロジェクトを進行するうえで直面した壁や、それを乗り越えてきたエピソードなどがあればお聞きしたいです。
梅澤氏: 当社は関係する部署が多いため、各種調整や協議に時間を要する傾向がありました。これに対し、事務局としては選考の段階から社内調整を開始し、調整が必要な事項を予め把握するといった取り組みを行い、PoCを行う際にスムーズに進められるよう努力しています。先ほどの3者ミーティングも、円滑に進めるための取り組みの一環です。
本プログラムは今回で3期目となることから、社内での認知が広がってきており、スタートアップとの共創に関しても、一定の経験が蓄積されてきています。引き続き私たち事務局が窓口となり調整役を担って、社内担当部署とスタートアップの認識のズレをなくしていきたいと思っています。
eiicon・曽田氏: 色々な共創プロジェクトを進めるなかで実感している、NEXCO東日本のプログラムだからこその強みは?
大崎氏: すでにご説明した実証フィールドや各種アセット以外では、高速道路の建設・維持・管理の技術やノウハウ、それに社員の熱意も当社の強みとして挙げられます。実際、長年にわたる技術開発で得られた知見をもとに、応募企業からいただいた提案に対して、高速道路のプロ集団としての目線から深堀りをすることで、新たな気づきを提供できた事例もありました。
また、高速道路会社では唯一のアクセラレータープログラムなので、採用されたPoCについては注目度も高く、メディアに取り上げられる可能性も高いです。企業と当社の初となる取り組みとして、世間に広くPRできる点も強みだと思っています。
●トピックス②「過去採択企業の傾向から見る、選考のポイントと対策は?」
eiicon・曽田氏: 毎年100件近い応募があるそうですが、どのような選考フローで審査を行われているのですか。
長谷川氏: 一次審査(書類審査)と二次審査(面談審査)を経て、採択案件を決定しています。一次審査は、組織や役職に限らず社員の意見を広く反映しています。二次審査は、ご提案いただいた技術やアイデアに対して、共創の実現性の観点を踏まえ、社内関係部署の責任者が審査を行います。関係部署が審査の段階から加わることで、その後の進行がスムーズになると考えています。
また早期応募についてですが、ご提案いただいた内容に一工夫加えることで弊社の課題解決につながる可能性もあった案件が、面談時にキャッチボールをすることで当初の提案にプラスアルファでき、最終的に採択となった事例もありました。ぜひ早期応募をご活用いただきたいと思っています。
eiicon・曽田氏: 早期応募後に御社から直接フィードバックをもらい、提案内容をブラッシュアップすることで、採択される確率も高まるということですね。御社が選考を進めるうえで苦労している点などがあればお伺いしたいです。
梅澤氏: 書類選考では提案内容や資料のすべてに目を通しています。提出いただく資料については、各会社の特色や想いが色々と記載されているため、果たして弊社社員が提案意図を正確に汲み取れているのか、提案要素を正しく理解できているのか、課題に感じていました。そこで今回は、弊社で重点的に確認したいポイントをまとめた提案フォーマットを準備し、作成をお願いすることにしました。
eiicon・曽田氏: 審査ではどのようなポイントを重視されているのでしょうか。
瀬川氏: まず、ご提案が当社や地域の抱える課題解決につながるものなのかという点は大事にしています。そのうえで、応募企業と当社との間に、シナジー効果が生まれるのか、お客さまも含めてWIN-WIN-WINになれるのか、「安全・安心・快適・便利」を掲げる当社と親和性があるのかなども重視しています。
また、熱意や意欲、実施体制も含めて、当社と一緒に進めていける形が見えてくるかも考慮しています。本プログラムは来年1月に採択企業を公表し、翌年度内には実証実験を終了したいと考えています。そのため、提案いただくソリューションに対して、技術水準や体制、スケジュールなどの観点から、実現性のある提案のほうが採択につながりやすい傾向があります。欲を言えば、実証実験終了後の展望、共創で一緒に創り出す世界観までを提案いただけると、非常にうれしいですね。
eiicon・曽田氏: 最後に応募企業に向けて、一言メッセージをお願いします!
大崎氏: このプログラムを通じて、今まで関わることがなかった業界の方やスタートアップの方と一緒にPoCを実施しながら、日々大きな刺激を受けています。皆さまにお会いできることを楽しみにしているので、ぜひご応募をお待ちしております。
【Q&A】 「対象はスタートアップのみ?」「プロダクトの完成度は?」など、続々と寄せられる質問にリアルタイムで回答
続いて説明会参加者から寄せられる質問に、リアルタイムで答える時間が設けられた。そのQ&Aをいくつか抜粋して紹介する。
<Q>「スタートアップをメインターゲットとしている理由は?選考ではスタートアップが優先されるのか?」
<A>現在、スタートアップが非常に台頭しており、当社としても注目をしている。当社におけるオープンイノベーションの歴史は長く、大学や大企業と共創に取り組んできたが、今回のプログラムでは違った視点・視座を欲している。そうした意味で、新たな技術やサービス、ノウハウを有するスタートアップを主な対象にした。ですが、対象をスタートアップに限定しているわけではないので、どんな規模の企業でも、課題解決に資するアイデアをお持ちであれば応募してほしい。
<Q>「応募条件にプロダクト・技術を持っていることとあるが、どの程度の完成度が要求されるのか」
<A>応募内容によるが、仮に課題解決に向けて来年度中に実証実験を行うことが有用だという判断になれば、実証実験に耐えられるレベルの完成度は求めたい。
<Q>「実証実験を行うエリアとして、特に実施しやすいエリア(県)などはあるのか」
<A>特に「この県・エリアが進めやすい」というものはない。逆に「ここで実証実験を行いたい」「こういうエリアを使いたい」など相談してほしい。問い合わせをもらえれば、一緒に考えることができるので、事前相談の機会を利用してほしい。
――質疑応答では、時間内に回答しきれないほどたくさんの質問が寄せられ、本プログラムに対する関心の高さがうかがえる説明会となった。
取材後記
今回で3期目となるNEXCO東日本のアクセラレータープログラム。1期・2期のプログラムからは、実証・実装を経て次のステージへと進んでいる共創プロジェクトも誕生しているようだ。セッションの中でも語られたが、1期・2期を踏まえてプログラムの運営体制はより拡充されている。丁寧に練り上げられたプログラムとなっているため、円滑な共創が期待できるのではないだろうか。興味のある方はこちらからアクセスいただき、ぜひ応募を検討してほしい。(早期応募〆切:9/6、最終応募〆切:10/2)
※説明会動画 https://youtube.com/live/9pP4ndadKY8?feature=share
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)