なぜ、生命保険会社がオンラインコミュニティを運営するのか? 中小企業経営者を中心に4万人以上のユーザー数を誇る、大同生命『どうだい?』が目指すものとは
「想う心とつながる力で中小企業とともに未来を創る」をミッションに掲げ、中小企業向けの生命保険事業を展開する大同生命保険株式会社(以下、大同生命)。同社は2022年3月に創業120周年事業の一環として、Webサービス『どうだい?』をリリースした。
『どうだい?』は、経営に関する情報交換や相談、支援サービスの利用などができるオンラインコミュニティ。全国の中小企業経営者が集い、同じ立場のユーザー同士でノウハウや知見を共有しあうことで、経営に関する課題や悩みを解消する。サービスリリースから1年半ほどでユーザー数は4万4,000人に達し、現在もサービスの拡大が続いている。
生命保険を本業とする大同生命が、なぜオンラインコミュニティという新たな領域に進出したのか。そして、その先にどのようなビジョンを描いているのか。サービスの開発や運用に携わっているお客さまバリュー開発部の眞鍋氏と長谷川氏に、『どうだい?』の開発秘話や現状、今後の展望などを聞いた。
「中小企業エコシステム」を構築するため、”新規領域”のコミュニティサービスに着手
――大同生命が『どうだい?』を立ち上げた経緯や狙いをお聞かせください。
眞鍋氏 : 当社は「想う心とつながる力で中小企業とともに未来を創る」をミッションに掲げており、中小企業のお客さま向けに生命保険事業を展開しています。しかし、社会全体が複雑化し、お客さまのニーズも多様化するなかで、保険事業だけではお客様の困りごとに対応しにくくなっているのが現状です。今後も良きパートナーとしてお客様に貢献していくためにも、新たな価値提供が求められていました。
そうしたなかで、構想されたのが「中小企業エコシステム」というアイデアです。中小企業の経営者が相互に繋がり、経営の悩みや役に立つ情報を共有しあいながら、困りごとを解決できるような環境を築けば、より幅広い領域でお客さまに貢献できると考えました。
そのアイデアを具現化したサービスが『どうだい?』です。中小企業エコシステムの構想に着手しはじめたころ、新型コロナウイルスの流行が発生。お客さまとの対面コミュニケーションが制限されるようになり、新たな接点の創出が急務でした。そのなかでオンラインのコミュニティサービスのアイデアが持ち上がり、約2年間の開発期間を経て、2022年3月にリリースに至りました。
▲大同生命保険株式会社 お客さまバリュー開発部 課長 眞鍋 雅之氏
長谷川氏 : 私は以前、営業部門に所属しており、お客さまとお会いする機会も多かったのですが、『どうだい?』のようなサービスを求める声をしばしば耳にしていました。得てして、経営者の皆さんは悩みを一人で抱えがちです。ビジネスの困りごとを抱えていても、誰に相談していいかわからない。同じ立場の経営者同士で集まって、意見を交換したり、助言を求めたりする場は多くの経営者に求められているのだと思います。
▲大同生命保険株式会社 お客さまバリュー開発部 長谷川 菜摘氏
――『どうだい?』のリリースまでに「壁」になるような出来事はありましたか。
眞鍋氏 : コミュニティサービスは未知の事業のため、何が正解かわからないなかで社外資源なども活用し答えを模索しながら、リリースにたどり着きました。そのため、一つひとつの施策の検討に時間がかかったかなとは思います。
ただ、経営陣も新たな取組みが必要であると課題を感じていたこともあり、未知の事業であっても最終的には「やってみなさい」という姿勢で私たちを後押ししてくれました。約2年間という長い期間を要しましたが、サービスのリリースに至ることができたのは経営陣の理解も大きかったと感じています。
コミュニティ、記事、ウェビナー…コンテンツを充実させ、ユーザー数の急増を実現
――『どうだい?』のリリース後の反響はいかがでしたか。
眞鍋氏 : リリース後はすぐにユーザー数が数千人に到達して、順調な滑り出しでした。ただ、その後は伸び悩んで、半年ほど横ばいの時期が続きましたね。コミュニティを盛り上げるには大勢のユーザーが必要ですから、このころにはさまざまな施策に取り組んでいます。機能やコンテンツを少しずつ充実させたほか、社内の営業担当者に協力を仰いで、サービスの広報を推進しました。
また、ユーザーとのコミュニケーションにも注力しています。ユーザーに直接お会いして、サービスへの満足度や改善案をヒアリングしたり、コアユーザーを「『どうだい?』大使」に任命するなどして、ユーザーと一体でサービスの改善や認知度向上に取り組んでいます。その結果、ユーザー数の伸びは回復し、リリースから1年後には約3万5,000人に達しました。
▲『どうだい』では、”相談する”・”学ぶ”・”試してみる”という3つのサービスを軸として様々なコンテンツを提供している。(画像出典:プレスリリース)
――『どうだい?』では、コミュニティや記事、ウェビナー、経営支援サービスなど、さまざまなコンテンツが提供されています。ユーザーに特に人気のコンテンツはありますか。
長谷川氏 : コミュニティは毎日様々な話題で投稿いただいています。サービスのリリース当時は1日に1件程度でしたが、今では頻繁にやりとりが行われています。話題も当初は採用や売上拡大など、経営に関することが中心でしたが、最近ではゴルフや読書に関するルーム(スレッド)も立ち上げました。話題の幅が広がり、コミュニティとして成熟が進んでいるのかもしれません。
何より、コミュニティを通じて、経営課題の解決を後押しできるのが嬉しいです。例えば、採用のルームには、採用の悩みだけでなく「求人票にこのフレーズを盛り込んだら効果があった」といった成功事例も投稿されます。中小企業の経営者にとって採用は悩みの種ですから、こうしたノウハウを共有できるのは大変有意義だと思います。
▲『どうだい?』のトップ画面。掲示板では様々な情報のやり取りがなされている。
――最近では、小説『ハゲタカ』シリーズの作者である真山仁氏を招いてウェビナーを開催するなど(※)、セミナーにも力を入れていますね。 ※同ウェビナーは8/23に開催済
眞鍋氏 : 今後も会員数を伸ばしていくためには、これまで大同生命と関わりのなかったお客さまにもサービスを届けていかなくてはいけません。セミナーをきっかけに『どうだい?』を知っていただきたいというのが狙いです。
また、セミナーにはコミュニティを活性化する役割もあります。実際に、セミナーの話題で掲示板が盛り上がることも多いですし、登壇者への質問を掲示板で募集することもあります。『どうだい?』を内向き、外向きの両面で盛り上げていくためにも、セミナーに力を入れていくつもりです。
――ユーザーからの反応はいかがでしょう。『どうだい?』ユーザーに貢献した事例があれば教えてください。
長谷川氏 : 『どうだい?』にはメッセージ機能を設けているのですが、メッセージ経由で企業同士が繋がった事例があります。同業者との繋がりが持てずコミュニティにて悩みを投稿したところ、同業の方が興味を持ってメッセージにて連絡を取られたそうです。その後、オンラインにて営業で工夫されている点など込み入った話もお聞きし、大変参考になったとおっしゃっていました。こうした企業同士のつながりを促進できるのも「どうだい?」の利点の一つと言えます。
▲『どうだい?』のイメージキャラクター、どう鯛(だい)くん。
「誰でも自由に利用できる広場」を目指し、外部企業との協業を強化したい
――『どうだい?』の現状と今後の方針をお聞かせいただけますか。
眞鍋氏 : 2023年8月現在、ユーザー数は約4万4000人です。今年に入ってからは継続的に伸びており、アクティブユーザー数も増え続けています。もっともっと『どうだい?』のユーザー数を増やしていきたいと考えていますので、今後の課題はやはりユーザー数をいかに伸ばしていくかですね。
サービスを立ち上げたのが「お客さまにより幅広い領域で貢献したい」という想いからだったので、既存顧客以外のお客さまにもリーチしたいと考えています。現状はユーザー数の8割ほどが当社の既存顧客ですが、今後はそれ以外のユーザーにも積極的に働きかけていくつもりです。
――どのような企業が『どうだい?』にマッチしやすいと思われますか。
長谷川氏 : 特にユーザー層を限定していないので、どなたにでも利用しやすいサービスだと思いますが、とにかく「今、困っている」という経営者の方にはぜひ登録をお勧めしたいです。
『どうだい?』には中小企業診断士や社会保険労務士などのアドバイザーもいらっしゃいますし、経営者としての経験が豊富なユーザーも多いです。コミュニティで困り事や相談を投稿すれば、そうした方々から率直な意見がもらえますし、ときには励ましや応援の温かいコメントが投稿されることもあります。これだけ多くの経営者や専門家と出会える場所は少ないと思いますし、ちょっとした相談だけでもいいので、是非一度ご利用いただきたいと思っています。
――例えば、地方の経営者の方が地元以外の人脈を作りたいときなどには便利かもしれません。
眞鍋氏 : おっしゃる通りですね。実際に、地方の経営者の方から「他の地域との繋がりを作りにくい」という話を聞くことがあります。地方の場合、地元企業同士のコミュニティは充実していますが、その反面、他の地域との交流は希薄になってしまう傾向があるようです。「都市部や遠方の地域に繋がりを作りたい」という経営者の方にも『どうだい?』をお勧めしたいですね。
――最終的に『どうだい?』を、どのようなサービスに進化させていきたいと考えていますか。
眞鍋氏 : 漠然とイメージしているのは、「誰でも自由に利用できる広場」のような場所を作りたいと思っています。目的はビジネスのパートナーを探すためでも、休憩中に何気なく記事を読んでホッとするだけでもいいです。広場を訪れる理由は人それぞれですよね。イベントへの参加が目的の人もいれば、散歩が目的の人もいるし、ただ賑やかな場所が好きな人もいます。それぞれがそれぞれの目的で訪れて、楽しんだり、安心したり、学べたりする広場が最終的な理想ですね。
そのため、ユーザーには「とりあえず『どうだい?』を訪れれば何かある」というイメージを訴求していきたいです。気軽に訪れられる環境を構築したいなと。そのためにも、コンテンツをさらに充実させたり、サイトそのものの使い勝手をよくしたり、より多くの支援サービスを提供したりするつもりです。
――それでは最後に、『どうだい?』の展望をお聞かせください。
眞鍋氏 : サービスの拡大を目指すうえで、自社だけの力では限界もあると思うので、今後はサービス上での協業も視野に入れています。『どうだい?』の世界観に共鳴していただける企業には、ぜひ声をかけていただきたいです。
現在も『どうだい?』では、インフォコム株式会社の安否確認システムなど、外部企業のサービスを提供しているのですが、こうした支援サービスを外部の協力を得ながら充実させていきたいです。その先に、中小企業に幅広い価値を提供するコミュニティサービスを構築したいと考えています。
取材後記
Webで『どうだい?』を訪ねると、少しずつコンテンツや機能を充実させ、着実にコミュニティを盛り上げてきた軌跡が伺える。
公開されている記事の内容は実に多様で、経営やビジネスに関する話題から経営者・著名人へのインタビュー、車や手土産、ゴルフなどライフスタイルに関する記事など多岐に渡る。また、コミュニティの投稿も頻繁であり、中小企業経営者を中心とする日本全国のユーザーが、それぞれの悩みや疑問を持ち寄り、交流を深めている。なかには、経営にまつわる不安を吐露する投稿も見受けられるが、他のユーザーからの温かいコメントが不安の解消を後押ししていた。「どうだい?」には、すでに自律的な「生きたコミュニティ」が息づいているのだろう。
しかし、「生きたコミュニティ」が生まれるまでに、多大な尽力があったことは想像に難くない。サービスリリース後の継続的なユーザー獲得施策が苦労の一端をうかがわせる。人と人が繋がる場を支えているのは、また別の人の惜しみない努力なのだと、再確認させられる取材だった。
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)