【イベントレポート】「ニッポンイノベーター塾 Innovators Voice #6」 自作のIoTツールで4億円のコスト削減を可能にした中小企業経営者が登壇!
人材育成や組織改革のコンサルティング事業を通して、イノベーションの創出を支援する株式会社ワークハピネス。「HRアワード2017」プロフェッショナル部門の「人材開発・育成部門 最優秀賞」に選出され、大きな注目を集めている同社が開講した『ニッポンイノベーター塾』によるミートアップイベント第6弾が、10月16日に開催されました。
今回の登壇者は、旭鉄工株式会社(http://www.asahi-tekko.co.jp/)の社長であり、昨年9月に中小企業向けIoTモニタリングシステムを展開する新会社「i Smart Technologies」(http://istc.co.jp/)を設立した木村哲也氏です。
“IoT”は、オープンイノベーションでもホットワードのひとつですが、一方で難しく捉えがちな面も。そうした中、木村氏は秋葉原で数十円、数百円で買えるような低コストのデバイスなどを活用し、地域の町工場でも活用できるような低コストで扱いやすいIoTサービスを創出しています。
こうした目の付け所や発想方法は、ニュース共有サービス「NewsPicks」でも大きな話題に。実際、木村氏の紹介記事は現在までに2200picks超! 今回のイベントも、そんな木村氏のピッチを生で聞きたいと企業の新規事業担当者などを中心に40名近い人数が参加。会場は静かな熱気で包まれました。
▲旭鉄工株式会社/i Smart Technologies株式会社 代表取締役社長 木村哲也氏
改善の道を阻む、データ取得の難しさがイノベーションの発露に!
木村氏は、トヨタ自動車に21年勤務した後、2013年より自動車部品の製造などを手掛ける旭鉄工株式会社の代表取締役に就任した人物。愛知県内とタイに工場を構え、従業員480名が在籍する旭鉄工ですが、木村氏は「中身は町工場が大きくなったものと思っていただければ」と紹介。
そんな同社が、「安い・早い・簡単」なIoT製造ライン遠隔モニタリングシステムを開発したきっかけとは? ——そのはじまりは、「設備投資」「労務費」「工場スペース」の節約を検討したことでした。
以前から木村氏は、“トヨタ生産方式”に則った改善を図ってきましたが、改善の道で何より難しいのが最初に行う現状調査。現状把握と問題点の洗い出しには、各製造ラインの可動時間や不具合による停止時間などのデータが必要ですが、手作業で正確なデータを集計し続けるのは決して容易ではなく、人的コストも莫大です。
そこで木村氏は、手間と時間のかかるデータ収集の自動化を検討。しかし、IoT関連の展示会に足を運んだところ、モニタリングサービスの多くが予算数千万円以上で、ネット未対応の古い生産設備では導入が難しい。そこで、木村氏はツールとシステムの自社開発を決意します。
自作にあたって、主に意識したことは「取得データを絞る」「初期投資を抑える」の2つ。例えば、可動時・停止時にそれぞれ点滅・点灯するランプなどがある製造ラインであれば、そこに光センサーと送信機を設置。パルスを発信させて、受信機で検知すれば、生産個数やラインの停止時間など必要なデータを自動取得できるようになる。シンプルな発想ですが、この開発によって従業員の作業負担が一気に軽減。また各データの表示方法も創意工夫した結果、改善策も具体的になっていったそうです。
「見える化」だけで終わらない。IoTは運用方法が大事である。
木村氏は、社内で「見えない問題は直らない」と常々発信。ただし、見える化を図った上でいかに改善につなげるか、「IoTは運用方法が大事」だと説明します。データ取得が自動化された当初は、現場で毎日2時間のミーティングを実施。関係者が一堂に集まり、現状把握と改善策を徹底的に検討。また、定量的なデータがとりにくかったスタッフの作業のばらつきについても、データ取得によってやりにくい作業を見つけることに成功。
こうした0.1秒の改善を重ねた結果、新規ラインへの設備投資の節約合計額はこれまでに4億円以上、年間労務費1億数千万円カットなど、大きな成果を実現。「これだけ効果があれば、他社のお役にも立てるはず」と考え、IoTモニタリングサービスの開発・導入・運用コンサルティングなどに特化した「i Smart Technologies」を新設。新規事業創出まで成し遂げています。
他にもピッチでは、実際の使用画面や現場データを見ながら、具体的な活用方法や改善施策、マネジメントノウハウなども様々紹介。その上で、木村氏は「中小企業こそIoTを活用すべき。最近は人材採用や、大きな投資は難しい時代。一方で多くの中小企業は改善の余地が大きく、小回りが利くことで大胆な改革もしやすい。ぜひチャレンジしてみてほしい」と語りました。
取材後記
前回に引き続き、今回のInnovators Voiceにもニッポンイノベーター塾から起業した「株式会社ゆあけあ」の代表をはじめ、複数の塾生が参加。ピッチ後の質疑応答では、組織マネジメントや運用ノウハウなどに関して熱い議論がなされ、多くの参加者が意欲的にメモを取る姿が印象的でした。
現場改善や事業創出を実践してきた経営者の生の声を聞き、今まさにオープンイノベーションに取り組む塾生と直接触れ合う――。これだけの知識と刺激を得られる機会は、他にはそうないもの。企業の新規事業担当者はもちろん、起業を検討している個人の方も、参加すれば必ずプラスの体験ができるのではないでしょうか。
(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:加藤武俊)
次回イベント情報
ニッポンイノベーター塾 ミートアップイベント
Innovators Voice #7 実践者が語るイノベーションの真実【リクルート麻生氏 × フォワード加藤氏】
日時:11月2日(木)19:30-21:30 ※開場は19:00
場所:株式会社ワークハピネス本社 セミナールーム5階
(東京都港区浜松町2-6-2 浜松町262ビル5階)
費用:1,000円(立食交流会付き)
登壇予定:株式会社リクルートホールディングス 麻生 要一氏/株式会社フォワード 代表取締役 加藤 明拓氏
※イベント詳細およびお申し込みについては、以下URLよりご確認ください。