【知財のプロ・深澤氏の視点(5)】知財面からみた開発委託、共同開発、技術導入の違いとメリット・デメリット
弁理士・技術士、そしてイノベーションパートナーとして、10年以上にわたり300社以上を「知的財産」の観点から支援してきた明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏。コラムの第5回目は、"知財面からみた開発委託、共同開発、技術導入の違いとメリット・デメリット"について寄稿してもらった。
*関連記事:【弁理士・深澤氏に聞く】「知的財産」を活かしながら「共創」を生み出すためのノウハウとは?
1.開発の進め方3パターン
商品を開発する際には自社のコア技術を生かせる開発を行う必要があります。でも、コア技術以外の技術を社内ですべて賄えない場合の解決策としてオープンイノベーションが行われます。
オープンイノベーションに限らず外部資源を使って開発を行う際に従来からよく行われる形態として、(1)開発委託、(2)共同開発、(3)技術導入があります。
今回は、これらの開発形態の知的財産面のメリットやデメリットについて考えてみたいと思います。
(1)開発委託は、文字通り目的となる技術や商品サービスを他社に開発してもらう形態です。典型的な例としては、国等が民間に開発を委託する場合や、システム等のソフトウェア・プログラム開発です。特に大規模システムを開発する場合には、企業同士でも開発委託・受託が行われることもあります。小売業の会社がプライベートブランドの商品を開発する際にも行われます。
この場合の開発主体はもちろん委託先になります。開発に必要な主要な技術も委託先が持っています。
(2)共同開発は、目的となる技術や商品サービスを外部と一緒に開発する際に行われます。最近、トヨタ自動車社とマツダ社とが電気自動車(EV)を共同開発するために資本提携したニュースがありました。トヨタ自動車社が持つEV技術と、マツダ社が持つ少量生産でも収益を確保できる生産技術とを用いてEV開発を進めるようですが、このようにお互いの強みを持ち合って新しい技術を開発する際に採られます。
(3)技術導入は、技術を購入したり実施許諾を受けたりする際に行われます。すでにある技術を利用することになるので、この方法が開発期間を最も短縮することができます。例えば、デジタル動画圧縮技術や通信規格に関しては特許権を持ち寄ってパテントプール等が形成されていますが、このようなところが技術導入元となります。技術力のある会社のM&Aなども技術導入を目的として行われる場合があります。
2.知財面からみた開発委託のメリット・デメリット
どのようなパターンであっても、秘密情報や有益な情報、アイデア等が生まれれば、知的財産として保護や活用する必要が生じます。
各パターンには様々なメリット・デメリットがありますが、知財面でそれぞれどんなメリット・デメリットがあるか、整理してみたいと思います(あくまでも日本国内の場合です。外国の場合には各国の法令によって必ずしも当てはまらない場合もあります)。
まず、開発委託の場合についてみてみます。
以前のコラムでもご紹介いたしましたが、通常はアイデアを生み出した人に特許や意匠登録を受ける権利が発生します。そのため、開発を委託する際にすでにアイデアの着想を得ていたとしても具体化は委託先が行うことになるので、委託者からそのまま発明者を輩出することは難しく、特許権などの知的財産権を取得する場合はあまりありません。よって、知財上のメリットもあまりありません。
一方、受託者が開発したものが第三者の権利を侵害していた場合、委託者にも権利侵害が及ぶ可能性があります。例えば、一部のモジュールに他人の特許権がある場合、そのモジュールと同等のものを勝手に実施してしまえば権利侵害となります。このように開発委託の場合には知財上ではデメリットのほうが大きいようです。
ただ、ソフトウェア・プログラム開発の場合、プログラムは著作権の保護対象となりますので、受託者の権利を譲渡してもらえれば権利者としての活用が可能になります。
3.知財面からみた共同開発のメリット・デメリット
次に共同開発の場合についてみてみます。共同開発は、お互いの技術を持ち寄り新たな技術を開発する場合に進められます。開発上のメリットは大きいのですが、この場合の知財面の主なメリットは次の2つです。
●新たに開発した技術に関する知的財産権の権利者になれる。
●新たに開発した技術を相手方の許諾なく自由に実施することができる。
一方、主なデメリットは次の3つです。
●新たに開発した技術を自社だけで独占することができない。
●新たに開発した技術を第三者にライセンスする際には共同開発先の許可が必要になる。
●新たに開発した技術を相手方に自由に実施されてしまう。
ここで、メリットとして新たに開発した技術を相手方の許諾なく自由に実施することができるとする一方、デメリットとして新たに開発した技術を相手方に自由に実施されてしまう、となっています。
これは共同開発先の技術力や規模によってメリットとなることもあればデメリットとなることを示しています。例えば下請け会社を有する企業との共同開発の場合、相手方の下請け会社が実施することに対して自社の許諾が必要になるのかならないのかという問題が生じやすいところです。
なお、共同開発の成果は共有されることになるので、共同開発を行う前にお互いがどんな技術を持っていてどれが自分たちの知的財産なのかを明確にするためにも予め権利化をしておく場合が多いです。
4.知財面からみた技術導入のメリット・デメリット
技術導入の場合、もしパテントプールのようなものが形成されていてそこから実施許諾を得ることができれば、権利者から権利侵害といわれずに技術を導入することができます。複数の特許発明があってもパテントプールにアクセスすることによって権利者の一つひとつに許諾をお願いする必要がなく一括して利用できるところが知財面でのメリットとなります。
一方、実施にあたって例えば導入した技術に基づく派生発明をパテントプールに供託しなければならないなどの制約がある場合もあり、このような点がデメリットになります。
5.オープンイノベーションとの関係
オープンイノベーションの場面では、共同開発や技術導入が行われることが多いのではないでしょうか。オープンイノベーションによる技術の種類や数が増えるにつれて知的財産の管理も複雑になりがちです。技術開発の当初から知的財産についてもマネジメントを心がけていただければと思います。
【コラム執筆】 明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏 http://www.meiritsu-patent.com/
<深澤氏プロフィール>
京都大学工学部卒業後、石川島播磨重工業(現:IHI)入社し、小型ロケットや宇宙ステーションなど、宇宙環境を利用する機器の研究・技術開発・設計に携わり、技術士を取得。その後、国内最大手国際特許事務所へと転職し、弁理士資格を取得。独立し、明立特許事務所を立ち上げる。