近江商人発祥の地で知られる滋賀県。イノベーションやスタートアップ創出の取り組みとは?
オープンイノベーションを実践する地域の取り組みを紹介するシリーズ企画「CLOSEUP OI」。今回は滋賀県をピックアップします。
日本のほぼ中央に位置する滋賀県。中央エリアには県の面積(約4,017平方キロメートル)の約6分の1を占める日本で一番大きな湖である「琵琶湖」があります。
また、滋賀県は全国有数の内陸工業県であり、県内総生産に占める第2次産業の割合は48.0%で全国1位です。製造業が盛んで、従業者4人以上の事業所で1事業所当たり付加価値額は10億6,912万円と、全国2位を誇っています。
――このような産業の特色を持つ徳島県では、どのようにオープンイノベーションに取り組んでいるのでしょうか?2022年3月に策定された「滋賀県DX推進戦略」を紐解きつつ、オープンイノベーションやスタートアップ創出の取り組み、さらには”起業家の集まるまち”を目指す守山市や、滋賀大学や立命館大学BKCインキュベータといったアカデミアの動きもあわせて紹介していきます。
デジタル化に対応し、経済活動におけるイノベーション創出に取り組む滋賀県
本格的な人口減少や少子高齢化が加速し、各産業で労働力不足や競争力の低下が課題となっている一方で、デジタル技術が急速に発展しています。そうした中、県民、事業者、各種団体、大学、行政等の多様な主体が、デジタル技術・データの利活用の促進やDXの取組についての方向性を共有し、それらの取組において連携を深めていくため、滋賀県では2022年3月に「滋賀県DX推進戦略」が策定されました。
同戦略では、以下図で示されているように、「暮らし」、「産業」、「行政」の各領域と、それを支える「基盤」、「ひとづくり」において、デジタル技術やサービス、データの収集・分析技術を的確に捉え、社会経済情勢やデジタル技術の変化に対応し、県民のQOL(生活の質)の向上、経済活動におけるイノベーションの創出等に取り組むとしています。――このような方向性のもと、産業における高付加価値化や生産性向上を目指すために、次から紹介するオープンイノベーションやスタートアップ創出を目指す取り組みが実施されているといえるでしょう。
▲「滋賀県DX推進戦略」から、”3年間で取り組む事項”(※画像は、滋賀県ホームページより抜粋)
県内中小企業の競争力強化を目的に誕生した、「しがオープンイノベーションフォーラム」
ものづくり企業のほか、農業や情報通信業など様々な技術シーズを有する企業、さらには県外企業や大手企業を取り込んだ “出会いの場”を形成し、企業間マッチングを推進する機会の提供やコーディネーターによる伴走支援を通じて、オープンイノベーションを加速することで、新事業創出による県内中小企業の競争力を強化するために生まれたのが、「しがオープンイノベーションフォーラム」です 。
上図のように、新事業創出や競争力強化を目指す県内中小企業、技術ニーズ・シーズを有する県外企業や大企業等、産学官金の支援機関でフォーラムを構築。コーディネーターによるきめ細やかな企業マッチングに加えて、セミナー(出会いの場づくり)やピッチ(事業化のきっかけづくり)のイベントを通じて、ワークショップ(WS:共通目的を有す連携体)を構築し、研究開発の促進、外部資金の獲得などにより事業化を後押ししています。
”起業家の集まるまち”を掲げる守山市
“起業家の集めるまち”を掲げているのが、滋賀県の南西部に位置する守山市です。同市は「起業家1,000人を集める」をメッセージとして、起業支援の取組に力を入れています。琵琶湖の鮎はプランクトン食でこぶりですが、川を遡上=上流し、苔を食べることで大きくなり、産卵し戻ってきます。このことから、古くから近江商人は「琵琶湖の鮎は外に出て大きくなる」と言われてきました。
そこで守山市では、琵琶湖の鮎(起業家や起業家の卵)を外に送り出し、大きくなること、さらに琵琶湖らしい起業、サステナブルなスタートアップ創出を考える機会とする第一歩として、2022年5月には「びわ湖サステナブルスタートアップDAY」を開催。さらに、2022年9月には「Monthly Pitch SHIGA」、2022年11月と2023年2月には滋賀県でWeb3のコミュニティをつくる「滋賀Web3」というイベントが開催され、守山市出身で株式会社マイネット代表取締役会長(滋賀レイクスターズ 代表取締役会長)の上原仁氏が登壇するなど、積極的な活動を繰り広げています。
▲2023年2月に開催された第2回「滋賀Web3」の様子(※画像は、守山市ホームページより抜粋)
「起業チャレンジマップ」を作成し、起業の裾野拡大を目指す
一方、滋賀県では、起業の裾野拡大を目指し、起業準備者や創業間もない方が気軽に相談できるよう、地域の支援者のプロフィールや支援事例等の情報をまとめた「起業チャレンジ応援マップ」を作成。商工会・商工会議所や、ビジネスインキュベーション(BI)施設、コワーキングスペースの各担当者へのインタビューやリンク集、県・市町における起業支援策がまとめられています。
※参考ページ:「起業チャレンジ応援マップ」
滋賀県下の大学から生まれるスタートアップ
では次に、滋賀県内の大学による起業支援制度や、大学発スタートアップを紹介していきます。
滋賀大学では、教育研究に基づく新たな技術やビジネス手法をもとにして設立した企業を、「滋賀大学発ベンチャー」として認定し、支援。研究シーズの実用化を加速することにより、地域経済、社会への貢献を行っていくことを目的とし、本学の教員、学生のモチベーションを高め、教育・研究の一層のレベルアップの実現を目指しています。
同大の大学発ベンチャー第1号企業となったのが、株式会社イヴケアです。毛髪を用いたストレスチェックサービスを提供するヘルスケアベンチャーで、五十棲計社長兼最高経営責任者(CEO)が同大大学院教育学研究科在籍中の2019年1月、同大の大平准教授と連携し、起業しました。2021年には資生堂研究所が実施するオープンイノベーションプログラム「fibona」の参加企業に採択されるなど、注目を集めています。
なお、滋賀大学発ベンチャー認定企業には、その他にデータ活用サポート事業を手がける合同会社miteiや、学習支援事業を手がける合同会社KimiLabがあります。
一方、滋賀医科大学からも大学発ベンチャーが誕生しています。2022年1月に設立されたのが、株式会社バイオジップコード。糖尿病が治らない原因となっている異常な幹細胞をターゲットに、糖尿病の新たな診断薬や治療薬の開発を目指している同社は、2022年12月に研究リソースシェアリングプラットフォームを運営するCo-LABO MAKERと業務提携するなど、事業拡大が進んでいます。
また、滋賀県草津市に構える「立命館大学BKCインキュベータ」(BKCとは、びわこ・くさつキャンパスの略称)は、大学等の知的資産を活用して、産学官連携の強化、地域産業の技術の高度化、新事業の創出・育成を目的とする施設。産学連携に最適なオフィス・ラボを提供しており、AI・物流・医療・環境など、幅広い領域のスタートアップが入居しています。
(TOMORUBA編集部)