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みずほ銀行×セイノーHD×eiicon――キーパーソンが語る、オープンイノベーション・CVC活用の事例や成功のポイントとは?

みずほ銀行×セイノーHD×eiicon――キーパーソンが語る、オープンイノベーション・CVC活用の事例や成功のポイントとは?

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近年、顧客のニーズが多様化すると共にサービスやプロダクトに革新性が求められるようになっている。それも変化のスピードがますます増しているのが現状だ。一方で、これまで経済を牽引してきた大企業は、時代の要請に自社のみで応えるのに限界を感じているケースが多い。こうした中、注目されているのが、先進的でユニークな技術やアイデアを持つスタートアップとの連携と言える。新規事業の創出に向けオープンイノベーションやCVCが活発になり、さらに国もバックアップするようになった。

これを受け、大企業のCVC設立やスタートアップ支援を手がけイノベーション活動を支える株式会社みずほ銀行とeiicon companyは、事業シナジーを生み出すオープンイノベーション・CVCファンドの活用を徹底解説する特別セミナーを3月15日に開催した。

冒頭、みずほ銀行の金田真人氏が挨拶。「消費者の動き、トレンド、政策などを鑑みると、2023年は時代の転換期になる予感がします。混沌とする時代の中で、スタートアップへの期待は高まる一方です。ぜひ共にオープンイノベーションを加速させましょう」と呼び掛けた。――以下に本セミナーの内容をレポートする。

経産省・亀山氏による基調講演――政府がスタートアップとの共創を支援

セミナーの第一部は基調講演として、経産省の亀山氏が登壇。『スタートアップとのオープンイノベーションの推進』をテーマに、現在、政府が取り組んでいる政策などについて言及した。

▲経済産業省 経済産業政策局 産業創造課長 大臣官房 スタートアップ創出推進 室長 亀山慎之介氏

1999 年通商産業省(現経済産業省)入省。通商政策、経済協力政策、資源燃料政策、サービス産業政策、知財政策、中小企業政策、地域経済活性化政策などに携わる。2008 年から2011 年には在シンガポール日本国大使館に出向し、日本企業のアジア展開支援等に取り組む。また、2016 年から 2019 年には NEDO シリコンバレー事務所、2019 年から 2021 年には(株)海外需要開拓支援機構に出向。2021年7月から技術振興・大学連携推進課長、2022年7月から現職。

亀山氏はまず、政府がスタートアップに注目していることに触れた。革新的な技術・ビジネスを生み出し、短期で成長する特性を持っていることから「経済成長のドライバー」になり得る存在だと捉えている。

実際、グローバルではスタートアップが経済成長を牽引している例が多い。加えて、機動性が高く、社会課題にも迅速に対応できる。その一例として、新型コロナウィルスのワクチン開発にスタートアップが大きく寄与したことを取り上げた。亀山氏によれば、日本でも過去10年でスタートアップへの投資額が10倍となり、世界のスタートアップエコシステム都市ランキングで東京がトップ10入りを果たしたという。

一方で、「アメリカや欧州との差はまだ大きい」と亀山氏。時価総額1000億円以上のユニコーンの創出ではむしろ差は開いており、「政府はスタートアップ政策に一段と力を入れている状況」と強調した。2022年は「スタートアップ創出元年」と位置づけ、11月には「スタートアップ育成5カ年計画」を発表した。過去最大規模の1兆円の補正予算を組み、税制改正も行った。

育成5カ年計画は、人材、資金、オープンイノベーションの推進の3つの柱を軸に進めているとのことだ。このうち、オープンイノベーションの推進では、日本企業の競争力を強化する意味で、期待を寄せているという。日本企業は既存事業の改善など「知の深化」を得意とするが、革新的な変化を起こす「知の探索」を苦手とすることが多い。そうした現状を打ち破るために、スタートアップとの協業をはじめ、投資やM&Aは必要不可欠と考えている。

政府では、オープンイノベーションを目的にスタートアップに出資をした事業会社に対して、株式の取得価額の25%が所得控除される「オープンイノベーション促進税制」を2020年度に措置。本年4月からは、スタートアップの成長にも資するM&Aを促進するための大胆な制度改正が行われる。また、法人税額から試験研究費の額に税額控除割合を乗じた金額を控除できる「研究開発税制」でも、スタートアップとの共同研究等を促進するための制度改正が行われる。

活用に条件があるものの、従来に比べ大きく緩和されており、政府の意欲的な姿勢もうかがえる。亀山氏は「スタートアップの育成は大きく前に進んでいます。しかし、不十分なところが残っているのも事実です。例えば、オープンイノベーションは当たり前に行われているようにならなければならないでしょう。そうした社会を実現するため、ますます積極的な取り組みを行いたいと思います」と意気込みを見せた。

キーパーソンによるトークセッション――OIの必要性、重要性の認知が広まる

続いての第二部では、「各界のキーパーソンが集結!事業シナジーを創出するオープンイノベーション/CVCファンド活用の未来を読み解く」と題したトークセッションが行われた。登壇したのは、オープンイノベーションの豊富な経験を持つ、セイノーホールディングスの加藤氏、みずほ銀行の大櫃氏、eiicon company 代表の中村氏の3名だ。モデレーターはeiiconの村田氏が務めた。

<登壇者>

▲セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 Logistics Innovation Fund 室長 加藤徳人氏

1998年西濃運輸株式会社に入社。現場のトラックドライバー経験を経て、首都圏営業専門職として7年間従事し、大手新規顧客開発を担当。セイノーグループ管理者層に対する米国式マネジメント経営システムの導入およびハンズ オン業務改善支援を行うなど幅広い現場経験を持つ。2016年、新設のオープンイノベーション推進室立上げメンバーとして自社アセット活用による価値創造を目的としたインキュベーションや新規事業構築に従事。直近では“SEINOアクセラレーションプログラム”の運用をはじめとし、日本初ロジスティクス専門ファンドの設立(CVC/Logistics Innovation Fund)やインドネシアでのコールドチェーン事業、農福連携事業構築など、既存事業の枠を超えた他社との共創による社会課題解決を目指す。

▲株式会社みずほ銀行 常務執行役員 リテール事業法人部門・副部門長 大櫃直人氏

1988年みずほ銀行入行。営業店長や本部業務に従事する中で、M&A・MBOなど法人業務を歴任。2013年渋谷中央支店にて部長就任以来、スタートアップ・成長企業支援に従事。2016年イノベーション企業支援部設立時に部長就任。2018年執行役員就任。2022年より常務執行役員に就任(現職)。政府の「新しい資本主義実現会議」の下に開催された「スタートアップ育成分科会」(2022年10月~11月)構成員に就任(金融機関からの就任は本人のみ)。自ら有望スタートアップ企業を精力的に開拓し、年間約1,000社(一日平均4、5社)の企業・経営者と面談。企業の成長支援をライフワークとして、日本の将来、産業の育成に日々挑戦。

▲eiicon company 代表 / Founder 中村亜由子氏

2015年「eiicon」事業を単独で起案創業し、パーソルグループ内新規事業として、リリースを果たす。2018年よりcompany化。現在はeiicon companyの代表として、24,000社を超える全国各地の法人が登録する日本最大級の企業検索・マッチングプラットフォーム「AUBA」、会員2万人を超える事業活性化メディア「TOMORUBA」等を運営する。現在は年間60本以上のイベントにおいて講演・コメンテーターなども務め、多くのアクセラレータープログラムのメンター・審査員としても幅広く活動。エンジェル投資家として複数のスタートアップに投資・支援もしている。

<モデレーター>

▲eiicon company Enterprise事業部 事業部長 村田宗一郎氏

2020年eiiconに参画。エンタープライズ事業部の責任者として、法人企業・自治体へのオープンイノベーション支援に従事。eiiconのオープンイノベーションプログラム総責任者。各種プログラムでのセミナー・講師・メンターやイベントでの講演など実績多数。

最初に話し合われたテーマは「大手企業がオープンイノベーションやCVCを取り入れている背景とは」だ。大櫃氏は大きく2つあるとし、「1つは、日本企業の自前主義に限界が来ていることが挙げられます。時代のスピード、技術革新のスピードが速くなる中で、自社のみでは対応が困難になりました。もう1つはイノベーションを起こすのが苦手ということです。日々の改善は得意でも、自らをディスラプトするような取り組みは、どうしても二の足を踏んでしまう傾向があります」と答えた。

さらに大櫃氏は「世界では大企業×スタートアップのオープンイノベーションで画期的なプロダクトやサービスを送り出されており、多くの日本企業が成功のモデルとして認識してはいます。ただ、オープンイノベーションの浸透具合はまちまち。要因としては、経営陣の決断・腹落ち、中間管理職の理解、パートナーシップの精神、こうしたことの程度の差などが、オープンイノベーションの推進に影響を与えています」と続けた。

中村氏はここ数年でオープンイノベーションがより活発に行われるようになったことを取り上げ、「潮目が変わったのはコロナ禍以降。特に地方企業や中堅企業が着手する機会が増えました。eiiconが発足した2017年当時は、特に地方ではほとんど知られていませんでしたが、今では理解が深まっています」と自身の経験や体感を述べた。

まずはスタートアップのインナーサークルに入ることが重要

次に、「大企業がオープンイノベーションとCVCを両輪で回す成功の秘訣とは」をテーマに掲げた。

加藤氏によれば、2016年に自前アセットの積極的な共創活用を目指し、「新規事業ではなく、敢えて『オープンイノベーション推進室』と横文字を冠した部署を作った」という。その後、VCのSpiral Capitalやスパークス・グループなどに投資(LP投資)を行いながら、スタートアップや協業に関する情報を獲得して、2019年にはCVC「Logistics Innovation Fund」を設立。オープンイノベーションの取り組みもグループ全体で積極的に進め、同年に植物工場事業を行う株式会社ファームシップと共創し、新規事業として自社物流センターを活用した植物工場事業に乗り出した。

さらに2021年にオンライン薬局「ミナカラ」を運営する株式会社ミナカラとセイノーホールディングス株式会社と、石川県白山市の物流センター内に調剤薬局を共同開発したほか、株式会社エアロネクストとドローンを活用した「新スマート物流 SkyHub(R)」の社会実装を進めている。このほか、投資や協業に意欲的に取り組んでいる。

オープンイノベーション推進室を発足した当初のことについて加藤氏は「当グループにはもともと『新規事業』と名のついた部署はあり、新規事業への一定の意欲はありました。ただ、最適な展開手法を見い出せずにいた状態だったのです。そこで、オープンイノベーションに取り組もうと考えたのですが、セイノーは主にBtoB事業を手がけていることもあり、特に一般コンシュマーに対する同部署の知名度は高くありませんでした。まして当時はオープンイノベーションを推進していることはまったくと言っていいほど知られていなかったのです。このため、とにかくスタートアップやVC、CVCの方たちとの出会いを求めて、実際に足を運んでお会いするなど、さまざまな活動を行いました」と伝えた。

こうした一連の動きについて、大櫃氏は「理想的」とし、「最初にLP出資を行うなど、スタートアップのインナーサークルに入って情報を獲得し、その上でCVCの設立や共創を行っている点が優れています。大企業の中には、初めからCVCの設立を目指すケースが散見されます。しかし、CVCに割ける人員は数名からせいぜい十数名。この人数では、毎年のように設立され、勢力図も次々と変わるスタートアップの中から、出資先を見つけるのは難しい。セイノーホールディングスさんのようにLP投資を行いVCから情報をもらうか、あるいは、みずほ銀行は約5000社のスタートアップを常時ウォッチしていますので、そうした機関から情報を取得し、次のステップとして出資や共創を実施する。その発展系としてCVCの設立を目指すべきです」と解説した。

ビジョンを共有し、同じ方向に進む

モデレーターの村田氏から「最適な出資先や仲間との出会いはどのようにすれば果たせるのか」との問いが出された。

これについて中村氏は「”同じ方向を向く”のが大切です。オープンイノベーションをしているつもりが、受発注の関係になっているケースも散見されます。それは課題に対しソリューションを提供するという”向き合う関係”になっているから。オープンイノベーションは何をやりたいか、ビジョンを共有して共に走ることが欠かせません。このため、何をやりたいかが定まっていないと、出会いを果たすのは困難です。ビジョンを言語化することから始めるのが良いのではないでしょうか」と伝えた。

大櫃氏はさらに踏み込み「強い経営陣がいるかどうかが、投資や協業の大きな判断基準になります。魅力的な経営者に惹かれ、投資や共創する事例も多々見られますが、実はそれは失敗するケース。経営者が多忙になりコミュニケーションが取れなくなることもあるからです。経営者がどれだけ優秀でも、事業のすべてを一人で切り盛りするのは困難です。また、常に順調ということはあり得ません。重要な判断をする局面に迫られることもありますが、一人だと局面を見誤る可能性がどうしても高まります。このため、CFOやCOOなどを含め、しっかりとした経営陣3~4人いるかを見定めることが欠かせません」と強調した。

投資や協業先という観点で、中村氏は「セイノーホールディングスさんはメガベンチャーのラクスルと共同で『ハコベル株式会社』を設立しました。注目すべきは、ハコベルはラクスルさんの新規事業という位置づけという点です。ラクスルさんは既に上場を果たしており、今後、こうした事例は増えると予想されます」と語った。

経済に大きなインパクトを与えたい

最後に「日本のイノベーション活動をさらに促進していくために我々ができること」について、登壇者からそれぞれメッセージが送られた。

中村氏は「実績を作って世の中に発信することが大切です。オープンイノベーションは一時的な流行として揶揄されることも少なくありません。事業として大きく伸びている実績が出れば、そうした風潮を変えられます。経済効果を生み出している事例を多く作りたいと思います」と熱意を見せた。

加藤氏は「当グループもさまざまな取り組みを進めていますが、経済的、社会的なインパクトはもっと見出せると思ってます。オープンイノベーションを10年先20年先も続けるためにも、実績を残し社会にインパクトを与えたいと考えています。引き続き、来るもの拒まずの姿勢で多くの方に出会い、より意欲的に取り組んでいきます」と意気込んだ。

大櫃氏はオープンイノベーションの好例としてKDDI株式会社の「∞ Labo(ムゲンラボ)」を取り上げ、「KDDIさんはKDDIと∞ Laboを繋ぐ組織を設立しました。この結果、知の探索部隊である∞ Laboと、知の深化を重視するKDDI本体とうまくバランスが取れ、オープンイノベーションの成功、快進撃につながっています。こうした事例を踏まえながら、当社では経営陣に対して的確な提案を実施できます。ご相談などありましたら気軽にお声がけください。共にオープンイノベーションを成功に導きましょう」とエールを送り、トークセッションを締めくくった。

取材後記

スタートアップに日本中が大きな期待を寄せている状況になってきた。10年以上も前からグローバルではスタートアップが経済を牽引している中、日本が乗り遅れているとも言える。ここにきて政府がスタートアップ育成5カ年計画を打ち出すなど、いよいよ本腰を入れてきた。オープンイノベーションは広がりを見せ、都市圏の大手企業をはじめ、中堅企業や地方の企業も関心を示している。一方で、一時的な流行で終わる可能性もあるだろう。そうさせないためには、やはり経済的な実績を作るしかない。そのことはスタートアップ、オープンイノベーションの隆盛以前に、日本に必要不可欠なことでもある。スタートアップ界隈の動きを今後も注視すると共に、大きな成果にも期待を寄せたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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労働時間規制、ドライバー不足、燃料高騰、温暖化――物流業界の課題に立ち向かうセイノーホールディングス。業界全体の変革を目指し、オープンイノベーションで挑むその姿に迫る。