「Afternoon Tea」や「Ron Herman」など衣食住ブランドを展開するサザビーリーグ――新規事業を牽引するキーパーソンが語る「共創で重視するポイント」とは?
衣料、ファッション雑貨、飲食といったカテゴリーで、ライフスタイルビジネスを担うブランドを40以上展開する株式会社サザビーリーグ。雑貨とカフェの「Afternoon Tea」やカリフォルニア発のスペシャリティストア「Ron Herman」、など独自性の高いブランドが魅力だ。
クリエイティブリテイラーとして半歩先のライフスタイルを提案する同社は、事業共創プロジェクト『LIVE LABORATORY』を運営している。これは幅広い知識と経験を持つ同業他社、異業種、スタートアップ企業と共創し、新たな価値を生み出すことを目指すプロジェクト。2019年に第1期がスタートし、これまで14期にわたり開催している。そして15期目となる今回は、オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」を通じて共創アイデアの募集を行うこととなった(※エントリー期間:2024年1月9日~3月31日)。
募集テーマは、下記2つだ。
【テーマ01】 オフライン・オンラインに関わらず、ブランドの世界観を新しい形で届ける顧客体験DXソリューション
【テーマ02】 サザビーリーグの既存ブランドを活用した新たな商品・サービスの創出
TOMORUBAでは、『LIVE LABORATORY』を管掌する取締役 上級執行役員 営業統括 帰山元成 氏にインタビューを実施。同社が本プロジェクトで目指す姿、各テーマの詳細、提供できるリソースなどについて聞いた。
▲株式会社サザビーリーグ 取締役 上級執行役員 営業統括 帰山元成 氏
「It’s a beautiful day.」と感じられる世の中をつくり、日常に刺激を
――まずは、サザビーリーグの事業領域やビジョンについてお聞かせください。
帰山氏 : 当社は、「It’s a beautiful day.」をスピリットとして掲げています。創業者の鈴木陸三が標榜したもので、生活者や働く人がそう感じられる世界観をつくり、日常に刺激を与えていきたいという想いが込められています。
それに伴い当社の事業は、ライフスタイルビジネスとして衣料・ファッション雑貨・生活雑貨・飲食といった幅広い領域で40以上のブランドを展開しています。飲食店では、カフェやレストランのほか、2022年には9年連続でミシュラン・ビブグルマンに選出されている京都生まれのラーメン店「麺屋 猪一」も仲間に加わりました。独自性を追求し、ブランドを磨き上げていくことが私たちの大きな命題です。
▲サザビーリーグは、多様な業態の個性的なブランドを手がけている。(※2023年11月末時点)
――カフェやレストランではなくラーメン店というのは、意外性が高いと感じます。
帰山氏 : 「It’s a beautiful day.」のスピリットに合致するものであれば、制限はないというほど自由度の高いブランド構成となっています。また、当社はこれまで「STARBUCKS COFFEE」や「Shake Shack」といった海外のブランドを日本に導入・展開してきており、海外ブランドを定着させていくことに長けていますが、今後は“日本発”のブランドを世界に紹介する取り組みにも力を入れていきたいと考えています。そうした意味でも、「麺屋 猪一」は非常に訴求力の高いブランドといえます。
――最近のトピックでは、2022年9月にCVCをスタートされ、直近(2023年10月)では資源循環型ビジネスを展開する株式会社ECOMMITに出資を行ったと聞きました(※)。
帰山氏 : もともと、サザビーリーグは日本のブランドでも海外のブランドでも、私たちがイニシアチブを取って事業を運営するというスタイルを続けていました。しかし昨今は時代が変わり、技術テクノロジーの発展も著しいです。そこで私は、他のスタイルも模索すべきではないかと提言していました。CVCの活動をスタートしたのもその一環です。収益だけではない知見を得ることで、さらに進化していこうと取り組んでいます。
※参考:2023年10月配信ニュースリリース 「捨てない社会をかなえる」をスローガンに資源循環型ビジネスを展開するECOMMIT社に出資
15期を迎える事業共創プロジェクト『LIVE LABORATORY』とは
――続いて、『LIVE LABORATRY』について伺います。今回で15期を迎えるということですが、そもそもなぜこの取り組みがスタートしたのでしょうか。
帰山氏 : 原点としては、サザビーリーグの成り立ちがあります。私たちは元々、株式会社サザビーという社名でしたが、2005年12月に現在の株式会社サザビーリーグに変更しました。この背景には、アイビーリーグやメジャーリーグのように、一流のチームが切磋琢磨し競い合って価値を生み出していく場にしたいという想いがあります。
そこから時代が変わり様々な技術・アイデアを持つプレーヤーが出現する中で、リテールもしくはライフスタイルの領域で「一丁やってやるか」という人たちがサザビーリーグというビークルを活用して、世の中に「It’s a beautiful day.」を届ける場をつくりたいと考えるようになりました。そうした方々を集める方法としてオープンイノベーションという手段を取ろうということとなり、『LIVE LABORATORY』はスタートしたのです。
――これまで『LIVE LABORATRY』に寄せられた提案の中で、印象的な事例をお聞かせください。
帰山氏 : 私は最初からすべての案件の提案書を拝見していますが、いつもとても良い刺激を受けています。実現した事業は多くはないものの、議論を重ねて会社を設立したこともありました。私が関わったもので印象に残っているのは、薬局とカフェを融合させた事業です。日本の少子高齢化、医療費の増大といった社会課題を解決すべく、”未病”の解決を目的とした薬局とカフェを手掛けようと会社を設立しました。
結果的に事業化には至らなかったものの、社会課題と私たちの「It’s a beautiful day.」をいかに結び付けていくかを考える機会となり、私たちのその後の『LIVE LABORATORY』の活動にも影響を与える事例となりました。それまで私たちが手掛けていた衣料や飲食を超える領域でもあり、非常に面白かったですね。
――それは、ヘルスケア関連のスタートアップからの提案だったのでしょうか。
帰山氏 : いいえ、九州の薬局からいただいた提案でした。オーナーは70代半ばでしたが、志が素晴らしく、意気投合して事業計画を一緒に作っていきました。この事例に限らず、『LIVE LABORATORY』では面白い出会いがたくさんあり、新しい視点や気づきをたくさんいただいています。だからこそ、応募した方にもメリットがあるべきです。そこで、残念ながらご一緒することができなかったとしても、ご提案には可能な限りフィードバックをしています。
――『LIVE LABORATRY』で共創相手を探す際、帰山さんが特に注目しているのはどういうところですか?
帰山氏 : 一番は熱量です。それから、私たちが持っていないアイデアかどうかを重視しています。単に自社製品の売り上げを伸ばすという側面よりは、オープンイノベーションで「新しい価値」を創出できるかどうかが重要ですね。
既存ブランドとの協業に絞り、2つのテーマで共創パートナーを募集
――『LIVE LABORATORY』第15期では、2つのテーマを掲げていらっしゃいます。それぞれのテーマの設定理由と、テーマごとのパートナー企業のイメージを教えてください。まずは1つ目の「オフライン・オンラインに関わらず、ブランドの世界観を新しい形で届ける顧客体験DXソリューション」についてご説明をお願いします。
帰山氏 : 当社は創業以来、商品はもちろん店舗空間や接客などを通じたブランド表現にこだわってきました。これからはDXソリューションを通じて、さらに価値あるブランド体験を提供していきたいと考えています。
ひとつ事例を挙げると、サザビーリーグには「CANADA GOOSE」というダウンウエアのブランドがあります。この路面店を千駄ヶ谷に出店する際、新たな顧客体験としてマイナス15度の寒冷地を体験できる試着室「コールドルーム」を設置したのです。例えばこれを発展させ、VR/ARでマッターホルン登頂や犬ぞりなどの体験も提供できたら面白いなと思います。
また、お客様に感動や新たな価値を感じていただけるものであれば、DXに限らなくともいいと考えています。カリフォルニア発の「Ron Herman」は、逗子マリーナに店舗を設けています。
これは採算をとるというよりは、アメリカ西海岸のサーフカルチャーを想起いただけるような場所に店舗を構えることで、お客様に「It’s a beautiful day.」を感じていただきたいという想いがあります。すなわち、顧客体験の増幅です。こうしたことを、リアルでもDXでも展開していくことができれば、さらに面白い価値が生まれるのではないかと考えています。
――最終的に目指すのは、顧客体験の向上ということですね。
帰山氏 : はい。そうすることでブランドのロイヤリティが上がり、長く愛していただける存在になります。そのための差別化をはかるために、先ほどお話ししたお客様に体験していただくDXソリューションもあれば、省人化、データマイニングによる1to1マーケティングといった直接お客様には見えない部分においても当てはまります。
――2つ目のテーマ「サザビーリーグの既存ブランドを活用した新たな商品・サービスの創出」についても、ご説明をお願いします。
帰山氏 : サザビーリーグのブランドと親和性があり、半歩先のライフスタイルを提供できるアイデアを求めています。例えば、当社のファッションブランド「MAISON SPECIAL」と、知的障害のあるアーティストによるプロジェクトを手掛ける「HERALBONY」とのコラボレーションでは、世の中からの評価も高くブランド価値の向上につながったと感じています。
私たちが知らないことは、世の中にまだまだたくさんあります。優れたアイデアや技術を持ち、真摯に取り組んでいらっしゃる企業でも、なかなか経済的に芽が出ないケースもたくさんあります。そういう方々と共創することにより、私たちのブランド価値も、その方々の価値や認知も向上させ、「一緒にやっていてよかった」と喜んでいただけるようなことを進めていきたいですね。
ただ、ここでご注意いただきたいのは、単に「商品を店舗に置いてほしい」というだけの提案ではなく、あくまで共創による新しい価値創出を実現できるかどうかを判断軸としています。
▲2020年12月に発売されたMAISON SPECIAL×HERALBONYコラボレーションアイテム
40ブランド、約600店舗――実証フィールドや情報発信といったリソースも豊富
――テーマの実現に向けて、活用できる貴社の強みやリソースについてもぜひ教えてください。
帰山氏 : ひとつは、お店を通じて消費者に発信しやすいことです。サザビーリーグには、40以上ブランドがあり、各ブランドのホームページやSNSを活用した情報発信も可能です。
もうひとつは定性的な話になりますが、当社はブランディングに定評があるため、ブランドづくりの知見も取り入れていただけます。素晴らしいテクノロジーや商品・サービスがあるにもかかわらず思うように売上が上がらない方や、宣伝やマーケティングに悩む方の一助となるはずです。当社のブランドとの共創により、パートナー企業のテクノロジーや素材の価値創造につながると考えています。
また、店舗を実証フィールドとして提供できることも強みです。当社は国内・海外で600近い店舗を展開しています。国内では百貨店や商業施設内店舗、路面店が主要都市にあり、販売スペースを活用できることは大きなメリットです。さらに、先ほどお話ししたCVCからの出資の可能性もあります。
――帰山さんが意思決定を行うことにより、スピード感のある事業化が実現できる可能性もありますか?
帰山氏 : そうですね。共創により新たな事業やサービスを展開する際、関わる人たちの熱意や志を非常に重視しています。それが強いプロジェクトについては、意思決定をより早くしていきたいですね。もちろん事業計画の妥当性も大切ですが、世の中にどんな価値を与えられるのか、その価値を創造できるような強いチームなのかというのは、しっかりと見ていきます。
――最後に、応募を考えている企業へのメッセージをお願いいたします。
帰山氏 : 当社は1972年の設立以来50年以上の歴史を通して、私たちのスピリット「It’s a beautiful day.」を世の中に届けてきました。時代は移り変わりましたが、ユニークなアイデアが世界中に転がっています。そういったアイデアや、それらを一緒に具現化できる人の力を強く求めています。情熱や志を持つ方々からの応募をお待ちしています。
取材後記
世の中にブランドがあふれる中で、サザビーリーグは顧客層やライフスタイルが明確なブランドに磨きをかけてきた。50年あまりの歴史と実績に裏打ちされたブランド構築力や各ブランドの個性、そして主要百貨店や路面店などの店舗ネットワーク、情報発信力は、非常に大きなリソースである。同社のブランドを活用し、リテールビジネスの常識にとらわれない新しい顧客体験ソリューションや、新たな商品・サービスを創出する技術やアイデアをお持ちの方は、ぜひ提案をしてほしい。
※『LIVE LABORATORY』のエントリーはこちら。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)