兵庫の一次産業は実はスゴイ――神戸新聞社が共創にかける想いとは?
神戸市主催のオープンイノベーション・マッチング事業「Flag(フラッグ)」では、ホスト企業として地元に拠点を構える10社が参画。各社がどのようなテーマを提示しているのかを取材していく(※)。――今回取り上げるのは、株式会社神戸新聞社だ。
同社は、「公正に伝え、人をつなぎ、くらしの充実と地域の発展につくす」を理念とし、『神戸新聞』や電子版『神戸新聞NEXT』等を通じて、地域密着の情報発信をしている新聞社だ。2018年には創刊120周年を迎え、「もっといっしょに」を合言葉とする「地域パートナー宣言」を発表。地域と共にくらすパートナーとして、販売店を通じた高齢者サポートや県内中小企業と大学生の就職のマッチング事業など、メディアにとどまらない新たな事業領域に進出している。
今回、その動きをさらに加速させるために「Flag」に参画。『まだ知られていない地域の一次産業の魅力を県内在住の方へ届けるための新たなサービスの創出』をテーマに掲げ、地域の一次産業活性化に共に取り組める共創パートナーを募集する。
同社のメディアビジネス局 営業部 兼 神戸新聞地域総研 地域連携部の鄭(てい)由理氏に、共創で実現したい事業や提供できるリソース・アセットなどについて聞いた。
※「Flag」インタビューシリーズの記事一覧はこちらをご覧ください。
120年の歴史における第二創業期として、既存の枠にとらわれない事業にチャレンジ
――今回、「Flag」にホスト企業として参画された背景について教えてください。
鄭氏 : 弊社では創業以来、地域に根差した報道を続けており、現在では朝刊約40万部、夕刊12万部を地域の皆さまにご購読いただいています。しかし、デジタル化の加速などにより、長期的にみて紙の新聞の購読者数が減少していくことは避けられないと思われます。
そこで、いわゆる「第二創業期」として事業機会を多角化していくことが喫緊の課題であると、我々現場の中堅・若手社員も認識が広がっている状況です。今回、「Flag」を通じて神戸市内外の事業者と繋がることで、既存事業にとらわれないチャレンジで地域を盛り上げる事業を創造できればとの想いから参画しました。
▲株式会社神戸新聞社 メディアビジネス局営業部 兼 神戸新聞地域総研地域連携部 鄭由理氏
――すでに推進されている新規事業にはどのようなものがあるのでしょうか。
鄭氏 : 地元紙としての立場を活かし、地元の一次産品事業者などをネットワーキングした商品開発や、地元の読者・消費者のみなさまへの情報発信、販売などをはじめています。
兵庫県は、良質な酒米である山田錦の生産量が日本一です。これまでにも地場産業として紙面で紹介してきた経緯もあり、地元の酪農家と、山田錦生産者、蔵元と連携して日本酒を製造・販売する「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトを2018年に立ちあげた「地エネと環境の地域デザイン」協議会メンバーで進めています。これは、酪農で出されるごみや家畜のふん尿からバイオガスを作るとともに、副産物の「消化液」で、酒米を育て、酒を醸すというものです。
生産された純米吟醸酒は「地エネの酒“環(めぐる)”」と名付け、弊紙で積極的に広告したりPRイベントを実施して販売しました。この取り組みは、「新聞社が持続可能な地域社会のデザインを考える場を創出することから始まり、地元の産品に着目して循環型社会の実現に取り組んだ先見性」から、日本新聞協会の新聞経営賞を受賞しています。
――新聞社と一次産業の結びつきに意外性がありますね。
鄭氏 : 水産業での事例もあります。兵庫県は、シラス、ハタハタ、ズワイガニ、ホタルイカなどの漁獲高が全国1位であるなど、漁業も盛んな県なのです。今年の4月には、ホタルイカ日本一の水揚げを誇る兵庫県新温泉町・浜坂漁業協同組合と、熱心に地元漁業振興に汗を流す新温泉町農水産課とタッグを組み、獲れたてのホタルイカを三宮駅で販売する取り組みを実施しました。
その際に活用したのが、当社のグループ会社で、新聞輸送を担う神戸新聞輸送センターです。新聞輸送は、近距離輸送であり、トラックの稼働時間が短く、帰りのトラックには荷物を積んでいない、深夜の朝刊輸送や日中の夕刊輸送以外は空いているなどの特徴があります。
そこで、朝刊輸送後の空トラックに、漁船内で急速冷凍したホタルイカを積み三宮駅まで配送し、駅に設けられた販売会場で提供したのです。非常に好評で、わずか2日間の物販で、180㎏以上のホタルイカが完売となり、期待以上の手応えが感じられました。
▲新聞物流で構築した物流機能を活用しながら新規事業に取り組む神戸新聞社。同社との共創において、こうした物流機能を活用することも可能だ。
兵庫県には、魅力ある地域資源がたくさん埋もれている
――今回の募集テーマ、『まだ知られていない地域の一次産業の魅力を県内在住の方へ届けるための新たなサービスの創出』について、お聞かせください。
鄭氏 : 兵庫県や神戸市には、特に一次産業において、まだ知られていない魅力がたくさん秘められていると感じています。たとえば、兵庫県の名産品として「但馬牛」は有名ですが、そのほかにも「実は生産量が全国トップ」という農畜水産物が数多くあります。
言い換えると、魅力の発信余地が大きい、知られざる地域資源がたくさん眠っているということであり、それをまず多くの方に届けたいというのが本テーマに込めた意味です。さらに、長期的には、一次産業の担い手不足の解消、地産地消への貢献も視野に入れて取り組みを進めていきたいと考えています。
――共創で取り組む新たな商品・サービスの具体的なイメージはありますか。
鄭氏 : たとえば、生産者と消費者が互いに顔の見える関係性を築けるような、ネット上でのプラットフォーム作りやコミュニティ形成、一次産業の仕事を通じて地域の歴史が学べるような体験型コンテンツの提供といったことができないかと考えています。ほかにも、調味料とのコラボレーションや、酒類とのペアリングで新しい食文化をつくって発信したり、高付加価値商品を具体的に開発することも検討しています。
――どのような技術やリソースを持つ企業が、共創パートナーになり得るでしょうか。
鄭氏 : まずは、「地元の魅力をもっと伝えたい」という課題について、共感していただける地元一次産業の方と出会いたいですね。また、その課題解決に向けた技術やリソースをもつ企業様、たとえば、マッチングプラットフォーム構築の技術や、プラットフォーム上でのコミュニティ形成の知見、体験型の学びをサービスコンテンツ化するノウハウ、さらに、高付加価値の食品や飲料の生産・販売に強みを持つ企業様などを想定しています。
地域新聞社ならではのネットワークを活用した共創で、「もっといっしょに」地域を盛り上げたい
――逆に、共創パートナーに対して、御社からご提供いただけるリソースやアセットにはどのようなものがあるでしょうか。
鄭氏 : 第一に挙げられるのは、兵庫県内唯一の地方紙として地域の方から信頼されているブランド力と、地域密着の情報発信力です。比較的高齢の読者が中心となる紙の新聞だけではなく、比較的若い層にも読まれているWEBメディアもあるので、多様な層にリーチできます。
また、先のホタルイカの事例で述べたように、早朝でも対応できる近距離トラック物流機能が活用できる点も特徴です。さらに、長年の関係で当社に信頼を寄せていただいている地域の生産者、漁協などの業界団体、飲食店やビール会社などの地元企業様などとの広範なネットワークがありますので、兵庫県内であれば、生産から消費までワンストップでのアクションを起こすことが可能です。
――では最後に、今回のプログラムへの期待や、応募を検討される企業へのメッセージをお願いします。
鄭氏 : 兵庫県には魅力ある地域資源や事業者がたくさんあります。当社の発信力やネットワークを存分に活用していただき、一次産業が適正に評価されるようなサービスを展開して、「もっといっしょに」地域を盛り上げてくださる企業様からのアプローチをお待ちしております。
KOBE OPEN INNOVATION「Flag」 10/13(木)応募締切
神戸市内企業と市内・全国のパートナー企業とのオープンイノベーションプログラム
(編集・取材:眞田幸剛、文:椎原よしき)