まだ知られていない「山側の神戸」。 神戸電鉄との共創で挑む、緑ゆたかな沿線の魅力開拓
神戸市主催のオープンイノベーション・マッチング事業「Flag(フラッグ)」では、ホスト企業として地元に拠点を構える10社が参画。各社がどのようなテーマを提示しているのかを取材していく(※)。――今回は、神戸市兵庫区を起点に、北西・北東の2方向へと路線を広げる神戸電鉄を取り上げる。
古くは六甲山系を越えた先にある有馬温泉への観光列車としてにぎわった神戸電鉄だが、沿線の宅地開発が進んだことで、通勤・通学にも広く使われるようになった。神戸電鉄と聞くと、海岸線を走るイメージを持つ人も多いかもしれない。しかしながら、沿線に広がる風景は、港町・神戸から想起されるものとは異なる、緑ゆたかな景色だ。こうした「山側の神戸」もまた、神戸を形づくる景観のひとつとなっている。
「Flag」で神戸電鉄が提示するテーマは、この「山側の神戸」を舞台とした新しい価値の創造だ。その具体的な中身について、神戸電鉄株式会社 経営企画部 課長 西口 耕平氏、経営企画部 赤瀬 明歩氏の2名に話を聞いた。
※「Flag」インタビューシリーズの記事一覧はこちらをご覧ください。
「若年層の転出超過」が課題。沿線の魅力を発掘し、活力のある場所へ
――「Flag」への参画理由と、背景にある課題感からお聞きしたいです。
赤瀬氏: 昨今、少子高齢化や人口減少、若年層の転出超過が、どの地域でも深刻さを増しています。神戸電鉄の沿線においても、それらの傾向が顕著に表れていて、このことは神戸市にとっても神戸電鉄にとっても大きな課題だと捉えています。
人口減少は、乗車機会や乗客数の減少に直結しますし、神戸電鉄グループでは沿線で食品スーパー事業や保育事業を展開していますが、沿線の人口が減少すれば事業の縮小を余儀なくされます。こうした課題感から、神戸電鉄沿線をにぎわいや活力のある場所に変えていきたいと考え、本プロジェクトに参画することにしました。
▲神戸電鉄株式会社 経営企画部(広報担当) 赤瀬 明歩 氏
――募集テーマとして、『沿線の魅力をアップデート、地域の資源を活かした「楽しさ・つながり・心地よさ」を生み出すサービスの創出』を設定されました。とくに今回は、神戸市北区の「山田・淡河・八多・大沢」周辺エリアにフォーカスされています。どのような特徴を持つ地域なのでしょうか。
赤瀬氏: 神戸といえば、ハーバーランドなどの「海側の神戸」をイメージされる方が多く、神戸=港町というイメージが定着しています。一方で、本プロジェクトでフォーカスする「山田・淡河・八多・大沢」周辺エリアは「山側の神戸」。海側とは対照的に大きな山々に囲まれた地域で、古民家や茅葺家屋が数多く残っていることが特徴です。自然を感じられる田園風景が広がっています。
こういった自然豊かな場所でありながらも、神戸三宮駅から簡単にアクセスできる利便性も兼ねそなえています。今回のプロジェクトでは、この地域で色々なサービスを生み出しながら、今までとは違った一面の神戸をアピールしたいです。
まだ引き出しきれていない潜在的な魅力がたくさんあると思うので、それらを発掘して最大限に活かし、神戸市外や兵庫県外からも訪れたくなる、あるいは暮らしたくなる場所にしていきたいと考えています。
▲北区山田町衝原にある古民家、箱木屋住宅。近年は、古民家を活用したカフェやパン屋が増えていて、人気スポットとなっているそうだ。
――神戸市さんと一緒に「神鉄沿線モヨウガエ」プロジェクトも推進されているそうですね。そこから生まれた共創事例などがあれば教えてほしいです。
西口氏: 「神鉄沿線モヨウガエ」プロジェクトは、住民参加型のまちづくりプロジェクトです。このプロジェクトの一環として、8月11日に「#駅活チャレンジャー」の方、全国学生珈琲協会の代表兼喫茶あおいのオーナー、そして兵庫県立兵庫高等学校のみなさんが主役となって、神戸電鉄の長田駅前で「神鉄モバイルCoffee」というイベントが開催されました。地元の高校生やNPO団体等が主体となって一緒に取り組んでいることが、大きなポイントです。
具体的な活動内容としては、駅前に移動式の屋台型カフェを設置し、地域の特色あるコーヒーを地元の人たちに提供しました。注文を受けてから豆を挽いてドリップするという、本格的なコーヒーショップです。あえて時間をかけてコーヒーを入れることで、高校生が地域の人たちに語りかけていくという、コミュニティの形成も意識した取り組みです。
▲神戸電鉄株式会社 経営企画部(企画担当)課長 西口 耕平 氏
――地元の高校生には、御社からお声がけをされたのですか。
西口氏: 地域との協働ということで、兵庫高校の「地域の課題研究と実践活動に取り組む科目」(創造基礎B)の課題として、神鉄長田駅の駅前空間の改善を取り上げて検討することになりました。授業は、高校生の自主性を尊重し、自由に課題に取り組むカリキュラムであり、高校生の方々がどのように取り組もうかを困っておられる状況で、弊社に相談をいただきました。高校生の皆さんと共に、企画の検討会議などをさせていただく中で、高校生の皆さんから「駅前で立ち寄れるカフェをやりたい」ということで、これまで駅活チャレンジャーとして屋台カフェの事業を検討されておられる方にも相談し、今回はこの企画が実現することとなりました。
▲駅前の場所を活用し、高校生と地元の人たちが交流できるイベントを企画。駅前ににぎわいが生まれたという。(画像出典:「神鉄沿線モヨウガエ」HP)
古民家も残る「山の神戸」で、人々を魅了する新たなコンテンツを開発したい
――続いて、共創イメージについてお聞きしたいです。どのようなパートナーと、どのようなアイデアを実現していきたいですか。
赤瀬氏: 自然豊かで茅葺屋根の古民家が点在しているというエリアの特徴と、食や観光といった多くの人に受け入れられやすい何かを掛け合わせることで、この土地にしかないコンテンツを創出したいです。そうしたコンテンツを通じて、誰もが一度は憧れるようなスローライフを、気軽に味わえるような場をつくりたい。ですから、そういった点で強み・ノウハウをお持ちのパートナー企業と出会いたいですね。
――共創で新たに生み出したコンテンツを、どのような層に届けていきたいですか。
赤瀬氏: 沿線の方たちによりよい暮らしを提供したいという想いも持っていますが、より多くの方に沿線の魅力を知ってもらいたいと思っているので、近隣住民の方たちだけではなく、神戸市外や兵庫県外の方にも届けていきたいです。最終的には、沿線に暮らしてほしいとも考えているので、これからご結婚されて、お子さんが生まれるという層が理想です。
――先ほど、高校生との共創事例をご紹介いただきましたが、企業との共創事例にはどのようなものがあるのでしょうか。
赤瀬氏: 現在、入籍日に着目した新しい事業を、ブライダルに強いホテルと区役所さんと一緒につくろうとしています。結婚といえば、結婚式は華やかに行いますが、入籍日はあまり注目されていません。そこで、三者がタイアップをして街全体で入籍される方をお祝いしようという取り組みです。
「利用客との接点を活用」「神鉄グループとの連携」「高校生とのコラボ」も可能
――共創アイデアの実現に向けて、活用できる御社の強みやアセット・リソースは、どのようなものがありますか。
赤瀬氏: 鉄道会社なので、鉄道をご利用いただくお客さまとタッチポイントを持っていることが、強みのひとつです。年間約4800万人のお客さまにご利用いただいています。駅などを通じて、コンタクトを取ることも可能です。
また、鉄道事業以外にも、グループでは食品スーパーや保育・介護、タクシー・バス、不動産事業も展開しています。加えて、沿線の行政・企業・施設などとの連携も図れます。先ほどお話したように、神戸市さんと一緒に「神鉄沿線モヨウガエ」プロジェクトを進めているので、プロジェクトの枠組みに加わっていただくこともできます。
――「山側の神戸」をフィールドに、企業・行政、それに高校生も含めた新たな取り組みが実現できそうですね。最後に応募を検討している方に向けて、一言メッセージをお願いします。
赤瀬氏: 人口減少地域では、「ないもの」ばかりに目がいきがちです。しかし、都会にあるものばかりを追求するのではなく、その地域にしかない魅力に目を向け、引き出していくような活動にしたいです。今回の対象エリアは、季節の香りや虫の鳴き声など、都会では感じづらくなったものが残る地域。都会から見たら憧れの対象になるものが、必ずあると信じています。
そういった場所に人が集い、暮らすような流れをつくることで、一過性ではない本当の意味での地域に根差した地域活性化につなげたいと思っています。ですから、この地域の可能性を一緒に探ってもらえる前向きな想いを持った企業さんからのご応募をお待ちしています。
西口氏: 共創プロジェクトなので、受発注の関係になるのではなく、同じ目線に立って対等に、一緒に汗をかきながらアイデアを実現していきたいです。お互いに「やってよかったね、次も何かやりませんか」という関係を、これを機につくっていきたい。今回の取り組みで「終わり」ではなく、ここからが「始まり」。そういう意識で取り組んでもらえる企業さんと、一緒に生みの苦しみを味わいながら、アイデアを実現していければと思います。
KOBE OPEN INNOVATION「Flag」 10/13(木)応募締切
神戸市内企業と市内・全国のパートナー企業とのオープンイノベーションプログラム
(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)