移動の価値を向上させ、もっと自由にする――混雑緩和に取り組むデンソーテンの次なる挑戦とは?
神戸市主催のオープンイノベーション・マッチングプログラム「Flag(フラッグ)」では、ホスト企業として地元に拠点を構える10社が参画。各社がどのようなテーマを提示しているのかを取材していく(※)。――今回は、株式会社デンソーテンを取りあげる。
カーナビゲーションに代表されるような自動車部品メーカーとして実績を重ねてきた同社は近年、「人・モノ・モビリティなど、あらゆる"移動"における困りごとを解決する『モビリティソリューションパートナー』」を目指し、活動を広げている。
そんな同社が本プログラムの共創テーマとして掲げたのが『神戸エリアの新たな魅力を伝え、多くの人が”移動”したくなる仕掛けを創出』だ。これを受け、新事業推進本部 イノベーション創出センター プロジェクトリーダー 田中真一氏に、共創パートナー募集のきっかけやテーマの背景、実現したいアイデアなど、プログラムにかける想いをお伺いした。
※「Flag」インタビューシリーズの記事一覧はこちらをご覧ください。
人の日常をよりよく変える”移動”の価値提供へ
――まず、「Flag」に参画をした背景や目的をお聞かせください。
田中氏 : 当社は自動車部品メーカーとして、クルマの価値を高める製品を手がけてきました。近年はその枠にとどまらない活動を展開していますが、スマートシティやスーパーシティ、MaaSの領域で新しい価値を創出していくには、他社との連携は必須だと考えています。
一方、当社はVISION2030と銘打ち、「移動に自由を。人に笑顔を」をテーマにクルマ・生活の価値向上を掲げています。モビリティを通じて、新しい価値をどのように提供していくか。VISION2030を達成する上でも、神戸市さんの「Flag」は非常に良い課題創出・解決の手段になると確信しました。
▲株式会社デンソーテン 新事業推進本部 イノベーション創出センター プロジェクトリーダー 田中真一氏
――「Flag」における募集テーマは『神戸エリアの新たな魅力を伝え、多くの人が”移動”したくなる仕掛けを創出』としています。このテーマに定めた理由を教えてください。
田中氏 : 当社では2年ほど前から「移動の問題は何か?」を議論してきました。その中で着目した一つが身近な混雑問題で、短期間で混雑緩和の試みを実行に移しました。具体的には「ヴィッセル神戸アプリ」の中の混雑緩和サービス“Check-in”で、ヴィッセル神戸の試合後に、混雑を避けて帰宅することを可能にし、同時に地域の店舗と連携することで地域経済活性化にもつなげています。
このサービス・技術は国立大学法人神戸大学、楽天モバイル株式会社と共同で開発し実証実験を経て、今年7月にヴィッセル神戸の正式なサービスとしてリリースされました。ユーザーの皆さまにはやり方が面白い、混雑情報もわかって嬉しい、地域貢献に繋がると好評をいただいておりますが、さらに大きな価値を提供するべく当社が目指しているのはユーザーの移動に関わる潜在ニーズを掘り起こして、日常の皆さまの移動目的を創出して、よりアクティブな社会を目指したいと思ったからです。
今回は市民の皆さまに日常的にずっと使っていただけるようなサービスを創り上げたいと考えています。
▲2021年10月、ノエビアスタジアム神戸で開催されたヴィッセル神戸の試合において、イベント時の混雑緩和とイベント会場周辺の経済活性化を目的とする実証実験を実施。その際に活用した専用スマホアプリのイメージ。(画像出典:プレスリリース)
――なるほど。そのために、広く共創パートナーを募っているのですね。
田中氏 : はい。もともとユーザーや使用範囲が限られているところから始め、持続可能な事業とするために大きく広げていくことを視野に入れていました。その意味でも、神戸市さんの試みは当社や私の枠を超えて大きくできるチャンスであり、当社の課題を解決するのに合致したプロジェクトです。
パーソナライズ技術や、ユーザーとのタッチポイントを持つ企業との共創を目指す
――どのような企業と共創に取り組んでいきたいのでしょうか。また、どのようなアイデアを実現したいとお考えですか。
田中氏 : 現状、当社が描いている構想は、まだまだ視野の狭いもののような気がしていますし、課題も見極められていないと思っています。同じような経験や知見を持った者同士で考えていることなので、どうしても広がりに欠けるでしょう。ですので、アイデアの枠を広げたいという思いが根底にあります。その上で、まちの回遊性を上げたり、地域の魅力アップを支援したりする会社と共創し、ユーザーにより多くの楽しさを届けたいと思っています。
少し細かな話をすると、ユーザーの属性や嗜好をはじめ、誰といるのか、どこに向かっているのか、時間にどのくらい余裕があるのかなど置かれている状況と周りの環境を考慮して、行動変容を促すような情報提供を行いたいですね。そのためのパーソナライズの技術を必要としています。
――パーソナライズにつなげるためのデータ収集をしたり、収集したデータを行動変容に促す情報に連携する技術を持った企業などが適しているでしょうか。
田中氏 : そうですね、我々ではリーチできないデータとの連携・活用やAI活用の得意な企業と共創できればと思っています。このほか、地域の店舗、グルメ、イベント、SNS情報、フォトジェニックな場所などに関する情報を持っている企業と連携したいと考えています。
当社はエンドユーザーとのタッチポイントが多いとは言えません。地元神戸市内だとまだ頑張れば対応できることもありますが、全国に広げるとなると、当社だけで行うには限界があります。この点を補完していただけるととてもありがたいです。
モビリティ関連をはじめ、混雑緩和や人流予測の技術・知見を提供可能
――デンソーテンさんから提供できる強みやアセットはどのようなものがありますか。
田中氏 : 当社はヴィッセル神戸アプリを通じ、ノエビアスタジアム神戸周辺での混雑緩和、人流制限の取り組みを行ってきた実績があります。
実現サービスはスマートフォンアプリで提供しています。試合終了後にすぐスタジアムを出ようとすると45分待ち、30分ずらせば15分待ちに短縮できるといった予測をあらかじめ算出してアプリで提示し、混雑時間を避けてスタジアム近辺で時間を費やしていただければポイントを付与して、かつユーザーの年代や性別などに合わせて興味を持ってくれそうな順で近隣店舗のクーポンを示し、ポイントから交換いただくサービスを実現しました。
サービスを実現させる技術面では少し専門的になってしまいますが、人流データを積み上げ、それを元にシミュレーションで人流を再現・予測できる技術、行動経済学を活用した行動変容技術を開発しました。
また、混雑緩和をするために一度に大勢が同じ方向に向かったら意味がないので、シミュレーション技術で行動を分散させるような全体計画を立てることも可能です。こうした経験値や技術などが強みです。
――実績のある技術ですので、他の地域でも応用がしやすいように感じられます。スマートモビリティに関するものはありますか。
田中氏 : まだ具体的に動いていませんが、スマートモビリティについてはオンデマンド運行のようなものをイメージしています。少し未来の話になりますが、例えば、ある人がウォーターフロントに行きたいだろうと思うタイミングで小型モビリティがすぐそばに来る、といったものです。今の神戸市三宮エリアですと、既存のシティループ・ポートループ、市営バス・地下鉄、シェアリング自転車・キックスクーターなどと連携して移動を促したり、その人にあった交通手段を提供できるようになります。もちろん車で来られる方に対するソリューションも検討中です。
また、移動の自由にフォーカスすると、ご高齢の方や障がいのある方、子連れの方などは移動に不満を感じていらっしゃいます。車で来られた方も、駐車場に停めた後の移動や、エリアを跨ぐときに駐車場を移動するのが面倒な場合もあります。そうしたところのペインポイントの解消にアプローチしている企業とも共創できると考えています。
――最後に、応募を考えている企業の方にメッセージをお願いします。
田中氏 : 技術的なことや当社の考えていることはお話しした通りですが、何より、明るく楽しく恐れずに一緒に行動していただける方と共創したいです。確かな信頼関係を構築し、ときに「移動の価値とは何か」を議論させていただければと思います。実際にプロジェクトを進める上では、問題もたくさん出てくるでしょう。課題を共有し、恐れずに共に前に進んでいけたらなと考えます。どうぞよろしくお願い致します。
KOBE OPEN INNOVATION「Flag」 10/13(木)応募締切
神戸市内企業と市内・全国のパートナー企業とのオープンイノベーションプログラム
(編集・取材:眞田幸剛、文:中谷藤士)