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【イベントレポート】効率にとらわれない自由な発想がカギになる――「移動」を起点に思考するまちとモビリティの未来とは?

【イベントレポート】効率にとらわれない自由な発想がカギになる――「移動」を起点に思考するまちとモビリティの未来とは?

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2022年1月25日、【第一人者に聞く!「移動」から考える“まちづくり”と“モビリティ”の未来!】と題したオンラインイベントが、DMM.make AKIBAとeiicon companyの共催によって実施された。同イベントでは「移動」を軸に未来の社会の姿を考えるパネルディスカッションが行われ、モビリティ領域で活躍する第一人者たちが登壇。それぞれの考えが語られた。

登壇したのは、東急株式会社で「まちづくり×デジタル」に挑戦している山口堪太郎氏、株式会社シグマアイにて量子コンピューティングの社会実装を目指す事業全般に携わり、モビリティ・ロジスティクス領域を起点とした価値創造に注力する羽田成宏氏、折りたたみ電動バイク「タタメルバイク」を制作するICOMA Inc.の生駒崇光氏の三名。eiicon companyの入福愛子がモデレーターを務めた。

新型コロナウイルス感染拡大からおよそ2年が経ち、リモートワークが普及し、地方への移住者も増加傾向にある。こうした中、「移動」に対しての価値や概念が変わり、さらには私たちの身近な暮らしやビジネスを支える「まち」や「モビリティ」の在り方も問われることになった。――このような変化の中で、「移動」の価値を見つめ直すディスカッションとなり、新規事業担当者だけではなく、多くのビジネスパーソンにとって興味のある意見が飛び交った。本記事では、イベントの様子をレポートする。

<登壇者>


▲東急株式会社 デジタルプラットフォーム デジタル戦略グループ 山口 堪太郎 氏


▲株式会社シグマアイ 事業開発マネジャー 羽田 成宏氏


▲ICOMA Inc. Founder CEO プロダクトデザイナー 生駒 崇光氏

「手段と捉えるか、目的と捉えるか」―これからの移動の価値を考える上で重要なテーマ

最初のテーマは「移動の対象とは?」。そのような問いに対し、羽田氏が前説として口を開いた。

「MaaSで移動の対象としているのは『人』だが、一口に人といっても様々な側面をもっています。人には人格やキャラクターなどがあり、それを考慮した設計をしていかなければなりません。さらに言えば『笑顔』を移動させることが重要であり、東急さんなどはそのようなことを考えてまちづくりをしてきたのではないでしょうか」と話を振った。

山口氏は同意した上で、東急がどのように街づくりに取り組んできたのか語る。「移動の対象には、ヒト・モノ・情報とありますが、交通網、お店や宅配だけでなく、沿線550万人のため、情報を届ける「光インフラ」も展開しています。」

人だけでなく情報の移動にも一役買ってきたという東急だが、最近は新たな課題に気づき始めたという。「これまではより多くの人に同時に便益を提供するインフラをリアルで届けることを主に、そこに共創によって多様なコンテンツを届けることを重視してきました。しかしそれではデジタルを介して個客ひとりひとりを自ら理解することは難しく、今はリアルとデジタルが繋がった顧客体験を志向しています」と続けた。

羽田氏は移動の価値を考える上で大事なのが「移動前の価値」「移動中の価値」と「移動後の価値」を分けて考えることだと言う。「今は交通も物流も『速く届ける』ことばかり考えています。その結果、ドライバーは疲弊し、さらにEC市場は伸びても業界の問題が深まることに。そうではなく、移動そのものの価値を改めて見直すことが必要なのではないでしょうか」

羽田氏の話を受けて、生駒氏が自ら作ったバイク(タタメルバイク)へのこだわりを語った。「移動という結果だけでなく、移動手段そのものに価値を置くという考えは非常に共感しました。今はシェアモビリティが発達し、移動するだけなら自分でモビリティを所有する必要はありません。それでもタタメルバイクが注目を集めているのは、モビリティをファッションのように楽しみたい方がいるからです」


▲生駒氏が開発する折りたたみ電動バイク「タタメルバイク」

羽田氏と生駒氏の議論に山口氏も加わり、議論はさらに白熱した。「移動を手段ととるか、それとも移動自体に価値を感じるかで大きく変わりますよね。これまでは移動を手段と捉える意味合いが強く”より大量の人やモノをいかに同時に安全に速く効率よく届けるか”という議論ばかりされてきました。しかし、今後は効率の観点だけじゃなく、移動そのものを楽しむための議論もしていかなければなりませんね」と話した。


多様な価値観に合わせた可変性のあるまち「渋谷」

「移動」から派生して、ディスカッションのテーマは「まち」に。特に、「渋谷」にスポットを当てた話で盛り上がった。まず口火を切ったのは、長年渋谷のまちづくりに携わってきた東急の山口氏だ。「コロナ禍では渋谷で働く、遊ぶことに障害が起き、昨年度は苦しむ商店街の支援のため、アイデアと技術を持つスタートアップとの共創に取り組みました。とはいえ、新しい移動手段などは道路・交通にも影響が出ますので、まちの多くの方々と一緒に、世の状況に適応した新しいルールづくりが重要です。そのハブになることが役割と思います」


生駒氏はプロダクトデザイナーの視点で渋谷を語る。「渋谷はファッションの先端であり、製造業もそこから学ぶことはたくさんあります。例えば昔、車が流行したのもみんなでスキーに行くのが流行ったからですよね。単純にいいものを作るだけでなく、文脈の中でものづくりしていく姿勢がこれからの製造業には求められていくと思います」

2人の話をきいた羽田氏は、渋谷の街についてこう語った。「渋谷って様々な時間軸を持った人が混在していますよね。仕事でスピーディに生きている人もいれば、自分のペースで楽しむ人がいたり、何かあてがあるわけでもなくただそこにいる人もいれば、長らくその地で生活している人もいる。移動の価値を考える際も、そういう時間軸の多様性を大事にしていきたいですね。渋谷なら、そんな多様な移動をいち早く実現できるのではないでしょうか」

羽田氏の話を受けて、生駒氏は「柔軟性」の重要性について語る。「まちづくりも、ものづくりも、いろんな人に対応できる柔軟性が必要になってきたように感じます。私がバイクを作る時もカスタムのしやすさを特に意識しました。ハードウェアは一回作るといじれる余地がほとんどありませんが、私のバイクは人によって好きにカスタムできるんですね。都市計画でもそのような考え方が重要になってきていますよね」


生駒氏に話を振られた山口氏は次のように答えた。「渋谷再開発の肝である基盤整備は難しいですが、土台が出来てからも柔軟性を持ちえます。例えば働き方の変化がコロナ禍で加速し、オフィス需要は変わりえますが、それを人々が交わり創発するシェアオフィスやホールにするなど、可変性を持たせることが大事になると思います。ホテルと住宅なども相性がよいです。『mixed use』が渋谷の時流でしたが、次は『multi use』と思います」

効率性にとらわれない自由な発想が未来の移動をつくる

次のテーマに挙がったのは「移動の価値について」。羽田氏は再び「価値とその源泉となるコンテキストの多様性」が大事だと語る。「一口に移動と言っても、その目的は人によって違いますし、同じ人の中でも状況によって異なります。人に会うのが目的なら移動は手段ですが、ドライブなどは移動自体が目的ですよね。様々な目的の移動があるなかで、その価値観の多様性を大事にしていかなければなりません。そのためにも様々な人が、様々な方法でまちづくりに参画できれば、面白い移動のあり方が作れるのではないでしょうか」

価値観の多様性という話に、生駒氏が自分の経験をもとに話し始めた。「バイクを作り始めてから、SNSでいろんな人が意見をくれるんですが、多種多様な人からメッセージが届くんです。バイクが好きな人はもちろん、主婦や乗り物に興味のない人まで本当に様々。マス広告が主流だった時代では、ターゲットとなる人しか意見をもらえませんでしたが、今では思いがけない人たちから情報が入ってくるので面白いですね」

山口氏もまた、多様な価値観で渋谷のまちを作っていると語る。「実は、渋谷で立ち上げたエリアマネジメント組織のコンセプトが、『遊び心で渋谷を動かせ』なんです。自治体・町会・商店会・企業のみなさんが中心に担ってくれていたまちづくりに、クリエイターからスタートアップまで混ざっていくことでの化学反応を期待しました。元々多様性を受け入れる寛容性の高いまちだったことが登竜門性を磨くことに繋がっていると思っています」

最後に「これからの移動について」というテーマに、それぞれが自分の意見を語った。「デザインをしないことが大事」と語ったのは羽田氏。「人間の血管とか雪の結晶って誰もデザインしていないですよね。しかし、そのような自然のデザインを、人間はまちづくりやものづくりの参考にしてきました。デザイナーのいない自然のデザインのように、地球レベルでは再現性はあるが人間には再現できないものにもっと価値を感じれば、もっと豊かな移動を実現できるのではないでしょうか」


生駒氏もまた「計画しない」この重要性について語る。「私がものづくりをする時に大事にしているのが、自分の直感を信じること。トレンドなどを気にして計画しないからこそ、新たな価値が生まれていくと思っています」

山口氏は一人ひとりのニーズに寄り添いながらまちづくりをしていきたいと語った。「リアルのサービスの、より多くの人の共通ニーズに対して提供されることが多いですが、一人ひとりのニーズを理解して刺さるサービスを提供することは難しいので、デジタルを活かしていく。その結果リアルのサービスが磨かれていくという好循環を作りたいと思います」

取材後記

イベントの最後に、東急の山口氏はかつて渋谷のビルとビルの屋上を繋いでいたケーブルカー「ひばり号」を紹介した。このケーブルカー、移動のためのものではなく、片方のビルでしか乗降車できず1往復して戻ってくるもの。子供しか乗れないアトラクションのようなものだったと言う。

これこそまさに移動が「手段」ではなく「目的」だった事例。かつては楽しむための移動が、まちづくりに組み込まれていた証拠だ。モビリティ技術が発達してきた今こそ、移動の価値を考えるにあたって昔の「古き良き時代」に思いを馳せてみるのもいいのかもしれない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)

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  • 小野 成寿

    小野 成寿

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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