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アストラゼネカ・ジャパンのトップに聞く、ヘルスケア業界の課題と共創の場「i2.JP」を通して目指す世界

アストラゼネカ・ジャパンのトップに聞く、ヘルスケア業界の課題と共創の場「i2.JP」を通して目指す世界

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「患者中心」のビジネスモデル実現を目指すヘルスケア・イノベーション・エンジン「 i2.JP(アイツードットジェイピー;Innovation Infusion Japan)」。製薬会社であるアストラゼネカの日本法人が、「創薬以外にも、自分たちが提供すべき価値はたくさんあるはず!」という想いのもと、昨年11月に立ちあげたオープンなコミュニティだ。――発足から1周年を迎えた今、参画企業・団体は2021年11月現在で128社・団体を超え、参加を希望する問い合わせは、今も日々寄せられているという。

「i2.JP」が掲げるのは、「患者中心」のビジネスモデルの実現。このビジョンに共感する、スタートアップやアカデミア、行政、製薬会社、ベンチャーキャピタル、保険会社などが、幅広く集っている。コミュニティの中からは、1年間で50件以上のビジネスマッチングがなされ、社会実装に向かってPoCを実施しているソリューションも複数あるという。

TOMORUBAでは、「i2.JP」の取り組みを追うべく「医療改革への挑戦」と題した連載企画を進めている。第4回となる今回は、アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長 ステファン・ヴォックスストラム氏が登場。世界各国のヘルスケア市場に精通したトップの視点から見た「i2.JP」の現在地と目指す世界、同社が掲げるビジョン、さらに国内外のヘルスケアが抱える課題や潮流について聞いた。


▲アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長 ステファン・ヴォックスストラム氏

1996年にアストラゼネカのスウェーデン法人にMRとして入社。同法人の営業本部長やマーケティングの要職を歴任した後、中東欧・中東・アフリカ(CEEMEA)へ。ビジネスディレクターとして、オンコロジー事業部門を立ちあげ、同領域の成長を大きく牽引。また、トルコ法人、ウクライナ・中央アジア・コーカサス地域法人のほか、北欧バルト諸国法人でも代表取締役社長を務める。2018年1月より現職。

世界、そして日本における、医療の解決すべき課題とは

――まず、ステファン社長のご経歴からお聞きしたいです。

これまで、アストラゼネカで約25年間、働いてきました。その間、世界各国で仕事をしました。私の主な役割は、その市場に入ってイノベーションを誘発することだと思っています。約4年前に日本法人の代表に就任し、日本を新しいレベルへと引き上げることに挑戦しています。日本でのビジネスを成長させると同時に、社員のマインドセットを未来志向へと変革することにも注力しています。

――世界各国でビジネスを展開されてきたステファン社長から見て、日本の医療システムはどうでしょうか。

日本には素晴らしい医療システムが構築されていると思います。患者さんにとって優しいシステムですよね。全国の様々な専門医に、自由にアクセスができるシステムです。一方で、将来に課題がないわけではありません。人口動態が変化してきています。人口構成に即した医療システムへと変えていく時期に差し掛かっているのではないでしょうか。それをどう私たちがサポートしていくか。これらの課題を解決できるソリューションを、一緒に見つけていきたいと思っています。

――世界のヘルスケア市場に大きな変化が生じています。特に注目しているトレンドや課題があれば、お伺いしたいです。

現在、医療に対して非常に大きな圧力がかかっています。私たちは危機的な状況から回復するレジリエンス(回復力)について、もっと深く考えていかねばならないと思います。それも、従来とはまったく異なる角度からです。今回のパンデミックによって、世界各国の医療システムが、まだ十分ではないことが分かりました。脆弱性が浮き彫りになったのです。それは、日本も含めてです。

将来を見据え、医療システムをより強固にする必要があるでしょう。パンデミックに備えて準備をしておかねばなりません。そのためには、今よりもっと劇的な変化が必要です。また、パンデミックだけではなく、自然災害も頻発していますよね。日本だと台風や地震です。そういった自然災害に対しても、十分耐えうるような医療システムを準備しておかねばならないと思います。

――パンデミックや自然災害に対応できる、より強固な医療システムですね。

はい。加えて、先ほどもお話ししましたが、人口構成が徐々に変化しています。非常にゆっくりとしたスピードなので、多くの国ではあまり注目されていませんが、それでも少しずつかつ着実に変化し続けているのです。日本だと出生率が落ち込み、少子化が進行しています。一方で、日本の平均寿命は世界トップレベルです。したがって、高齢者の割合は高まり続けています。この傾向は続くでしょう。

私が来日した2018年において、ある統計によると日本人の約28%が65歳以上でした。医療費の60%程度は、65歳以上の高齢者に対して使われています。そうした中、高齢者の数が増えているわけですから、これは日本にとっては大きな課題です。つまり、「パンデミックや自然災害に対して、どうレジリエンスを高めていくか」と、「人口構成の変化にどう対応していくか」が、世界においても、日本においても大きな課題だと考えています。

――なるほど。

ただし、悪いことばかりではありません。様々なテクノロジーが生まれています。5GやIoTが普及してきましたし、AIや機械学習といった驚異的なデジタルテクノロジーも誕生しています。それらを用いて、データを迅速に分析できるようになりました。これは、好機だと捉えられます。ですから、課題に向かうために、これらの機会をどう組み合わせるか。これこそが、非常に重要です。

――どうすれば今、このタイミングで「医療システムが抱える課題」と「デジタルソリューション」をうまく組み合わせることができそうですか。

やはり鍵を握るのは「コラボレーション」でしょう。アストラゼネカはパートナーシップを組んで、ヘルスケアの抱える課題を解決したいと考えています。


先駆者として、患者さんの人生をイノベーションで変える

――続いて、アストラゼネカ・ジャパンが目指す方向性や、ビジョンについてお伺いしたいです。

私たちアストラゼネカ・ジャパンは、「先駆者として、患者さんの人生をイノベーションで変える」ことをビジョンに掲げています。このビジョンの中には、いくつかの構成要素があります。まず、先駆者の示す意味についてです。先駆者というのは、「最初に始める第一人者」という意味ですが、それは同時にリスクテイカーである必要があると思っています。もちろん計算したうえでのリスクですが、リスクを負わなければいけません。リスクを負うことで、価値が生まれるからです。そして、その価値を生むためには、2つの道があると、私は考えています。

――2つの道ですか?

はい。ひとつは、リスクを取ってプロジェクトを成功させる道です。成功すれば、先行者利益を得ることができますから、当然、価値を生みます。もうひとつは、プロジェクトが失敗に終わったとしても、そこから学べることがあるはずです。学んだことが、価値を生みます。つまり、成功したにせよ、失敗したにせよ、いずれの道に進んでも、価値はあるのです。

では、先駆者にならず追随者になってしまうとどうでしょう。先行者利益もありませんし、失敗をする機会もないため、学習の機会もありません。追随者だと価値はゼロになってしまうのです。ですから「勇気を持って最初に仕掛けましょう」と話しています。そういったマインドセットを、社内に浸透させようと試みています。

――なるほど。

これらすべては、患者さんの人生をよりよくするためです。そして、イノベーションを起こすことで実現をしたい。これまで誰も挑戦したことがないような、新しいソリューションを提供したいと考えているのです。つまり、ビジョンに含まれている構成要素とは、「患者さんの課題解決にフォーカスすること」「先駆者になること」「新しいソリューション開発に挑むこと」の3つ。これが私たちアストラゼネカ・ジャパンの掲げるビジョンであり、考え方です。

「i2.JP」の現在地―多様性に富んだメンバーによる、様々なプロジェクトが進行中

――そうしたビジョンがある中、2020年11月に「i2.JP」を発足されました。1周年を迎えた「i2.JP」の現状を、どう捉えておられますか。

「i2.JP」は正しい方向に進んでいると思います。特に私が素晴らしいと思うのは、多くの方たちがこのネットワークに参加することを希望し、自然と拡大を続けていること。そして、参加者が多様性に富んでいることです。患者さんの課題を解決するためには、様々な角度から様々な考え方をする必要があります。ですから、多様性に富んだメンバーが集まっている点は、素晴らしいと思っています。

また「i2.JP」では、参加者がオープンに誰とでもコラボレーションできるような組織を目指しています。参加者は、必ずしも私たちアストラゼネカと組む必要はなく、参加者同士でお互いにコラボレーションをすればいいのです。アストラゼネカを間にはさむ必要すらありません。そうした組織ですから、「i2.JP」の中から数多くの交流やコラボレーションが生まれています。この点においても、非常に成功していると思いますね。

――「i2.JP」では今、どれくらいのプロジェクトが進んでいるのでしょうか。特に注目されているプロジェクトはありますか。

現在、アストラゼネカとi2.JPのパートナーとでは約20件のプロジェクトが検討されています。パートナー同士をビジネスマッチングでおつなぎし、アストラゼネカが関わっていないプロジェクトも30件程度、並行して進んでいます。中には、すでにPoCではありますが、患者さんに提供されはじめているものもありますね。

その中で私が特に注目しているのは、重症のぜん息患者さん向けのプロジェクトです。アストラゼネカがパートナーとなり、患者さんに直接コミュニケーションをとるソリューションを開発しています。患者さんの課題を克服することで、治療が中断されないように促すものです。また、患者さんのぜん息が悪化する要因を避けるような教育も実施しています。

――「i2.JP」の参加者らと交流をする中で、何かお気づきになったことはありますか。

私は当初、「i2.JP」を立ち上げることで、盛り上がるのはスタートアップだと思っていました。スタートアップが、私たちと一緒にイノベーションを起こすことになるだろうと予測していたんですね。それは、正しかったと同時に、間違いでもありました。スタートアップと同じレベルで、大企業も強い情熱や好奇心、起業家精神をお持ちでした。スタートアップと中堅・大企業に熱量の差がないことを、「i2.JP」を通じて知りました。これは素晴らしいことですし、驚きました。同時に、勇気づけられましたね。

また、ヘルスケア業界以外からも、数多くの企業・団体が、「i2.JP」に参加されています。医療に関係のない企業でも「どう患者さんのためにソリューションを開発できるのか」というテーマに興味をお持ちです。これに関しても意外でした。さらに、企業の規模を問わず、スピードが非常に速い。ですから、あとは組み合わせですよね。十分な資金力のある大企業と小規模な企業やスタートアップ、それぞれが融合することで、非常に速いスピードで、新しいソリューションを生み出せるのではないかと期待しています。

――「i2.JP」は、世界で16番目のイノベーションハブだと聞きました。海外のイノベーションハブとも、交流や連携は進んできているのでしょうか。

進んでいます。アストラゼネカでは「i2.JP」のようなイノベーションハブが世界中で20か所以上あり、これらはネットワーク化されています。一方でアストラゼネカのイノベーションハブは、それぞれの国で進め方が違いますね。例えば、物理的なコラボレーション施設を持つ国もあれば、バーチャルだけで活動している国もあります。しかし、「患者さんを第一に考える」という点ではどこも同じです。それを外部とのコラボレーションで進めるという点も共通しています。

もちろん、ハブ間の交流もあります。海外と交流があるのはよいことです。なぜなら、ソリューションやイノベーションが、国境を越えられるからです。日本の患者さんにとって有益なソリューションは、海外の患者さんにとっても有益なものになり得るかもしれません。それは、患者さんにもメリットがあることですし、ビジネスにもメリットがあります。世界中からパートナーを探すことができるので、選択肢も広がるでしょう。それに、日本で生み出したものを、海外へと広げられる。ですから、ハブ間の交流は今後、もっと増やしていきます。

――こうした活動を通じて、社内のマインドセットにも、変化が生じてきていますか。

様々な意識改革が進んでいます。「リスクを負ってもいい」「新しいことに挑戦したらいい」というマインドセットです。私はこれこそが、イノベーションの中核だと思っています。3000人規模の大企業となると、意識改革のハードルが高いことも事実です。そんな中でも、「よいリスクは取ってもいい」と、社内全員が考え始めていると思います。

このマインドセットが全社に浸透すると、どの部門でもイノベーションが起きてくるはずです。人事・財務・マーケティング・営業などすべての部門が、大小様々な規模のイノベーションを実行する。それらを足し合わせると、莫大な規模のイノベーションになると思います。結果として、より多くの課題を解決することにもつながります。それが、競合優位性にもなるのです。なぜなら、こうした挑戦的な組織風土は、構築するまでに相当な時間がかかるもので、簡単にコピーすることができないからです。


「i2.JP」の今後―もっとも“生産性の高い”イノベーションハブへ

――ステファン社長は、「i2.JP」に対してどのような期待をお持ちですか。

「i2.JP」の価値は、規模ではなく成果だと思っています。その成果というのは、「患者さんに対してどのようなソリューションを生み出せたか」です。それが「i2.JP」の唯一の価値です。もちろん、結果を出すためには、ある程度の規模は必要です。しかし、最も重要なことは、規模ではなく最終的な成果です。それらを患者さんのために提供できて初めて、成功したと言えるでしょう。ですから、私が「i2.JP」に期待することは、最も活動的かつ生産性の高いオープンイノベーションハブになること。最もアウトプットの大きなハブにすることを目標にしています。

先ほど申し上げたとおり、すでに様々なプロジェクトがアストラゼネカの内外で始まっています。患者さんのメリットになるようなプロジェクトも始まっているので、非常に順調に走り出すことができました。今後は、この取り組みをより広げ、スピードを上げて、よりたくさんのソリューションを患者さんに届けていくことが大事だと考えています。

――とはいえ、共創プロジェクトがうまく進まないケースも多いです。オープンイノベーションを成功させるためには、どんなことが重要なのでしょうか。

大事なのは、課題を明確にすることです。何が必要なのか、ニーズを明確にすることが重要です。非常に革新的なソリューションでも、ソリューションに注目をしすぎたがゆえに、課題に焦点があたっていない事例をよく目にします。このように、解決したい課題が明確になっていなければ、間違った方向に進んでしまうと思うんですね。やり直さなければならなくなってしまうのです。ですから、「課題は何なのか」を、まず明確にすべきです。それがクリアになっていないことも、往々にしてありますよね。

あとは、資金の問題です。特にスタートアップは、潤沢な資金があるわけではありません。資金が不足しているために、前に進まないプロジェクトもあるでしょう。そういう意味でも、「i2.JP」は絶好の場所だと思います。「i2.JP」には、ベンチャーキャピタルも参加していますし、十分な資金を持った大企業も参加しています。ですからここには、資金を得られるチャンスもあります。

――最後に、「i2.JP」への参加を検討している企業・団体に向けて、メッセージをお願いします。

「i2.JP」には、次の3点に共感する企業・団体にご参加いただきたいです。1つ目が、患者さんを第一に考えるということ。患者さんの抱える課題を、一緒に解決したいと考える企業・団体は、ぜひご参加ください。2つ目が、コラボレーションやソリューションがボーダレスであること。これは、グローバルな視点を得られるということを意味します。そして3つ目が、アジリティです。できるだけ迅速に、取り組みを進めていきたいと思っています。この3点に共感していただける企業・団体は、ぜひ「i2.JP」へご参加ください。一緒に機会を探しましょう。失うものは何もありません。プラスになることばかりです。


取材後記

発足から1周年を迎える「i2.JP」。すでに128社・団体以上のパートナー企業が参画する、大きなエコシステムへと成長している。しかし、規模だけを追い求めているわけではない。インタビューの中で語られたように、成果に力点を置いているという。「それが唯一の価値だ」との力強い言葉もあった。今後、この「i2.JP」からどのようなソリューションが開発され、社会に実装されるのか。それがどう患者の課題を解決していくのか。引き続き、動きを追っていきたい。また、患者中心の実現に向けて、一緒に取り組んでいきたい企業はアストラゼネカ株式会社 専用ページからコンタクトしてほしい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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医療革命への挑戦

私たちの暮らしに寄り添う医療の実現を目指して発足した「i2.JP」。製薬メーカーであるアストラゼネカの「薬以外でも自分たちにできることはたくさんある!」という想いから始まりました。本企画では、そんな想いを実現する様々なパートナーと未来の医療のあり方に迫ります。