【トークセッション<後編>】 料理を通して様々な課題解決に本気で取り組む「Cookpad Accelerator」が目指す世界とは?
料理とは、日常的な行動でありながら、社会を如実に映し出す鏡でもある。料理スキルの低下、食育の機会減少、孤食の増加、フードロス、生産と消費の分離――実は料理には、根深い社会課題がいくつも関わっているのだ。そうした多様な課題を解決する取り組みの一つとして、2017年、クックパッドはアクセラレータープログラムをスタートさせた。2018年1月に5社が採択され、現在5月のデモデイに向けて急ピッチで走っている。
今まさに進行中のアクセラレーターについて、クックパッドの担当者・住 朋享氏、採択されたスタートアップ5社の代表に集まっていただき、様々なお題を投げかけ話を伺った。その内容を、<前編>・<後編>の2回にわたって記事を配信していく。
先日配信した<前編>に引き続き、本日配信する<後編>では採択されたスタートアップ5社の代表者にフォーカス。クックパッドアクセラレータを選んだ理由から、「改善してほしい」と思った点に至るまで、率直な想いをパネルに書きながら語ってもらった。
【採択されたスタートアップ5社/本プログラムで取り組んでいるテーマ】
■株式会社リンクアンドシェア 中間 秀悟氏
食品業界の「距離の壁」を解決して地方の食品製造工場・生産者にチャンスのある世界をつくる
■エーテンラボ株式会社 長坂 剛氏
料理が三日坊主で続かないという課題を解決し、”みんな”が行動し幸せになる世界をつくる
■プランティオ株式会社 芹澤 孝悦氏
食と農に関する社会課題を解決し、食と農がライフスタイルの中心にある世界を創る
■アドウェル株式会社 小原 一樹氏
楽しみとしての「食」と健康的な「食」が両立できないという課題を解決し、食べたいものを食べて健康になる世界をつくる
■株式会社ビビッドガーデン 秋元 里奈氏
農作物の販路の課題を解決し、農家が正当に評価される世界をつくる
クックパッドアクセラレーターを選んだ理由
――スタートアップの皆さんに、今回のクックパッドアクセラレーターについて3つのお題をお伺いしていきたいと思います。まず1つ目、「数あるアクセラレーターの中で、なぜクックパッドアクセラレーターを選んだのですか?」
リンクアンドシェア 中間氏 : 「地方の食品メーカー+レシピ」で、解決できる課題があった
地方の食品メーカーさんは比較的自由に作りたい商品を作っています。そのため、良い食材であっても消費者がパッと見てどう食べればいいのか分からないものが多い。バイヤーさんからも売りにくいものと思われ、売り場に並ばないという課題があります。そこで、クックパッドのレシピと一緒に紹介をすれば、良さが伝わるのではないかと考えました。
私たちにはもう1つ、仮説がありました。それは問屋・バイヤーを介さず、商品を売り場にデビューさせられないかということ。クックパッドのコーナーをスーパーの売り場につくり、レシピ付きで商品を並べたらどうなるか?それを検証したいと思い、応募しました。
エーテンラボ 長坂氏 : 料理習慣→幸せ
「みんチャレ」は、習慣でみんなを幸せにするサービスです。人は自ら積極的に新しい行動を起こすことで幸せになれるという科学的な根拠があります。しかし、新しいことを始めてもなかなか続かないという課題があります。「みんチャレ」によってその課題を解決することで、自己肯定感を高めることができます。
料理も続ければ上達し、新しいレシピにどんどん挑戦できる。そうすれば、人は幸せを感じられるでしょう。しかし私たちはレシピなどのコンテンツを持っていません。そこで、コンテンツを持つクックパッドさんと、新しい習慣をつくる私たちが組むことにより、より多くの人を幸せにできるのではないかと考えました。
プランティオ 芹澤氏 : 食(料理)と育てるは、表裏一体
人類はもともと、自分たちで食べるものを自分たちで育てる、サステナブルな世界で生きていました。しかし高度成長期を境に、生産者と消費者がはっきりと分かれ、本来ひとつである「食」と「育てる」が遠くなってしまいました。それにより、フードロスや食のリテラシー低下など、様々な課題が噴出しています。私たちは、もう一度パーマネントなカルチャーに戻したいと考えています。
クックパッドさんは「食」を身近なものにするツールを展開していらっしゃいます。私たちは、野菜を「育てる」ためのツールを作っています。表裏一体である「食」と「育てる」を、もう一度ひとつにするために、ご一緒したいと思いました。
アドウェル 小原氏 : 最大限の食の楽しみと最小限の健康
多くの健康サービスは、「健康第一」という人に向けたものがほとんどです。しかし「食」においては、健康よりも先に「美味しいモノを食べたい」「忙しいから簡単便利なものがいい」など、様々なニーズが前面に出てきます。しかし、健康を置き去りにしていい、というわけではありません。食の楽しみを追求しつつ、健康も保ちたいですよね。
私たちは、普段の食や買い物を少しずつ健康にすることで、食を楽しんでいただきたいと考えています。その点で、食の健康を守るという私たちのツールと、食の楽しみを最大化するクックパッドさんのレシピは相性がいいはず。そう考えて応募しました。
ビビッドガーデン 秋元氏 : 「ごちそうさま」で始まるコミュニティづくり
私たちは、「こだわった野菜づくりを行っている農家さんが、正当に評価される世界をつくりたい」という理念のもと、サービスを展開しています。目指すのは、農家さんと消費者がつながる世界。しかし現状、食材を提供するところまではできていますが、その先のコミュニティづくりには至っていません。そこで、レシピを介したコミュニケーションが消費者と農家を近づけるはずだと考え、応募しました。
クックパッドはユーザー投稿型でコミュニティを作ってこられています。ご一緒すれば、私たちが掲げる「ごちそうさまから始まるコミュニティづくり」が実現できると思っています。
クックパッドアクセラレーターに参加して良かったこと
――ありがとうございます。では、次の質問です。「このアクセラレーターに参加して良かった」と感じている点を教えてください。
リンクアンドシェア 中間氏 : めっちゃ誉められた
先ほどの仮説検証、実は4月25日からスタートするんです。スーパー6店舗に実際に売り場を作り、商品を並べて販売することになりました。この試みは食品メーカーさんからもスーパーさんからも喜んでいただき、めっちゃ誉められました(笑)。今回の結果を見て、今後はさらに色んな店舗に広げていきたいですね。
――スムーズに実現できた理由は、やはりクックパッドさんのブランド力でしょうか?
リンクアンドシェア 中間氏 : そうですね。まずクックパッドさんのネームバリューで、スーパーの棚があっさり取れたんです。今回は6店舗に絞っていますが、他にも手を上げてくださった小売店が20社、食品メーカーさんからは何十社も申し込みをいただきました。無事に売り上げも立って、嬉しかったですね。
一同 : おお~!!すごい!
エーテンラボ 長坂氏 : ユーザー理解への情熱を学べた
クックパッドさんは、toCサービスのリーディングカンパニーです。私たちは、駆け出しのtoCサービスを運営しています。そのため、お互いのユーザーへの情熱が熱すぎて、様々な場面で意見がぶつかりますね。まるで、右手で握手しながら左手で殴り合うような(笑)。しかし、非常に良い気付きがあり、これから生まれるものは、きっと良いものになるだろうという期待が高まっています。
あと、これは個人的な変化なのですが、料理への興味がぐっと深まりました(笑)。
――それは確かにありそうですね。
エーテンラボ 長坂氏 : やってみると、料理って深くて面白い。料理に関する知識のキャッチアップはまだまだですが、楽しんでいます。
プランティオ 芹澤氏 : 価値観の共有、共感。
オープンイノベーションにおいて重要なのは、フィロソフィーの一致だと考えています。とても難しく、すり合わせに時間がかかりましたが、社長含め経営層といった上位レイヤーと一緒に価値観を共有できるクックパッドさんと出会えたことは、真の明日を作るために大きな収穫だったと思っています。
クックパッド・住氏 : プランティオさんも当社も、10年後20年後の未来を見据えたビジョンがあります。しかしながら、アクセラレータープログラムは半年間。20年後を見据えながら、直近半年何をすべきかを考えることはとても難しいんですよね。もっと長ければいいのに…とも思いますが、互いの価値観に共感し合い、一緒に新しいものをつくっていくことは本気で楽しいです。
アドウェル 小原氏 : 買い物データとレシピデータから見える全体像が見えた
私たちが展開するのは「あなたの買い物はこの栄養が足りない傾向があるから、こんなものを買った方がいいですよ」というサービス。ただ、買った先にはかならず料理をするという行動があって、そこには一人ひとりのユーザーの心理や行動習慣があります。私たちは買うところまでは分析をして適切なレコメンドができますが、その先の行動についてはレシピ業界でナンバーワンのクックパッドさんの知見を活かすことで、消費者のメリットを最大化することができると思っています。
まあ……住さんとの出会いが一番なんですけどね(笑)
ビビッドガーデン 秋元氏 : 社内の人がめっちゃ協力的
「社内リソース割くよ」という文言は多くのアクセラレーターで見られますが、蓋を開けてみると担当部署は協力的であっても、他部署のリソースが割けないことは多いと思います。その点、クックパッドさんは短期間でありながら、様々な部署のリソースを割いてくださっています。
現在、クックパッドのPCトップページにバナーを貼って、そこから当社の野菜を使ったレシピ記事にアクセスできるようにしています。その企画段階から、記事ページの開発、写真撮影まで一緒に入っていただきました。色んな施策ができることは、社内の方々の協力があってこそですね。
クックパッド・住氏 : そうそう、アドウェルさんとビビッドガーデンさんは、僕と“同棲”しているんですよ。
――えっ、どういうことですか!?
クックパッド・住氏 : クックパッドの社内にオフィスがあるんです(笑)。
――あ、そういうことですね。ビックリしました(笑)。
クックパッド・住氏 : アクセラレータープログラムでよくあるのが、大企業とスタートアップが月1回ミーティングして終わりになること。それは良くないですよね。本当にパートナーとして動くなら、顔が見えるところで一緒に働くのが一番。そこで、僕の前の島がちょうど空いていたので、そこをベンチャー島にしようと社内で交渉しました。
セキュリティの関係など法務を説得するのに苦心しましたが、家賃無料で壁もなく、社内システムにもアクセス権限を付与して、社員と同じようにクックパッドの社内で働いていただいています。お二人は信頼できる方々ですし、何かあれば僕が責任取りますからね。
――素晴らしいですね。
クックパッド・住氏 : これは狙いがあって、スタートアップの目から見て、クックパッドはどんな会社なのか、今後も付き合っていきたい会社なのかをフィードバックいただいています。また、社内には多様な才能を持つ社員がいます。私を介さなくても、そういった多彩な仲間と協業して新しい案件が生まれたら面白いな、と思っています。
――実際に、社内で一緒に働くことでシナジーを感じていらっしゃいますか?
アドウェル 小原氏 : ちょうど昨日もクックパッドのデータサイエンティストさんと、お互いのデータを組み合わせたら、新しいモノが生まれるよね、という話をして刺激を受けました。社内ですぐに話せる環境だからこそのコミュニケーションができています。
クックパッド・住氏 : 同じデータでも、違う観点でみると新しい使い方が見えてきたりと、社員にとっても発見があるんですよね。これは、月1回の定例ミーティングだけでは絶対にできないことです。
クックパッドアクセラレーターへの要望
――最後の質問です。クックパッドアクセラレーターに参加してみて、「もっとこうして欲しい!」と思うことはありますか?
リンクアンドシェア 中間氏 : 両想いになりたい
今は自分がグイグイといきすぎていて、なんだか僕だけが好きみたいになってるんです(笑)
クックパッド・住氏 : そんなことないよ(笑)
リンクアンドシェア 中間氏 : 料理を楽しむためには、食品の作り手の存在が不可欠です。そのために、クックパッドさんと一緒にやっていきたい。今は自分たちばかり提案している状況なので、今後はクックパッドさんからも色んな意見をいただけると嬉しいですね。
エーテンラボ 長坂氏 : 加速!!
私たちスタートアップはスピード命。変化率が社会からもユーザーからも求められています。一緒に事業を作る上では将来的な構想を喧々諤々やって実現していくことが本質だとは思いますが、目先の加速も同じくらい重要です。変化の中で互いに学んで将来に繋げていきたいですね。
プランティオ 芹澤氏 : もうちょっと期間を長く
このプログラム自体に不満はまったくありません。本当に良くしていただいてます。しかし、カルチャーを作っていくには、期間が必要です。アクセラレータープログラムの限られた期間では創り切れない世界、描き切れないビジョンがあります。ですから、もっと長いプラン、仕組みがあればいいなと思います。
アドウェル 小原氏 : 延長したい(無期限)
私も同じく、期間ですね。「食」の健康は、半年でできることではありません。5年、10年、それ以上の時間をかけて、徐々に変えていくものです。この半年でできるのは、健康の入り口を作ることだけ。ここで終わってしまうのはもったいないと思います。ですから、今後ユーザーがどう変化していくのか、隣で一緒にずっと見ていただきたいな、と。つまり、同棲じゃなくて結婚したい(笑)。
一同 : 笑い
ビビッドガーデン 秋元氏 : 横の繋がり
この5社の横の繋がりが、もっと欲しいです。同じアクセラレーターに採択されていても、互いに何を進めているのかまでは分からなかったりします。せっかく「同期」のような存在がいるのだから、もっと交流できたら。うーん、簡単に言うと、一緒に飲みに行きたいです!
クックパッド・住氏 : そうだね。飲みに行きたいね、企画します!
取材後記
2018年3月、クックパッドは定款の一部を変更した。
1.当会社は、「毎日の料理を楽しみにする」ために存在し、これをミッションとする。
2.世界中のすべての家庭において、毎日の料理が楽しみになった時、当会社は解散する。
ミッションを達成したら、解散――ユニークな定款だが、まさに「食と料理に関わる多様な課題解決に本気で取り組んでいく」という決意が見て取れる。
住氏は、「ミッション実現のためには、今回一緒に走っている5人のような尖ったアントレプレナーたちの成功が不可欠。だから、みんなに何としても成功して欲しい」と話す。そのための一つの取り組みとして、スタートアップ専用のデスクを社内に設けるなど、“共創”を生み出しやすい環境作りにも注力している。――もうすぐ訪れるデモデイで、クックパッドの解散が早まるような成果の発表がきっとあるだろう。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)